どうか、お楽しみいただければ幸い
血糊化粧が宙を彩る。重力に逆らうように跳ねた赤色は、綺麗な放物線を描いて大地に散った。遅れて、鈍い音と共に獣の首が大地に叩きつけられる。
獣の首。それは既に絶命しているにもかかわらず、生きているかのような錯覚に陥るほどの力強さがあった。子どもが見れば、これが生首だとわかっても泣き出すだろう。突然目の前に現れれば、大人であっても大半は失禁を免れない。ともすれば、心的外傷後ストレス障害を伴ってもおかしくない。今にも動き出しそうなほどの覇気をまとった、生首。
そう、生首だ。既に獣は死んでいる。その顔は、死んだことを理解していない。それどころか、自分が狩る側であることを信じて疑っていない。反応するよりも先に、絶命していた。
「安らかに眠れ」
そんな獣の首に向けて、手を合わせる男が居た。身の丈六尺弱の偉丈夫のヒューマンだ。筋骨隆々とした体つきから、角があれば少し背の低いドラフにも見える。髭は生えていないが、彫りの深い顔立ちだ。そんな彼が姿勢を正して礼を取れば、さぞ高名な修行僧に見えないこともない。
祈り終えた男は、すぐ傍に刺していた身の丈程ある異様な戦斧を担いだ。刃渡りが二尺ほどの肉切り包丁に似た刃の部分が、特に目立っている。よくよく目を凝らせば、刃には濁った赤の波紋が怪しくはしっている。持ち手が刃に比べて細いことが、その戦斧を余計に悪目立ちさせている。
そんな戦斧を軽々と担いだ男にとって、狼よりも一回り大きい魔獣の亡骸を掴むことは造作もなかった。後ろ足を持って逆さにすることで、血抜きがてら本日の晩飯を住処に運ぶ。
ぬかるんだ獣道を進む。鍛えられた体幹に、ヒドラの頭蓋骨さえ踏み砕くその足は、雪道であっても平然と進めるだけの力強さがある。衣服が泥に汚れることなど、端から頭の中にはない。大胆に、前へ。
方向感覚を見失うような数多の木々に囲まれながらも、男の歩みに迷いはない。立ち止まるどころか、周囲を見回すことすらせず、ただ真っ直ぐ歩き続ける。そんな男の軌跡を、首の無い獣の血が残している。
森の中であるにもかかわらず、静寂に包まれていた。近くで獣が吠えることもなければ、鳥が羽ばたく音さえ聞こえない。世界に一人、ぽつんと取り残されてしまったかのような、不気味な光景。
しばらくは、そんな静寂が続いたが。しかし、時間が経つごとに、彼に近づく音がひとつ。最初は小さな空気の震えだったが、それは次第に大地を震えさせるほど大きくなっていく。地響きが背後から迫る中、しかし男は何事もないかのように平然と、歩くだけだ。
「獲物なら、他を当たれ」
息遣いさえ聞こえてくるほど接近されて。ようやく、男はその口を開いた。彼の背後に居るのは、男の体躯を優に超える赤い鱗を持つ七つ首の龍、ヒドラだ。ただの村人であれば、その威容に動くことさえ出来ず食い殺されるだろう。徒党を組んだならず者であれば、罵詈雑言を飛ばしながら撤退するだろう。手練れの傭兵、あるいは騎空士であれば、唐突な遭遇に驚きこそすれども、何とかして殺し切るだろう。
しかし、男は意に介した様子を一切見せない。ヒドラが口を開けば、瞬く間にその胴体を噛みちぎられるほどの接近を許しても、動じない。
対して、ヒドラは男の様子を窺うように、接近はすれども攻撃はしない。しかし、その後を執拗には追っている。おこぼれを貰えると思ったのか、それとも油断している隙に食い殺そうと考えているのか、定かではないが。14の瞳は、男のことを凝視している。
「明日も、明後日も、雨が降るだろう。今ここで殺したところで、独りでは食い切れぬ」
その言葉の重みを、意味を理解しているのか。ヒドラはその足を止めた。そして、男を視界におさめたまま、静かに、後ずさりをし始める。まるで龍らしからぬ動き。
男は、相も変わらず前を進むだけだ。ヒドラに目をくれてやったことなど、一度もない。その事実が、二者の関係を明確に表していた。
男とヒドラは、気が付けばお互いに見えぬ位置まで離れていた。そこでようやく、男の耳に慌しい地響きが聞こえてきたが、彼はただ前に進むだけだ。
その地響きが唐突に途絶えたところで、男の気にするところではなかった。
「命に、感謝を」
男の夕餉は、あまりにも大雑把であった。焼いただけの肉が、部位など関係ないとばかりに盛られた木の器がひとつ。米も、パンも、雑穀もない。葉っぱものさえない。ただ、肉だけが全てを占めている。
別に、男が肉ばかりを好んで食べる偏食家だというわけではない。今日獲れたモノが、たまたまそれしかなかったせいだ。運のよい日であれば、山のように盛られた肉が倍になり、ついでにそれと同じくらいの野菜も用意されていただろう。穀物はどちらにしても無い。
さて、そんな男の食事風景は。何とも豪胆なものであった。肉を切り分ける時に使っていた立派な戦闘用のナイフで突き刺し、それを食う。フォーク、食事用のナイフ、あるいは東で使われる箸。そんなものはない。この戦闘用のナイフもなければ、平然と素手で肉を食していたことだろう。
「血となり肉となることに、感謝を」
食事が終われば、男はそう言ってナイフを置き、手を合わせた。祈りを満足するまで捧げる姿は、まさしく求道者のようであったが。男は信仰心というものを欠片ほども持ち合わせていない。命を尊び、自然を謳歌しているだけなのだ。
食事の後は、とかく淡泊なものであった。使ったナイフを住処の近くに通っている川で洗い、手を清め、着ていた服はさっさと脱ぐと水に浸して汚れを落とした。洗った服は大木の枝を折っただけの物干しに引っ掛けて、自分は臭いを落とすために水浴びをした。臭いを消さねば、それを頼りに獣が群れてくるのだ。そのことに煩わしさを覚えてから、男は狩りの前以外で水浴びをするようになった。
水浴びを終えると、男は住処に戻った。住処といっても、大樹の根に出来た空間を活用するだけの宿である。大樹の樹齢のおかげか、偉丈夫な男が座って暮らす分には困らないほどの空間がある。陽が当たらないこともあり、夏は存外に涼しいことが利点の一つだ。冬は身を刺すような寒さに晒されるが、厚着をすれば凌げる程度のものである。
男の手元に戦斧は無い。あの大きな戦斧は、この大樹の宿の中でとかく邪魔なのだ。外に立てかけている。こんな場所に人間は来ない。よしんば来たとしても、戦斧を持ち上げて持って帰れるほどのバカはなかなかいない。戦斧を盗まれるという心配を、男は微塵もしていない。
「明日は、雨か」
空に見える雲と、流れてくる臭い。そして、森で暮らしている経験則が、男の天気予報の根拠だ。ここ数年は、予想が外れた例がない。
男は雨が好きだ。雨は足音を消してくれる。雨は臭いを流してくれる。雨は獣の視界を奪い、足場を脆くする。狩りをするのに、これ以上うってつけの環境は他にない。
明日の予定を頭の中で描き終えると。
男は静かに、眠りについた。
「………」
朝一番。男は宿の前で雨に打たれながら、口を閉ざしていた。一文字に結ばれた唇だけではわかりづらいが、その眉はわずかにひそめられている。機嫌はすこぶる悪かった。
なぜなら、戦斧を盗まれていたのだ。
今までの経験から、起こり得たことのない出来事だった。だからこそ、偶然にも獣がもっていっただの、雨がさらっていっただの、という妄想は即座に捨て去った。明らかに、人為による仕業である。
天気は男の味方をした。ぬかるんだ泥の中を進んでいったのだろう。盗人の足跡は、大地にくっきりと残っている。途中で空や、川、海にでも逃げない限り、追跡はいたって簡単なものだ。そしてこういった痕跡は、川が氾濫して大地が丸ごと流されでもしない限り消えることは無い。
男は悠長に朝餉を食した後に、足跡を追跡するのであった。
◆◇◆
「ふんふんふふーん」
雨に濡れて重みをもった鉛灰色の長髪を尻尾のように揺らしながら、龍の牙に見劣らない立派な双角を携えて。ドラフの少女は鼻歌を口ずさみながら歩いていた。
右手には黄金色の豪奢な斧が、左手には怪しく刃をきらめかせる戦斧を手にしている。どちらも、ドラフ特有の身長の低い彼女には見合わぬ巨大な武器だ。しかし、それを片手で持ちながら気軽に歩いている姿こそ、それらの武器を十全に扱えている証左でもある。
彼女の上機嫌の理由は、新しい武器の発見だ。今までもっていた斧も確かに使い心地は良かったのだが、拾った戦斧には斧とは違った扱いやすさがあった。元から持っていた斧よりも長大なリーチに、広い刃渡りは、ドラフの少女にとって足りないリーチを補ってくれる。華奢な持ち手に見合わぬずっしりとした重みは、命を預けられるだけの安心感をもたらした。
一度握って、気に入ったから拾った。捨てられていたのはラッキーだ、と少女の機嫌はとかく良かった。住処には昨日狩ったばかりの大量の肉が残っている。
少女は、幸せの絶頂に至っていた。
「こんな良い武器を捨てるなんて、ばかな奴も居たもんだな」
戦斧を改めて振るい、感触を確かめてしみじみと、ひとり頷きながら言った。これだけ長大な得物だ。兎を狩ることも、鹿を狩ることも、今までより容易になるだろう。考えれば考えるほど、次の狩りが楽しみになっていく。体から力が湧き上がってたまらない。
そうして、気分良く歩いて。時間が経ったときのことだった。
雨はますます強くなっていき、中型の獣の足音さえ聞こえなくなるほどだ。目の前は雨粒が線となって灰色に染まり、森そのものの臭いが地面から湧きたち、獣の臭いは洗い流される。
思わぬ幸運に少女は浮かれていた。更にはそんな悪環境だったからこそ、少女は気づかなかった。いつもならば、必ず気を付けていたにもかかわらず、この時ばかりは疎かになった。
「そこの少女」
「ん? あたしのこと――ッ?!」
雨の中、声を掛けられて気配を察知して。ようやく、少女は気が付いた。しかし、その時には既に相手の間合いに入っていた。野性の本能から、全神経を逆立たせた。全身が粟立ち、背後を振り返ると同時に思わず、大きく三歩も距離をとった。
大して動いても居ないのに、少女は肩で息をしていた。視界が悪い中、それでもその存在からは絶対に目を離さない。目を離せば、食い殺されると思った。聴覚を限界まで研ぎ澄ませた。雨の音だけでなく、相手の息遣いまで正確に、耳に伝わってくる。嗅覚は、雨の中で使い物にならないから諦めた。機能する全神経を、目の前の相手に集中させた。
「お前っ、なんで、ここに」
息が荒く、とぎれとぎれの言葉。必死に絞り出した少女の言葉に、男は特に近づくわけでもなく、その場で堂々と口を開いた。
「その戦斧。それは俺のものだ」
「――ッ!」
心臓が、凍り付いたかのような錯覚に陥った。
そういえば、と思い出すのは。ねぐらの様な大樹の傍に立てかけてあった、戦斧のことだ。
少女は、現状を素早く理解した。つまり自分は、相手のねぐらにあった大切なモノを盗んで逃げてきたってことに――
「ぬ、盗むつもりは、なかったんだ!」
「……そうか。ならば、返してくれないか?」
「そ、そうすれば許して、くれるのか?」
「外に置いたこちらにも、落ち度はある。許そう」
「わ、わかった! ほら、か、返すっ!」
少女は気が動転していた。だから、思わず戦斧を相手のいる方に向けて力いっぱいにぶん投げた。早く返す、近づきたくない、という二つの意識が強すぎて、無意識にそんな行動をとってしまっていた。
少女の力は、並大抵のものではない。それは片手ずつに斧と戦斧を持っていたことからも明らかだ。そんな彼女が全力で戦斧を投擲すればどうなるか。
戦斧は、目の前の灰色の線を切り裂いて真っ直ぐ、相手に向かっていった。それも、尋常な速度ではない。その威力たるや、並の魔物であれば衝撃だけで吹き飛ぶだろう。直撃すれば、ヒドラであっても即死を免れない。
「あっ――」
やってしまった、と思った時には全てが遅かった。賽は投げられた。風の星晶獣の奥義のような威力をもって。どう言い訳を並べ立てたところで、それは戦闘行為に他ならない。
少女の世界が、モノクロに染まる。雨一粒が明瞭に見え、戦斧はゆっくりと進んでいく。彼女の瞳に映る世界が、引き延ばされていた。一刻も早く逃げようとしても、体は思うように動かない。
この時点で、少女は逃げることが不可能だと悟った。もはや、生死を掛けた、喰うか喰われるかの勝負に持ち込むしかないと、恐怖に震えながら己に喝を入れた。やらなければ、喰われるのはお前だと。自身を、強迫観念で突き動かそうと必死になった。
相手は、泰然自若としていた。不意打ちに動じるわけでもなく、あまりの威力に驚くわけでもなく、ただ当然のように手を前に伸ばしていた。自分に直撃するとわかるや、体を少し捻りながらも手を伸ばした。戦斧が迫る僅かな時間で、しかしその相手は確かに戦斧の直撃を免れ――
――その手に、勢いの乗った戦斧を掴み取った。
それは、少女が体勢を立て直すのと、ほぼ同時だった。
少女は、一歩踏み込んだ。このまま反撃の隙を与えることなく、一撃で屠るために。確実に、自分が勝つために、喰われないために。
「えっ――?」
少女の引き延ばされた世界は、いつの間にか元に戻っていた。
目の前に映るのは、戦斧を既に振り抜いた後の相手の姿。遅れて、赤色が自分の目の前に飛び込んで来た。
「あぁ――」
終わったのだと悟り、力が抜けた。少女は膝を泥の中に沈める。馬鹿な失敗を連続してした自分は、喰われてしまうのだと、思い知らされた。
何せ、自分の足元いっぱいを染めるほどの赤色だ。助からないのは、目に見えていた。賽を投げつける相手を、致命的に間違えた。あれは狩人で、自分は獲物なのだと、思い知った。思い知ったところで、喰われれば次もないのに。
「――まったく」
元から少女は、目の前の相手にだけは関わらないと、決めていた。ただそこに居るだけで、自分では勝てない狩人なのだと悟っていた。殺したことを気づかせない殺しを目撃した瞬間に、心は折れていた。争うつもり何て初めから無かった。見つかるつもりなんて絶対に無かった。
――きっと痛くないのも、あたしが気づかない間に喰われているからなんだ。だから、痛くないんだ。
少女は、何よりも怖れていた。目の前の相手、狩人を。
向かえば、気付かない間に喰われると、本能が知っていた。
喰われたくないと、ずっと逃げてきた。
あっけない、幕切れだった。
「そこの少女」
狩人の呼び掛けに、少女は力のない瞳をそちらに向けた。
ドラフのようなヒューマンが、戦斧を担いで近づいて来る。
「油断をするな。余計な殺生をした」
「……よ、けい?」
よけい、余計といったのか。この狩人は。
あろうことか、この狩りを余計だと、無駄だと罵ったのか。
頭が沸騰するような激情に襲われた。目の前が、真っ赤に燃え広がった。
鈍器で頭を殴られたかのような衝撃と共に。
理性が、吹き飛んだ。
「ぶっ潰れろォォォォォォ!!」
殺されていることに気付いていない? もう喰われている?
体が動くなら、そんなことは知ったことか!
脱力していた体に、今この時だけは力が沸き起こった。今まで感じたことのないほど、莫大な力を乗せた。過去最高、人生において最大の一撃を、狩人に向けて、振り下ろした。
大地が、はじけ飛んだ。
ぬかるんでいた泥は衝撃によってことごとく吹き飛び、溜まっていた赤色は空を舞った。空気そのものが破裂したような爆音が、森の中に轟いた。衝撃は大地だけに飽き足らず、周囲に生えていた木々さえも圧し折った。遅れて、露出した大地に亀裂が生じ、割けていく。地割れが、怒りという名の力業によって発生した。
ただの力が、大自然に天変地異のような牙を剥いた。それは少女の矜持、魂の叫びだった。喰う、喰われる。それを越えた先にある、最後の意地だった。
斧伝いに少女の手にもたらされる情報。そして力を可能な限り振り絞ったことによる反動から。少女は――本日二度目となる――膝を着いた。手に持った斧は、もはや杖代わりのようになり、ろくに力など入っていなかった。
狩人は、少女の全力の一撃を、完璧に受け止めていた。
「見事な一撃だが。何故、憤怒に身を焦がす?」
「――意地、だッ!」
声を張り上げて、力の限り叫んだ。少女にはもはや、顔を上げる力すら残されていない。今にも倒れ込みそうな体を支えているのは、まさに根性論。意地だった。
「そうか。そうか」
狩人の嬉しそうな声が、少女の耳を打つ。力が残っていれば、その顔に拳を叩きつけたものを。少女は、悔しさに歯を食いしばった。
「それが、子飼いのペットでなければ、何より」
「……それ?」
「後ろだ。戯け」
ゆっくり、振り返ってみてみれば。
そこには、首の無い水色の鱗をもつ巨体が、力なく横たわっていた。切断された首からは、とめどなく赤色が流れ出ており、少女が膝を着いている大地にまで、それは伝ってきている。
「どら、ごん?」
「敵意に、注意をすることだ」
言葉は少なく、それだけを言うと。狩人は少女を横切った。
少女は、自分の足元に広がる赤色を見て、ようやく違和感に気が付いた。自分の身体はどこも赤く染まっていないのに、地面だけが赤いのだ。
何よりも、いつまで経っても、死が訪れない。命が、死という名の狩人に喰い殺されていない。
「あれ、なんで? あたし、死んでいない、のか?」
「少なくとも、俺は何もしていない」
狩人は、少女に目もくれず、彼女の後ろのドラゴンの亡骸を捌いていた。
少女の頭の中では、情報が錯綜していた。自分が喰われたという錯覚と、自分が生きているという現実が、交差していた。あまりにも大きな間違いに、頭から煙が出そうなほど考え込んだ。少女の低い唸り声が、雨の中に溶けていく。
「とかく、そこの少女」
「うー、もうっ、なんだよ?」
「俺だけでは、これは食い切れぬ」
狩人はドラゴンを指してそう言った。
少女はそれを、怪訝な目で見た。
「明日も食えばいいだろ」
「塩が無い。陽射しもない。冷やせもしない。時が経てば、腐る」
「あー、それはもったいないな」
「だから、食うのを手伝え」
喰う。自分が、喰う。
「あたしが、ドラゴンを喰う?」
「そうだと言っている」
喰う側の立場。そこに立たされてようやく、彼女の頭は自分が生きていることを正しく理解した。
気づかぬ間に喰われたのではなく、最初から喰われていなかったのだと。
現実を正しく認識した途端、ぐぎゅるる! と怪獣の腹の虫の様な爆音が間抜けに、雨の音を押しつぶした。目の前に飯があることに、子どものように目を輝かせた。
「お前、いい奴だな!」
「そうなのか?」
「あぁ、あたしが言ってるんだ。間違いない!」
自信満々に、豊満な胸を張って言ってのける少女に、狩人はこれといった反応をみせることは無かったが。
「だから、あたしと番になれ!」
そんな少女からの言葉には、さしもの狩人も眉をひそめた。眉間の皺を手で伸ばしながら、空を見上げた。あいにくの空模様で、顔に降りかかる冷たい雨が、火照った頭を冷ますのにちょうど良かった。
「寝言は寝て言え」
悩んだ末、狩人はそんな言葉を吐き出しながら。
少女に、ドラゴンの肉の半分を押し付けるのであった。
感想とかいただければ嬉しいなぁ、と思ったり。
リハビリと、息抜きに一筆。モチベ次第で続けていければ幸いです。