四条眞妃は飾りたい   作:秋野親友

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第二話 四条眞妃は渡したい

 かくして、昨晩とうとう溢れ出した翼への想いは、四条の「告らせたい」「奪いたい」などという策略じみた理性を全て吹き飛ばし、気が付けば一晩かけて胸の内に秘めた偽りない恋心を一通の手紙にしたためていた。

 もう後戻りはできない。いや、まだ手紙は四条の手元にあり、まして靴箱に鍵は掛からないのだから、翼が靴箱を開ける前なら幾らでも計画を中止には出来るのだが、寝不足のせいで理性は枯れかけていた。四条の決意は揺るがず、頭に浮かぶ翼の困り顔さえも、渚の怒った顔さえも、その手を阻みはしなかった。そう、彼女の決意は固いのである。誓ったのだ。どんな手段を使ってでも、彼を手に入れてみせると。もう何物も彼女を止めることは叶わない──

 

「お、おはよう、四条。何やってるんだ?」

 

嘘である。呼ばれた声の方へ即座に振り向き、光の速さで手紙を後ろ手に隠す。そこには、四条よりも大きな隈、明るい髪に、胸元には輝く金色の飾緒を携えた男。いつもなら、全てを射抜き見破る様な鋭い眼光には、戸惑いの色が浮かんでいる。

 

「白銀……!」

 

人が来ないように朝早くに登校し、素早く事を済ませるつもりでいたが、よりにもよって事細かに事情を知る人間に出くわしてしまった。四条の様子を伺っていた白銀は全てを察したようで、いそいそと自分の靴箱へ向かう。

 

「ま、まあ恋愛というのは非常に繊細なものだ。お前の略奪を手伝う事は出来ないが、それを止める権利も俺には無いからな」

 

一瞬で四条の顔に血の気が戻った。今度は熱でもあるのかと疑ってしまうほどに顔を真っ赤にさせながら慌てて白銀に詰め寄ると、四条は必死に釈明した。

 

「ち、違うの!これは、そ、そう!渚に頼まれて!誰かに告白されたときに、翼くんがどうするのか知りたいって!」

 

「そ、そうなのか?まあ、どちらにしても早く済ませた方が良い。もう、ちらほら登校してくる生徒がいるはずだからな」

 

俺は生徒会室に用事があるから、と手早く靴を履き替えた白銀は早足で靴箱を歩き去っていった。

 

「ちょ、ちょっと、待ちなさいってば!」

 

白銀を引き止めようと叫んでみるが、すぐに視界からいなくなってしまった。残された四条は、荒い息を整えるように胸に手を当てて深呼吸をする。突然の出来事にすっかり気力を奪われて、怖気づいていた。

 慌てて握って少しよれてしまった手紙に目を落とすと、自分がしていることの滑稽さにだんだん悲しくなってきた。

 

 今日はやめておこうか、と少しづつ冷静になる四条に、本日二人目の訪問者が現れた。

 

「眞妃さん、おはようございます」

 

 背筋に悪寒が走る。冷えきった声色の挨拶に少し怯えながら振り向くと、そこにはにこやかに笑う悪魔が一人。まるで殺意でもあるかのようなどす黒いオーラは、もはや目に見えていると錯覚するほどだ。四条は負けじと不敵な笑みを浮かべ、いつも通りに皮肉を込める。

 

「おはよう、かぐや”おば様”」

 

ぴくぴくっ。と、額いっぱいにしわを寄せた、引きつった顔で四宮が応戦する。

 

「おや、その手に持っているのはなんでしょう?まさか、今どき殿方の靴箱に恋文、ですか?貴方のような全く可愛げのない子に振り向くような”きとく”な方が、果たしていらっしゃるのでしょうか」

 

不自然な強調に、それが酷い皮肉だと気付いた四条だったが、いつにも増して棘のある口撃にたじろぎ、ボロを出す前にその場を離れることにした。

 

「おば様には関係ないでしょ」

 

 それじゃ、失礼するわね、と早々と靴を履き替えると、四条は校舎の奥に入っていった。

 

 そういえば、何故おば様はB組の靴箱に来ていたのだろう。そんなことを考えながら、四条は誰に見られているわけでもないのに、なるべく自然な動作で手紙を鞄の中に仕舞い込んだ。翼、白銀、そして四条は同じB組に所属しているから、あの場所で白銀に出くわしてしまうのはごく自然なことだった。しかし、四宮はA組であり、校舎に入って真っ直ぐ自分の靴箱に向かえば、普通B組の靴箱は通らないはずだ。たまたま通りかかったと言えばそれまでだが、もしやB組の靴箱に用事でもあったのだろうか。

 まあ、私には関係のないことだと、ぼんやり考えながら教室に向かう。ラブレターを靴箱に入れるところを誰にも目撃されないように、運動部の早朝練習が始まる時間よりも早く登校したので、ホームルームまでかなり時間があった。何をして時間を潰そう、昨日やり残していた課題はあったろうか、と意識的に先程までの出来事から思考を逸らそうとしてみる。彼女持ちの男子生徒の靴箱に、ラブレターを投函しようとした現場を他人に目撃された事で、四条はすっかり客観性を取り戻していた。自分の一連の行動を顧みながら、少なくとも今日はもう行動は起こすまい、そう心に決めるのであった。

 

 

一方四宮は、四条が廊下の角を曲がり視界から消えるやいなや、マッハを超える速度で白銀の靴箱を開けていた。

 

「無い……」

 

いや、そういえば四条は手紙を持っていたままだった。思わず意味の無い行動を取ってしまった自分に、どれだけ焦っているのかと自嘲気味に笑う。つまり、四宮の思考はこうである。

 

──四条眞妃は、白銀御行にラブレターを出そうとしていた

 

自分の靴箱に向かいながら、四宮は考えを整理していた。

 四条が手に持っていたのは間違いなく手紙だった。いくら末家の娘だとしても、不幸の手紙やその類に現を抜かしたりはしないだろう。世間知らずのお嬢様でも一応は学年3位の秀才である。そうであるならば、十中八九あれはラブレターのはず。

 四条が所属しているのはボランティア部、まさかこんな朝早くから活動したりはしないだろう。四条が朝早く登校していたのには別の理由があるはず。

 間違いない。四条はラブレターを投函しようとしていた。では、四条は一体誰にラブレターを送ろうとしていたのか。四条は白銀の靴箱の目の前に立っていた。四条と白銀は出席番号が近いので、単に自身の靴箱の前にいたとも考えられるのだが、そうだとすれば靴を履き替える時にわざわざ手紙を持っていたことになる。つまり……

 

(白銀は私のこと可愛いって言ってくれましたけどね)

 

(御行は私の友達よ)

 

 かくして四宮は『四条は白銀会長にラブレターを送ろうとしていた』という結論に到達した。

 会長が社交辞令で発した「可愛い」の言葉を真に受け、全生徒たちに向ける親愛を好意と勘違いしてしまったのでしょう。あぁ、罪な会長。四宮の末家が会長を振り向かせられる可能性なんて1nmもあるはずないのに……

 会長といえば、会長の靴箱には革靴が入っていた。もう登校して生徒会室に行っているのだろう。早く仕事を手伝ってあげようと、いそいそと生徒会室に向かう四宮の頭の中では、四条を亡き者にするための計画が着々と練られていった。

 




読んでくださってありがとうございました!

書き溜めているのはここまでで、ここからは結構時間がかかるかと思います。

楽しみにしてくださる方は、のんびりお待ちください<(_ _)>
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