四条眞妃は飾りたい   作:秋野親友

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タイトルがしつこいですね。少し考えます。


第三話 四条眞妃は近寄りたい

 その日の授業は、ほとんど頭に入ってこなかった。一睡もしていないことに加えて、今朝の出来事で精神がすっかり疲弊してしまっていた。翼くんへラブレターを贈ろうとした現場を白銀に見られた挙げく、何故か怒り気味のおば様に絡まれるなんて、まさに泣きっ面に蜂だ。今日という日を思わず呪いたくなってしまう。

 

 「マキ、今日の部活の事なんだけど」

 

 そして放課後、疲れ切った四条に追い打ちをかけるように、渚が話しかけてきた。昨日の部活動で二人がイチャいちゃしているのを散々見せつけられ、生徒会室へ逃亡したばかりだというのに、今度は何だというのであろうか。

 

 「今日、私急用が入っちゃって、部活行けなくなっちゃった」

 

 突然の知らせに、四条の脳は良し悪しの判断に迷った。渚が部活に来られなくなった……つまり?

 

 「じゃあ、今日は部活動は休みってことね」

 

 ボランティア部なのだから、元々根を入れて活動する部活でもないだろう。2日も続けて二人の恋愛の刺激薬になるのはこちらとしても願い下げだ。

 

 「でも生徒会に出さなきゃいけない会計報告書、提出期限が今日なんだよね。だから、悪いんだけど」

 

 続いた言葉に、人生悪い事ばかりでもないのかな、なんて思ってしまった。

 

 「翼と二人で書き上げて、生徒会室に出しに行ってくれる?」

 

 「はーい、了解」

 

 が、今日に限っては人生悪い事ばかりであると、私はこのあと思い知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これだね、生徒会に提出する書類。うん、これなら渚がいなくても大丈夫そうだね。時間もかからなそうだし」

 

 部室で書類を確認しながら翼が告げる。そう、今日の活動内容は時間がかからない簡単な書類仕事である。睡眠不足で疲れ気味の四条は当然、仕事を早く片付けて──

 

 「ごめん翼くん、それなら先に今日配られたプリント課題終わらせたいんだけど、良いかしら?」

 

 否、先延ばし!そして、

 

 「あぁ、そういえば今日やったとこ、難しそうだったね。僕も一緒にやっても良い?分からなそうだから教えてほしいな」

 

 「別に良いけど、先ずは自分でやらなきゃ駄目よ?」

 

 ──計画通り!

 

 四条はニヤけそうになるのを必死にこらえながら、数学のプリントを取り出す。

 

 先述の通り、ボランティア部は渚と翼の愛が非人道的に育まれる愛の巣、もとい悪の巣窟と化していた。そこに降って湧いた翼との二人きり、そんな千載一遇のチャンスをたかが寝不足如きでふいにする四条ではない。渚の認知のもとに行われる翼と二人きりの部活動である。彼女へのささやかな報復も込めて翼へのアプローチを目一杯楽しむつもりでいた。

 

 

 かりかり、かりかり。

 

 四条の向かいに座っている翼は真剣に数学のプリント課題に取り組んでおり、気が逸れている様子もない。一方言い出しっぺの四条はと言えば、プリントを進めつつも、時折顔を上げては翼の顔を覗き見ていた。渚と翼が恋仲になった今、真正面からまじまじと翼の顔を見る機会など滅多にないのだ。四条はここぞとばかりに彼の優顔を見つめていた。

 そして、四条に更なるチャンスがやってくる。

 

 「うーん、駄目だ。全然分からないや」

 

 「しょうがないわね、全く。ちょっと見せてみなさい」

 

 かたん、と椅子を引いて立ち上がり、翼の横へ歩いていく。勉強を教えるとなれば、隣に座るのはごくありふれた事であり、自然な展開である。かくして翼の隣を勝ち取った四条は、なるべく可愛げがあるようにと、結った髪に手を触れながら翼のプリントに目を落とした。

 

 「あぁ、ここね。一般項について考える前にn=2の場合で考えてみるのが鉄則で……」

 

 いくら寝不足とは言え、やはり学年3位の秀才である。プリントを一瞥しただけで翼が躓いている部分を即座に見抜き、丁寧に手解きをしていく。

 

 「……で、後はどうすればこの形に持っていけるか、工夫しながら数式を整理すれば大抵は解けるわ」

 

 「すごい!僕もなんか解けそうな気がしてきた!」

 

 「解けるように出来てるんだから当然よ」

 

 「マキちゃんの説明が分かり易かったお陰だよ。ありがとう!」

 

 「はいはい、どういたしまして」

 

 少し棘のある返答をしてしまうが、相変わらず翼は優しく言葉を返してくれた。思わずはにかんでしまったが、幸い翼には見られていない。

 

 しょうがないわね。隣の方が教えやすいし、翼くんも質問しやすいだろうし。

 誰かへの言い訳を並べ立てながら、向かいの席にある自分の勉強道具を引き寄せた。翼の隣に居座る恥ずかしさを誤魔化すように、四条もプリントに取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課題を終わらせた後、会計報告書も書き終えた四条と翼は、二人で連れ立って生徒会室へと向かっていた。横並びになっているため翼は気付いていないが、四条の顔は緩みきっており、寝不足なんてどこ吹く風といった様にニコニコとしている。

 課題プリントを済ませるという名目で生み出された二人きりの時間であったので、決して会話が多かった訳ではなかったが、時折翼が放つ質問に対し、素っ気なくも丁寧に回答し、感謝の言葉をもらう。これだけのやり取りが堪らなく心地よかった。

 

 渚へのささやかな復讐を成し遂げたという満足感も加わって、四条はたいそうご満悦である。人の彼氏と二人きりで勉強をすることが復讐だなんてお可愛いにも程があるが、元々四条は復讐や憎悪などの感情にはあまり縁の無い純粋な少女である。

 そして二人きりの勉強会で翼への気持ちが募った四条は、更に彼との距離を縮めようと目論んでいた。翼の意識をなるべく渚から遠ざけて、自分のことを知ってもらえるような話題を探す。そういえば来週、進路調査を兼ねた親を交えての3者面談がある。

 

 翼くんの希望進路はたしか……

 

 「そういえば、翼くんは外部進学希望って聞いたんだけど。やっぱりお医者様になるのが夢なの?」

 

 「うん、小さい頃から親の活躍を見てたからね。気付いたらなりたいって思うようになってたな」

 

 私も外部進学希望で、渚はというと内部進学希望。どうだ渚め、羨ましいだろう。

 同じ外部進学希望だからと言って通う大学も同じになる訳では無いのだが、こんな事でもちょっとした優越感を感じる。……なんだか同時に虚無感も込み上げてくるがそれは無視する。

 

 「でも渚は内部進学希望なんだよね、たしか」

 

 「う、うん。そうだったかもね」

 

 「やっぱり一緒の大学に通うのは難しいかな」

 

 私の希望進路よりも渚との未来ってわけね。良いわ、意地でも渚から話題を逸らしてやる。

 

 「生徒会の会長と副会長が付き合っているっていう噂、本当なのかしらね?」

 

 「白銀会長に聞いたけど、違うみたいだよ?でも、渚の事でもお世話になってるし、なんか恋愛経験豊富そうだよね」

 

……あんにゃろ

 

 「会計報告書を提出するのは生徒会会計の人よね。確か一年の石上ってやつだったかしら?」

 

 「そっか、石上くんって会計担当だったんだね」

 

 「あ、翼くんも彼のこと知ってるんだ」

 

 「うん。前に渚を怒らせちゃった時、なんで怒ってるのか一緒に考えてくれたんだ。恋愛マスターって感じで何でも答えてくれたよ」

 

 「……そうなんだ」

 

 白銀、石上、あんた達の事は良い友達だと思ってたんだけどね。明日あんた達が死ぬとしても私は助けないわ。

 くそう、どうやっても渚に行き着く。確かに彼女は一応私の親友、かつ翼くんの恋人だし、共通の親しい人が会話の種になるのは自然な事だけど……やっぱり悔しい。

 それなら逆に渚を利用してやる。翼くんの渚に対する不満を引き出して、『恋人についての愚痴を聞いてくれる女友達』というポジションを勝ち取る。そうすれば更に翼くんとの距離を縮める事が出来るはず。

 

 「そうそう、渚ってばちょっとした事で怒ったり、結構ワガママな所あるわよね。翼くんも大変じゃない?」

 

 「確かにそういう所もあるけど、でもそこが可愛いっていうか!」

 

 「……渚のヘアピンってちょっと変よね!?」

 

 「そ、そうかな?」

 

 「ごめん、なんでもないわ」

 

 そうこうしている内に生徒会室に到着した。このイライラは翼くんにバレないように生徒会役員達にぶつけるとしよう。




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