それだけです。
無機質な地面を蹴り、息を切らせ、ただひたすらに逃げる少女がいた。碧色の髪を靡かせ、ただ必死に逃げることだけを考えて。警鐘のように打ち続ける心臓に鞭を打ち、走り続ける。追手はすぐそこまで来ている。少女はただ逃げ続けた。千載一遇の機会。私はここから逃げ出したい。その一心で少女は走り続けた。
「アセルス様!! 追手が迫っています。ここは私が食い止めますので」
アセルスと呼ばれた少女が振り返ると、笑みが視界に飛び込んできた。見る者誰もが、心を奪われる、美貌、そして暖かな笑みを携え、白い薔薇を纏った乙女。
「白薔薇!!何言ってるんだ、一緒に逃げないと白薔薇が!!」
「アセルス様、私のことはお構いなく。それよりも早くお逃げ下さ…白薔薇が一緒じゃないと意味がない!!」
白薔薇と呼ばれた乙女の言葉を遮り、アセルスは手を引き逃げ続ける。二人で逃げないと意味がないのだ。あの場所から逃げ、そしてこれからのアセルスを支えになれるのは白薔薇しかいない。白薔薇を引っ張りここから逃げる為のシップと落ち合う予定の崖へと向かい走り続けた。
「いない!騙されたんだ!」
周囲を見渡すが何もなかった。ただあるのは希望を一切打ち砕くかのような仄暗い闇と崖。そして追い打ちのごとく彼が現れた。
「イルドゥン!アセルス様ここは私が。」
追手として現れたイルドゥンと呼ばれた者はアセルスの教育係として、戦闘訓練に携わっていた。そしてアセルスは一度も勝つことはできなかった。勝てるはずがないと分かっている。でも1人で逃げ出すのは嫌だった。それなら一緒に戦ったほうがいい。
「嫌だ、私も戦う!!」
そんな気持ちを遮るかの様に彼は言葉を投げかけた。
「おままごとはそれぐらいにしていただきましょう。さあ、手間をかけさせないでください。」
「責任は私にあります。罰するなら私を、イルドゥン」
「それは主上が御決めになることです」
「あそこに戻るぐらいなら、ここから飛び降りてやる!」
「アセルス様!」
崖に向かい走りだし、追いかけてくる二人を気にも留めず私は漆黒の闇へと身体を投げた。戦うと決めたばかりなのに、心が気圧されてしまっていた。それに白薔薇を傷付けたくない、なによりあの場所に戻りたくない気持ちに人生への諦めが勝ってしまった。
「アセルス様!!」
「あの小娘!!」
二人の声が聞こえる・・・でももう関係ない。もうすぐ楽になれる。そうやって意識を手放しかけた最後に見たのは白い薔薇と碧の髪。そうして意識を手放した。
海… 波の音が聞こえる。どうして?ここは一体どこなんだろう。疑問が次々と頭を駆け巡り次に眩しい光に包まれた。
「アセルス様!!やっとお目覚めになれましたね」
「やっとか、全くいつまで寝るつもりだ小娘」
「私は小娘じゃない!アセルスだ!!…って私生きてる…」
死んだと思っていた私にすれば一体どうなっているのか見当もつかない。思考を無理やりまとめ問いかけた。
「そういえば…ここは何処?それに白薔薇はともかく、なんでイルドゥンまで!?」
「それは私が答えます、アセルス様」
「アセルス様が崖から身体を投げた直後に、私とイルドゥンは追いかけました。気を失われていたアセルス様に追いついた時、私達は黒い霧のようなものに包まれました」
「そして気が付いたらここに居た訳だ。分かったかアセルス」
白薔薇、イルドゥンの説明は終わり、周りを見渡してみた。
「周囲には他に何か?」「いえ、何もありませんでした。人の気配は当然ありません」
溜め息混じりに項垂れた。どうやら無人島のようだ。それにここは「ファシナトゥール」ではない。このような場所は無い。海それに太陽…。
「シュライクに帰ってきたみたい」
薄い期待を込めて呟く。しかし現実はそんなに甘くない。
「ここは我等の知る世界ではないな」
私には彼の言っている意味が理解できなかった。
「リージョンの中にこのような世界は知らん。あくまで予想だが、違う世界に飛ばされたのではないか?」
「それに黒い霧の件もある」
イルドゥンの言っていることは一理あるはず。でも今はこの状況をなんとかしないと。私は白薔薇に視線を向ける。白薔薇も首を縦に振った。この見知ら場所に来るまでは、お互いは敵同士とも呼べる状況にあった。だけど今は、そんなことは関係なかった。いや、もとからそういったことは無かったのだろう。
「とりあえず、ここから脱出しないとね」
運命は動き始めた
色々稚拙ですが、よろしくお願いいたします