握られたペンダントが一段と光を放つ。命を賭けた願いに応え、紫紺のペンダントは光輝く。やがて光は二人を包んでいった。
光はエリオを悪夢から解き放った。F.A.T.Eから始まった過去からの呪縛にようやく心が光を取り戻す。しかし、エリオは現実との著臆面を余儀なくされる。濡れている身体……そして、鼻に付く血の匂い。
「キャロ!?キャローーーー」
付きつけられた現実は少年にはあまりにも辛い。ストラーダに貫かれた「同僚であり、心を許せる家族」キャロが居たのだから。
目の前に現実……自分がキャロを刺してしまった……このことが理解できず、認めることができず。エリオの心が軋み、砕けそうになる。唯一、キャロに息があることがエリオの精神崩壊を踏み留まらせた要因だろうか。
くくくっっっ…愉快愉快
これで、目的は果たせましたよ。さて、回収しますか。
「悪趣味」の一言しかでない方法で3人を戦闘不能へと追い込んだ従騎士は当初の目的、フェイトの回収の為、ネットに絡まる彼女の元へと、無い足を運ぶ。だが、それを良しとせぬ人物の襲来が歩みを阻む。
小気味良い銃声とともに従騎士の身体の一部が爆ぜた。
「遅かった・・・っキャロ!?」
血まみれになっているキャロ、そして、愕然としたエリオ、そして網に捕らわれたフェイトを視界に捉える。
「貴様!!何をした!?」
現在の状態を把握した瞬間、激昂していた。許せなかった。仲間をここまで……追い詰めるなんて。
ルナとソルを構え、トリガーを引く。従騎士はAMFがあることで油断していた。フェイトが苦戦していたこのAMF下ならばと。だが、マガジンに入っているのは、魔力ではない。実弾である。
放たれた弾丸は杖に着弾すると、易々と貫通し、爆ぜる。
貴様……こちらの世界で実弾を使用するとは
「貴様らを葬ることにそんなルールは関係ない」
実弾を受けた杖は真っ二つになり、従騎士にもダメージはあったようだ。この隙に後退し、キャロとエリオの治療にかかる。
「ひどい……キャロ、我慢してね」
本来なら刃物など傷口から抜くのは、完全に処置出来る状態でない限り、逆に危険だが、今は選んでなどいられない。手に力を込めストラーダを一気に引き抜く。それに伴う出血はなんとしても防ぐ必要があった。
ルナのマガジンを魔力弾へと入れ替え、3発分ロードする。
陽術 スターライトヒール。暗く淀んだ空間に、太陽の光が舞い込んでくる。
光は、傷ついた、少年、少女を優しく癒していった。
「駄目だ、止血程度にしかならない……資質的なものあるし、このAMFはかなり辛い」
「白薔薇が助けを呼んでるから…二人とも…もう少しの辛抱だよ」
治療が終わると同時に、イルドゥンが駆けつけてきた。よく見えなかったが、衣服が少しボロボロになっていた。
「すまない、遅れた。二人は我に任せろ。貴様は奴を倒せ!」
「わかったよ、二人をお願い」
二人ともかなり危険な状態には変わりない。急いでこの外道を倒さなければ……
ほぉ……あの爆発でも生きていたか……
「訓練と比べればあんなもの、可愛いものだ。それより、貴様は生きては返さないから」
重苦しい雰囲気が次第に周囲を支配する。お互いが隙を窺い、仕掛けるチャンスを探る。アセルスには時間が無いことは明白だが、仕掛ければ、「やられる」と肌で感じ取っていた。だから迂闊には踏み込めない。
微動だにせず、ただ時間が流れる……はずだった。
貴様は、我らの敵だ。だから貴様も狂い死ぬがいい。
張りつめた空気が一瞬乱れた瞬間に仕掛けられ、完全に不意を突かれた形になってしまった。防御も間に合うのかわからない。ただ心の中で私は叫んでいた。「死ねない」と。
「ああ、同意見だ。だから、貴様が死ね」
突如、この空間内で聞き覚えのない、暴力的で、無機質な声が響く。声が紡がれた次の瞬間には目の前の従騎士の頭が身体から永遠の別れを告げる。。
ひゃあああははは……一体何が……
私も何が起こっているのか、全く理解できなかった。不意を突かれどうすべきか思考していた矢先、奴の頭が落ちたのだから。
頭を無くした妖魔の後ろ。よく見てみると、死神を思わせるようなフェイトが立っていた。ただ、髪はほどかれ、髪の色、虹彩、バリアジャケット、魔力光など黒色になっている。
「フェイト……隊長……?」
死という今までにないプレッシャーを感じながら、私は問いかけた。しかし……答えは何も返ってはこない。
我は死ぬのか……ひゃああはああは……
狂ったように叫びだす、従騎士。しかし、もう身体と頭は繋がっていない。それが意味するのは死。
慈悲という言葉は存在しない。切り離された従騎士の頭に、黒色の魔力刃を展開したバルディッシュが振り下ろされる。
「消えろ、屑が……」
高速でバルディッシュを振るわれる度、妖魔は細切れへと姿を変えていく。数回振るわれたころにはもはや原型を留めてはいなかった。
[Plasma Smasher]
バルディッシュからの濃密な魔力砲撃が何も語らせる事もなく妖魔を消滅へと導き、消滅と同時にフィールドが解除される。
これまでに見たフェイトさんのものを遥かに凌駕していた。
「あの、フェイトさん……?」
恐る恐る、声をかけるが、直ぐ身体を竦め、回避行動を取った。自分の首元が有った位置を正確にバルディッシュの鎌が通過していた。
「何をするんですか!?」
当たり前のことを当たり前に言う。しかし返ってきた言葉は違った。
「ふん、貴様はやつと同じだ。人間の形をしてるが、貴様も同じなんだよ」
言葉が消えるやいなや、またしても、首を刈り取らせろというわんばかりに、距離を詰める。
「ちょっと、まって!!……速いっ」
しゃがみ込みと同時に懐を走りぬけ、距離を取る。が、距離を取ったのがいけなかった。視線の先では、地面に倒れ込む、イルドゥンが見えた。弱ったものから狩って行く。自然の摂理と同じだ。
「イルドゥン!?フェイト隊長は!?貴女は一体誰なの?」
事態が飲み込めず、思いつくままの言葉を投げかけていく。とりあえず情報もなく、黒いフェイト隊長と戦うことになり、一方的に攻撃を受けている。フェイトさんなのかさえも分からない状況で反撃に出るなどもっての外だ。だから苦し紛れに言葉を投げた。そして、返ってきた答えは予想だにしないものだった。
「私は、アリシア。アリシア・テスタロッサ。フェイトの姉だ」
えっ!?お姉さん???
駄目だ、状況が全然理解できない。
「はっはっは……そりゃわかんねーだろうな。まぁ、一応フェイトの仲間っぽいしな。説明してやるよ」
フェイトさんとは性格が全く違う……それに、凄い威圧感……いや、殺意といったほうが適切だろうか。
私はしばらくプロジェクトFについての話を聞いた。またフェイトの過去を。
「つまり、フェイトさんはアリシアさんのクローンだと……?」
「そうだ。しかし、私の人格が表立つことはなかった。そう、生まれるはずのないフェイトの人格があったからだ。だが、私もこんなことをして、現世に戻るほどの未練はなかった。だから、私は、フェイトの姉として、そして影となり、支えていくことにしたんだ。後は話た通り。過去に母親から受けていたことや、管理局からの扱い。ここでのストレスを私が代わり引き向けることで、人格の崩壊を防いでいた」
そんなことがあるのか…。しかし話が続く。
「だが、今回はあまりにもストレスが集中しすぎた。そう、先ほど葬ったやつのせいだ。やつは、フェイトの心の傷を抉った。だから、心が崩壊する前に私が表に出てきた。それだけだ」
「つまり、フェイトさんは、今眠っていると……」
「物分かりがよくて助かるよ。そういうことだ。ちなみに、フェイトのことは心配しなくてもいい。大丈夫だ。それとこの事は、他言はするな。フェイトにも言うな」
「わかった……」
とりあえず、フェイトさんは無事のようだ。よかった……それなら次は、エリオとキャロだ。
「また、使うことになるなんてね」
バックパックからカードを取り出し、力を解放する。
「秘められし力を解放せん。祖は癒しの象徴なり。出でよ」
カードをエリオとキャロの二人にかざす。するとカードから金色の杯が現れた。
「二人とも…もう少し我慢して…」
杯から水がこぼれていく。こぼれた水は二人に沁みわたって行く。そしてうなされていた二人の表情が和らいだ。表情の変化に気付き、ようやく安堵の表情を浮かべる。
「後は、救助が来るのを待つだけ。イルドゥンも気絶してるだけだし」
なんとか無事に事件を解決できたと……一息付いていた矢先だった。またしても首に鎌が掛けられている。
「っ!?アリシアさん、一体何のつもりなんですか?」
内心焦りは感じている。どうしてアリシアが私の首を再度狙って、こうなっているのか分からないからだ。
「私達の敵は妖魔でした。それに私達は、仲間なんですよ?」
「ああ、そんなことぐらい分かっている。私は、お前から感じられる、その感じが嫌いなんだ。それにな、フェイトの負の感情を代わりに受けてんだ。私にも、ストレスのはけ口ぐらい欲しいんだよ」
「私が妖魔であることがそんなに気になるの?」
「貴様は妖魔とか呼ばれるものの気配が半分だ。後は、人間だろうが」
……?私は妖魔なはずなのに、何言ってるの……?
アリシアの言葉に疑問を浮かべる私。なにか違和感を感じる。なにか……
「っつう・・・」
突然訪れた、激しい頭痛に、思わず声を漏らしてしまう。痛い……頭が割れそうだ……
「苦しんでるところ悪いんだけどさ……相手してくんない?飢えてんだよ。こっちはもう我慢できなくてうずうずしてんだ」
苦しむ私をよそに、アリシアはバルディッシュを突きだし、こちらに話しかけてくる。
「……一体、何の相手を」
返答を待たずして、アリシアは突っ込んできた。ご丁寧にフォトンランサーも同時に展開している。
「戦いに決まってんだろう!!それ以外になにがあるってんだよ」
黒い死神……アリシアとの戦いの幕は揚がる。
なんとか頭痛が収まってきた。アリシアと戦闘に頭痛があっては致命的だ。ただ、状況は思わしくない。一方的に攻め続けられている。まず一つ目、攻撃が当たらない。フェイトさんとの模擬戦は嫌というほどやってきた。でも、このスピードはそれをも軽く凌駕していた。
「くぅ、速い…」
モードブレイズで現在立ち回り、飛んでくるランサーを回避、撃墜に手を焼いている。
それに二つ目。防御ができない。これは私がプロテクションを使えないというわけではなく、プロテクションの意味がないということだ。アリシアの斬撃を防御した時、プロテクションが斬られたのだ。どうやら、防御を貫通する性質をもっているらしく、防ぐことができなくなった。
最期に……アリシアはデバイスを殺傷設定で使用している。そのために回避に今は全力を注いでいるのだ。
「逃げてばっかりじゃ、面白くねーだろ。ほら攻めてこいよ」
バルディッシュをルナとソルで受け止める。だが、押し切られそうだ。ほんとに、フェイトさんとは違う。何もかもが数段上だ。
「強い……押し切られる……」
「私にリミッターなんて関係ない。そんなもので私は縛る事はできないんだよ」
フェイトに掛かっているリミッターを解除した状態ということ。そして、アリシアのセンスも加わって、一方的に押し込まれている。
状況はかなり不利であった。だが、これも訓練のおかげか、少しずつだが状況を押し返せるようになってきた。数十回の剣劇の後に、少し癖が分かってきた。アリシアは力を入れすぎる癖があるみたいだ。この癖を狙っていくしかない。そして、また鍔迫り合いに持ち込んでいく。そして実行へと移す。
「……はぁあ!!!」
アリシアが力をかけた瞬間に力を抜き、なんとかいなすことに成功した。そして、ここに生まれた一瞬の隙……姿勢が崩れるのをを狙っていた。
「そこだよ!!」
疾風迅雷。フェイト得意の高速攻撃。そしてアセルスが最初にマスターした閃光の一撃「稲妻突き」
アリシアのデバイスを奪う為に狙うのは手だ。もちろん非殺傷だが、まともに当たれば少なくとも今は、動かせなくなるのだが……当たらなかった。
「惜しかったね。でもそんな速度じゃ止まって見えるよ。残念」
回避不能の技さえも回避するアリシア。そして……
笑みを浮かべながら、背後からバルディッシュを振り下ろす。
「消えちまいな!!!」
「諦めない!!!」
ルナから伸びる魔力刃で、バルディッシュを受け止めると、そのまま、回転し、魔力刃を滑らせる。そして回転を利用したまま、ソルを振りぬいた。
「かすみ青眼」
シグナムから教えてもらったカウンターだ。これなら……
ソルは、バルディッシュを吹き飛ばすことに成功していた。弧を描きながら、後方へと飛び、地面に突き刺さる。
「……はぁはぁ」
張りつめた戦いで気付かなかったのか、ものすごい量の汗が身体を覆う。身体も重い。命を賭けた戦いはこれほどにきついなんて……妖魔との戦いとは全く違う。人と戦うことがどんなに恐く、大変……!?
「がはぁっ」
……!?何が起こったか分からない。ただ強制的に息が吐き出される。遅れて腹部に痛みがやってきた。どうやら殴られたようだ。
「なかなかいい線いってたけどよ、最期に油断したのはいけないね」
意識が飛ぶ瞬間に、理解できた。どうやら、アリシアの拳はアセルスに深々とめり込んでいた。
「そん……な……」
痛みと酸欠で意識を失い、倒れ込んだ、私をアリシアが支える。
「面白かったぜ、お譲ちゃん。フェイトもお前のことが気になるらしいからな……」
そういって、アリシアは頬に唇を落とす。
「私も気にいったよ……」
「そろそろ、フェイトも目が覚めるだろう。それじゃあ、私も眠るとしよう。ただ、フェイトを悲しませるな。その時は、私がお前を狩ってやるからな」
アリシアは眠りについた。それから数分も立たずに、白薔薇をはじめとした、救助部隊が駆けつけてきた。すぐさま、搬送準備がなされ、搬送が始まった。そして、私達4人はすぐに治療ポッド送りとなった。幸い、イルドゥンは軽い、打撲だけだったが。
「ほぅ…やはり面白い。Fの残骸……ここまでとは」
博士のような青年が興味深そうに答える。隣には長身の女性が立っている。
「それにあの少女、アセルスとか言ったかな?実に興味深い」
アセルスの写真を見ながら、にやりと笑みを浮かべる。
「彼もまた面白いものを持ってきてくれたものだ。彼に連絡を取ろう」
そう言い残すと、ドクターと呼ばれた男はそのまま部屋を後にした。