魔法少女リリカルなのは 紺碧の姫   作:mom

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少女

闇に飲まれて放り出された島の捜索を始めて半日。自然に溢れたこの島に機械的な物など存在するのだろうかーーーそんな考えを振り払い、脱出の方法を模索し続ける。

 

 

「イルドゥン」

 

「何だ」

 

「そういえば、イルドゥンって空間を移動することができたんじゃなかった?」

 

「残念だが、もう試してみた。何故だか分らんが、力が使えん」

 

「白薔薇も?」

 

「残念ながら…アセルス様」

 

現状を打破できる光を見つけたと思った矢先にまた闇に覆われてしまい、やりきれない自分を慰めるように呟く。

 

「はぁ…イカダでも作ってみる?」

 

「止めておけ」

 

即答で却下された…

 

「じゃあ、イルドゥンは何か方法はあるの?」

 

怒気を込めてアセルスは問い詰める。

 

「何を怒っているのだお前は。今はそれよりも島の把握だろう」

 

「さっきからそれしか言ってないよ。ちゃんと考えてるの?」

 

焦るアセルスはただ我儘に近い怒りをぶつけるだけだった。

 

「アセルス様、落ち着いてください。今はイルドゥンのおっしゃる通りです」

 

白薔薇に説得され渋々納得。不貞腐れていると不意に白薔薇が隣にやって来た。

 

「アセルス様…今夜は…」

 

可憐な姿からは到底聞けないであろう甘美で妖艶な言葉の不意打ちを食らったアセルスの顔は紅く染まってしまった。

 

「ななな…白薔薇、何を言って......」

 

「冗談です…...アセルス様」

 

唇に指を当て、微笑を浮かべる白薔薇に動揺を隠せなかった。

 

「おい、何やってる。早く行くぞ」

 

イルドゥンがイラつきを抑えながらこちらに声をかける。

 

「白薔薇姫様、お戯れは程々にお願いします」

 

「なっな、何を…...」

 

ーーーーしまった 動揺が抜けていなかった。二人に揃って笑われるアセルスはただ自分を恨むだけだった。

 

 

 

 

 

島は案外狭く、半日程度で探索することができた。さて…これからどうするのか。そんな思考にアセルスは耽っていた。

 

「アセルス!!上だ!!」

 

その声に反応し、頭上を見上げる。虫の様な奇声と共に何かが落ちてきた。

 

「潰される」

 

思考よりも先に身体は動いていた。座っていた流木は跡形もなく吹き飛び、舞い上がった砂と共にアセルスに吹き付けた。

 

「…っ痛、一体何?」

 

砂塵が収まるとそこには必死に逃げてきたあの忌まわしき世界にいた化け物だった。

 

「大きいサソリ!?」

 

「アセルス様、あれはデスポーカーです」

 

「デスポーカー?初めて見たよ」

 

「焦るなアセルス、訓練は十分積んできたはずだ。嫌という程な」

 

「イルドゥンに散々やられたからね」

 

 

「今回は1人で戦え」

 

思いがけない提案に思わず声が裏返りそうになった。それだけ予想外な言葉を投げ掛けられているのだ。

 

「えっ、1人で?」

 

「当たり前だ。私はあのとき敵として居たからな。当然だ。それに白薔薇姫様の手を煩わせる訳にもいかんからな」

 

「イルドゥンが勝手に決めるな。白薔薇、一緒に戦ってくれ」

 

困った顔でお願いするアセルスを放っておくことは流石に出来ないようで、「イルドゥン…ごめんなさい」と言いたげな白薔薇が会釈をイルドゥンに。

 

「分りました、アセルス様」

 

「ありがとう!白薔薇!」

 

満面の笑みを浮かべ喜ぶアセルスには思わず素敵でしたと感想を述べる白薔薇。その横では悪態を吐くイルドゥン。

 

「まったく、白薔薇姫様はアセルスに甘すぎる」

 

そんなボヤキを背に受け私達は魔物へと対峙する。

 

「さて、アセルス様。参りましょう」

 

 

 

 

 

 

イルドゥンから貰った小振りのナイフ「ボーイーナイフ」を構えた。白薔薇は後ろでサポートを担当してくれている。誰かが後ろで控えてくれることが、こんなにも気持ちを落ち着かせるのかと…どこか嬉しそうにアセルスは対峙する。

 

「行くぞ、化け物め」

 

正面からデスポーカーへと駆けだし距離を詰めに掛かる。ただ無謀にしか見えない行動だが、これにも思惑は備わっている。

 

「見える!遅いよ」

 

イルドゥンとの訓練が活きているのだろう。時間にすれば2週間足らずの期間でここまで出来るようになったのは、彼のおかげでもある。

 

 

なぎ払われた尻尾を空中へ回避すると同時に落下を利用して斬りかかる。

 

「はああぁ!」

 

裂帛の気合のもとに斬りつけるがまるで金属と金属が奏でる高い音と同時に、ハサミにナイフが受け止められていた。

 

「くっ!こいつ…今まで戦った奴よりかなり固い」

 

動きが見えているが、金属の様に硬い相手は経験が無かった。ナイフが通用しない相手にどう対処すべきかの判断が下せない。ナイフ以外は体術を齧った程度で格闘なんて通用しない。

 

 

 

今の私の力ではーーーー

 

 

「馬鹿者!戦闘中に考えに耽る奴がいるか」

 

イルドゥンの叫びも空しく、気付いたときにはアセルスの目前まで毒針が無数に展開していた。

 

 

これは避けられない。盾など持っている訳もなく、反射的に身構え、目を閉じてしまった。来るべき痛みの恐怖から少しでも遠ざかるために。だが、それはいっこうに来ず、代わりに何かが割れる音が聞こえた。

 

「硝子・・・?」

 

目の前に突如現れた薄い硝子が砕け散り、その破片は魔物へと飛翔していく。硝子片は次々と刺さり、魔物は奇声をあげ退いた。

 

「間に合って良かったです。アセルス様、お怪我はありませんか?」

 

 

陽術 スターライトヒール。暖かい太陽光に包まれ、傷が治療されていく。

 

「ありがとう、ところであの硝子みたいなのは白薔薇が?」

 

「あれは硝子の盾、妖術の一つです。アセルス様もお使いになれますよ」

 

なんか便利そうだけど、術は苦手なんだよね…ってそれどころじゃない。

 

 

「ただ斬るだけじゃあの甲殻は破れない。表面が硬いのなら…」

 

硝子が刺さった為だろう。デスポーカーは激昂している。ハサミや尻尾を振りまわしアセルスに襲いかかる。思考に耽ってしまった愚行に今一度度冷静になり、攻撃を避け、化け物の観察を始める。

 

「多分、あの甲殻の継ぎ目なら…ナイフでも」

 

どんな硬い殻を持っていても、間接に当たる部分は柔らかいはずだと。判断を下せば後は一気に間合いを詰めた。この一瞬の詰めに反応できていないと。

 

「そこだっ!!」

 

継ぎ目を狙いナイフを突き刺した。

 

はずだった。

 

突き刺せなかった。

 

急に揺れる奇妙な感覚に行動が中断され、驚いて正面を見れば尻尾とハサミが地面を激しく打っていた。

 

 

 

デスポーカーが得意とする「グランドヒット」

 

 

激しい揺れと衝撃がアセルスの身体を支配し昏倒寸前まで追いやった。視界がぶれる。よほどの衝撃だったんだろう。

 

「アセルス様!!!」

 

白薔薇の声が遠くに聞こえる。

 

「ちぃ、やはり無理があったか。そろそろ助けんとまずいな」

 

白薔薇、イルドゥンの心配を背に何とか持ちこたえた。ただ、このままでは敗北は必須。揺れる視界と纏らない思考を無理やり正す。

 

 

……考えろ。あいつは近づくと今の攻撃で反撃してくる。なら気付かれなければいい。もっと速く速く。

 

 

「速く、あいつに突きたてればいい!!」

 

砂を蹴り、アセルスは駆けだした。ダメージは抜けてはいない。でも止まれない、もっと速く、速く駆け抜けたい。

 

 

 

 

だが空しいかな。こちらの思惑に気付いたのか、魔物はハサミを大きく振り上げている。

 

「くっ、白薔薇姫、回復はまだですか!?」

 

「もう少しで…詠唱が終わります。…アセルス様」

 

気付かれた。でも止まれない。あの攻撃にはもう耐えられない。だから……

 

 

「もっと速く!!!」

 

 

その言葉と同時に強烈なイメージが沸き起こる。強烈なイメージは行動に影響を及ぼし、アセルスの体得していない動きへと昇華させた。

 

「はあああぁぁ」

 

疾風迅雷とはまさにこのこと。振り下ろされるハサミの付け根を吹き飛ばし反対へ突き抜ける。

 

 

 一閃

 

 

言葉が消えるよりも速く、アセルスは事を成していた。的確に継ぎ目を狙い、ナイフを突き刺すということを。

 

「凄い…アセルス様!あんなに怪我なされているのに」

 

「血から逃れることはできんのだな」

 

 

 

ナイフが刺さるごとにアセルスは笑っていた。笑っていたのだ。何故……こんなに笑ってるの?

 

楽しいからだ。楽しい。楽しいんだ。

 

 

そう楽しいから…

 

 

血しぶきを浴びながら、また一つ、また一つ、デスポーカーの身体をはね飛ばしていく。もはや原型が分らない。私が着ている服もさらに染まってしまった。化け物の血の色に。

 

「終わりだよ」

 

そういって首をはね飛ばし、同時にナイフも折れた。この相手に最後まで耐えたことが不思議だ。

 

派手な奇声を最後に血を噴き出し、デスポーカーはその場に絶命した。

 

「アセルス様!!」

 

「アセルス」

 

二人がこちらに向かってくるのが見えた。二人が見えたことで緊張の糸が切れてしまったのだろうか、アセルスは意識を失った……安堵と謎の昂揚感と共に。

 

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