魔法少女リリカルなのは 紺碧の姫   作:mom

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恐惶

「うーーーらぁああ!」

 

 アギトと呼ばれる女の子が火炎球を4発作りだすと、こちらに攻撃を仕掛けてきた。ただこちらには届いておらず、手前で爆発し粉塵を巻き上げた。だがアギトの狙いは攻撃ではなく視界を奪うこと。ここにガリューが合わせるように煙を裂き突っ込んできた。

 

「っく!!」

 

 エリスの奇襲を不発に終わると、全員が退路のために用意している通路の前に集まっていた。だが7人と多く、少し窮屈なこの状態を狙われた感じとなった。

 

「私が!!はぁああ!!!」

 

 ギンガがいち早く動き始めると、ガリューの拳と相対する。ローラーで滑りながら素早く腰を回転させると、左手のブリッツキャリバーを前に振り抜いた。右手と左手・・・ぶつかり合う拳は均衡を崩すことなく、その衝突によって生まれたエネルギーはやがて暴発ーーーお互いは後方へ吹き飛んだ。

 

 お互いが体勢を立て直した矢先、一人飛び出しているギンガに攻撃が繰り出されていた。アギトがすでに火炎球の形成を完了していたため隙を窺っていたようだ。

 

「ギンガさん、動かないで」

 

 何も動いていたのはアギトだけではない。ティアナとスバルがギンガのフォローの為に打って出ていた。壁から少し身を晒すと即座に2発。放たれた火炎に吸い込まれるように命中した。スバルはギンガの前に仁王立ち、シールドを展開し攻撃からギンガを防ぐとすぐに後退した。ティアナの射撃の援護もありアギトも攻撃を中断するしかなかった。

 

 

一連の攻防の後、アセルスとスバル、ティアナが状況の確認をしていた。

 

「ティアナ、人数的には有利だけど、あのルールーって呼ばれてる女の子、かなりの魔力持ってるし、あのガリューとかいう虫とサンダーっていうオーガ。かなりできると思う。ただ私は残って捕まえる選択もありだと思うけど」

 

「アセルスの言うことも一理あるけど、私達の任務はケースの保護よ。後退しながら敵を引きつける」

 

「今こっちに向かってるヴィータ副隊長とリィン曹長と合流できればあの子達を止められるかもしれない」

 

「私もスバルとティアナの意見には賛成だ。相手の力が未知数な以上、無理はできない」

 

 キャロを支えているエリオも賛成の意味を込め首を縦に。新人達の意見がまとまったところにこの会話を聞いていた待ち人から連絡が届く。

 

≪いい判断だ、スバルにティアナ。今そっちに向かってる≫

 

≪ヴィータ副隊長!?≫

 

≪リインも一緒ですよ≫

 

 どうやら、こちらに二人が近いところまで来てくれている。後は、どのくらい後退するかだが、

 

「ルールー、こっち何か近づいてきてる!」

 

 ルーテシア、アギトが頭上に視線を向けたその時を同じくして、鉄槌の騎士は得物を振り下ろしていた。我が道を遮る壁を容赦なく破壊するために。

 

「アイゼン!!」

 

[Gigant form]

 

「行くぞリイン!!!おりゃああああああ!!!!!」

 

 轟音と共に天井が砕け、大量の粉塵がまた巻き起こる。相対していた双方が突然の状況を飲み込めておらず、固まっているなか突撃してきた二人は行動を起こしている。先に仕掛けるのはリィン。フリーレンフェッセルンでアギトとルーテシアの拘束に掛かる。一瞬で二人のいた場所が凍りついた事にたじろぐガリューをさらにヴィータが狙い撃つ。

 

「吹き飛べ!!!」

 

 無防備な側面にグラーフアイゼンが叩きこまれたかに見えたが、左手で寸でのところでガードしていた。ギリギリと押し込み耐えきるかと思えたが気合い一喝、振り切って壁へと吹き飛ばした。

 

「おう、待たせたな」

 

「みんな無事ですか?」

 

 目の前で起きていたことをただ見ていたスバルやティアナからは「隊長達ってやっぱすごい」との声がーーー「ヴィータ副隊長!?後ろ」

 

 ヴィータの頭を目がけ大きく腕を振りかぶるサンダーの姿がそこにはあった。が、狙われている本人は特に慌ててはいない。

 

「一応、隊長は私だけじゃないんだぜ」

 

 その言葉を言い終える前に鈍い音が二回聞こえたと思うと、壁にまた一つ穴が増えていた。

 

「アセルスも結構無茶苦茶よね…居合が防がれたら、鞘で殴り飛ばすなんて」

 

デバイスを納刀しているアセルスを見ながらティアナはボヤいていた。

 

「でも局員が公共施設壊していいのかな?」

 

「ここは廃棄区画だからいいのよ」

 

 こんな戦いがあってか、気を失っていたキャロが気が付いた。心配そうにフリードとエリオがキャロを見つめている。どうやら心配は無さそうだ。

 

「ちっ、逃がしたか」

 

「こっちも逃げられたみたい」

 

「こっちも逃げられた、ですね」

 

 ヴィータ、アセルス、リインがそれぞれ確認をしているが二人と二体に逃げられたようだ。なら、これからすることはただ一つ。直ぐに追いかけることだ。追いかけるだけなのだが、相手も簡単ではない。次なる一手をすでに発動させている。

 

「なんだ……この揺れは」

 

 地下に突如揺れが襲い、大量の召喚魔法陣が展開される。

 

 

 

「とにかく脱出だ!スバル!!」

 

 

 

 地上に水色のウイングロードが螺旋を描き形成される。

 

「スバル、ギンガ先に行け!!私は後で飛んでいく」

 

「エリスも一緒に上がって!私も直ぐに追いかけるから」

 

 

 

 先頭をスバル、ギンガの二人が務め、殿はエリスが務め、すぐに地上へとFWは脱出した。地下に残っているのはアセルスとヴィータとリィン。各々が視線を合わせるとお互い頷き、魔方陣から現れたガジェットや魚人へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 それは一瞬だった……

 

 

 ガジェットⅠ型、Ⅲ型、魚人の魔物。総数30は居たのだろうか…だがそれは無残にも斬り、潰され、凍結。全ては爆散、昇滅していた。

 

「っし。ここもやべえ、すぐに上がるぞアセルス!!」

 

「了解です、ヴィータ副隊長」

 

 スバルが残してくれた、ウイングロードもそう長くは残らない。地下には用はないのだから先に地上に上がっているFWと合流するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背筋を走る悪寒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だろうか。何か圧倒的な恐怖といったところか。何かがすぐそこまでやってきている……ただそれだけは分かっている。

 

 

 私の中に芽生えているのは純粋な恐怖。初めてかもしれないこの感覚に私は飲まれかけている……そして……

 

 

 

 

 

 そいつは現れた。

 

 視界に移る影。さながら甲冑に全身を覆われた操り人形といったところか。ただ不気味な存在がそこには立っていた。地上に上がろうとしていたヴィータ、リインも気付いたようだ。

 

「待て!リイン、この反応は、かなりヤバいぞ……」

 

「はい、ヴィータちゃん。この魔力、とてつもなく大きいです」

 

 

 こいつだ。私が恐怖を感じている相手は。身体が竦む……足が前に出ない…動けない…恐い…怖い……

 

 

 

 

 甲冑越しには相手の目線など分かりはしない。見えない。だが分かった……眼が合ったことを。

 

 

「きゃああああああああああああ」

 

 

 

 恐慌状態に陥る私。そして誘発されるようにブーストを発動していた。

 

 

「ああああああーーーーーー、あああああああああああああ!!!!」

 

 声にならない言葉をあげながら、その場に倒れ込む。意識が錯乱し、とてもではないが、眼前の相手に太刀打ちなどは到底できる状態ではなくなった。

 

 

 奴は一歩ずつ、ゆっくりと音を立て近づいている。アセルスの元に一歩、また一歩。金属の音が恐怖心を煽る。アセルスの心は完全に支配されている。

 

 

 

「ユニゾンイン」

 

 

 激しい轟音が地下に響き渡ったと同時に土煙が舞いあがる。全体的に白を基調としたバリアジャケット、そして髪。リインとユニゾンをしたヴィータが奴を吹き飛ばしていた。

 

 

「アセルス!?大丈夫か!?」

 

 が、いまだに声をあげながら震えている状況のままで復調の兆しは見えてはいない。ヴィータも現在の状況を軽んじてはいない。最悪といっても過言ではない。謎の相手は、魔力は推定でもSSSに近い。さらにアセルスを恐慌状態に陥れるなど、不明な点が多すぎる。

 

 

「敵であることは間違いないのは確かだ。ただ私も怖いんだけど」

 

 

 

 

 ぎぃいいいいしいいいい

 

 

 グラーフアイゼンと小手がぶつかり火花を散らす。吹き飛んだ場所から一瞬で詰めてきたのだから、ヴィータも驚愕している。

 

「くっ・・・こんの野郎!!!」

 

 

 

 ユニゾンを使っているのだが完全に押されてしまっている。相性の問題もあるがそれでも、押し勝てない。ヴィータも焦っている。

 

 

「舐めんな!おらぁあああ」

 

 一瞬の脱力の後に身体を捻り、相手を前に出させるとすぐに蹴りを一発。またしても壁へと吹き飛ばした。

 

 

「アセルス!いい加減に目を覚ませ!!一人じゃ無理だ、アセルス!!!」

 

 

 

 

 

 

 言葉を同じく、またしてもヴィータは鍔迫り合いに縺れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

[主、我の名前を]

 

 

「・・・・・・・」

 

 

[主、我の名前を呼ぶがいい]

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「主、叫ぶのだ…我の…我の名を」

 

 

 

 

 

 恐れに飲まれたアセルスに語りかける一振り。まだ名前も無いただの一振り。

 

 無口で、何も喋らない彼がこうして語りかける。それは今がその時であると知っているから。

 

 

 「名前……名前って。何?」

 

 そういや、今持ってるこの刀…すごく綺麗。刃は月のようで、人でいうならば美人で…

 

 

 

 名……

 

 

 

 月の光の下で輝く美しき人の如く

 

 

 

 そう、お前の名は………

 

 

 

「月下」

 

 

 

[主よ。破魔の刀としての力を]

 

 

 

 淡い光がアセルスを包み込む。それはアセルスの持つデバイスから発せられている。そしてその光はどこか懐かしく暖かい光だった。

 

 

 

「ありがとう、月下。お前のおかげで恐怖に食われる前に戻ってこれたよ」

 

[我の持ちうる力で務めを果たしたまで。主]

 

「分かってる。いくよ!」

 

 

 鞘に一度納めると、地面を踏み切り、奴のもとへ。ヴィータもアセルスが復活したことに気付いたようで、距離を置くことに。

 

「アセルス、無茶はするな!奴は相当手ごわいぞ」

 

コクッと首を縦に振ると、居合一撃。甲冑の胴に直撃を与えることができたが、傷一つ付けることができなかった。予想外なことに少し驚いたが怯ませることには成功したようだ。

 

 

「ヴィータ副隊長、天井がもう崩れそうです。一気に行きましょう!」

 

「ああ!合わせろよ!!アセルス」

 

 お互いの得物を握り直すと一呼吸のずれを持って飛びだした二人。先手はヴィータ……奴目がけて頭上へ大きく振りかぶったアイゼンをぶちかます。だがそれは易々と受け止められてしまった。が、それこそがヴィータの狙うところであった。

 

「わざわざ受け止めてくれるなんてな。アイゼン、ぶち抜け!!!」

 

 

 

 かめごうら割り

 

 

 

 

 

 よほどの衝撃なのか、甲冑が震えている。ヴィータも手ごたえありといったところか。追撃せず、すぐさま距離を取った。そしてその背後からアセルスが踏み込んできた。

 

 

 

 

 

 

 逆風の太刀

 

 

 

 

 風を斬るように駆け抜け、すれ違いざまに神速の一太刀。ヴィータとアセルスの即興での連携

 

 

 

 

 

「かめごうらの太刀」

 

 

 

 

 

 ネーミングはあれだが、かなりのダメージはあったようだ。

 

 

 ただ、月下が当たる寸前に手でガードされてしまったことが悔やまれる。

 

 

 

 

ぱきっ・・・ガシャン・・・

 

 

 甲冑の一部分が砕け、地面に落ちる。そこに現れたのは紛れもない人の手。そして白く……華奢な。

 

 

 

「・・・なっ!?」

 

 

 

 消えた。その場から奴は完全に消えた。気配もない。忽然と、急に消えた。そこには壊れた甲冑の一部分と、長い髪の毛が一本だけ。

 

 

 

「人だったのか……あれは。それに、あの手にこの髪……」

 

「アセルス、今は脱出だ!早くいくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天井が限界を迎えた音だった。

 

 

 

 

 

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