魔法少女リリカルなのは 紺碧の姫   作:mom

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母子

 六課始まって以来の総力戦といっても過言ではないだろう。なのはの状態を除けばFW陣が戦闘に参加していることになる。だが状況は、決して好ましいモノではない。戦力は4つに分散され、ある者は個人で、あるものは仲間と。ここでの敗北は許されない。

 

 

 

 

 

-----「ほう、中々どうしてやる。だが私は奴等とはワケが違うぞ」-----

 

 バリアジャケットが展開された彼女達を見たセアトの気配が変わった。言葉はそれを示している。油断ならぬ相手だということを。

 

 

「セアト、1つ聞いておく。ラスタバンを殺ったのはお前で間違いないのだな」

 

 

-----「ふん、私の力の前に屈してくれましたよ。そして今は私の力になってもらいましたが」-----

 

 

 それ以上の言葉は必要なかった。その言葉を皮切りにセアトとの戦闘が開始された。

 

 

 

 戦力的には、なのはとヴィヴィオを守らなければならないことを含めても、こちら側が有利だ。フェイト、シグナム、イルドゥン。対して相手はセアトただ一人。だが、見かけと事実は大きく異なることは世の常でもある。状況は現在五分五分といったところか。イルドゥンがなのはとヴィヴィオのフォローに入っているものの、高速戦闘を得意とするライトニングの隊長陣でも中々距離を詰めることに至っていない。

 

「相手もかなり速い。テスタロッサ、視界も悪い。見失うなよ」

 

「シグナムこそ。なのは達との距離を離し過ぎないようにしないと」

 

 状況は一進一退の攻防が繰り広げられている。セアトの武器が右手の弓[ボウガン]以外にも剣を使用するため、接近戦に持ち込むも、いなされ、距離を空けられ、矢で牽制されている状況だ。度々なのは達を狙っているようだがイルドゥンが対応してくれているため、大丈夫のようだ……が相手も馬鹿ではない。従騎士達を束ねる長として君臨するセアトは気付いた。

 

 

 

 イルドゥンが攻めてこないことに。

 

 

 

 

-----もしや、奴は-----

 

 

 

 動きが変わった。先ほどまではフェイト、シグナムを相手にしていたが、完全にこちらに狙いを変えてきた。

 

 

「セアトめ、どうやら気付いたようだな。だが、我とて遅れを取るつもりはない」

 

 右手に妖艶に輝く妖魔の剣を静かに握り直し、セアトへと目を向ける。

 

 

 動きの変化にフェイト、シグナムも対応し、すぐに追いかける。六課でも1、2のスピードがあれば追いつくことは容易い。しかしセアトの目的は違っていた。

 

 

 慣性を無視したかのような急停止と共にフェイトに斬りかかった。これにはフェイトも驚いたのか、反応が遅れ、相手に前のめりの形で鍔迫り合いに移行する。ただフェイトは速度が乗った状態なので状況的には有利なのだが、

 

 

「テスタロッサ!!眼を見るな!!!」

 

 事の成り行きを知っている者からの言葉は無情にも空を切る。

 

 

「身体が…動かない……」

 

 

 妖術 ファッシネイション

 

 

 シグナムは経験したことがある為、すぐに分かったのだが、フェイトにも伝わっていたのだが、情報と経験で埋められない差が、この土壇場で結果として現れてしまった。

 

----「貴様には用はない」----

 

 

 ガードもできず、脱力しきった状態から腹部に強烈な蹴りの痛みがフェイトを襲う。オートプロテクションでの軽減があり、意識を刈り取られるには至らなかったが、吐血と意識混濁の為動けそうにない。

 

-----「防御を疎かにすると、こうなる」-----

 

 

 

「テスタロッサ!?貴様!!!」

 

 爆発的な加速と共にレヴァンティンを振りかぶる。その剣閃は軽く見積もっても腕一本は持っていけるタイミングだったのだが……セアトの翼がそれをよしとはしなかった。

 

 

----「この翼は飾りではない」-----

 

 

 火花を散らし、こちらも不可思議な鍔迫り合いに持ち込まれる。同じ轍は踏まないのは当然のことで、妖術には警戒している。だがこれもセアトの狙いだった。身体を捻り鍔迫り合いを切ると、直ぐに急加速を始めシグナムへと突撃した。この間の行動中にシグナムが取れた行動はよろけずに倒れることを堪えることしかできなかった。

 

 全ては一瞬。高速戦ならば一秒にも満たない隙が致命的だ。

 

 

 グラインダースパイク

 

 

 高速の体当たりは容赦なくシグナムに直撃し、その身体を無残に吹き飛ばした。その衝撃にはシグナムを持ってしても耐えることができず意識を手放した。

 

 

-----「容易い。仲間など思っているからこうなるのだ」-----

 

 

 フェイト、シグナムを一瞬のうちに戦闘不能まで追い込み、なのは、ヴィヴィオ、そしてイルドゥンの前に降り立つ。圧倒的な力……セアトを知るイルドゥンにとってこの状況は危機的状況だった。

 

 

 なのははヴィヴィオを庇い、動けない。実質動けるのはイルドゥンのみ。だがイルドゥンからは諦めは感じられない。この状況を抜け出せる……そういっているようにも見える。

 

 この表情を面白くないと思うものは当然いる。相対しているセアトだ。以前からイルドゥンの事をよく思っておらず今回の機会はセアトにとっては千載一遇なのだ。考えることは1つ。イルドゥンを肉体的、精神的に追い込み倒すことである。ならばセアトが起こす行動はこうだ。

 

 

----「貴様に絶望を見せてやる」----

 

 

 その言葉の意味することはすぐに分かった。無機的な空間に映し出された映像。それは外の映像だった。そしてそこに移っていたのは、

 

 

 

「・・・!?み、みんな……」

 

 なのはから漏れる言葉からはまさしく絶望が漏れ出している。それこそ漏らすなというほうが難しいのではないだろうか。

 

 肉塊になった新人達……首が胴体と分かれてしまった隊長達。そして六課が無残にも燃えている……

 

 

「いやああああああ」

 

 なのはの叫びが空間に空しく響き渡った……

 

 心が折れ掛かっている。それはこの状況からすれば当然なのかもしれない。ヴィヴィオはただ、なのはにしがみ付き泣いているだけだ。

 

 

「情けないぞ高町なのは!!!しっかりしろ」

 

 

 

 

 

 想い……それだけが今、イルドゥンを突き動かしている。例え一人になろうとも、戦いぬくことは決めていた。なにより、

 

 

「はやてや、アセルス達がそう簡単に負けるとでも思っているのか?貴様が育ててきた新人達を何故信じない。そのことは、高町なのは!お前が一番分かっているはずだろう」

 

 

 折れかけた心を見事に支え、彼女の心に火を燈す。闘うことができなくとも、仲間を信じる心を忘れてはいけない。改めて自分に言い聞かせるように。

 

「ありがとう……イルドゥン。ヴィヴィオは絶対に守るから!」

 

「ああ、任せた!」

 

 一歩を踏み出しセアトへと距離を詰めにかかる。精神面を砕くどころか逆に燃え上がった二人を、やはり面白くないと見つめていたセアトは苦虫を潰したような表情で、怒りを表していた。

 

-----「イルドゥンを片付けたら次はそこの女!貴様だ」-----

 

 

「そう易々とできると思うなよ」

 

 両者の剣が交わり火花を激しく散らし互いの思いが交差する。一見すれば互角に見えるが、完全に力負けしている。

 

 

-----「思った通り、力を失っているようですね。そんなアナタなどとるにたりません」-----

 

 

 

 バレていたか……が、ここで易々と負けるわけにもいかんのでな。はやてとの約束の為にもな。

 

 

「力だけで事が運ぶと思うなよ」

 

-----「何をほざくかと思いきや……ん?」-----

 

 

 セアトの動きが止まる。薄暗い空間に張り巡らされた銀色に光る糸……刃の糸を先の攻防の前から準備していたこの仕掛けが、戦力の差を埋める切り札でもあった。

 

「貴様とて楽には動けまい。動けば身体を糸が切り裂いていく」

 

-----「ブレードネットとは考えましたね」-----

 

 

 何十本の糸が無数に絡みつくことでその存在を感じることが出来るほどの細さ、そしてその切れ味を持って動きを封じることが成った。一端距離を置くと、間髪入れずにセアトへと迫る。糸に触れることなく、その速度は爆発的に増加し、その距離はもうすでに存在しない距離までに。

 

 

 -----「動くことはできなくとも、矢を放つことはできる」-----

 

 セアトの右手から矢が放たれた……それは正確にイルドゥンを捉えるコースだが、造作もなく対応され、矢は地面へと叩き落とされた……のだが。

 

 

 

 「セアト……一体何を考えている」

 

 

 

 

 矢が地面に落ちる刹那、直観的に身体が動いていた。

 

 

 今までの経験、そして危機的状況に晒され研ぎ澄まされた刃の如き集中力が無意識に身体を動かしたのだ。

 

 

「っく……」

 

 

 

 握られていた剣は力なく手からすり抜け、乾いた音を立てた。次に襲ったのは全身の激しい痛みと脱力感、そして痺れ。咄嗟に動いてしまった身体……それは同一射線軸に居たなのはを庇うため。右肩に深々と突き刺さった矢が全ての元凶だった。

 

 

「がはっ」

 

 激しい嘔吐感と脱力感により、その場に膝を付き、蹲る……だが彼の眼はまだ死んではいなかった。だが、意思に身体が付いてこない。

 

 

-----「二本の矢に気付くとは流石と行ったところか。だが二本目こそが本命。貴様が庇わなければ今頃あの女は楽に逝けただろうに」-----

 

 

 妖魔であったことを喜ぶべきか。この程度の毒ならば死ぬことはない。だが人間ならばどうか……奴の言うとおり耐えることは不可能だ。

 

 

「ここで……やらせるわけには……」

 

 

 動け・・・動かなければ・・・守れは・・・しない・・・

 

 

 

 力を失っている代償は大きすぎた。この大事な局面において結局は力になれていない。事情があるとはいえ、彼にここまで苦汁を舐めさせることはそうそうないだろう。

 

 

 

 そしてイルドゥン蹴りを放ったセアトはついになのはとヴィヴィオの前に。

 

 

 ブレードネットも無残に引き千切られ、傷一つ付いていない。

 

 

 

-----「こんな子供騙しな糸で私を抑えられるとでも思っていたのか?イルドゥンには笑いしかでませんね。さて、後は女。お前だけだ。」-----

 

 

 泣きわめくヴィヴィオを優しく抱きしめると、なのはは口にする。「ヴィヴィオを守る」と。

 

 

 セアトの表情が歪む。そして激痛がなのはの身体に走った。見なくても分かる。矢が刺さっていることぐらい。分かっているからこそ、声をあげて痛がることなどできない。ヴィヴィオがさらに怖がらせてしまうから。

 

 2本、3本、4本……次々と矢はなのはの身体に突き刺さる。だが彼女は決して痛がらない。不屈の心を持つ彼女ならば、一度心に決めたことを易々と挫くことはない。なによりなのはが実感していること……「私は、ヴィヴィオの、ママだから」

 

 

「マ、ママ…」

 

「はい、ヴィヴィオ……」

 

 

 

 

 ヴィヴィオの視線がなのはの表情を捉える。そこには普段となんら変わらない、なのはの優しい笑みがあった。恐怖と不安に押しつぶされそうなヴィヴィオをこれ以上心配させまいと振舞いヴィヴィオに応える。すでに背中や手には何本の矢が刺さり、血は休むことを知らず流れ落ちている。

 

 身体は限界を超えている。それでも仲間が来ることを信じて、そしてヴィヴィオの為に。なのはは痛みを見せなかったのだ。しかし限界をいつまでも超えていることは不可能なことは明白の事実。そして、

 

 

-----「さようなら」-----

 

 

 一筋の軌跡は、赤い血潮を伴って描かれた……

 

 

 

「……ィオ…だ い じょう  ぶ   だか ら   ね」

 

 

 温かく優しい手が、ヴィヴィオから離れていく。それは幼い彼女にも十分理解できること

 

 

 幼い子を守る為に、庇い続けたなのはの……意識は……断たれた。

 

 

 

「ママーーーー!?」

 

 

 

 うつ伏せに倒れ込むなのはを揺すり、泣きじゃくりながらなのはの事を必死に呼び続ける……その間にも、命の欠片は流れ落ち、終焉に一歩ずつ近づいていく。

 

 

----「ここまで容易いとは正直がっかりですね。まぁいい。さぁ後はこの娘を連れ帰るだけだが」-----

 

 

 

 

「ママーーー起きて。ママーーー!!」

 

 

 なのはを必死に揺らし声をかけるもなのはからは何も返ってはこない。それでも必死に呼びかけることしか彼女にはできなかった。

 

 

-----「無駄だ小娘。すでにその女は死んだ。さぁこっちに来い」-----

 

 

「やだーーー、なのはママーーー」

 

 

 涙で目元は腫れ、声は枯れ始めてきているもなのはを呼ぶ声は決して止むことはない。それにしびれを切らしたセアトは暴挙にでる。

 

----「いつまでも、こんな死体に喚くな小娘が」-----

 

 

 新たに矢を倒れているなのはへ放つ。肉を突き刺す音がひどく耳に響く。

 

「あ、あ、あ、」

 

 嗚咽と共に身体の奥から鼓動がはっきりと聞こえる。それは確かに知っている、懐かしい響きでもあった。そしてその鼓動が身体を撃った。

 

 

「ママーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 何かが弾けた。その幼子の身体の中で確かに弾けた。

 

 

 そしてーーー彼女は目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「永き時の中で、私は多くと戦ってきた…………だが、これほどにまでない暴挙、そしてこの仕打ち。許しては置けぬ」

 

 

 

 

 

 

 言葉を発するのは紛れもなくヴィヴィオだ。だがヴィヴィオであってヴィヴィオではない。

 

 そんな彼女が今まさに、暴挙を尽くしたセアトに対峙している。これには少々セアトも焦ってはいるようだが別段表情には出してはいない。ただそれだけ。

 

 すでに動けないのだ。

 

 

 

 彼女からあふれ出る威圧感・・・それだけでセアトは縛られている。

 

 

-----「何故動けん!?くっそ、動け、動かんか!」-----

 

 

 

 

 

 

「無駄だ。私は永く戦ってきたのだぞ。これくらいのことなど造作もない。」

 

 

 無機質に淡々と答え、ある程度の距離を取った。そしてこれがセアトの見る最期の景色になった。

 

 

 

 

「bpblo,rynuvyjpju,spblpubieilpeuiqinirrw,auribpay」

 

 

 

 聞きなれない呪文の詠唱が完了すると、セアトの四方に紫紅の十字架が現れた。四方の影を、十字架は射ぬき、徐々にセアトへと近づいてる。影を殺されたセアトはすでに喋ることもできなくなっている。

 

 

「汝、罪あり」

 

 

 無情に落下する最後の十字架はセアトへ。黄金はセアトを貫き、そして四方の十字架は中心へと集まり、5つの十字架は一つへと。

 

 

 高々と聳える紫紅の十字架。そしてそれは………光となった。

 

 

 

 

 

 

 禁忌 ロザリオインペール

 

 

 

 

 

 

 

 

 セアトは消滅した。

 

 

 

 

 

 

 消滅と同じくして空間は解かれた。

 

 

 

 

 ヴィヴィオも意識を手放した。誰にもこの事は知られることなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セアトが見せたあの映像は当然フェイク。全員が従騎士を撃退していた。そして、この空間にはアセルスをもっても侵入することができずに手を拱いていたところだった。

 

 

「……なのはさん!?みんな!?」

 

 

 すぐに医療班が駆けつけ、アセルス、白薔薇も応急処置に躍起になった。

 

 

 そしてこの惨状から救うべく、六課の命を繋ぐ戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 この戦いによりーーー高町なのは………彼女は生死の淵を彷徨った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしいじゃないか。やはり私に狂いはなかった。さぁ、後は彼女を手に入れるだけだ。もうすぐ私の傑作も返ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!決別といこうじゃないか」

 

 

 

 

 

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