命、通貨、血。通貨により弄ばれた者達、絶望に打ちひしがれることなかれ
カリム・グラシア 預言者の著書 白紙の一行より
セアトと呼ばれた妖魔との一戦から一ヶ月程。あれ以来、六緊急出動の回数も何故だが全然減っちゃいました。その間に、六課に正式に出向してきたギン姉。マリエル・アテンザ技官。二人とも本当に凄くて今の六課にとっては本当嬉しいことなんだよね。まぁギン姉は凄くて当然なんだけど……っとそんな姉自慢してる場合じゃなかった。この一ヶ月の間、なのはさんは入院していて私達の教導に付くことができなかった。なのはさん……無理してでも働こうとするから、みんなで止めたけど最後に、ヴィータ副隊長が泣きながら止めてくれたお蔭で、ヴィヴィオと一緒に療養中です。その間、私達の教導は、ヴィータ副隊長、シグナム副隊長、そして……エリスでした。
「・・・・・・・」
今でも、彼女の豹変ぶりには驚かされます。なんでも、部隊長が面白半分に見せた地球のある映画の影響だとか……体力面のトレーニングは地獄だったよ。肉体的にも精神面にも。でも、充実してたし、みんなの調子も良いみたい。これならどんな事件が起きても大丈夫みたい。だからお父さん、私もギン姉も元気です。心配しないでね。また連絡します。
スバルより。
-----機動六課隊舎----
「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や。明日14:00からの開会に備えて現場の警備はもう始まってる。ヴィータ副隊長、アセルス隊長。リィン曹長とFW4名はこれから出発、ナイトシフトで現場の警備に当たってもらう」
地上本部 レジアス・ゲイズ中将による公開意見陳述会の警備の確認を行うため、前線メンバーと確認を行っている。機動六課に対するレジアスの風当たりは決してよくは無いのだが、これといった妨害などは今のところは無い。それにカリムの予言……内容を覆す為に。これがこの部隊の有様だ。
「私とフェイト隊長、シグナム副隊長、アセルス、エリスは明日の早朝に中央入りする。それまでみんなよろしくな」
「「「はい!」」」
正直なところ、なのはちゃんが動けんのは誤算やった。本来ならば、六課にアセルスとエリスを残していきたかった。なのはちゃんが抜ける穴は大きい……この穴を埋めるにはアセルスとエリスを動かすしかなかった。正直嫌な感じはある…でも地上本部を危険に晒す訳にもいかん。予言がそうならないことを願うしかないんか。
先行するみんなの見送りを終え、シグナムに後発の部隊への通達を頼むと、隊舎の病棟へと足を進める。まずはここへ。
101 高町なのは様
「なのはちゃん、失礼するで」
「はーい、どうぞ」
言葉を待って、ドアを開けるとベッドで身体を起こして、外を眺めているなのはちゃんが眼に映る。うん、身体の調子も良さそうやな。
「なのはちゃん、身体の方は大丈夫?」
「傷の方は何とか。ただリンカーコアが弱ってるみたい。もうしばらくすれば完治するからって」
病棟に運び込まれた時のことを思い出すだけで寒気がしてくる。それだけなのはちゃんは重傷やった。あれだけの重傷にも関わらず、医療スタッフ、それに白薔薇姫、それになのはちゃんの体力、精神力もあってここまで驚異的な速度で回復してきてる。不幸中の幸いといったところか。
「はやてちゃん、大事な時に動けなくてごめんね。こんな時に動けないなんて」
ヘリが出発するところが見えていたらしく、スターズ隊長としての責任を感じていることは誰にでも感じる。
「大丈夫や。この一ヶ月でまたみんなも大きく成長しとる。それにギンガも来てくれとるし、人数的には問題なし。それになのはちゃん普段から働きすぎな面もあるし、今回くらいはヴィヴィオと一緒にいてあげてな」
なのはのすぐ横に用意されている小さいベッド……そこでは規則正しい寝息を立てる可愛い少女の姿が。
「実際、あの時何があったのか誰も分かってない。情報としてはフェイトちゃんがかろうじて見えていたっていう、金色の光。それだけしか情報はない。でもそうなると、あの空間を排除したのはヴィヴィオになる」
現場のデータ、戦闘したメンバーからの情報をまとめ考察した結果、ここへ行き着いた。ならばこう考えるのはどうか。今回、ヴィヴィオの近くにエースを置いておけると。
「今回、何が起こるかはわからんけど、なのはちゃんは無理せんといてな。大事な人を絶対失いたくはないから」
「はやてちゃん……うん」
なのはちゃんも私の意図を汲んでくれたみたいやな。最後にビシっとサムズアップ。なのはちゃんも笑顔で返してくれた。
無理せんといてな……絶対。
そしてさらに奥へと足を運ぶ。
108 イルドゥン様
1時間程であるにしろ、二人は時間を共有することに……
そしてなのはもまた……訪れた大切な人と、時間を共有していた。
-----地上本部-----
到着したメンバーに加え、ギンガが合流し、それぞれが警備に当たる。警備といっても端っこの方だからそこまで張りつめることもなく、のんびりやっている。警備部隊の方がお茶を差し入れしてくれたことはこの寒さからすると有難かった。
「ヴァイス陸曹、お茶の差し入れに」
「おお、ありがとよ」
色々とお世話になったヴァイスのところにティアナがお茶を差し入れにもっていく。そこで彼女は思い切って聞いてみることに。
「ヴァイス陸曹のこと、失礼ですが少し調べました。アウトレンジの狙撃の達人で、エースクラスの力があったって」
「俺の魔力値なんざ、お前の半分しかない。それにそんなこと聞いてどうする。気にしてたら、また大事なところでヘマするぞ」
お茶を飲み干すと、紙コップを潰し私に返す。やっぱり聞くべきじゃなかったのか。
「すみませんでした」
「分かればよし、さっさと行け」
警備に戻るティアナの背を見つめ、一言彼は言葉を漏らす。
「全て昔の話なんだよ」
彼は全てを語る事なく、ティアナを警備に戻らせる。全てを知るのは彼のデバイスだけだった。
日も上がり、後発組も警備に合流した。なのはが本部内を担当していたが、欠員部分をアセルスが担当することになった。本部内はデバイスを持ち込むことができないため、スバルに預けることに。
「はやて部隊長、フェイト隊長、シグナム副隊長の分もそれぞれ預かっておいて。それじゃあ、スバル、よろしく」
「まかせて、アセルス」
お互いの拳をこつんと合わせ、私とスバルはそれぞれの持ち場へと離れていった。なのはさんの分も私がカバーしないと。あの時セアトに何もできなかった分の借りをここで返さないと。
≪アセルス、妙だと思わないか≫
陳述会が始まり、内部警備にあたっていた私にヴィータ副隊長から念話が入った。
≪妙とは?≫
≪狙いがわかんねえ。予言のことは聞いていると思う。予言通り事が起こるとして、内部のクーデターの線は薄いはずだ≫
≪部隊長の協力者のアコース査察官が調べた範囲では、その線は薄いと聞いています≫
≪そうすっと、外部からのテロだ。だとしたら目的はなんだよ≫
≪それは……≫
≪犯人はレリックを集めてる連中。スカリエッティ一味だっけか。奴らならさらに意味がわかんねえ。局を襲って何の意味がある≫
≪兵器開発者なら、自分の兵器の力の誇示。管理局を潰せるほどの戦力を準備できるって証明できるなら、その兵器を買いたいと思う連中はいくらでもいると思う≫
≪力を証明したいなら、他の場所だっていいはずだ。リスクが高すぎる≫
≪それは、そうですけど≫
ヴィータ副隊長の意見はその通りだ。そんなことをしていったい何のためになるのか……それに、今回はスカリエッティだけじゃなくて、別の何か。たとえば妖魔だって関係してるんじゃないかと。私は思っている。だけど今のみんなに何1つ確信のないことを伝えるのは逆に不安を煽るだけだ。
止そう。
≪とにかく、何があっても、対応できると思います。それだけ六課は準備をしてきたわけだし≫
≪そうだな。はやて達もいる。とにかく気を抜かず警備するだけだ≫
念話を終えると外へと視界を向ける。すでに陳述会が始まって4時間が経過していた。
外は茜色に包まれていた。
「ナンバーズ。№3トーレから№12ディードまで、全機配置完了」
コンソールを操作しつつ準備が整ったことを告げる女性。ウーノはスカリエッティに告げた。全ての準備ができたことを。彼女等の前には巨大モニターが展開されており、ゼスト、ルーテシア、地上本部が映し出されている。
「お譲とゼスト殿も、所定の位置に着かれた」
「攻撃準備も全て万全。後はGOサインを待つだけですぅ~♪」
トーレ、クアットロの通信にウーノが答え、状況を再度確認する。すぐ傍らでは座するスカリエッティが笑い声を静かに発していた。
「楽しそうですね」
「ああ、楽しいさ。この手で世界の歴史を変える瞬間。研究者として、技術者として、心が沸き立つじゃないか。そうだろ?ウーノ」
狂人とも呼べるこの男。だがウーノは愛おしそうに頬笑みを返す。
「我々のスポンサー氏にとくと見せてやろう。我らの思いと研究と開発の成果をな」
椅子から立ち上がり、始まりを告げる。全てを歪ませる。そんな笑みを浮かべ彼は宣言する。
「さあ、始めよう!」
「はい……」
コンソールに彼女の指が落ちる……それは崩壊への調べ。
音色が壮大に響き渡った。
「来た!?」
平穏を破り外が騒がしくなる。予言通りといったところか。この気だるい感じからすると、ガジェットが来てるみたい。情報からすると本部の防衛機能はそう簡単に破られないってことだったけど……これは、予想外だったかも。
AMFで会場を破ってくるなんて。
突然会場内の電源が落ち、緊急用の隔壁が降り、会議室が孤立する形になった。会議室には、はやて部隊長、シグナム副隊長。シスターシャッハに騎士カリムが残っている。
「フェイト隊長!」
会議室への道を模索している時、事態に気が付いたフェイト隊長がこちらに駆けつけてきた。
「完全に会議室は孤立しています」
「他の道もロックされてるみたい。とにかくここでじっとしてるわけにはいかない」
フェイトさんの視線を追うとエレベーターに向いていた。
「ちょっと手荒だけど、アセルスも着いてきてね」
「もちろんです」
エレベーターのドアをなんとか開け、男性職員に礼をいうとすぐに飛び降りた。AMFの濃度が濃くても身体に魔力を纏わせることは可能である。
「こんなこと陸士学校の訓練以来だけど、色々とやっておくものだね」
「魔力にこんな使い方があとは思いませんでした」
二人は両手に魔力を纏わせ手をブレーキ代わりにワイヤーを伝って降下している。
「緊急事態に備えて合流地点も決めてる。合流ポイントは地下のロータリー」
「フェイトさん、急ぎましょう」
慎重かつ大胆に。二人は地下へと降下していく。そしてその地下にはデバイスを預かっていたFW4人が戦闘機人2体と。そしてヴィータは空でオーバーSの魔導師と。
そして北のエントランスの地下では、
「ギンガさん!」
「エリス!」
ギンガとエリスが眼帯を付けた少女と対峙していた。
その少女……ヴィヴィオの保護の際に相対した。名前は確か、チンク。
エリスとギンガーーーそれぞれが思い出し、デバイスを構えたとき……彼女は言った。
「あと、5分だ」
その言葉の意味を理解できていれば……。しかしそれは分かるよしもなかった