地上本部への攻撃が開始されて幾分かの時間が経過しているだろう。建物の揺れも一層大きくなっているように感じる。 アセルスとフェイトは共に合流場所へと急いでいる。だが相変わらず連絡が取れずに少々困惑を隠せない。
「フェイトさん、ここです」
封鎖的だった通路を抜けると少し開けた交差点のような場所に出る。デバイスからの情報と照らし合わせても、ここで間違いないようだ。
「アセルス、フェイトさん!」
対面の通路から私達を呼ぶ声が聞こえたので眼を凝らしてとまでいかないが、見てみると、バリアジャケットを展開したFW4人がこちらへと走ってきていた。
「フェイトさん、アセルスさん」
そして右手を見ると会議室にいたはずのシスターシャッハがこちらへと走っていた。
「みんな!それにシスターシャッハまで」
「会議室のほうは有志によって開放することができました。ただ騎士カリムをはじめとする皆さまはまだ会議室に残って事情説明をしているところです」
「ヴィータ副隊長からデバイスを預かってきました。それにフェイトさんとアセルスの分も」
アセルスとフェイトさんはスバル、エリオから預けておいたデバイスを受け取ると、すぐさまバリアジャッケットを展開する。デバイスなしでの戦闘は流石に心もとなくなってきているの事実。それには関してアセルスは、この世界に慣れ過ぎてるのかなと思ったりもする。
時間は費やしてはいけない。すぐさま私達はお互いの情報を交換、共有を図った。ここで挙がった名前は「戦闘機人」。ここに向かう途中にスバル達は戦闘機人二体との交戦があったようだ。不意打ちという最悪な形から入ってしまったのだが、ティアナの機転……もとい戦闘機人に対するデータを持っていた為に難を逃れることができたらしい。
「状況は大体のところは分かりました。戦闘機人が本部内に侵入してきている以上は見過ごせる状況ではないということ」
この場での指揮官はフェイトになる。フェイトはこの状況下でどのような判断を下すべきか慎重に、だが思考を最大限に稼働させ最良の案を模索していたようだ。だがそんなとき。
≪・・・・tら、ロング・・・チ。現在、てkせん・・ry・・に・・・しゅう・・・きを≫
「グリフィス君!?」
この場にいる全員に緊張が走る。敵の狙いはここだけではなかったのだ。地上本部襲撃という大いに目立つこの一件を囮に使ってまで、六課を襲撃するなんて……一体何が狙いなんだ……
「なのはや白薔薇姫、イルドゥン達が六課に残っているとはいえ、ほとんどがバックヤードの面々ばかりだ。なのはだってまだ完治はしていないし、もしも戦闘機人が襲撃しているとなれば、万全じゃない、なのはじゃ厳しい」
顎に手をあてすぐさまプランを練り直しているフェイト。そしてすぐにそのプランは私達に告げられた。
「ライトニングとアセルスはすぐに六課へと戻ります。スターズはシャッハと共に部隊長達と合流。指示は部隊長から直接仰いで動くように」
「待ってください!」
フェイトさんの説明にスバルが割って入る。普段ならこんなことしないのにどうしたんどろうか。だがスバルから告げれたこともまた見逃すことはできない事実だった。
「さっきからギン姉との通信が繋がらなくて……なにかの妨害があるにしろ少しは繋がってもいいはずなのに」
・・・・・・ギンガと連絡が着かない。ならエリスは!?
すぐに念話やデバイスからの通信を試みるもやはり返事はなく、また酷いジャミングのようで、砂嵐のような音しか聞こえてこない。
「フェイトさん、すみません私行きます!!」
「ちょっ、待ちなさいスバル!フェイトさんすいません。私もギンガさんやエリスのことが気になります」
判断を待たずに駆けだしていく二人に戸惑うもすぐに「追って」と命令を出せるあたり隊長は伊達じゃないと改めて感じる。けどエリスやギンガと連絡が取れないことには私も何か嫌な感じがする。でもエリスにギンガ・・・二人ならば戦闘機人でも決して遅れはとらないと思っている。いや大丈夫。
「フェイトさん、私達も行きましょう。シャッハ、部隊長やシグナム副隊長のデバイスをお願いします」
「はい、任されました」
シュベルトクロイツ、レヴァーティン。会議室で待つ二人の愛機をしっかり受け取ったの確認するとそれぞれはまた、三方に分かれそれぞれの役目を果たすことに。
そして
ここに額にうっすらと汗を浮かべながらも必死に走る者が一人。我武者羅にただを前を見て目的地へと突っ走っているといったほうがいいだろうか。何故ここまでして走っているのか。それはただ嫌な予感がしたから。だが彼女からすれば理由などどうでもよかった。ただ……微かに感じた一抹の不安を払拭したかった。走っている最中誰かに出会った気がした。彼女は手に何かをぶら下げ私に声をかけているようだ。だが私にその声は入ってはこない。代わりに下げられていた物を受け取るすぐに呟いた。
「セットアップ」
一瞬の閃光と共に彼女は甲冑を纏う。右手にはシュベルトクロイツを、左手には夜天の書を携え……八神はやては床と別れを告げる。
目指すは北。ただそれだけ。一心不乱に彼女は飛んだ……
その北では……
「はぁああああ」
「せいっ!!」
大剣と拳が入り乱れ、確実に相手を追いやっている。北で連絡が着かなかった二人は、現在進行形で戦闘機人と交戦中であった。状況は2対1。決して悪い状況ではない。チンクと呼ばれていた戦闘機人も状況は判断できているようだ。
「後、3分」
ギンガはずっと気になっていた。チンクと交戦に入る前に放った「5分」という言葉。それが3分に。あと3分経てば援軍が到着するのだろうか。それならば早くチンクを倒すことが最良であることには間違いない。幸い彼女はそこまで強くはない。先ほどから投擲されるダガーのような物はシールドで簡単に対応できる。うん。行ける
「はぁああ!」
ブリッツキャリバーのローラーが煙を噴き上げる。グッと力を込め足を前に踏み出すのを合図に一気にトップスピードへと加速する。チンクも虚を突かれたかのように、対処が遅れていたようだが、身体半分横にズレることで、ギンガの突撃を難なく対処する。
「避けて当然よね」
「ああ、それくらいは避けて当然だ」
「なっ!?」
チンクが驚くも無理はない。やり過ごしたと思った矢先、自身の正面にはすでにデバイスを振りかぶったエリスが居たのだ。
「残念だったな。私に気付かなかったのか?」
振り切られたデバイス「レグナ」は止まらない。非殺傷設定とはいえ、確実に骨は粉砕するであろう勢いだ敵対する者には容赦はしない。それがエリスの信念でもあった。
『パチン』
指を鳴らす音が聞こえたの覚えている。だが次の瞬間だ。急に何かが爆ぜたのだ。あまりに急な事で防御も間に合わずに爆発の直撃を受けてしまった。誰だってそうだろう。急に眼の前が爆ぜるという現象を理解できるはずもない。この爆発の原因がチンクであることは分かった。それだけ分かれば十分だ。ぶすぶすと焦げる身体に鞭打ち、口に溜まった血を吐く。辛いのは私だけではない。相手も爆発に巻き込まれて無傷ではない。それで十分だ。ギンガに眼をやればどうやら無事なようだ。ならば協力してチンクを倒せばいいだけのこと。それで十分だ。
額から垂れる血を拭いラグナを握りしめ一歩前に踏み出していく。そこで眼帯が無くなっていることに気がついたが今はそれほど重要ではない。
「エリス、無理しないで」
ギンガから声が掛けられるも軽く手を挙げる程度の返事に止めると相対する敵を仕留める為に一歩ずつ歩みを進める。
急な爆発の原因も予想はついた。チンクが投擲していたスティンガーというダガーのようなものだ。あれが床に突き刺さっていたのは覚えている。後は何かしらの方法で爆発させているといったところか。なら話は早い。それだけに注意していればとるに足らない相手には変わらない。それよりも……
「ギンガ、何か2つほどこっちに近づいている。そっちの相手は任せたぞ」
「ちょっと、エリスまた勝手に!?」
なるほど……先ほどから数えていた時間は向かって来ている者達のことか……だがこちらの味方、それにこの感覚は……母上。来てくれている。それなら安心だ。
「私は全力を尽くして、貴様を倒すのみ」
距離を考えても十分に耐えられる。そう判断したからこそ私は一気に突っ込みチンクの意識を刈り取ることだけに専念する。大丈夫、どこも問題はない。
よろけるチンクのもとに肉薄し、まさに彼女の思考を奪い取れる距離まで接近したとき……彼女の口は確かにこう動いた。
「5分だ……」
「ティアナ!?」
不意に名前呼ばれた彼女はクロスミラージュを構える。がそれも徒労のようだ。呼んだ主は、甲冑を身にまとった八神はやてであった。
「部隊長!?何故ここに」
「お話は後や、スバルはこの感じやと先行してる見たいやな。ティアナ、急ぐからつかまっときな」
「えっ!?きゃっ!」
飛行魔法を使えないティアナにこれ以上の速度は出せない。代わりにティアナを持ちあげる形で支えそのまま通路を飛行する。これでティアナを連れて先を急ぐことができる。それでも狭い屋内では飛行よりもスバルの方が遥かに速い。早く追いつかなければ何か大変そうな気がして。
「見えた!!」
ティアナが叫ぶその前方には白いバリアジャケットを羽織るスバルの姿がはっきりと見えた。
≪スバル、私達も合流するから無理せんといてな≫
≪ぶ、部隊長!?それにティアも!?≫
≪話は後や。それより早くエリスとギンガと合流や。なんかごっつう不安で仕方ないんよ≫
≪私も同じです。でもギン姉とエリスなら大丈夫です。絶対に!≫
スバルはスピードを緩めない。落とせと命令する方がおかしいものだ。だから私も出せる範囲で最高の速度で飛行する。そして、向こうに明かりが見えた……。
「はぁはぁ……」
肩で息をしつつ、同じく肩で息をしている戦闘機人2体を見据える。私やスバルと同じようなデバイスを使う「ノーヴェ」ボードのような物を使う「ウェンディ」。正直ここまで私がここまで相手をできるとは思ってもいなかった。だが六課に出向して以来、私は確実に強くなっていた。前の二人も相当この状況に焦りを感じているようだ。幸運はまだ続く。ブリッツキャリバーがマッハキャリバーの位置を確認できていた。距離にして700mといったところか。このままなら形勢を逆転する準備は整ったも同義だ。
突如聞こえた轟音が私の耳を劈く。後ろを振り返ると、チンクが壁にめり込んでいた。そしてエリスがこちらへと走り出していた。
戦闘機人がこれで二人。行ける!
「ギン姉!!!!」
そして待ちに待った声が聞こえた。スバルがもう視界で捕えられる距離まで近づいてきている。さらに奥には八神部隊長にティアナまで来ている。至れり尽せりってこういうことを言うのかな?とにかく状況が一変したため正直ホッとしているのだ。だけど油断は禁物。しっかりこの二人を捕まえないとね。
「ギン姉ーーーー!!!!」
「スバル!やるわよ!!!」
「えっ………!?」
急にお腹辺りが熱くなって……あれ、なんでだろう?スバルの姿が見えたから興奮し過ぎちゃったのかな。私ったら任務中に………
静かに規則正しく命の音色は響き渡る。
一滴……一滴……また一滴
「なんで……」
視界が急に霞み始めた……霞む視界で熱い腹部を見る。腹からは……エリスのデバイス、「レグナ」が生え出していた。いや正確には背部から貫通しているが正しい。
「ギ、ギ、ギン姉!!!!」
突然のことに思考が付いていかないスバルはただギンガの名前を叫び続けている。その視線の先では、レグナにギンガが突き刺さったままの状態で、まるで血糊を払いのけるように振るう。当然ながらギンガは吹き飛び壁に無防備のまま衝突し、赤い線を壁に描いた。
「エリス!?一体何を!?」
予感は当たってしまった。
ティアナを降ろすと直ぐにエリスの前にはやてが立ち塞がる。
「これは一体どういうことや?いくらなんでも冗談が過ぎるで……」
言葉に力が籠っている。私も正直なところこの状況を認めたくない。でも認めざるを得ない……。エリスの持つレグナから鮮血が垂れているのだ。そしてその右の壁には血塗れのギンガが力なく横たわっている。
「黙ってないでなんか言ったらどうや」
何も言わない我が娘に対してイラつきを含みながらも尋ねるが一向に何も話そうとはしない。
「うわぁああああああ!!????」
スバルがこの状況に耐えることができずにエリスに突っ込んでいく。それを止めようと、デバイス達は必至だ。
[バディ、お気を確かに]
[上官、一体どうなされたのだ]
だが、何一つ状況は好転はしていない。ティアナはギンガの元へ駆け寄ろうとするも、ノーヴェ、ウェンディに睨まれ動くに動けない状況だ。
風を切る音が聞こえた……そして遅れてはやての頬が切れた。次に聞こえたのは壁に何かが刺さる音だ。はやては分かっていた。投げたのはレグナだということを。
次に、スバルとエリスの拳がぶつかりあう。スバルは魔力を前回に放出し、その全てを拳に宿しエリスへと放っている。だがエリスはどうだろうか。何も力を入れていないようにすら感じる。それがスバルに火を付けた。
「エリスぅうううううう!!!!!!」
スバルの瞳が黄金に変わった。それは彼女が戦闘機人でもある証。そして魔力はさらに開放される。だがスバルがここまで魔力を解放できることを今のマッハキャリバーには計算に入っていない。当然その代償はやってくる。少しずつだが亀裂が生じている。だがマッハキャリバーの静止を今のスバルが聞くはずもなく何とかスバルを守ることに全力を注いでいる。
今まで、表情を変えなかったエリスの表情が変化した…気がした。ほんの一瞬だった。そして沈黙を保っていた彼女の口から言葉が漏れた。
「これはこれは……」
大気が震えた……大げさではない。そう感じた。その中心はもちろんエリスだ。スバルがIS振動破砕を使用したと同じくして、エリスの様子も変わったのだ。
何か、纏うオーラが変わったような……そして確信にかわる。
「エリス……その眼…」
眼帯が取れたその左眼。いままで瞼の向こう側を見たことはなかった。そして初めて眼にすることとなった。
その左眼は……禍々しい紫の瞳をしていた……
「リミット、リリース」
その言葉を皮切りに大量の魔力が溢れだす。その魔力を掌に集めると、スバルの拳を掴んだ。
「爆ぜろ」
爆ぜた……血管が中から詰まったように…スバルの左腕、マッハキャリバーが爆ぜた。
「ああああーーーーっ!?」
そしてまた魔力を集めた掌が右手を掴みにかかる。今度は腕を確実に吹き飛ばすつもりのようだ。先ほど感じた魔力量より明らかに大きい。
「穿て、ブラッティダガー」
エリスはその場から飛び退き、チンクがめり込んでいた壁の辺りまで飛び退く。それに呼応するようにノーヴェ、ウェンディもエリスの側まで退く形になった。最後によろよろとしながらもなんとかチンクがエリスのもとへたどり着いた。
「姉上、お帰りなさいませ」
チンクから語られた言葉に、はやては我を疑った……エリスが戦闘機人の姉であることを。だがそれは間違いないではなかった。
「ああ、今帰った」
言葉数は少なかった。だがそれだけでも、3人は震えていた。私も正直震えそうやった。あのエリスがこんなことになるなんて思ってもなかった。それだけ今のエリスはとんでもない存在だということだ。
「エリス……」
「私はエリスなどではない。ノーリだ」
「何いってるんや、エリスはエリスやないか」
「くどいぞ、女。いや、八神はやて。私の名はノーリ。それ以下でもそれ以上でもない」
わからん……なにが起きてるのかさっぱりや。でもどうやらやるしかないみたいやな……
「おい、見ているのだろう。さっさとチンクを回収しろ。私は帰るからな。後は任せる」
そう告げるなりノーリは去って行く。タイプゼロの確保に関してはとのノーヴェからの問いには、「死にかけを連れて移動するなど時間の無駄」との返事があった。それだけだ。
ノーヴェとウェンディもすぐに撤退を始め、チンクが一人取り残された状態になっていた。私は即座にバインドを掛けようとしたが、天井から現れた女によって取り逃がすことに……残されたこの場所には無傷な私とティアナ。そして瀕死のナカジマ姉妹が残された。ただ……私は何もできなかった。ただなにかが過ぎてい行くことを見るだけしかできなかった。
何のための力か……
右拳を壁に意味もなく叩きつけた。そしてその拳からは血が滴り落ちた。
「最悪や……何もかも」
そして・・・機動六課では・・・