魔法少女リリカルなのは 紺碧の姫   作:mom

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吉凶

みんなが出動してから半日以上は経過しているだろうか。病棟の窓から見える世界はすでに夜の帳が降りている。ふと、視線を移せば、ベッドの横に用意されている小さなベッド。そこでは規則正しい寝息を起てるヴィヴィオの姿があった。

 

「ヴィヴィオもお疲れだね」

 

 ベッドから腰を降ろしヴィヴィオの側へ。決して起こさぬよう、優しく髪を撫でた。

 

「ん~~にゅぅ……ママ……」

 

「ドキッ」という言葉がこうも当てはまる状況はそうそうないだろう。でも、この可愛い少女は私の心臓を簡単に慌てさせる。

 

「ヴィヴィオったら……もう……」

 

 びっくりさせないでよ、と思うも内心どこかでは嬉しがっている自分がいる。この子が幸せになれる家庭は探し続けるとは言ったものの、ヴィヴィオはもとい、私の心は妖魔との一件以来大きく揺らいできている。

 

 

 

「私があの子の母親になる……ね」

 

 

 

 まだ気持ちは、はっきりしたわけじゃない。でもこのままにしておくわけにはいかない問題であることには違いはない。とにかく今は、もう少しだけ待ってて欲しい。

 

 

 

 どこか寂しげなヴィヴィオの手を握れば、頬を寄せて握り返してくる。そこには母親に甘える少女の姿があった。こんな穏やかな時間が続いてくれればいい。そう願ったのも束の間、この貴重な時間は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

[WARNING WARNING]

 

 六課内に警報音が鳴り響く。警報に続いて間髪入れずグリフィス君からの緊急通信が届いた。

 

「なのは隊長。正体不明の高エネルギー反応が2つ。高速で接近しています。それに先ほどからジャミングが酷く、地上本部のメンバーと連絡が付きません」

 

 

 こっちを狙ってくる事に何の意味があるのか……予言通り事が進んでいると考えると、こちらに向かってきているのはスカリエッティ一味……データにあった戦闘機人の可能性が一番だろう。自分の力を示したいだけなら、戦力の出払った六課を狙う意味なんて無い。

 

 

 

 

 うん、色々考えるのは後。今は六課を守らなくちゃ。みんなが帰ってくる家を黙って壊されるわけにもいかないしね。

 

「グリフィス君、すぐにバックヤード陣に避難命令を。シャマル先生とザフィーラと私が外で追撃します」

 

「了解しました。ですが、なのは隊長。傷はもう完治していますが、まだリンカーコアの治癒が完璧ではありません。リミッターの解除もできませんし、シャマル先生の見積もりでも魔力ランクがAに届くかどうか」

 

「それだけあれば十分だよ。そうそう遅れを取るつもりはないよ。それに、仮にも「エースオブエース」は伊達じゃないってところを見せないと、FWのみんなにも申し訳が立たないよ」

 

「なのはさん……分かりました。すぐに指揮系統をまとめ、対応にあたります。では、気を付けて」

 

 そうして通信を終える。やっぱりグリフィス君も不安と緊張に張りつめてるって顔してた。でも最後は和らいだみたいで、なのはさんになってたね。……さてと、通信ではああ言ってはみたけど、正直どこまでやれるか分からない。けどここで士気を下げるわけにはいかない。そしてこれは自分を奮い立たせるため。

 

 

「エースオブエースは伊達じゃないってね」

 

 

 不安に潰されそうになる心に喝を入れ、病室を後にしようと歩みを進めると同時に、寮母のアイナさんが見えた。どうやらヴィヴィオを迎えに来てくれたみたい。

 

「アイナさん、ヴィヴィオをお願いします」

 

「お任せください。なのは隊長こそ、御無事で」

 

「ママ……」

 

 

 母親を求めるようなか細く、寂しげな声。視線を落とすとヴィヴィオが足元へと来ていた。

 

「ママ……いっちゃいや」

 

 制服のスカートをギュッと握り、私が離れることを拒んでいる。その紅と碧の瞳には少し涙が滲んでいた。

 

「こら、なのはさんの邪魔しちゃいけませんよ」

 

「……ごめんなさい」

 

 ぽたぽたと少女の瞳から涙は零れる。我儘などでは決してない気持ち。私もこの気持ちは知っている。一人ぼっちは嫌だって……。

 

 

 すっと腰を落としヴィヴィオと目線の高さを合わせる。涙で揺れる瞳……そっとその涙を拭い優しく語りかける。

 

「ヴィヴィオ、アイナさんといい子にして待っててくれたら、後でヴィヴィオの大好きなキャラメルミルク作ってあげるね」

 

「うん……」

 

 私の気持ちが伝わったのかどうかは分からない。でも、ヴィヴィオの表情からは不安が感じられなかった。

 

「うん、いい子だよヴィヴィオ。じゃあ、なのはママ、行ってくるからね」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 最後に頭を軽く撫でてやる。ヴィヴィオの手がスカートから離れ、その手はアイナさんがしっかりと繋いでくれた。アイナさんは分かってくれていたようで、すぐにヴィヴィオを連れて避難所へと走り出した。

 

 

「さて、行きますか」

 

 

 部屋を駆けだし、向かうは階段。だが下には向かわない。目指すは屋上だ。少し鈍った身体を慣らすかのように階段を駆け上がって行く。二階程上がればそこは屋上。すでにドアは開かれており、通り抜ける風は心地よかった。

 

 

 

「屋上の端までは約50mってところかな」

 

 

 

 迷うことなく駆ける。ただ前を向き、全力で。身体が風を切り裂いていく……今はそれが気持ちいい。

 

 

 周囲は平穏をまだ維持している。物音一つなく逆に不気味なくらいだ。そこに私以外の足音が加わる。軽快で早いテンポを奏でる主は、

 

 

「高町、届け物だ」

 

「ザフィーラさん!ありがとうございます」

 

 疾走する私の横に並ぶザフィーラさんの口元には私の大切なパートナー「レイジングハート」が咥えられている。

 

「調整は終わっている。だが無理はするな」

 

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」

 

「そうか、なら何も言うまい。受け取れ」

 

 首を振りレイジングハートを空中へと解き放つ。レイジングハートは弧を描き私の掌に包まれる。

 

[Standby Ready.My master]

 

「レイジングハート……お願いね!!」

 

[All right]

 

 速度を落とすことなくさらに速度を上げる。屋上の終わりは近づいているそんなこと知ったことじゃない。そのままフェンスに足を掛け、空へと身を委ねる。重力に引かれ、地上へと加速していく。そして、私は声を上げる。

 

 

「セットアップ」

 

 

 光に包まれた私。すぐにバリアジャケットが展開される。それは重力からの解放。

 

 

 

 

 ヴィヴィオやみんなの為に……守ってみせる。絶対に。

 

 

「スターズ01高町なのは。行きます!!」

 

 

 闇を切り裂き、白銀のエースが空に降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディバイーンバスター」

 

 最も得意とする砲撃による広域殲滅。空中戦力のガジェットⅡ型の姿は確認できない。けれど、

 

「ちょっと疲れたかな」

 

 胸の奥を鎖で巻かれているような気分。どこか自由になれず、じわりじわりと締め付けるように。リミッターとリンカーコアが完全じゃないだけで普段とここまで違うなんて……でも、ここを抜かせるわけにはいかない。

 

 

≪グリフィス君、そっちはどう?≫

 

≪なのは隊長のおかげで本部に問題はありません。それよりも、もうすぐ高エネルギー反応と接触します≫

 

≪うん……どうやら到着したみたい≫

 

 念話を終了させ、レイジングハートを構える。マガジンは後2つだけ。これでこの場を何とかする。いや、させる。

 

 先制攻撃でどちらかでも落とせれば……当たらなくとも牽制にはなる。カートリッジを一発ロード。海に薬莢は静かに落ちていく。着水音と同時に桃色の閃光が放たれた。

 

 

 事は私が思ったよりも上手く進んでいるように思える。先ほどの砲撃も片方に命中が確認できていたからだ。けど、甘い期待は簡単には持ったりなどしない。それが気の緩みに繋がり、最悪、命を落とすことに繋がるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイナさん……」

 

「ヴィヴィオ、大丈夫よ」

 

 六課内のシェルターに避難しているバックヤード陣にヴィヴィオ。入口には、六課の防衛メンバー他に、ヴァイス陸曹が警戒にあたる。ヴィヴィオはやはり、不安がっているようで、アイナに身体を預けている。アイナもそれを重々承知の上でヴィヴィオを抱きしめている。だが、ヴィヴィオの様子が一変する。それは強大な力を持つ何かに恐れているように。

 

 

「アイナさん、こわいよ!!??なにかこわい人がこっちにきてるよ」

 

「!?ヴィヴィオ、大丈夫だから。心配しないで」

 

 怯えるように泣きはじめるヴィヴィオの様子になにか一抹の不安を感じずにはいられなかった。だが今は外の様子を知る事も叶わない。ただ不安がるヴィヴィオを心配させまいと抱きしめることしかできない。

 

 

 

 嫌な予感はやはり当たるもの。外ではまさにヴィヴィオが感じていたことが起きていた。

 

 

 

 

 

 

「きゃあーっ!!」

 

 側面からやってきたのは突然の衝撃。咄嗟のプロテクションも効果をあまり成さず、六課から数百メートル離れた場所までふきとばされた。何があったのか何一つ分からぬまま、私は地面へと着弾した。

 

「・・・・・・」

 

 言葉が出てこない。でもそれ以上に……無様なのは今の私。無茶して落とされて……これじゃあの時と同じだ。何も進歩していない。このままじゃ……

 

 

 

 

「飛べなくなる」

 

 

 

 

 意識を放しかける自分自身に、この想いをもう一度自分に味わせるものかと鞭打ち、意識を覚醒させる。手で身体を起こすと視界が戻ってきた私の上空には1つの影。そして六課には2つ。

 

 

「あれくらいじゃ…やっぱり」

 

 甘い期待はしてはいなかったけど、ちょっとマズイかも。

 

 

 向こうはザフィーラさんとシャマル先生がなんとかしてくれてるみたい。けどこっちはそうはいかないみたい。

 

 

 静かに、無機質に。ただ聞こえたのは金属特有の音。

 

 

 

 

 初めてかもしれない。眼の前の相手を怖いとはっきり認識するのは。それだけ眼の前から放たれる重圧は凄まじいものがある。まだ自由の利かない身体を振るい立たせ、レイジングハートを杖代わりに身体を起こす。

 

 

「出来るか、出来ないかじゃない。やるしかないんだ」

 

 

「ヴィヴィオ、絶対守るからね」

 

 

 

 

 

 

 

 地上本部から六課へと戻る最中に戦闘機人と遭遇した。エリオとキャロを守る為に、フェイトさんは単独行動に出た。あの戦闘機人……トーレと呼ばれていた者を引きつけるために。次いで、エリオとキャロはブーメランブレードを持つセッテと呼ばれた者と相対していた。

 

 

「フェイトさん!?エリオ、キャロ!!」

 

「アセルス、先に行って。ここは私達が何とかしてみせるから」

 

 フェイトさんの判断は正しかったのかもしれない。地上本部から六課へと戻る最中に戦闘機人と遭遇した。流石にこればかりは私も引き返そうと思ったが、空戦ができないうえに、アウトレンジにも対応できない。それに二人の決意を無駄にするわけにもいかなかった。

 

 

 ならば私がすることは、六課に急ぐだけだ。背後で聞こえる戦闘音を後にひたすらに走って行った。

 

 

 

「酷い……」

 

 

 

 燃えていた。

 

 六課は所々倒壊しており火の手も挙がっている。だが悲しんでもいられない。こうなった元凶がどこにいるはずだ。警戒しつつ周囲を見渡すと、屋上の方から爆発音と硝子が吹き飛ぶ音が。

 

 

「ぐおおおお」

 

「なかなかしつこい」

 

 

 上空に飛び出してきたのは、ザフィーラとディードと呼ばれる戦闘機人。

 

「ザフィーラ!!」

 

「アセルス、高町の援護に回ってやれ。俺は構わん」

 

「余裕ですね、あなた」

 

「簡単に落ちるわけにはいかんのでな」

 

 

 ザフィーラ喋れたんだ。という感想はさておき、ザフィーラが示す方向に急ぐことに。シャマル先生はオットーの攻撃を防ぎきっているようだが、疲れが隠せない。また、シャマル先生もなのはさんの援護をと。

 

 

 

「なのはさん、一体どこに……いた!」

 

 白いバリアジャケットを視界にとらえると直ぐに横に並ぶ。そこには禍々しいオーラを放つ、あの地下であった甲冑が。

 

「イルドゥン!?白薔薇!!!」

 

 血だらけで倒れている二人を呼び掛けるが返事がない。

 

「アセルス……二人は大丈夫だから…」

 

「なのはさん!?」

 

 背中からは分からなかったが、正面は血に塗れていた。レイジングハートにも亀裂が入っており、相当な負荷が掛かっていたようだ。

 

「アセルス、私行かなきゃ……ヴィヴィオを守らなきゃ……」

 

「なのはさん!?」

 

 幽鬼のような足取りで、隊舎の方へと歩み始めた。だが私にはそれを止めることができない。「甲冑」がそれを許してくれない。

 

「月下!」

 

[主よ、気を付けろ]

 

 

 

 金属と金属のぶつかり合い。月下と手甲が火花を散らす。ギリギリと押し込めるなか、何かを呟いている。

 

「・・・・・けた」

 

 何を言っているのか正確には聞き取れない。だがこれで確信した。こいつは生きている何かだと。

 

[主、我の硬度ならあの甲冑は問題ない]

 

 

 力勝負だと少々分が悪い。ここはデバイスというアドバンテージを利用しないわけにはいかない。

 

 距離を取り、間合いを測る。

 

 一歩、一歩、近づいてくる。何か愛おしいものを見つけたように、私を付け狙うように。

 

「あ・せ・る・す・さ・ま」

 

 

 剣閃一光

 

 「燕返し」

 

 

 太刀筋は相手には見えなかっただろう。神速の太刀筋は的確に甲冑を捉え、鞘に帰る。

 

 

 甲冑は真っ二つに切り裂かれ、地面に落ちる。中まで斬ったはずだったのだが、斬れたのは甲冑のみ。中から現れたもの、

 

 

「君は……!!」

 

 

 衝撃と邂逅。突然の暗転。私の意識は突如奪われた。

 

 

----余に逆らう不届きものたちよ。この迷宮で永遠に迷い続けよ。----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオ…ヴィヴィオ…」

 

本来ならばアセルスと一緒にあの甲冑と戦うべきだったかもしれない。だけど、私には約束がある。燃える隊舎の前に、なんとか足を引き摺りながらも入口にたどり着く。

 

そこに立っていた紫の髪の少女と人型の何かがヴィヴィオを抱いていた。

 

「待って……ヴィヴィオを……どこに…」

 

「……邪魔」

 

ヴィヴィオは気を失っている事に気付き、引きとめようと試みるが、少女から放たれた衝撃波に身体は耐えきれずに、壁に吹き飛ばされる。

 

魔力は底をつき、身体もガタガタ。私の身体は動かない。その間にも少女達は消えていく。

 

 

「待って…」

 

 

涙は勝手に流れてくる。でも身体が動かない。泣く力があるなら、身体を動かしてほしい。でも、もう動かない。

 

 

 

「ヴィ…ヴィ…オ、守るって…言ったのに…」

 

 

視界から完全に消えた。六課は破壊され、みんな傷ついてしまった。それにさっきから何か聞こえてる。でも、私にはそんな気力ものこっていなかった。眼の前でヴィヴィオを攫われてしまった。そしてそれをどうすることもできなかった。

 

 

私は・・・わたしは・・・

 

 

 

自責の念と後悔に押しつぶされる。

 

 

 

あれほど啖呵を切っておきながら私は何も守れてなんかいない。エースオブエースなんて言われているし、自分でもそう言った。だけどこのありさまだ。

 

 

何も守れてなんかいないんだ。

 

 

何かが欠けてしまった。大事な大事な私の何かが…。

 

 

「ああ、おっきい竜だ……」

 

 突如現れた竜は上空を赤く染め上げる。どこか悲しい叫びのようで、その竜は吠えた。そこからの記憶は私は覚えてはいない……。

 

 

 

 

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