余に逆らう不届きものたちよ。この迷宮で永遠に迷い続けよ。
「アセルス、アセルス。起きろ、アセルス」
私を呼ぶ声は意識を覚醒へと導く。閉じていた瞼を開くとそこには広がっているのは闇。そしてこの場に似つかわしい無機質な扉が数十枚。異様な光景の中、身体を起こした。立てるということからも、地面という概念はこの場には存在しているようだ。
「アセルス様、大丈夫ですか?」
「いつまで寝ている気だ、全く」
視線の先には衣服が所々破れ、まだ止血も儘ならないイルドゥンと白薔薇の姿があった。気を失う前、最期に見た二人の姿は、気を失った状態だった。どうやら私が気を失っている間に、二人が目覚めたようだ。
「無事だったんだ……二人とも。良かった……」
無事であったことに安堵を覚えるも、見覚えのない空間が余韻に浸る事を許してはくれない。今、私達がどんな状況に置かれているのか把握することが先決なのだが、如何せん情報が無さ過ぎる。強いてあげるならば、私に語りかけてきたあの言葉。
「とうとう、あの方がお出ましになられたのですわ」
「どうやらそのようだな」
どうやら二人ともここが一体何なのか知っているらしい。少し疎外感を覚えてしまったのは内緒だが。
「ここはオルロワージュ様が産み出した「闇の迷宮」。簡単には出られん」
「闇の迷宮?なにそれ?」
「簡単に言えば、歯向かうもの閉じ込めるための牢獄といったところだ。とにかく今回ばかりは主も本気らしい」
「ここから出られない……わけじゃないの?」
「出られないわけではない、が難しい。まずこの扉の中を正しい順に通過する必要がある。それに」
「なんだ、絶対出れないわけじゃないんだね。それを聞いたら安心したよ。早くこんな暗いとこ抜け出して、みんなと合流しなきゃ……六課のみんなが危ない」
瞳を閉じると足元には魔方陣が展開される。詠唱されるのは度々世話になってきた陽術「スターライトヒール」。無機質で闇が支配する空間に燈されるのは生命の象徴といってもよい太陽の光。その優しく暖かな光は二人の傷を癒してゆく。
「ここまで成長されているとは……アセルス様」
「これならば……白薔薇姫」
アセルスの成長振りに二人して何かを決心したように頷いた。これを機にと、白薔薇姫が話を切り出す。
「アセルス様、まずは正しい順番を探しましょう。その間お話したいことがあります」
特に何か思うことなく、三人は揃って歩みを始める。数十枚の扉から正しい順路を見つける途方もない作業だが、いつかは終わりがくることさえ分かっていれば、アセルスとて歩みを止めることはなかった。それに六課が襲撃を受けていたことを考えると一刻も早くこの現状を打開することが最優先だ。
何枚かの扉を潜って行くうちに白薔薇が口を開いた。
「アセルス様、まずは謝らなければならないことがあります」
「どうしたのさ、白薔薇?謝られるようなことなんて無いよ」
何もないと言ってはみたが、薄々気がかりな点は幾つかあった。だけど、白薔薇やイルドゥンには数えきれない迷惑をかけていたのは事実。こちらの世界に迷い込んだあの日から……私は二人に見守られていた。だからこれからの話は二人を信じて聞くことを決めた。
「順番を追って話をしていきましょう。まず、デバイス「リーサルドラグーン」のことです。アセルス様が使われていた、ソルとルナは現在無期限の自己再生中の為、待機状態になっていると思います。ですが、それはあくまでアセルス様がドラグーンを使用しないようにするための口実。実際の理由は別にあります。まずは、私とイルドゥンにデバイスを」
二人の話を聞くと決めたアセルスは、待機状態のデバイス「ソル」と「ルナ」を二人に手渡す。受け取った二人はデバイスを胸にあてた。次の瞬間デバイスから光が溢れ胸に溶けていった。
「ソルとルナには、私達二人のリンカーコアが使用されていました。と言いましても、アセルス様はどうやら薄々お気づきの様でしたね」
「なんとなくだけどね。初めて従騎士と戦ったときに不思議な感じがしたんだ。それに二人が簡単に遅れを取ったりするわけないって知ってたから、もしかしたら戦えない何かがあったのかなってさ」
アセルスの言葉に二人から心配し過ぎだったとも取れる笑顔が浮かぶ。これならば大丈夫であろう……。
「アセルス様の考えておられることと相違ないと思われます。次に、ブーストの事についてです。アセルス様が使われているブーストの事なのですが、あれには正しい名前がございます」
アセルスが困ったように首をかしげる。正しい名前を今さら教えられてもといったところか。
「あれは妖魔化。半妖の存在が妖魔側に傾き自己の能力を引き上げるもの。差し詰めブーストという言葉は適当であったかもしれません」
素直に頷いていたアセルスにもまたしても疑問が頭に残った。
「半妖」
アセルスにはこの言葉がどうしても懐かしく、また納得ができなかった。
「白薔薇、僕は半妖じゃない、妖魔じゃないか。それは白薔薇だって分かってるはずだ。なら白薔薇の言ってることはおかしいよ?」
「アセルス様、今から話すことをしっかりと受け止めてください。私達は今のアセルス様なら大丈夫だと判断しました。後はアセルス様次第です」
白薔薇姫にイルドゥン。二人の意思に圧されそうになった。先ほどから胸の奥が熱く、頭が痛む。がそれでも続きが知りたい。
「分かった……なにがあっても受け止める」
一同視線を会し、それを合図に最後の言葉が紡がれる。
「アセルス様がこちらの世界に来て直ぐに、ある物と契約されました。それは半妖のみ扱うことが許され、代償として人としての記憶などが奪われます。そして……それは貴女様の命の塊でもあります」
徐々に頭痛や胸の熱さが増してきている。頭が割れそうだ。胸が焼けつくような感じ……それでも決して言葉を聞き漏らすことの無いように…最後まで集中して。
「その名は幻魔……アセルス様が従えてこそ発揮する強大な力。アセルス様、今がその時なのです」
-----プロテクト解除 幻魔を解放します-----
胸の奥からの不意の衝撃はアセルスを宙に跳ねあげる。
アセルスにかけられていたプロテクトの開放。
開放の条件はアセルスが忘れていた記憶を伝えること。そして幻魔が開放されると、アセルスは幻魔を従えなければならない。できなければ……
「幻魔に身体を奪われます……」
宙に浮くアセルスの胸から一振りの剣が生え出している。そしてそれは剣から形を変え、閃光を放った。
剣の正体こそが幻魔であり、幻魔が身体から抜け切ると痛みは無くなっていた。そして幻魔の開放により無くしていた記憶は蘇り……
「やっぱり、あれは……あの子は…」
何かを思い出したかのように言葉が漏れるもそれは止まってしまった。閃光の後に視界に入ったのは…僕自身。ただ髪は燃え盛るような深紅であるが、それ以外は鏡を見ているかのようだった。
「あれは、私なのか……」
顔を下げたまま、一歩ずつゆっくり歩んでくる私。そして1mあるかないかの距離で歩みを止めた。
熱く滾る胸の奥とは対象的に凍るほどの殺気に背筋が縮む。
身体は反応している。鞘から滑るように月下を抜き放つ一撃と直ぐに鍔迫り合いへと持ち込む。そしてその顔へと視線を向ければ、
狂気に歪む私の顔。まるで私の欲が全て集まったかのような顔つき……。視線が交差した瞬間お互いの力が弾け距離を取った。
動きが私そっくりだ…それに私より速くて剣圧が重い。それにあの剣。あれが、幻魔。私の意識の中で契約を交わした正体。不敵な笑みを浮かべる私は私へと飛び込んできた。何度刃を交えたのかは定かではない。いやむしろそんなことに意味はない。あるのはただの命のやり取り。
助けを借りたい気持ちもある。だが幻魔を一人で従えてこそ意味がある。だからここは私一人で倒してみせる。そう決めたのだ。
「例え相手が私であろうと負けるわけにはいかない」
剣をかわし、相手を中心にゆっくりと円を描くように回り始める。緩急をつけながら一定のリズムを保ち、徐々に円の幅を狭めていく。歩行技術のみで相手に錯覚を与える技法を用いて、死角からの連続攻撃によりダメージを与える作戦のようだ。力や速度が同じでも、技術までは真似はできないと判断した結果だろう。流れるような刃の煌きは神々しく儚い美しさだった。
まずは背後から一振り。この一振りで決まるなどとアセルスは思ってなどいない。あくまでも本命までの繋ぎ。狙い通りに、背後からの攻撃に私はみごとな剣さばきで対応した。当然その場にいた私も真っ二つだ。だがそれは私ではなかった。
押し寄せるは波の如く。アセルスの幻影が次々の四方八方から押し寄せる。が、ただそれだけ。これもまた罠。私は的確に幻影を処理しているが、数の多さにアセルスを発見できていない。このわずかな時間にアセルスは集中力を研ぎ澄ましていた。技術の勝負ならば機会は一度。外すことなく確実に仕留める必要がある。だから選んだのはこの技。
気配を殺し幻影に混ざり、そして距離を詰めていく。そしてアセルスの前の幻影が斬り伏せられた時、可憐な花が咲きほこった。
「三花仙」
花弁が散るような可憐な太刀筋は確実に対象を消滅させるほどの威力を備えていた。だが……私はどうやら一筋縄ではいかない相手だったようだ。
「効いてない……か……」
驚愕の事実に思わず声を漏らすアセルス。それもそのはず、首をはね飛ばす一撃で放った刃を私に握られていた。そして月下は弧を描き、私の背後へと突き刺さった。
「まさか、これほどとはね……っく」
さらに驚くはフォートレスの起動を阻害されてしまったことだ。指輪を砕かれ、さらに、組みつかれ押し倒されてしまった。そして私に馬乗りされた状態になり逃げ出そうにも、身体が動かせない程の力で押さえつけられ、デバイスも手元にはなくどうすることもできない。白薔薇やイルドゥンに力を借りることもできるだろうが、その方法は無しだと決めたばかり。
「耐えてみせる」
そこからは無残だった。狂気に揺らぐ私は口元を上げ笑うと、アセルスの顔面を数十回にわたり殴打。なんの躊躇もなくただ殴り続けるだけだ。アセルスも顔面を防ぐことは流石に出来ず、途中で意識を手放してしまった。抵抗することもできずにただ殴打されつづけたアセルスの顔は見るも無残といったところか。そして、私はアセルスのジャケットを引き裂き、身体の全てをむさぼりはじめた。
身体から力は抜け落ち、白い肌は腫れ、赤く染まっている。眼に光が宿っておらず、瀕死なのは間違いない。
「幻魔に敗れた者は幻魔に身体を奪われる」
白薔薇がアセルスに伝えたことが今まさに起きようとしていた。私の身体の一部がアセルスに溶け込み始めていた。これが全て終わった時、アセルスの存在は死と同義を意味する。
駄目だ。勝てない、勝てっこない。一人で勝つと決めたばかりなのに。力が入らない。それに白薔薇以外に見せた事も、触れさせた事もない身体を私に似た何かに奪われるなんて。
この世界に迷い込んだ時以来、感じたことがなかった気持ち。「諦め、恐怖、絶望」それは簡単に心を塗りつぶし、希望を奪い取る。
数奇な運命に捕らわれたこの少女も、1人の女の子なのだ。気持ちを強く持ち、今まで諦めることなく戦えたこと。それは仲間の存在。
だが、今は1人で戦う。それはアセルスのとって重く、苦しい決断だったはず。
だからこそ、
「立ちなさい、半妖の姫。貴女にはやるべきことがあるはずです。貴女は王にも届く資質を持つ者。ここで倒れるような貴女ではありません」
何もない、ただの光の中で、アセルスは何者かの声を聞いていた。だけどこの声は知らないはずなのにどこか懐かしく感じる声だった。
「貴女は王となることを拒むかもしれません。貴女には人として、半妖として、妖魔として。生きてもらわなければなりません。そして、貴女には成し遂げてもらいたいのです。私達ができなかったこの想い。半妖の姫として狂わされたこの私達の無念と想い。貴女に叶えてほしいのです」
その想いは確かにアセルスに届いていた。この想い……それはアセルスも変わらない。そしてなにより同じ目にあっていた者達の無念を……晴らすためにも。
「道は貴女自身が決めるのです。今だけは、力を……欲するのです。何にも負けない……王としての力を」
「願うよ。この気持ちを叶えるために。何より私自身の気持ちに応えるために!」
「妖魔化」
「鎧、具足、小手、召喚」
アセルスの身体から妖気が溢れ、容姿は色を変え、妖魔へと。鎧、具足、小手が召喚、装備された。殴られていた顔は腫れているが、その出で立ちは正しく王のもの。
アセルスに溶けていた私は強制的に排出され、幻魔を構えていた。意識を取り戻したアセルスの手には妖艶に輝く剣が握られていた。
「私が王として生きるかどうかは分からない。だがこの想いを果たすために。幻魔、私は負けるわけにはいかない!!」
火花飛び散るほどの激しい剣圧。凄まじい音と共に何度も斬りあっていく。途中、剣から何か爪のような斬撃も垣間見れた。今度は力も速さも同等まで引き上げられた。なら結果をもたらすのは己の気持ちのみ。負けたくないという強い気持ちだけ。
「アセルス様……本当にお強くなられました」
涙ぐむ白薔薇の隣、アセルスの妖魔の剣に浮かぶモンスターの姿がイルドゥンには見えた。
「あいつはとんでもないものを……」
それには白薔薇も気付いたようで、嬉しく驚愕する事実を目の当たりに。
「麒麟を宿していらっしゃるのですね」
妖魔の剣に宿したモンスターは持ち主の能力を底上げする。アセルスの剣に宿るは、この世界でも稀少な麒麟。アセルスの優しさを体現するかのように、その剣に宿っていた。
「はぁああああ」
剣を滑らせ、掴の部分まで走り、そのまま当て身で私の身体をぶらし、バックステップ。剣に魔力を込め、剣が地面をするようにアセルスが私へと走りだす。体勢が悪いなかでも反撃に移る私だが、振るわれた剣の先に姿はもうない。地面を走っていた剣が振り上げれ、私を空中へと持ち上げる。剣に込めていた魔力が私を包み込む。そして魔力球体に捕らわれた私をアセルスは下から切り裂いた。
「魔力と剣の融合技。ライジングノヴァ」
魔力の球体は私の断末魔と共に消滅した。
もう一人の私は姿を消した。同時に幻魔が空中に静止しているだけ。そして力なく落下した剣は金属音と共に地面と思わしき概念に突き刺さった。同時に剣、鎧、具足、小手は音もなく消失していた。アセルスともう一人のアセルスとの戦いを見守っていた二人もやはり心配をしていたようですぐに駆けつけてきた。
「アセルス様、お見事です」
「流石だな、とでも言っておこうか」
相変わらずの二人に思わず笑みがこぼれる。それだけの激戦だったのだから無理はない。だがこうして幻魔との戦いに勝利することができたのは、ひとえに二人のおかげでもあったと言えるだろう。
「二人のおかげだよ。こうして勝つことが出来たのも二人が今まで私を見捨てなかったからだよ。感謝してるよ」
二人に屈託のない笑顔で返すと幻魔を何気なしに引き抜く。すると、幻魔が光を放ち始めた。そしてまた視界が一瞬光に包まれ、次に視界に入ってきたのは私と同じくらいの女の子だった。
「この姿では初めましてですね、我が主。私は幻魔。主の命の結晶であり主の矛であり盾である存在。どうか私に名前を下さいませ」
先ほどの戦闘の後で、この話の為に急すぎて全然理解できていない私に、白薔薇が色々と教えてくれた。幻魔とは人を模した剣であり、従えると新たな名を与え、将来を主と共にする存在らしい。幻魔には主の能力を増幅させる力も備わっているらしく、便利なものらしい。ただ…不便なのかは分からないが、幻魔が人型になった時、主にかなり容姿が似てしまう。ただある程度は調整が効くらしいのだが、それでもかなり似るらしい。実際、前にいる幻魔もまた私に似ている。髪の色が深紅なぐらいか。
「ということはさっき戦ってた時は人型だったの!?」
「はい、そうなります。主なき状態では獣と同じですので。先ほどは大変失礼いたしました」
色々あり過ぎて赤面なのだが、今はこの子に新しい名を与えなければいけない。さっきのことなんて結局はどうでもよいこと。私が私自身を従える為の戦いだったのだから。色々考えてはみたが、この子はいわば私の一部。ならばこの名がいいのではないのだろうか。
「幻魔、今から貴女の名はシシェル。シシェル、これからよろしくね」
手を伸ばし握手を求めればシシェルは満面の笑みを浮かべ抱きついてきた。よほど嬉しかったのだろう。
「貴女のような主で私は幸せです。シシェル……名をありがとうございます。我が主アセルス様」
私の唇はシシェルに奪われていた。そしてkissが終わりを告げるとシシェルは私の中へと溶けていった。
いつでも必要な時はお呼び下さいアセルス様。
なにやら色々かき回されたがこれにて幻魔の一件は終わった。後はこの迷宮から出るだけだ。
「アセルス、後はあの扉から外に出られる」
「なんだ、イルドゥン。もう出口まで来てたんだ。早く教えてよね。さっ、早くこんなとこ出てみんなと合流しないと」
シシェルが加わり、それに出口もそこにあると分かれば、これ以上に嬉しいことはない。疲れた身体も今はすっかり元気なようだ。
「アセルス様、1つお聞きしたいことがございます。よろしいでしょうか」
「何?白薔薇、そんなにもったいぶらないで聞いてよね」
「では、アセルス様は今や妖魔の王にもなろうとできる存在になりつつあります。アセルス様……アセルス様は貴女様の未来をどう見ておられるのですか」
すぐに言葉は出てこなかった。実際に意識をしたこともなかった。でも私にしかこればかりは選べない。でも、最初から決めていたような気がする。私のこれからの選択を」
「私の気持ちは だよ」
「アセルス様の気持ち。確かに受け取りました。アセルス様ならきっと素晴らしい未来を描かれることでしょう」
「アセルス、その気持ちを忘れるなよ」
二人の言葉に素直に頷き、最後の扉を開けた。そこには機動六課が映し出されている。
「ここをくぐれば、みんなのところに戻れる。さあ二人とも、行こう!」
「ああ、アセルス」
「はい、アセルス様」
扉をくぐると光に包まれた。もうすぐみんなの所に帰ることができる。白薔薇にイルドゥン。力を取り戻した二人にシシェルがいれば、なんだって大丈夫だ。同意を得ようと後振り返り二人へと声をかける。
「扉が……消えていく!?」
くぐった扉が消えていく。まって、まだ二人が中に。だがアセルスの気持ちを踏みにじる様に扉が消えてしまった。そして、
「アセルス様、私とイルドゥンはここに残ります。これが私達があの方に反逆した罪なのですから」
「ちょっとまって、みんなで出るって約束したじゃないか。それにそんなこと聞いてないよ」
「言ってなかったからな。ここ闇の迷宮は出ることは可能だ。だが、出る為には大切な人を置いていかなければならない。だからアセルス。お前を行かせた」
「どういうことか意味がわかんないよ。白薔薇、イルドゥン、私を一人にしないでよ」
突如告げられた別れ。先ほどまでの明るい気分はどこかへ。代わり、困惑が押し寄せる。
「アセルス様、決して貴女様は一人ではありません。六課のみなさま、それにシシェルも。決して一人などではないのです。それにアセルス様も御存じでしょう。我ら妖魔の時間は永いのです。気長に私達は待っています」
訳が分からな過ぎて、頭の中が真っ白だ。涙も止まらない。幼子が駄々をこねるかのように、「嫌だ、嫌だ」と泣き叫ぶ。しかし私は確実に元の世界へと引き戻される。二人の声も聞こえなくなってきている。どんなにあがこうともそれは決して変わらなかった。
「私を……僕を一人にしないでよ。まだ一人じゃ、なにもできないんだよ。ねぇ、イルドゥン……なんとか言ってよ。ねぇ白薔薇……優しく微笑んでよ……ねぇ……」
「白薔薇ーーーーーーーー」
涙で霞む視界の先に二人が見えたような気がした。二人はこう言っていたと思う。
アセルス様……どうかお元気で……と。
最後に見たのは、優しい二人の笑顔でした。
カブなんていなかったんや。