「姐さん…大丈夫かな」
1人待機命令を出されているヴァイスは呟く。もうすぐ2時間が経過しようとしている。彼女なら心配することはないとは思うが、やはり心配なのだろう。そんなもの思いに耽るヴァイスに連絡が届いた。
≪ヴァイス陸曹聞こえるか?こちら、ライトニング02 当初の目的は果たせなかったが、重要参考人3名を拘束中。指定ポイントに降下を頼む≫
≪ポイント座標確認!!了解でさぁ!!≫
こうして久しぶりの出番に燃えるヴァイスだった。
私は今、アセルス様とイルドゥンと一緒に「機動六課」という場所に向かっています。どうやらイルドゥンとシグナム様の間で何か交渉があったのでしょう。
膝枕の状態でアセルス様は眠られています。先ほどの戦いで、幻魔をアセルス様から離すことができ、妖魔化を解除することができました。髪の色も緑に、瞳も紅に戻られました。やはりあの方の力は、アセルス様にはまだ強すぎたようです。いまだ目を覚ますことはありません。
「アセルス様…」
私は優しく、髪を撫で、頬に手を重ねました。あの透き通るお顔が…このようになられて…。ああ……愛しいアセルス様。
頬に付いていた血が消えていく… 白薔薇によって。
優しく、だが妖艶でもある。気配、威圧感。圧倒される。
「アセルス様…本当に…素敵です」
彼女は頬から首筋へと口を動かしていく。途中からだろか、イルドゥンから念話がくる。
≪人前では遠慮してください。白薔薇姫様≫
思わず振り向くも、私は頬笑みを浮かべるだけ。そのまま、アセルス様と唇を重ねた。
「なっ…何をしている。貴様!!」
寝ている少女にいきなりキスをするとは…
「シグナム様、どうか御気になさらず」
彼女はそういうとまた、唇を重ねていた。
「くっ…不埒な」
「注意はしているんだがな。気にしないでくれ」
彼は私にそんな言葉を投げかけてきた。納得できる訳がないが、気分を紛らわすかのようにイルドゥンへと言葉を投げた。
「そうだ、イルドゥン!!聞きたいことがある。私は何故負けたのだ?」
理由が知りたかった。あのとき確かに首をはね飛ばしたのだ。だが生きていたのだ。
「簡単な事だ。私があの小娘、アセルスと戦う前にしたアドバイスはなんだった?」
先ほどの激戦の前を振り返り、彼が言った言葉を直ぐに思い出す。
「眼を見るな、気圧されるな」
「そうだ、眼を見てしまった。貴様は、私と鍔迫り合いになった時に見てしまった。そして私の詠唱した妖術に捕らわれていた」
何故だ!?彼から眼が離せない、それに…好意を…。
「ファッシネイション。これが貴様の敗因だ。幻覚に誘惑。いつかかったのかもわからない。ただ近い距離で相手の眼を見ねば、効果はないがな」
彼が指を鳴らすと、効果は解除された。気持ちも大丈夫だ、身体も動く。
「こちらの世界にはそんな魔法は存在せぬ。貴様達はどこから来たのだ?」
「アルハザードとでも言っておくか」
私とヴァイス陸曹は声を同時に出す。
「「アルハザードだと!?」」
「くっくっ…冗談だ。教えてもらったものだ、アルハザードという名前は」
「冗談が過ぎるぞ!!!今、三人とも拘束中の身だということは忘れないでほしいな」
「これは失礼。君の主、八神はやてと話がしたいのでな、つい冗談をヴォルケンリッターの将よ」
驚きのあまり声がでない。何故、主はやてを知っている?それにヴォルケンリッターまで!?
「なに不思議がっている?すべては貴様が教えてくれたことだ」
「なっ!?そんなことは…だいたい貴様には何も話してはいないではないか!!」
焦りと怒りで私の思考は混乱している。一体何故だ。
「その答えを教える義理は私にはないのでな…それに着いたぞ。「機動六課に」
この男…一体何者なのだろうか。私は武芸においても知略でも負けてしまった。なぜこれほどの機密がこうも簡単に…ともかく今は任務を全うすることが優先だ。
≪主はやて、重要参考人3名連行しました≫
≪了解や、御苦労さま、シグナム≫
何か怒りを感じる、なぜだ主よ…
≪レヴァンティンを殺傷設定で使ったやろ、シグナム?あとでゆっくりお話しようか≫
なんて一日だ。がっくり肩を落とし、私は三人を部隊長室へ連行したのだった。
どこか影を落とす世界から眺める者たち…
「やっと目覚めたか…次の段階に移らねばな」
「奴を投入しろ」
「了解しました」
炎を纏った影が映し出された世界に溶け込んでいく。
「さぁ…楽しませてほしいものだな」
そして姿は闇に溶けた。
さて、いろいろ聞きたいことがありすぎて困るんやけどな…
シグナムが連行してきたこの三人から事情を聴いているところだ。ただ今は二人だ。アセルスと呼ばれる彼女は今、メディカルルームのポッドの中で治療と検査中。そのため、イルドゥンと白薔薇姫と呼ばれる二人から経緯を聞かせてもらっているわけだ。
「なるほどな。つまり黒い霧に飲まれたら、あの砂浜に居たというわけやな?」
「ああ、そういうことだ」
私達が感知していたのはどうやらその黒い霧のようだ。ただ二人はどうやら違う世界から来たように感じる。もしかして、次元を超えてきたのかもしれない。そんな疑問を解決するために問いを投げかけた。
「そういえば、三人はどこ出身なん?」
この眼前の男からは予想通りの答えが返ってくる。
「この世界、いやこの次元に我らの世界は存在しない。黒い霧に飛ばされたようだ」
やはり…予想通りだ。なら次の疑問は…
「単刀直入に聞くで。二人とも人間か?アセルスって子は人間やろうし、ただ二人は違和感を感じるんや。どこか冷たいというか…」
質問に対して、二人は少々驚いていた。
「ほぅ、気付いていたか。組織の頭は伊達ではないわけだ。確かに我も白薔薇姫様も人間ではない。妖魔だ」
妖魔。聞いたこともない存在であり、この広い世界や宇宙を管理する管理局にさえ情報は存在しない。人間ではないその存在をただ認めるしかなかった。人間と違うところは簡単。彼らの血は「青」かった。
「それと、アセルスは人間ではない」
「……どういうことや!?彼女はどう見ても人間やろ。」
答えの中、部屋の扉が開く。どうやら検査結果を持ってきてくれたようだ。
「失礼します」
そこには白衣を着たシャマルが居た。ただどこか慌てている。
「はやてちゃん、これを」
渡された検査結果に目を通してみた。そして…
「なんや…これ…」
あきらかに人の能力を超えている。さらに血液だ。彼女の血は赤でもない。青でもない。「紫」だった。
「紫ってことはつまり、彼女は…」
「その通りです、はやて様。アセルス様は、人間と妖魔の血を持つ半妖なのです。世界に一人しかいない存在なのです」
あかん…話が急すぎて混乱してきた。だいたい妖魔とか半妖とか言われても困るっちゅうね。
「心の声が漏れてますよ。はやて様」
「あっ…、ま…まぁとりあえず事情は分かった。なんとか元の世界に戻る方法を探さんとな!とりあえずものは相談なんやけど」
「機動六課の手伝いをしろとでもいうのか?」
「なんで分かったんや?まぁそういうこっちゃ!そのほうが色々調べるにしても便利やろうし」
それに今は、完全な人不足。優秀な人材は是が非でも欲しいところだ。
「断る義務はないな。ただ条件がある。我らは我らで行動させてもらう」
「それなら大丈夫や。よし交渉成立やな。よろしく頼むで。あっ、それと私のことは、はやてでいいから」
「わかった。はやて」
「分りました。はやて様」
新たな人材の確保に成功した。まぁ色々面倒事が起きそうなのは気にしないでおこう。
アセルスは別に手伝うことには反対ではないだろう。だが気になることがある。
「はやて、その検査結果とやらを貸せ」
私は強引にはやてから奪うと、ある項目を探していた。そしてある項目に目が止まる。
「やはり、伝承どおりか…」
「なんやイルドゥンこっちの文字わかるんか?」
「ああ、シグナムに教わったからな」
「シグナムにいつ教わったんや?あんな短時間でか?」
「秘密だ」
話を終わらせ、白薔薇姫に念話を送る。
≪やはり伝承通りです。アセルスは、多分…≫
≪アセルス様…≫
アセルスが目覚める前に色々と準備はする必要があるな…
「はやてよ、聞きたい事がある。この世界には魔術は存在するのだな?」
「魔術っていうか魔法文化は存在してる。私も使えるしな」
なるほどな。
「武器はどうしている?」
「武器っていうか、デバイスってのがあるんやけどな」
その後、私ははやてから聞けるだけの情報を聞いた。
「あー、喋り疲れた…。そんなとこでええか?」
「問題ない。感謝する」
デバイスにも種類は色々あるのだな。ふむっと一つ声を漏らせば次の行動へと移る。
「はやて、シャリオ・フィニーノの会わせてほしのだが」
「なんやまた急にやな、ええで、ちょっと待ってな。」
「よし!!、シャーリーか?はやてや。ちょっと部隊長室まで来てくれんか?うん、了解。すぐ来てな」
そうしてシャーリーがやってきた。
「急ですまんな~シャーリー、ちょっとこの二人が話たいことがあるらしくてな」
「は、はい。(なんか怖いんですが…)」
「あと、はやて。悪いが、話は聞かないでほしい」
そういって私の聴力は謎の力によって封印されてしまった。
頼みは二つ
一つはアセルス用のデバイスの作成。もう一つは…
「本当に言ってるの?そんなことしたらあなたたちが…」
「かまわん、白薔薇姫も納得している。あの小娘は大事な存在だからな」
「…分かりました。協力します。その代わり二人も協力してくださいね?」
「もちろんだ」
「もちろんです。シャーリー様」
なんだろ…ここ。なにも見えないや。それに水の中みたい。
「貴様の人間としての寿命を頂く」
いったいなんのことなんだろう…
そうして、深い思考に落ちていく。
「…う…んん」
眼をあけると薔薇が見えた。白い薔薇が…
「白薔薇…」
「アセルス様!やっとお目覚めになられたのですね」
白薔薇はとてもうれしそうだ。心配かけたようだ。
「ごめんよ、白薔薇。私はいままでどうしていた?」
「アセルス様はこちらの世界に飛ばされてから、2週間程眠られておりました」
「そんなに…心配かけたね、白薔薇」
私は白薔薇の頬を撫でほほ笑む。そして軽く唇を重ねた。
「アセルス、もういいか?話しておきたいことがある」
いつのまにかイルドゥンが居た。やっぱり気付けないな。
「それで話たいことって?」
「この世界の事について、それにお前の武器のことについてだ」
私はイルドゥンと白薔薇から事情を聴いた。
「なるほどね、分かった。それとこの世界の種族は?」
「前の貴様と同じ、人間が主だ」
「えっ、イルドゥン、何言ってるの?私が人間なわけないでしょ?私は妖魔だよ?忘れたの?」
やはり、伝承通りだった。
半妖にしか扱えない「幻魔」
契約の代償として、人間としての寿命を奪う。しかし命ではない。つまりは人間だった記憶。記憶を奪われてしまった。だから自分が人間とも半妖とも思っていない。そう、人間の記憶がないのだから。
「ああ、すまない。忘れていた」
≪やはりこうなってしまいました、白薔薇姫様≫
≪伝承を覆すことはできませんでしたが、まだなにか手段はあると思います。それまでアセルス様をお守り致さないと≫
現在、幻魔には幾多のプロテクトを施している。これ以上、アセルスから人間としてのアセルスを奪わせないために。
「アセルス、これからは先ほど渡した、デバイスを用いて戦え。機能は説明したが、自分で実践しろ」
私の手には二丁の銃型デバイスがある。
「リーサルドラグーンⅠ&Ⅱ」
少々大きいが気にはならない。そして待機状態のピアスへと戻した。
「便利だね、そういえばイルドゥンと白薔薇にはないの?」
「必要ないだろう。我にも白薔薇姫にも」
「二人は私よりもどうせ強いですよ!!」
そういって私は部屋を出た。
「我らに戦う力はもはや存在せぬからな…アセルス」
「アセルス様…一緒にお守り致します」
二人の決意はまだ私は知らない。そして影がここ、機動六課に迫っていた。
もうしばらく、StS前の話が続きます。