Virtual actress ~貧乳オタク女子高生がアバターで受肉し巨乳美少女女優になる話~ 作:岸雨 三月
脚本の方向性が決まると、今度は脚本を実現するための現実的な問題点を話し合おうということになり、またあたしは部室に呼ばれることになった。
ローズの説明では、舞台に半分の大きさのスクリーンを下ろし、舞台の残り半分を生身の人間パート、スクリーン側の投影をVmoverパートとして活用していくということだった。
「一つ質問いいかな? この脚本だと、王妃は途中でバ美肉する。つまりバーチャルアバターは風切アイのほかにも、王妃用にもう一つ必要ということになるけど、アバターと機材の用意はできるのか? どちらも一朝一夕に用意できるものじゃないし、それなりにコストだってかかる。こっちでは風切アイしか用意できないぞ?」
「それに関しては、私の方で抜かりなく用意してます」
立ち上がったのは比奈川だった。PCを起動すると、アバターが画面に写る。なるほど、これを使うつもりか。それにしてもアバターと機材を比奈川が持ってるとは意外だったな――、って、このアバター、既視感がすごくあるんだが、まさか――、
「瀧村さんはこのアバターに見覚えがあると思いますけど!?」
比奈川がぷくーっという感じの表情でこちらに目線を向けている。その瞬間――
「そ、その節は大変申し訳ございませんでしたあぁぁぁぁ!!」
あたしはスライディング土下座した。
なんと、比奈川のアバターは、あたしがセクハラDMを送った某企業系アバターと同一のものだった。つまり、あたしがセクハラDMを送った相手は、他ならぬ比奈川ということになる。比奈川、おそらく芸能活動の一環なんだろうが、そんなことにまで手を出していたのか。セクハラDMがどういう経緯で流出したのかは気になっていたのだが、まさか比奈川が受け取った本人とは思いもしなかった。顔が見えない相手だからという気安さもあり送ってしまったDMだが、相手の顔が見えるととんでもなく恥ずかしさがこみあげてくる。
「ま、まあ私はいいんですけどね!? げ、芸能人として、こういう悪戯受けるのは慣れてますし!? でも、誰彼とも無くこういうDM送るのは、止めたほうがいいと思いますよ瀧村さん!?」
別に誰彼とも無く送ってる訳ではないのだが、返す言葉もない。あたしはさらに謝りつつ、こう続けた。
「ほ、本当にすみませんでした……、でも、このアバター、比奈川さんのものになったんだね。会社の所有物なのかと思ったけど」
「会社は残念ながら業績不振で倒産してしまったので……、元々会社の経営サイドと父が知り合いで参加することになった企画だったので、倒産するときにアバターごと貰い受けることが出来たんです」
ふーん、そういうこともあるのか。こういうものって会社が倒産したら銀行とかに差し押さえられるイメージでいたけど。まあ、銀行員みたいな人が大真面目な顔で、ちょっとエロい衣装の女の子のアバターを差し押さえていくってのもシュールな光景だし、単に価値がないと判断されたのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さらにその翌日からは、本格的に練習が始まった。
脚本の読み合わせ、台詞の暗記、演出や大道具小道具班との調整、各場面ごとの稽古、リハーサル。
どれをとっても演劇未経験者のあたしにとっては新鮮なものだった。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
「妾を愚弄するか! かくなる上はこの妾自らバ美肉し、毒リンゴで……」
「こうして王妃は、あふれるロイヤルバブみオーラで視聴者を虜にし、人気Vmoverランキングを駆け上っていった」
「コラボ配信? もちろんいいよ、あたしたち友達でしょ?」
「は? 何してくれやがったんだオルァン!! 俺は白雪姫の配信だけが生きる楽しみだったの!!」
「妾は……汝の美しさに嫉妬していた。それだけではない、汝の太陽のような性格、誰とでも友達になれる性格にも……。汝は妾の初めて出来た友達だった」
何より新鮮だったのは、初めて間近で見る比奈川たち演劇部員の演技だった。
特に比奈川の演技力は凄い。
演劇にまるで興味ないあたしでも、一目で圧倒されるようなオーラを舞台上でまとっている。
比奈川演じる王妃は、嫉妬に狂い白雪姫を手にかけてしまう悪女だ。しかし、アバター内ではあふれる母性で視聴者を惹きつけるカリスマであり、バックグラウンドには幼くして国を背負わされた不遇な幼少時代がある。徐々に白雪姫に惹かれるようになり、最後には自分の罪を認め、白雪姫への愛を打ち明け、救われる。そんな複雑な二面性とドラマに満ちた、難しい役どころだ。
その大役を、難なく比奈川はこなしていた。
これが、普段の真面目ながらもおっとりしているクラス委員長と同一人物とはとても思えないな。さすが、元・天才子役というべきか。
というか、これだけの実力を持っていても芸能界では過去の人扱いって、芸能界、魔境すぎるだろ。
凄いといえば、ナレーション、兼、鏡役を務めるローズの実力も中々のものだ。淡々としたナレーションで真面目に「ロイヤルバブみオーラ」とか言われるのはシュールさしかないが、それが逆にいい塩梅のギャグ要素になっていた。鏡も、当初は「真実だけを告げますよ」という風に飄々としているが、白雪姫が殺された途端にヤバいオタクへと豹変するという、濃い脇役だ。その豹変ぶりを、普段の無表情のローズからは想像もつかない迫真の演技でこなしていた。
白雪姫のキャラは、普段の天真爛漫な風切アイそのものという設定なので、あたしは比較的すんなりとアバターを動かすことが出来た。が、それでも慣れない練習についていくのは大変だ。だが、比奈川達の指導のおかげもあって、台詞を一つ一つ覚え、今まで出来なかった演技が一つ一つ出来るようになっていくことには、確かな充実感があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
練習と並行して、あたしにはもう一つ下されている使命があった。
ネット上での宣伝だ。
「5月12日、清宮学園高等部文化祭、企画No.047演劇部公演に校外ゲストとして出演します。Vmover風切アイと、あの『天才子役』比奈川愛々が夢の共演。バーチャルとリアルの交錯する、誰も見たことの無い舞台が展開されます。見に来てね……っと」
普段の動画投稿の末尾に必ず宣伝を入れるようにしたし、SNSでの定期的な投稿も欠かさない。日頃から交流のあるニュースサイトやまとめサイトの管理人とも連絡を取り、素材提供や当日の取材権と引き換えに宣伝記事を書いてもらう取引もした。
巻き込まれて参加することになった文化祭で、ここまでする必要あるか? とも思ったが、リアルのイベントに出演するのに客席がガラガラ、なんてことになったら、それこそ人気Vmover風切アイとしての沽券にかかわる。やれるだけのことはやっておきたい。それにセクハラDM画像もまだ比奈川の手元にある訳だし。
そういった営業努力の甲斐あって、界隈での注目度はじわじわ高まっていき、清宮高校の中でもネットを良くチェックしている生徒達を中心に話題になり始めた。
比奈川とローズ以外の演劇部員とは、直接顔を合わせないので、どういう反応なのかはっきりとは分からないのだが、練習を始めた当初は、こんなイロモノの演劇が成功するのか、半信半疑の雰囲気だったようだ。しかし、比奈川の高い演技力とリーダーシップで舞台が完成に近づいていくと同時に、周囲からの注目度も上がってくると、演劇部員の間で「あれ、この企画、結構行けるんじゃね……?」というムードが漂い始め、着実に部の雰囲気が良くなっているようだった。
この「結構行けるんじゃね……?」ムードが最高潮に高まったのは、文化祭一週間前のことだった。