Virtual actress ~貧乳オタク女子高生がアバターで受肉し巨乳美少女女優になる話~ 作:岸雨 三月
「キャー!!」
「ワー!!」
演劇部の部室本体の方から黄色い歓声が聞こえてきて騒がしい。いったい何が起こった? あたしは普段の舞台稽古していない時は、他の部員と顔を合わせないよう、資材置き場を改造した隔離された一室で作業しているので、こういう時に情報がリアルタイムで入ってこないのがもどかしかった。
しばらくすると、ローズが部屋に入ってきた。
「アイカ、good newsが入った。今日行われた、文化祭グランプリの公式事前アンケートで、私達の公演は総合3位になった。1位、2位との票数の差もそこまで無い」
文化祭グランプリは、当日の来訪者全員による投票結果で決まるのだが、当日一週間前には、現時点でどの企画が良いと思うか、前評判を調べるためのアンケートを行うのが恒例だった。いわば当日のグランプリを盛り上げるための前座企画だったが、前評判と当日のグランプリの結果は、ある程度は連動する。そこで総合3位につけているということは、当日の舞台の出来次第で十分逆転可能ということだ。
「アイカ、感謝する。ここまで来れたのは、あなたの協力のおかげ」
「や、まだそれを言うのは早いでしょ。狙うのは、グランプリ総合1位なんだから……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三十分後。あたしは校内をウロウロ歩き回っていた。中間投票の結果を早く比奈川に知らせたかったのだが、肝心の比奈川は、部室にもどこにも見当たらないのだった。
「あ、見つけた」
夕焼けの光の差し込む屋上。真っ赤な空の下に、比奈川はいた。
声をかけようとしたが――
「……っ」
屋上の欄干に腕を預けて、夕闇に沈む街を眺めながら、憂鬱げな表情を見せる比奈川の佇まいの美しさに思わず息を飲み、一瞬、声をかけるのが躊躇われた。
どちらかというと、美人と言うよりは、愛嬌のある、という顔立ちをしている比奈川だが、夕日に照らされた憂い交じりの顔は、びっくりするほどの美しさがあった。
「……瀧村さん。どうしたんですか? こんなところで」
「どうしたんですか? じゃなくてだな。比奈川さんを探してたんだよ。3位だってさ! 中間投票。部室は大騒ぎになってるよ」
「あ、それを伝えるために私を探してくれていたんですね。でもごめんなさい、そのことなら先にローズから聞いてしまいました」
何だ、入れ違いになっていたのか。あたしは先ほどから気になっていた疑問をそのまま口にした。
「比奈川さんのほうこそ、何でこんなところにいたの?」
「……少し、考え事をしていました。もし、1位を取れなかったらどうなるんだろうって」
「もし、1位を取れなかったら、か……。あたしは案外これ、行けるんじゃないかと思ってるけど。ネットでもリアルでも話題になってきてるし。それに何より、比奈川さんの演技力、本当に凄いと思ったよ。特に最後の、『妾は友達が欲しかったんだー』って独白のシーンとか、柄にもなく感動するくらい。もし1位になれなかったとしても、素人目だけれど比奈川さんなら海外の演劇学校でも全然通用すると思ったし、むしろ日本で才能を眠らせてるよりも良い選択肢なんじゃないかなぁ」
比奈川の表情にさっと影が差す。あー、勢いで思うままに喋ってしまったが、あたしったら、またコミュ障特有の人の気持ち考えない発言してしまったか。
「あっあっあっ、今のは別に1位取りたくないとか、比奈川さんに日本からいなくなって欲しいとか、そういう意味じゃなくて。むしろ比奈川さんとは今回のことが終わってもお友達でいたいというか、まずはお友達から始めてゆくゆくは結婚を前提とした御付合いをし子供は三人くらいを希望と言うか何と言うか」
しまった。焦ってフォローしたらさらに変なこと口走った。
「くすっ。瀧村さんって時々面白いこと言う人ですね。安心してください、別に気を悪くした訳ではないので……。それに瀧村さんと友達になりたいのは私も一緒です。友達になってくれると『二度も』言ってもらえて、私は嬉しい」
「へ? 『二度も』って……」
「やっぱり覚えてないんですね。これを見ても思い出せませんか?」
そう言ってスマホをこちらに向けた比奈川が見せてきたのは、以前のセクハラDMのスクリーンショットだった。だが、あたしのスマホに送られたものと違い、DMには続きがあった。
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風切アイ「雇われの企業系の癖にリアルの画像アップしちゃうとか、素人かよ」
風切アイ「てかおっぱい大きいね^^ どこ住み? てかLIMEやってる?w」
風切アイ「おーい、スルーかよ」
風切アイ「見てるなら反応しろ」
桃亜もこ「おんなのこにおっぱいおおきいねとかはやめたほうがいいとおもいます」
風切アイ「あ、反応した。動画だけど、声がBGMにかき消されて聞き取りにくい、このページを参考に音量調節してみた方がいい」
桃亜もこ「ありがとうためしてみる」
風切アイ「そうそう、今アップしたのはいい感じだ」
桃亜もこ「動画にもコメントありがとう」
風切アイ「どういたしまして。あたしの動画にもコメントありがとう。トークの方はまだ改善の余地ありそうだね。あたしも始めたばっかだし、人のこと言える立場じゃないけど」
風切アイ「……よければ同じ駆け出しVmover同士、友達としてうまくやっていかないか?」
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そうだった。あのメッセージの後も、比奈川が中の人をやっていたVmover――桃亜もことの間では、しばらく交流があったのだった。結局、桃亜はこの後すぐに活動休止になってしまい、アカウントも消えてしまったので、思い出すことも無かったけど。
「私、このメッセージ貰った時、実は嬉しかったんです。私、それまで子役としての仕事に打ち込みっきりで、ほとんど友達もいなかったから。それに、桃亜もこをやっている時は、全く人気が無くて、フォロワーもほとんどいなかったし、その少ないフォロワーからの反応も全然無かったから」
「あー、それは分かる。あたしも風切アイを始めたばっかりの時はそんな感じだったな」
「だから、迫真と言ってもらえた王妃の演技、あれは私にとっては、ある意味、演技ではなかったんです。瀧村さんは、私にとって初めて出来た友達だったから。……無理やり文化祭に巻き込んでおいて、私がこんなこと言える立場じゃないのかもしれないけど、瀧村さんさえ良ければ、もう一度、友達になってくれませんか……?」
「こちらこそ、セクハラDMから始まる友情とか、恥ずかしいことこの上ないけど、比奈川さんさえ良ければ、喜んで」
こうしてあたしは比奈川さんの手を取り、もう一度、友達となった。
その後はしばし、風切アイの駆け出し時代の話から始まり、駆け出しVmoverあるあるで盛り上がった。比奈川さん、委員長で真面目で美少女でクラスの中心的存在とか、オタクと気が合う訳ないと思って今まで敬遠してたし、練習の間もあまりちゃんと話せてなかったけど、ちゃんと話してみると普通にいい奴だな。子役という経歴もあって面白いネタも豊富に持ってるし、割ともっと話してみたさがある。
そのためには、比奈川がアメリカに行かなくて済むよう、文化祭頑張らないとな――。あたしにしては珍しく、殊勝にそんなことを思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからも練習と宣伝の日々は続き、あっという間に、文化祭当日になった。
「……今日の天気です。今日は朝から関東全域で雨、昼からところによっては雷雨混じりになるでしょう。お出かけの際はお気をつけください」
寮の自室で朝の準備をしていると、流しっぱなしのTVから、天気予報が聞こえてくる。暗雲が垂れ込める、という形容がぴったりの天気だが、あたしは「よし、悪天候だと屋外企画は不利だから、あたしたちが勝てる可能性上がるな!」程度にしか思っていなかった。
――この時は、まだ。