Virtual actress ~貧乳オタク女子高生がアバターで受肉し巨乳美少女女優になる話~   作:岸雨 三月

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別れ(ただし、リアルの世界では)

「どうしたんだ? 急に?」と寝ぼけた返信をする気にはならなかった。このタイミングで国際線ターミナルに来いという意味が、ただの海外旅行だとは流石に思わなかった。

 

翌日。あたしはとるものもとりあえず空港へと向かったが、普段空港なんて来ないから、目的の「出国ロビー」とやらがどこなのか分からず、だいぶ迷ってしまい、辿りついた時には大遅刻だった。

 

頼む、まだ出発しないでいてくれ。祈るような気持ちで、汗だくでダッシュしながら出国ロビーへと転がり込む。すると、あたしの目に入ったのは、大きなキャリーケースを持ち、たくさんの人たちに囲まれている比奈川の姿だった。「たくさんの人たち」は、あたしと同世代の人間がほとんどだった。よく見ると、演劇部員やクラスメイトといったあたしの見知った顔も多い。中にローズもいた。その「たくさんの人たち」が、比奈川を前にして泣いたり、握手したり、抱き合ったり、プレゼントのようなものを渡したりしているのだった。どう見ても、お別れ前の挨拶というやつだ。

 

何と声をかけていいか分からず、遠巻きに見ていたのだが、すぐに比奈川がこちらに気づき、「ちょっと抜ける」いう風に回りに声をかけ、比奈川のほうから人だかりを抜けてこちらに近づいてきた。

 

比奈川と向き合う。

今日の比奈川の表情は、あたしを最初屋上を呼び出した時のように、心なしか青ざめて見えたが、その目には、最初の時のような恐れや不安はなく、はっきりとした意思を持った目をしていた。

 

一瞬の沈黙があって、あたしから喋り始めた。

 

「……どういうことだよ。アメリカには、行かなくて済むようになったんじゃなかったのかよ」

「ごめんなさい、嘘をついていて。両親との間で、文化祭グランプリを取れれば日本に残るという約束をしていたのは本当。でも、私は、文化祭の結果にかかわらず、日本を離れる決心をしていたの。……今の環境のままじゃ、役者としての私にこれ以上の成長は望めない。それは、両親の言うとおりだと思ってたから。ただ、日本で何も実績を残せないまま、負けるようにして日本を去るのは嫌だった。何か自信を持って、小さなことでも、私は日本でこれをやったんだ、と胸を張ってアメリカに行きたかった。……ごめんなさい、私のちっぽけな自己満足のために、瀧村さんを利用したような形になって」

 

頭がくらくらする。あたしは最初から最後まで全部騙されていたのだろうか。比奈川が演技派の元・天才子役であることを今更のように思い出した。

 

「利用って……。じゃあ全部、嘘なのかよ。あたしのこと、友達になってくれって言ってくれたのも、それも全部、演技だったって言うのかよ」

「違うわ! それは、本当。瀧村さんが、2回も友達になろうって言ってくれて、本当に、嬉しかった。瀧村さんが私にとって、初めて出来た友達……。その事実は、私がアメリカに行っても、世界のどこに行っても変わらない。2回目に友達になれたと思ったら、すぐにお別れになってしまったのは、本当に残念だし、申し訳なく思ってるけれども。でも、3度目も、絶対に瀧村さんと友達になりたい。そんな風に、思ってる」

「3度目……?」

 

あたしは比奈川に真意を聞こうとしたが、それは出来なかった。それをしようとした時、無情にも空港のアナウンスがこう告げたからだ。

 

「ユナイテッド航空、9686便、ロサンゼルス行きは、ただいま、ご搭乗の最終案内をいたしております。お急ぎ、106番、Aゲートまでお越しください……」

 

「私の乗る便です、もう行かなくちゃ……。向こうに着いたらまたLIMEしますね! それと、3度目もまた必ず、私の友達になってください!」

「あっ、ちょ、ま……」

 

止める間もなく比奈川は踵を返し、残してきた人だかりの方に一声かけると、わーっという歓声が巻き起こった。そしてそのまま歓声をバックに、ゲートの方へと向かっていってしまった。アメリカに行って、お別れになってしまうのに、3度目の友達? 謎と、狐につままれたような表情のあたしが、ロビーに残された。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

比奈川との突然の別れの翌朝。あたしは、風切アイの配信動画の作成も、ネットメディアからの取材メールへの返信も、中間試験の勉強も、何となく何もする気が起こらず、ゴロゴロと家で過ごしてしまっていた。

 

そろそろ、比奈川はアメリカに着いた頃だろうか。こっちからLIMEしてみようか? そんなことを思っていたとき、SNSのリプライの着信音が鳴った。見ると、風切アイの配信に良く来ている常連オタクからのようだが、何だこの内容?

 

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@sangatsu_k 3分

返信先:@ai_kazakiriさん

アイ姐さん! Vmover速報にこんな記事上がってましたよ!! この新人、生意気なんでやっちゃってください!!

 

【新人】自称アメリカ在住Vmoverデビュー!! さっそく風切アイに喧嘩を売ってしまうwww

http://blog.lifedoor.jp/vmover/51577830.html

 

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アメリカ在住Vmoverの新人がデビュー? 何となく嫌な予感がしつつ、リンク先が大手まとめブログのものであることを確認してクリックする。そして記事に埋め込まれていた、件の新人Vmoverとやらの動画を再生する。画面に出てきたアバターは――、ほかでもない、比奈川がかつて使っていたアバター、「桃亜もこ」のものだった。動画を観進めていくと、声も間違いなく、比奈川のものだ。

 

(3度目の友達って、つまり、比奈川さん……)

 

「新人」は、アメリカ在住だというプロフィールを含めた簡単な自己紹介から始まり、抱負などを語っていた。そこで「目標にしたいVmoverは?」という質問に対し、「風切アイです! 私はアイさんのことが大好きで……だから、私はアイさんを1年で超えてみせます!!」と宣言したのだ。それが、常にネタに飢えてるアフィブログ連中に面白おかしくまとめられた、ということのようだった。

 

(……やれやれ、喋りはだいぶ改善されてるけど、ネットリテラシーに関してはまだまだだな。まずアメリカ在住と言ってる時点で、ネット上のキャラ設定とリアルのプロフィールがごっちゃだし。いくら「中の人」同士が友達とはいえ、いきなり先輩Vmoverに喧嘩売りに行ってアフィブログに餌を与えるのも得策じゃあない。Vmover友達として、教えなくちゃいけないことはまだまだありそうだ)

 

3度目の友達に、か。比奈川が何を考えていたのか、今なら分かる気がする。あたしは風切アイのアカウントを使って「新人」とやらをフォローし、メッセージを送った。

 

――こうしてあたしと比奈川は、バーチャルの世界で、国境を越えて、もう1度、友達となった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

以上が、高校2年の春にあたしに起こったことの全てだ。

この春の出来事は、間違いなくあたしを変えた。

最初に比奈川に屋上に呼び出されたときの、どこまでも青い空。

中間投票の日、夕焼けの屋上で見た比奈川の横顔の美しさ。

リハーサルで観た比奈川の、本物の天才の卓越した演技。

初めて生身で舞台に立ったときの、スポットライトの眩しさと熱さ。

グランプリを取った瞬間の、演劇部員達の爆発するような熱気。

どれも一生、忘れることがないだろう。

 

比奈川とは、その後、リアル・バーチャルともに親しく連絡を取り合う仲となった。お互いのアバター同士でのコラボ配信もよく行っている。そのうち、本当に王妃と白雪姫みたくなるんじゃないか? と思うくらいだ。今のところ、毒リンゴが贈られてくる気配はないけれど。

アメリカに行ったばかりで忙しい時期なのに、ネットで遊んでいて大丈夫なのか?とも思うが、そこは流石の比奈川、自由の国アメリカでも変わらない堂々たる演技っぷりで、向こうの演劇学校の中でも頭角を現し始めているらしい。

 

何気にローズとも、文化祭をきっかけに親しくなった。ローズは話してみると、演劇の脚本をやっているだけあって色んな事に詳しい。そして、面白いストーリーに目が無いという点では、オタクのあたしと共通していた。いつの間にか、ローズからは面白い小説や脚本を、あたしからは面白い漫画やラノベを、お互い貸し借りする仲になっていた。

 

そういえば、ローズから借りた脚本の中に、あの一節が出てきた。

 

All the world's a stage,

 

And all the men and women merely players:

 

They have their exits and their entrances;

 

And one man in his time plays many parts.

 

「この世界は一つの舞台で、人間はみな役者。それぞれの退場と登場があって、一人がいくつもの配役をこなす」

 

――あたしが舞台に上がる直前に、ローズが激励してかけてくれた言葉だ。

あの時はいきなり英語でまくしたてられて正直意味が分からなかったが、今ならなんとなく分かる気がする。

 

古の脚本家が言ったように、人間は誰しも、多かれ少なかれ何かを演じているのだ。

比奈川は、芸能界のサラブレッドとして両親の期待を背負い、かつては天才子役としての役割を演じ、次は、元天才子役に相応しい実力の女優という役割を演じようとして苦しんでいた。

あたしも、何事にもやる気のないコミュ障のオタクという役割を、無意識的に演じていた。

 

そして、人が何かを演じるのは、新たな役割を得ることで、普段背負っている自分の役割から、自由になりたいからなのだろう。

あたしが風切アイを演じている間は、コミュ障のオタクという役割から離れることが出来た。

比奈川が、親に言われた仕事がきっかけとはいえ、Vmoverにのめりこみ、今ものめりこみ続けているのは、Vmoverになっている間はリアルの自分から自由になれるからなのかもしれない。

 

昔の時代は、職業としての役者に就き、「演じる」ことが出来るのは、容姿や才能に優れた一部の人たちの特権だった。しかし今は、インターネットとバーチャルアバターを通じて、誰でも別の「誰か」になることが出来る。そのことによって、新しい自分の側面に気づき、救われる人間も多いのかもしれない。

 

少なくとも、あたしはそうだった。

Vmoverとしての活動がなければ、文化祭をめぐる一連の出来事を経験することも無かった。

生身で初めて舞台に立たされたとき、最初はフリーズしながらも、まるで別人のように白雪姫を演じることができたのは、風切アイを演じていた経験をそのまま舞台上で生かせたからだ。

そして何より、バーチャルアバターがなければ、あたしにとって「も」初めての友達である、比奈川と出会うことも無かった。

 

 

「この世界は一つの舞台で、人間はみな役者。それぞれの退場と登場があって、一人がいくつもの配役をこなす」

 

 

バーチャルの世界にせよ、リアルの世界にせよ、あたし達は演じ続けるのだろう。

「今」「ここで」背負わされた役割を脱ぎ捨て、より自由に、新しい自分になるために。

終演のブザーの鳴る、その時まで。




これにて完結です。
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。
私にとっては初めての小説賞応募の経験でしたが、受賞作がどれもレベル高く、まだまだ精進しないといけないなーと痛感した次第です。
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