Pの弟   作:燈籠

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case:1 渋谷 凛【出会い】

「じゃあ、仕事行ってくるからな。飯はちゃんと食べろよ」

「わかったから早く行きなよ。時間ないよ」

朝は兄貴が仕事に行くのを見送る。小言を軽くいなしてまた布団へと沈みこむ。学校へ行くのは明後日からなので今日明日は寝ていてもいい。できれば、このまま夢の中から目覚めなければいいのにと本気で思ってしまう。

天井を見上げ、ぶら下がる蛍光灯を眺めながらぼうっと思考に飲み込まれていく。あぁ、今日も

「何で生きてるんだろう」

 

4月15日

普通であれば新学期はもう始まって少し経ったあとだろうか、けれど通信制の学校は違う。ただ高卒認定をもらうためだけに通ってる僕みたいなやつもいれば、経済的な理由で、夢のため、不登校になったからなどなど、皆違ったものを持ってここへ来ている。登校する日は学校によってまちまちで、僕のところは一月に2〜3回ある程度だ。普通に高校へ通うよりも楽な分、提出しなければならないものは普通の高校とは異なる。まあ、その辺りは自分で調べたほうがわかりやすいんじゃないだろうか?

そんなこんなで授業が終わり、昼間なので周囲をフラフラ徘徊していたら西の空が赤く滲み始めていた。

「さて、そろそろ帰るか…ん? 犬…がこっちに来てる」

小型犬であろう影がこちらへ猛スピードで向かってくる。その後ろにはその犬の飼い主であろう、髪の長い人が走ってくる。というか、このままだとぶつかるな…。

「よっ…と。ほら、危ないから止まれよ」

道の端に寄って走ってきた犬を抱きかかえる。興奮しているが人を噛まない良い子だ、よくしつけられているのがわかる。

「あ…あの、その子…っはぁ、私の…」

「わかってますよ、はい。リードはちゃんと持っておいた方がいいですよ」

「すいませ…ありがとう、ございます。こら、ダメでしょ花子。勝手に走っちゃ」

息も絶え絶えな女性に犬を明け渡す。お叱りを受けている犬が少しショボくれるのが見えた。無事に事が済んだので帰ることにしよう。

「それじゃあ僕はこれで、お気をつけて」

「はい、本当にありがとうございます。あの、せめてお名前を聞かせてください」

初対面の相手に名前を聞くのか…。まあ悪くはないけど面倒だなぁ。

「えっ…と、僕は一ノ瀬。一ノ瀬 由晴(いちのせよしはる)です、さようなら犬の人」

「い、犬の…ってあの!」

こういうのは関わると面倒になりかねないとわかったので早々に引き上げることにした。申し訳ないが僕は人が嫌いなんだ、察してくれ。

 

まだ冬の寒さを残し、春の陽気を隠してしまう黄昏時。一人と一匹、取り残された少女は確信めいた疑問を口から溢す。

「一ノ瀬って、まさかね…」

そよ風が木の葉を囁かせるが、少女の求めた答えを教えてくれることはなかった。




一ノ瀬由晴:好きな動物は猫。猫アレルギー持ち

渋谷凛:好きな動物は犬。猫も好き。

一ノ瀬兄:動物は苦手。虫も無理。ラッコは別らしい。
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