三次試験開始から四日目。今日で折り返し地点な訳だが、意外にもこの時点での生存者は4名だけである。減ったなぁ……。
大体は初日か二日目で限界になったのか海に逃げ、残りは気を抜いたのか幻覚でも見たのか、溶岩流に飲まれ消えた。
まあ、無理もないか。何故ならここは火山島。メートルどころかセンチメートル単位の近さで溶岩が流れている。専用の防護服かしっかりとした
生き残った受験者はなんとしてでもこの試験を突破しようと色々と足掻いている。
(自称)サバイバルのプロ芸人とか名乗った男は、(自称)猟師の男と手を組んで水と食料をかき集めている。自作の飲料水収集キットは、時折流れを変える溶岩流に巻き込まれないように常に移動させる事を余儀なくされるがそれでも僅かではあるが水を確保することが出来ているようだ。ご苦労さま。
(自称)漁師はこの島からさらに離れて約400メートル付近に稀に泳いでくる『はぐれ』の魚を捕まえてはまた島に戻っていく。ご苦労さま。
そんな明らかに非効率的な行動でも、成人男性が一週間辛うじて生き残れる程度には食い繋げるだろう。まあ、一週間経つ前に仲間割れしなければの話だがな。
生き残った3人目の受験者、500番。体格的に女だとは思うが、常に仮面を被っているのとコケシ体型の上から鎧の様に厚着してるからよくわからん。つーか暑くない?
そして生き残った最後の受験者、246番。飛行船の余興の時に、一番最初に俺を捕まえる事の出来た女だ。あの時は帽子の中に飼っていた蜂を使ったが、さて今回はどう使うのかと見ていたがどうにも蜂はこの火山島の熱さにやられたらしい。まあ、確か普通のスズメバチなんかは50℃程度で死ぬ……ような気がするし、火山島で生存できないのも理解できる。
早速自身の切り札が使えなくなった246番はどうするのかと思って観察していたら、しばらくすると死んだ蜂や弱っている蜂をおもむろに食いだした。うへぇ、今までずっと共に生活してきたであろう蜂を食うなんて……
昆虫料理……それも蜂料理ならこの場でも作れる美味しいレシピがあるけど黙っておく。人は時に極彩色の鳥や昆虫、そして自身のパートナーとして暮らしてきた犬猫を食う事を強いられる時があるだろう。それが食った物を
感情の話では無く、理的な話をしよう。今死んだ蜂、或いは今から死ぬ蜂を食う事はかなり理に適っている。何故なら奴等はこの島に足を踏み入れたその瞬間から貴重な水分や栄養素が失われていっているからだ。ベストなタイミングは、それこそこの試験の内容を聞いた瞬間から蜂共を全部食う事だった。だが流石にそれは未来予知でも出来なきゃ無理っつーもんだ。あの帽子にどれだけの蜂が入っていたかなんて分からないが、まあ仮にあの帽子ギッチリに蜂が詰まっていた場合、生きたまま全部食いきってそれからこの島の海岸300メートル付近で一週間浮き続けるのが最も消費を少なくして生き残ることが出来る手だったな。まあ過去の事はどうでも良い。問題は今である。
今、246番はチームを組んでいる受験者共とは反対方向の海岸に居る。自身の消費を抑えつつ、俺が飲んだように溶岩が飲めないか試そうとしてずっと躊躇している所だ。半裸で。
半 裸 で !
眼福ですなぁ……ま、見てるだけじゃ腹は膨れんが。
こんな高熱地帯、服を着込んでいるなんて馬鹿々々しいしな。分かる分かる。
流石に他の受験者が何かのタイミングで近づいてくる時はサッと服を着ているようだ。なら何故俺がこうして観察している時に服を着ないのか、それは簡単な話である。
今現在俺は『絶』をし続けているから。
こんな危険地帯で『纏』すらしないとか自殺志願者ですか?ってマーさんは言っていたが、まあ単純に
この火山島で生き残るのに必要なのは、それこそ単純な『技術』と『慣れ』のみ。『念能力』なんて無くても生き残れないでどうする?
まあ、マーさんの言いたい事は分かる。『念能力者』は『纏』だけで一般人を凌駕する防御力を得る。それこそこんな火山島で昼寝も出来るくらいにな。だが、それじゃあ試験としてはツマラナイ。
心頭滅却すれば火もまた涼し。単純に鍛錬不足な奴等は置いといて、心が成ってないヤツはハンターとして大成出来る筈が無い。無論、プロになってから心を鍛えれば良い、なんて言うヤツも居るだろう。だが、心の在り方なんてモンはそれこそ生まれ育った環境でしか形成されないと思っている。プロハンターになって、そこから更に成長できるヤツなら良いだろう。だがそんなヤツってのは、実は極少数なんだ。つまり……
何が言いたいのか忘れたわ(平常運転)。
そう、つまり俺はこんな場所で『絶』をし続けているから246番に気が付かれてないって話。なんか覗きっぽくなったのは結果論だから。ノットギルティ。というか、試験官である俺は受験者に気を配る責務があるのでは?うん、なら試験中に脱ぎだすヤツが悪いな。自己弁護。
しかし『常識』ってのは怖いモンだ。辺りの地面から絶えず流れ出る溶岩。実はこの溶岩、普通に食用可能なのだ。
勿論、誰も溶岩なんてモンは口に入れたくないし、そもそも食おうともしないだろう。だが実際にこの島の溶岩は食えるのだ。ただこの島にある
なんでそうなるか、なんてそれこそ学者が必死に調べ上げるモンだ。俺は知らん。ただ
ただし更に冷えて固まると当然、岩のように硬くなるから歯を『凝』なりで強化しないと食えないがな。
美味いし、栄養満点、腹にも溜まると。こんなモノが常に涌き出てくるんだ、どう餓死しろっていうんだ。しかも
ペットボトル程度の硬さと粘土の様な粘り気を持つ溶岩石(熱い)をグネグネと曲げながら246番を観察する。この石だって探し出すのは困難な事ではない。注意深く石一つ一つを観察出来れば、見つけるのは容易い。四葉のクローバーを探すんじゃねえんだ。ま、
「あ”ぁ”ー!あ”っつ”い”!」
わお、意外と大胆なのね。ついに全r……げふんげふん。
* * * * *
三次試験開始から六日目。生存者は4名のまま。残った4人はなかなか根性はあるみたいだ。ま、それも時間の問題か?
野郎二人組は水と食料の取り分で喧嘩する程度にはまだ余裕があるようだ。
仮面受験者は見つけた安全地帯で、じっと座り込んで動かない。干物にでもなったか?と思って近づいて仮面を取って確認してみれば、『ギョッ』と言って飛び上がった。なんやコイツおもろいわぁ。
蜂受験者は浜辺で脱いだ衣服を敷いて、その上でぐったりしてる。まるで真夏日の駄目親父の如き姿(非情)。女死力高いですね(白目)。近づいて顔を覗き込んでやると、『あぁ、ついにお迎えが来たのね……まだ死にたくない……ってか、せめてもっとマシな顔つきのお迎えよこしなさいよ……』等とすごい失礼な事をほざきやがったので靴のまま顔を踏みつけてやった。次の瞬間烈火の如く怒り出したので海に放り出してやった。
「ガボボボッ!熱っあ゛っつ゛い゛っ!」
コイツも元気そうだ、いいねー若いって。
約80℃程度の熱湯海に投げ込まれてもバッチャバッチャと跳ねるように陸に戻ってきた裸族。いつまで裸でバカンス気分味わってんだこの野郎と声を掛けると、ようやく正気に戻ったのか全身を真っ赤に染めて(火傷)服をいそいそと着だした。
「この……変態っ」
「お、ブーメランかぬ?」
誰も来ないような場所とはいえ、青空(曇り空)の下でストリップを楽しんでた奴の言葉とは思えないわぁ。
楽しいから弄くり続けたい所だが、話が進まないので246番を引っ張り出す。
「ちょっ!まだ服着てる途中でしょうが!」
「時間がねえから裸族の言葉は聞かん」
「裸族じゃないわよ!まっ、待ってってば!ちょっ、まだパンツが……!」
なんか色々あったが、蜂受験者を引きずり回し仮面受験者を再発見。捕獲後再度引きずり回し、喧嘩していた芸人受験者と猟師受験者を張っ倒して生存者全員を集めた。
「……で、何が始まるんだよ」
「知るか。イカれ試験官のやることなんて推測するだけ無駄だ」
「……」
「(冷静に思い返してみると死にたい)」
「はい注目。こうしてお前らを集めたのは、ぶっちゃけ予定してた選考人数を大きく下回ってるからだ。大まかな予定なら三次試験開始時にはまだ2~30人位残っている予定ではあったんだが……」
「あんな密林の中、しかも方角も時間もまともに分かりゃしねえ上にぶっ続けで走らなけりゃ間に合わないような試験出す方に問題があると思うがな」
「お前らはそんな試験突破してるじゃねえか……まあともかく、この調子なら4人しか残らなさそうだからそのまま最終試験してくれってお達しが昨日ネテロ会長から届いてな。三次試験は現時点をもって繰り上げ終了となる。三次試験合格おめでとう」
「……ああ?」
「えっ、と言うことはもうこの火山島とはおさらば?」
「残念!もちょっとだけこの島での試験は続くんじゃ。そういう訳で最終試験……の前に、お前らの消費しきった体を回復させる時間を取ろう」
「何っ!?ついに溶岩から離れることが出来るのか!?」
「だから出来ねえっつってんだろ。お前ら、腹が減ってるだろう?喉が渇いてるだろう?特別にこの俺が最高の料理を振る舞ってやろう。この、俺が直々に!一ツ星グルメハンターの手料理を!」
「……興味深い」
「おい仮面野郎!勝手なマネしてんじゃねえよ!」
「……五月蝿い。前々から『グリード=ダイモーン』の料理に興味を持っていた。先日の飛行船で出た料理、確かに美味しかったけど期待はずれだった。『死ぬほど美味い料理』を期待している」
ふぅん?俺のファンか……まあ、俺のやることは変わらない。今回は『ポケット』を使わずに、
まずは足元に落ちている溶岩石(熱い)を複数個加工し、調理道具に変えながら受験者共に最終試験恒例(らしい)質問を聞くことにする。
「お前ら、プロハンターを志望した理由はなんだ?順番に答えろ」
「何よいきなり……それが最終試験?」
「直接は関係ないが、まあ試験の一部と答えよう。番号が小さい順に、ほれ、答えろ」
そうして顔を向ける先は受験番号29番の男。
「小さい順……ならオレからか。オレはただ昔っからハンターってのに憧れててな。陸も海も、オレが行った所に居た動物はどれも狩猟したことがある。だからオレが行ったことのない場所に行きたい。そこにいる動物を狩猟してみたい。そのためにはハンター証が必要だったからな」
「ふーん、目指すは『動物ハンター』ってところか。下手に乱獲すると自分が狩られる立場になりかねないから気を付けな。はい次」
料理道具を拵えながら、目線を受験番号246番の女に向ける。
「私ね。私は……ある理由で『不死鳥』って呼ばれる鳥を探してるの。捕獲例は無く、発見例すら片手で数えられる程度にしか確認されてないわ」
「不死鳥……フェニックスって奴か。確か羽根一つで何百億もの価格で取引されてた記憶があるな。どんな怪我も治す……なんて眉唾な伝説があったな。お前が目指すのは差し詰め『幻獣ハンター』ってとこか。はい次451番」
「……オレはそんな立派な理由なんてねえよ」
「死ぬかもしれないっつーのに退かないんだ。そんな理由で十分だろうが」
「……事務所の命令だ。『初のプロハンター芸能人』っつー箔がありゃ色々な番組に引っ張りだこなんだとよ。馬鹿々々しい」
「ふーん、じゃ次。受験番号500番」
「……私の姉は怪物ハンターだった。だけどある日突然グルメハンターに転向した。その理由を知る為」
「……ちょい待ち。お前の姉さんってのはもしかしなくてもずっと仮面被ってる変人か?」
「それは私の事を変人と言っている事と同義」
「否定できない位に変人だろうが。マジかー……俺の知り合いに更に変人が増えたかー……」(変人の極みの戯言)
「とにかく、頑固一徹の姉が変化した理由を知るためにハンターになる……つもりだった」
そこでじっ……と俺を見つめる500番。プロになる直前で目的が見つかったらそらそうなるわな。草。
「まあお前らがどんな目的であれ、プロハンターになる以上何かを狩らなきゃいけない。その上ハンター証を手に入れたら『ライセンス狩り』を何とかしなきゃならん。目的達成の為には、あらゆる意味での『強さ』が必要になる。一次試験では単純な武力、二次試験では感覚、三次試験では生き
「……試験内容は?」
「試験内容を話す前にメシにしよう。くっちゃべってて腹減ったわ」
* * * * *
本日のメニューは『ボルケ溶岩スープ』に『ジルコニアエビのグマ砂灼熱焼き』。
流れ出る新鮮な溶岩を掬い、鍋にぶち込む。そこに採集した海塩と苔を入れ、加熱する。ボルケ溶岩はこの島で採れる『粘岩』に触れると約2000℃から一気に約70℃程度に下がる。だがそれでも溶岩は粘度の高い液体のままの姿を維持する。まるでカレーの様にドロドロとした溶岩はそれ単体でも濃厚なコンソメスープの様で十分美味いが、砂浜に生えてた苔を混ぜ込む事でほんのりとした甘味と香りを追加。更に海塩をふんだんに入れてキリッと味を締める。ボルケ溶岩自体が持つ旨味と強烈なパンチの強さが絡み合い、味の相乗効果で破滅的な美味さを引き出す。如何に人間が理性で考える生き物だといえどもこのグルメを前にして理性なんて紙の盾程にも役に立たない。
スプーンなんてモノはこの島に置いてないので、溶岩スープを飲みやすいようにジョッキ状に整えた粘岩に入れる。さあ、おあがりよ!
「……本当に食えるのかよこれ。溶岩だぜ?」
「だがコレ思ったより熱くねえな……どうなってんだ?」
「これの元がどうとか、それこそどうでも良い。この美味しそうな香りの前に常識は消えた。いただきます」
「あ、おい!」
ゴクッ。
と仮面受験者が熱々スープ(70℃前後)を飲み……あおる様に一気に飲み干した。
「おかわり」
「な……マジかよ!?」
「溶岩食いやがった!?」
「非常に美味。今まで食べたことの無い美味しさ。濃厚な旨味が口の中で暴れ回っているよう。更にマイルドな塩味と鼻から抜け出るような香りが刺激的。おかわり」
「おう、しっかり食えよ。最終試験もまた長丁場なんだから」
仮面受験者のその姿を見て、他の受験者も恐る恐る一口含み……同じようにあおる様に飲み干した。
「美味すぎるっ!!?なんだこの濃厚な味わいは!!?」
「この旨味……魚や肉とはまさに次元が違う……!」
「舌が焼けるほど熱いのに、飲む手を止められないっ!」
一般的に知られている旨味成分と言えば、トマトやチーズに含まれるグルタミン酸、カツオ節等に含まれるイノシン酸、干しシイタケ等に含まれるグアニル酸等だろう。そして種類の違う旨味成分を組み合わせれば、旨味の相乗効果で更に味が深まる事は経験的に知られている。
このボルケ溶岩には、まだ知られていない旨味成分を入れて凡そ100種類程含まれていると思われる。しかしそれら全てを十全に味わうことが出来るかというと、それこそ味覚を鍛えてる人間にしか出来ないだろう。故に海塩をふんだんに入れ、味を絞る必要があった。海塩に含まれるミネラルが、各々の旨味成分を舌で捉える時間に差をつけることで複雑怪奇な味を受け止めることが出来る。
スープを渡しながら次の料理を拵える。
グマ砂浜の砂を坩堝状に加工した粘岩に入れ、高温で加熱する。するとみるみる融けていき、砂はドロドロと変化した。
砂が融解したのを確認し、ボルケ火山島近海底(水温約80℃)で採れるジルコニアエビの殻を生きたまま剥ぎ、ニードルで脳神経を破壊。身体は生きたまま、神経反応を断った。殻を剥いたジルコニアエビの身に、上から融解した砂をかける。エビの身がじうじうと灼け、香ばしい匂いが立ち込める。
融解し赤熱していた砂が冷えて固まってきた所で、更に上からボルケ溶岩(約70℃)をかけ完成。一度融けて再度固まった砂はバリバリとした食感であり、熱々のボルケ溶岩と絡み合って非常に美味な逸品である。
「熱うま。幾らでも食べられるとはこの事」
「プリプリのエビの身にジューシーな餡とバリバリの衣で最高にイケるっ!」
「エビの中は程よく半生で舌触りがねっとりとしていいわね」
「これがエビだと……!俺が今まで食ってきたエビは一体……!?」
猟師受験者も経験上何度もエビを食ってきたんだろう。ジルコニアエビは他のエビと比べ殻が非常に重く、その殻を動かす筋肉も豊富に詰まっている。更に、栄養豊富なボルケ溶岩を食して育っているからか滅茶苦茶美味い。
ジルコニアエビの殻及び体内はボルケ溶岩と海水が接触した際に発生する高熱に耐える為に熱に強い作りをしている。故に火を通すには生半可な熱ではダメだ。そこで融解した砂をかけ、火を通すと共に再度冷えて固まった砂を衣として使う。するとほどよく半生で火の通ったエビの完成だ。
受験者一同はバリバリ、ムシャムシャと一心に食い続けた。
「さあ、しっかり食ったな?では始めようか最後の試験。心を摘む試験を!」
メンチ「……あれ!?私の出番は!!?」