悪食グルメハンター   作:輝く羊モドキ

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またせたな。
また引っ越ししたわ。
またまたご冗談を。


はい!仕事終わり!……えっ、まだ……?

 コロッケ食べて本日の業務終了!解散!えっ、まだだめ……?そう……。

 いや待て。そもそも今日は何もやる事が無いじゃないか。よし寝よう。スヤァ……。

 

 起きた。そう、俺は睡眠周期がしっかり整っている人間なのだ。故に昼寝をしても夜寝る時間は変わらないタイプ!つまり……

 

 つまり何が言いたいんだってばよ!?

 

 おっす俺試験官(プロ)!今は一時試験が終わって、二次試験会場に向かってる最中!つまり暇なう!ならばやる事は一つ!

 更なるグルメを求めてレシピ開発だわっほーい。厨房は邪魔になるので別の場所。特別にこさえた、俺専用のこじんまりとした厨房に入る。

 今日も今日とて色々な組み合わせで料理するぞーおー。

 

 

 次の日

 

 

 とりあえず()()()の出来具合の確認するため厨房に向かう。移動途中に受験者共の様子を軽く確認してみたが、まあ異常なしって所でいいか。

 厨房に到着。中に入ると、モーニングの最終準備に取り掛かっていた。イカ厨房長を呼び、首尾はどうか聞く。

 

「首尾は上々っす!昨日は、最初の内は全然来なかったっすけど、受験者同士の口コミで後半は大盛況っす!用意した食材は全部捌けたっす!」

 

「そうか。その様子なら二次試験参加者全員ここの料理を食ったみたいだな」

 

「はいっす!……あ、受験番号49番は食堂で見かけて無かったっす」

 

「あー……あいつは失格したから別にいい。まあそれくらいなら大丈夫そうだな。後……30分で食堂が開くが、機器類に問題はないな?」

 

「おっす!メンテナンスもばっちりっす!」

 

「おーし、予定通りならもうじき怪鳥のナワバリに突入する。多少船が揺れるだろうが最善を尽くせよ」

 

「「「「合点承知!!」」」」

 

「じゃ、イカよろしく~」

 

 とりあえず()()()は上々の様だ。食材の方も予定通り捌いている。順調順調。

 ()()()の確認が終わったら、再度使われてない貨物室にIN。命綱を腰に括り付け、留め金と留め具の確認をしっかり……OK。

 貨物室の扉から飛行船の外に飛び出る。当然重力に引っ張られ空から落ちる……が、命綱が張り、空中に吊り下げられる。

 上空は寒く、風もそこそこ強い。東の空から朝日が昇る。そして日の光と共に現れる複数の黒い影。さあ……来た、狼怪鳥の群れ!!

 

 狼怪鳥。その生態には未だ謎が多く、限られた範囲の空を飛びまわっている事、非常に好戦的で同族以外の空を飛ぶモノをとにかく攻撃する、ぐらいしか判明していない。

 その群れも、5匹程度の少ないものから100匹を超える大群まで様々だ。どうやって繁殖してるかも判明していないが、こいつ等が現れた場所は飛行船の空路として使えなくなってしまう為ハンター協会に引っ切り無しに討伐依頼が来る。しかし戦う場所が空に限られてしまう為、実力のあるハンターでも中々手出しがし辛い。

 じゃあ何故そんな狼怪鳥のナワバリを突っ切るような航路にしたのか?それは当然……俺が食いたいが為!強い強いとは聞いているが、美味い不味いは一切聞いた事が無かった。その上こいつ等が出没する区域の殆どはハンター証必須の危険区域内。これから移動する先は一般区域であり、今いる地点も海の上、一般区域。つまり普通に入れる場所。となったらもう……行くしかないじゃん!

 

 ま、一応会長に許可は得てるし問題ないね。

 

 さてさて、奴等がどんどん近づいてきたが……ひのふのみ……まあざっくりと50匹程度の群れか。そこそこだな()

 奴等は怪『鳥』と言うが、実際には『竜』に近く、身体の表面には金属並みに硬い鱗で覆われている。中々調理が難しそうだ。

 奴等が飛行船に向かって行ってるが……お前等の相手は俺だ。

 

「グァァァァ!!!」

「ギャァ!ギャァァ!!」

「グァァ!」

 

 (恐らく)リーダー格の狼怪鳥が俺に向かって吠える。それに応える様に取り巻きの二匹が俺に向かって突撃してきた。

 

「ギャァァ!!ギャァァ!!」

「グァァァ!!」

 

「ぎゃーぎゃーうるせえんだよ。耳障りだ」

 

 鋭い牙を向けて噛みついてきた怪鳥二匹は、あっさりとバラバラに解体されて落ちていった。

 おっと、勿体ねえ勿体ねえ。落ちていった食材を『ポケット』にしまう。

 ソレを見て、まさか仲間の死体すら残らないとは思っていなかったのか、混乱した狼怪鳥が複数匹俺に突撃してくる。

 

 ホイ、ホイ、ホイさっと。

 

 硬い鱗を避け、関節から分けるように解体する。

 頭のてっぺんから真っ二つにする様に解体する。

 あえて硬い鱗ごと粉砕するように解体する。

 色々な方法で解体しながら『ポケット』に入れていく。

 

「グゥゥ……ギャァァァ!!!」

 

 (多分)リーダー格の一鳴きにより、混乱していた群れは再び隊列を組み直して俺の周りを旋回する。中々賢いんじゃねーの?

 ま、残念な事にソコは俺の手が届く範囲なんだがな。

 隊列を組んでいた狼怪鳥10匹程度纏めて解体して『ポケット』に突っ込む。

 

「グギャァ!!?」

 

 まさか包丁が飛んでくるとは思わなかったか?残念だが、飛ぶのは包丁だけじゃない。ミートハンマーやピーラーに強化系と操作系のオーラを込めて投げる。

 ミートハンマーが狼怪鳥の翼を撃ち、グチャグチャにする。

 ピーラーが狼怪鳥の鱗を剥ぎ、丸裸にする。

 そして包丁で骨と肉と皮に分け、『ポケット』に収納する。

 高速で調理器具が飛び回り、狼怪鳥の群れを片っ端から加工していく。

 

 そうして、あっという間に狼怪鳥の群れはリーダー格の一匹だけになった。

 

「ギャァァァ!?ギャァァァ!!」

 

 命からがらに逃げようとしているが、逃がさない。腰の命綱を外し、オーラ放出で飛ぶ。

 

「ギャァ!?」

 

 一瞬で追いつき、包丁を振るう。スパパパッと骨、血、肉、内臓、鱗、羽毛と分けて、血と肉は瞬時に加熱、『ポケット』からスパイス各種を取り出し振りかける。焼けた肉に鉄串を刺す。血はボウルで受け、岩塩、にんにく、油、醤油、玉ねぎを入れ、粉砕しながら混ぜ、更に加熱。余計な水分が飛んだところで完成したタレに先程焼いた肉を鉄串ごと入れる。粗熱を取りながらボウルを落とさないように抱え、残りの骨、内臓、鱗、羽毛全てを『ポケット』に収納しながら飛行船に飛んで戻る。

 貨物室に戻り、扉を閉めながら何もぶら下がってない命綱を回収し、ボウルの中に浸け込んでいる焼肉を出し、『周』で強化しながら燃え盛る灼熱溶岩で二度焼き。表面がこんがり、中はジューシーに焼けた所で熱々のまま齧る。

 

「美味っ!」

 

 醤油ベースのニンニクタレも美味いが、何より肉自体の旨味がヤバイ。一口齧れば、噛み応え十分の肉厚さ。筋繊維がギッチリと詰まっているからかうまく噛み切れないが、噛めば噛むほど肉がほぐれて内側から際限なく旨味の塊である肉汁が溢れだす。なんとも食べごたえMAX。

 朝から食うものでは無いな。美味いけど。

 

 あっという間に一匹分の肉を丸々食い終えた。美味いが、一般人には噛み切ることは不可能な程弾力のある歯ごたえだった。口に『凝』をしてようやくレベル。普通に焼くだけじゃ十全に味わえねえなこりゃ。どうやったらもっと美味く調理できるか考えよ。

 

 そうこうしているうちに食堂が開く時間。

 ちらっと様子を見たら、食堂には人だかりが。うんうん、これならこの後の余興も問題無く進行できるな。

 

 

 ◇

 

 

 モーニングの時間が終了し、一息ついている所に放送が入る。

 

『あーテステス、問題無しだな。さて……諸君、おはよう。昨日ぶりだな。二次試験の担当のグリードだ。試験会場に到着するまで後24時間以上ある。だが、この飛行船内には娯楽施設なんて用意しちゃいない。ボーっと待ってるのも退屈だろう?そこで一つ、ちょっとした余興を用意した。なぁに、難しい事はない。ただのかくれんぼさ。『目的地に到着するまでに俺を捕まえろ。』ルールは三つ。一つ、俺は、操縦室や厨房内といった関係者以外立ち入り禁止の場所にはいない。二つ、到着までに俺を捕まえられなかった場合、二次試験は非常に不利となる。三つ、俺を捕まえる場合、俺に接触して『試験官捕まえた。』と言う事。以上だ。ハンターになるんなら、これくらいの探し物なら1日以内で見つけられないと話にならねぇぞ?つー訳でかくれんぼスタートだ。あーそうそう、俺が昨日言ったこと忘れんなよ?』

 

 ざわざわと騒ぎ、辺りをキョロキョロしだす組。弾かれたように何処かに向かって駆け出す組。ただ座って、じっと考えている組。おおよそ3組に別れた。

 騒いでキョロキョロしてる奴は何がしたいんだろうねぇ。キビキビ動かない……いや、キビキビ動けないのか。判断力の無い奴にハンターは無理だ。その点何処かに駆け出した奴等はマシって所か。まあ……飛行船の放送室に向かってるんじゃまだまだだがな。さっき放送した俺の声は録音。当然放送室に行っても俺は居ない。そして最後の落ち着いて考えてる組、何考えてるかは流石に分からんが、24時間という時間いっぱい使って俺を探し出すつもりだろう。ゆっくり考える事は悪い事じゃない。だが、考えただけじゃ俺の居場所は見つけられない。いつか動き出さなきゃいけない時が来る。それまでにいい答えが見つけられるかな?

 

 この飛行船のあちこちに、俺の居場所に繋がりそうなヒントはいくつか隠されている。如何にそれを探し出すか。見つけたヒントを分析する能力、そして隠れた俺を見つける勘の良さを……見れればいいなぁ!

 ま、最悪俺を見つけられなくても所詮余興。二次試験が不利になるが所詮それくらいだ。不利のままでも合格出来る奴だっている……だろ、多分。

 そうこうしてると、最初に駆け出した奴等がまた戻ってきた。

 

「おい、居たか?」

 

「駄目だ、放送室には居ねえよ兄ちゃん」

 

「ちっ、グリード=ダイモーン……か。なんでも、一ツ星(シングル)とはいえ実力は大したことはねえらしい。こんな狭い飛行船の中なんだ。手分けして探しゃ一日で見つけられる筈だ!」

 

「……ウモリ、イモリ。見つけたら連絡寄越せ、手分けして探すぞ!」

 

 そう言ってバラバラに分かれ探し始める3人組。なんかダメそうな雰囲気漂ってますわぁ。まあ、来年頑張ってね!(無責任)

 

 そうして、かくれんぼスタートから一時間ほど。いまだに俺を発見出来た受験者はゼロ人だ。俺が退屈になってきた。

 そもそも、俺も本気で隠れていないのだからいい加減一人くらいは俺に気がつくべき。今年の受験者は受験番号49番以外は『念』を使えない……のか?まあ、『念』を使えなくてもヒントさえ見つけられればいくらでもやりようはある。

 いま飛行船に乗っている事務員もヒントの一つ。奴らには『受験者から聞かれたことに対して、嘘を言ってはならない』と言ってある。ま、聞き込みは捜査の基本ってね。聞かれたことに対して嘘を言ってはならない、だから正しい情報かそうでないかの取捨選択は受験者がしなければならない。まあそもそも正しい情報を貰えるかどうかは受験者の人柄やコミュニケーション能力、対価次第だろう。情報に対価は付き物、どうやって対価を払うか。

 

 そして……

 

「おいテメェ!痛い目を見たくなければ試験官が何処に隠れているか吐け!!」

 

「だから知らないって言ってるっす!」

 

「へえ、なら腕の骨を折っても同じこと言えるのか?」

 

 まあ、こんなのも現れるわな。まったく、面倒事を起こすなってんのに……。

 まあいいわ、実力の伴わない脅迫の代償はいつだって同じ。事務員も一般人には負けない程度の実力はある。『脅されたら返り討ちにしても構わない』とも伝えてある、適当に倒して、貨物室に叩き込んでおけば後で俺が飛行船から突き落として終了。『騒ぎを起こすと飛行船から叩き落としてやる』っていっただろうが。哀れ名も知らぬ受験者、ここで失格。

 

 それから更に一時間後、休憩ついでに貨物室に叩き込まれていた受験者数人に『騒ぐなっていっただろ?来年頑張ってね(意訳)』と伝え、飛行船から突き落とした。

 すると、後ろから近づいてくる気配が。あえて気がつかない振りをして、接触してくる瞬間振り向き、蹴りを入れる。

 

「っ!ちょっと!攻撃してくるなんて聞いてないわ!」

 

「わざわざ攻撃しますよと言って攻撃するバカが何処にいるんだ」

 

「かくれんぼの最中じゃないの!?」

 

「かくれんぼで攻撃したっていいじゃない。ハンターだもの」

 

「何をいってるのよ」

 

 振り向いた先には、特徴的な帽子を被った受験者がいた。珍しい事に女だ。

 

「まあ、今のおざなりな蹴りを直撃ってたらまた隠れてたがな。受験番号246番、どうしてここにいる?」

 

「あら、親切なコックさんに教えてもらったわ。『試験官が今いる場所は知らないけど、必ず訪れる場所がある。』ってね」

 

「ほー。よくまぁ丁寧に教えてもらったなぁ。よし、まあokとしよう。さあ、後は俺に接触して『試験官捕まえた。』と言うだけだ」

 

「じゃ遠慮なく」

 

 そう言って、俺の腕を捕まえようとする受験番号246番。俺は腕を引いてかわす。腕を伸ばして捕まえようとする受験番号246番。足を引いてかわす。

 

「ちょっと逃げないでよ!合格なんじゃないの!?」

 

「誰が合格って言ったよ。俺はもう攻撃しないし、この部屋から出ない。そんなハンデを背負ってやろう。さあ捕まえてみな」

 

「あーもープロハンターってひねくれた人ばかりね!怪我しても知らないわよ!?『行け!』」

 

 そう言って受験番号246番は帽子を弾く。すると帽子から蜂がウゾウゾ現れた。うわキモッ。

 

「この子たちに刺されたくなかったらおとなしく捕まりなさい!」

 

「お前さてはそれ使って事務員脅したな!?」

 

「脅したなんて人聞きの悪い。ちょっと取り囲んでお話しただけよ!」

 

「それを脅したって言うんだよ常識的に!」

 

 蜂に刺されるのは嫌だ。アナフィラキシーショックで死ぬようなヤワな鍛え方してないが、気分的になんか嫌だ。

 ブンブンシャカシャカと飛び回り、俺に向かってくる蜂共。包丁一本で何とでもなる脅威だが、ただの余興でこれ以上受験者のネタを割るのは気が引ける。はあ~。(クソデカため息)

 刺されるのは嫌だが、かといってただの受験者ごときに後れを取る感じがするのも嫌だ。どうしたもんかね。

 

 偉い人は言った。『逆に考えるんだ』と。

 

 そこで俺は『絶』をして、ブンシャカ蜂の間を通るように直線で受験番号246番に接近。そのまま通り過ぎた後受験番号246番の襟を引っ掴んでブンシャカ蜂の檻を抜け出す。この間約1秒(大本営発表)

 

「……えっ!?な、いつの間に!?」

 

 やっぱ一般人相手に『絶』は強いわ。相手の無意識に潜り込んでやりたい放題だし。*1

 ま、こんな所にしておいてやるか。いい加減にしとかないと延々と蜂を差し向けられるかもしれん。

 

「くっ……『試験官捕まえた』っ!」

 

「ハイ捕まった。試験官を捕まえられたご褒美だ。ほらよ」

 

「……何よコレ」

 

「解毒剤」

 

「……は?」

 

「お前、食堂でメシ食っただろ?昨日、今朝に振る舞われた食事は遅効性の毒(美味)をたっぷりと使って作ったモンだ。二次試験が始まる直前か、遅くても始まった直後くらいに強烈な腹痛、眩暈、吐き気が襲う……まあ、死にはしない。毒に耐性があるんならある程度は我慢できるだろう、ある程度は、な。そこで、俺を捕まえられた受験者にはこうして解毒剤を渡す訳だ。片や最悪のコンディション、片や万全のコンディション。中々考えられてるだろ?」

 

「……は、はぁ」

 

「この解毒剤は一錠飲めば即効、ただし一錠しか渡さない。落としたり、盗まれたりしても知らん。今すぐ飲んでも良いが、今日の昼、夕飯、そして明日の朝飯も毒入りだからな、食わないで二次試験に挑むも良し、しっかり食って挑むも良し、好きにしな」

 

「つまり、今飲んでも明日の食事の毒は解毒されない……って事ね」

 

「ちなみにだが、その解毒剤を使わないで二次試験を合格出来たら……まあ、良い事があるかもなぁ?」

 

「何よ良い事って」

 

「それは秘密です。ま、腹痛も眩暈も吐き気も、最悪我慢出来なくはないかもしれない程度には抑えてある。挑戦してみるだけしてみな。結果二次試験を突破出来なくても知らんが」

 

「何よそれ!」

 

「まあお楽しみにとっときな!それと俺の居場所は他の受験者に教えんなよ?じゃあな!」

 

「あっちょっと待ちなさい!」

 

 聞かん。再度『絶』をして隠れる……飛行船の外に。

 『絶』をしながら飛行船の外に居るのはちょっとしんどいが、まあ耐えられない事も無い。飛行船内に仕掛けられた小型カメラや小型マイクの様子を確認する、うん、異常なし。

 こんなモン(カメラやマイク)無くても飛行船の中の様子ぐらい確認できるが、あればより詳細に確認できるのは確かだし、そもそも飛行船内にヒントを残しておかないと、外に居るなんて発想が出る訳が無いし。

 カメラやマイクがあちこちに設置されている。つまり(実際には必要ないが)カメラやマイクを設置しなければならない理由がある、隠れながら移動している訳ではない、等の推測が出来る。後はとにかく情報収集、それと勘を頼りに俺を見つけることが出来るかという話だ。

 他にもあえて置いてある携帯食や、命綱、鉤爪ロープ等の装備類をほんのり隠しておいてあり、勘の良い奴、発想が柔軟な奴は俺が外に隠れ、定期的に船内に戻って休憩しているといった行動パターンである事を知ることが出来る。

 まぁ、俺を捕まえる難度は『H』以下だな、うん。正に試験に相応しい。いや、試験じゃないけど。

 

 

 次の日

 

 

 色々あったが、あれから約20人程が俺を捕まえることに成功し、3人程解毒剤を紛失するポカをやらかした。ウケる。

 飛行船から突き落とした数?一々数えてられるかよめんどくさい。

 

 時間は正午。飛行船は予定通り『ビトイ山』の山頂に到着する。

 

『あーテステス、本日も晴天なり。さて受験者諸君、この飛行船はようやく二次試験会場に到着した。ただいまをもって余興は終了とする。今から30分以内に飛行船から下船し、待機しろ。30分以内に下船出来なかった受験者はそのまま失格。飛行船と共に再び空の旅に行ってもらおう。さあ降りろ、降りろー』

 

 録音していた音声が飛行船内のスピーカーから発せられ、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10秒経過。と機械的にカウントが開始する。

 カウントが始まると受験者達は一斉に下船口に移動を開始する。あ、一斉じゃないわ。頭痛や眩暈でマトモに動けない奴等。トイレに籠って出られない奴等。辛い顔をしながらフッラフラで移動する奴等。何事もなくすまし顔で移動する奴等と分かれていた。

 

 そして30分後、飛行船が再度空に飛び、あとに残ったのは約70名程度の受験者と俺だけになった。

 

「さて、お前ら。ここはアマダレ地方のビトイ山だ。見ての通り雲より標高が高い。麓の方が見えないだろうが、深~い樹海が広がっている。さて、そこで二次試験内容。『48時間以内にここからまっすぐ南東にある島に到着すること。』これが試験内容だ。ビトイ山もアマダレ樹海も、危険な魔獣やUMAが出る訳じゃない。むしろ一般人の出入りが規制されてないほどに安全な場所だ。まあ、本気でハンター目指している奴が死ぬような場所じゃないって事だ。はい、スタート」

 

「ま、待て!何か目印か何か無いのか!?」

 

「目印無しに樹海の中をまっすぐ進むなんて不可能だ!」

 

「甘ったれるな馬鹿。無理なら登山道が南東に続いている事を祈って進めば?」

 

 じゃ、俺は寄り道してから向かうから。と言って西の崖を飛び降りる。

 視界の端で歯噛みしていた受験者がいたが、まあおおよそ俺の後を付いていく算段だったんだろう。そんなことより、急いだ方がいいぞ?ちんたら歩いてたら、2日どころか1週間たっても樹海を抜けられやしないんだから。

 

 さて、寄り道である。崖から落ちながら、突き出た岩を蹴るように加速。広がる雲海に入る際に『堅』をして、ダイナミック着地。ここら辺の地質は非常に柔らかい、というのが事前の(協会事務員による)調べで分かっていたからこんな方法を取ったが、普通の岩肌にダイナミック着地するなんて発想はない。さすがにね!

 アマダレ地方は一年を通して分厚い雲に覆われ、晴れる日は『神が地上に降りる日』のみ、だそうだ。つまり百年単位で晴れない。

 そんな場所故に、この地に生息する動植物も特異な進化を遂げている。ただ、生息地域が広く、生息数もかなり多いから『保護地区』ではあるが一般人の出入りは規制されていない。なんだったらこの地区の動物の毛皮が土産屋で販売されているレベル。保護ってなんだよ。

 とまあ、特異な場所ではあるが一般解放もされているので、俺みたいにハンター証を持っていないハンター(プロ)でも簡単に試験場所として使える。

 

 まあ、出不精な俺はこういった機会でもないとこんな遠くまで来ないし。むしろ俺の本命は寄り道である。

 アマダレ地方の特異な動植物。狩猟するのに許可は必要だが、プロハンター故に簡単に許可が降りた。ならやることは一つ。

 

 新たなグルメを求め邁進するのみ!

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 何故、アマダレ地方は常に分厚い雲に覆われているのか。偉そうな学者がアレコレと理由をつけているが、そんなことはどうでもいい。俺にとって、美味いか美味くないかが最も重要な事。

 前、メンチに『雲いる?』と聞いたら、『雲なんて食うモノ(くーもの)じゃないでしょ』とかほざきやがったので『硬』でシバいてから加工した雲を食わせてやった。

 『雲は食うモノだろドヤドヤ』って言ってやったら顔真っ赤にして逃走した。まさか無意識で親父ギャグ言ってたなんて……メンチのオヤジ化が進んでますねぇ。元からか。

 

 さて、雲である。ククルーマウンテンで採集した雲は、加工するとふわモチッとした食感で中々に楽しかった。だが味自体は非常に薄味だったのが良くなかったな。アマダレ地方の万年雲はどんな味か、いざ実食。

 先ずは普通に刺身。ササッと切って口に入れる……っ!

 

「もっちり食感でこの味の濃さ!」

 

 舌触りはメレンゲのようにふわりと軽く、歯ごたえはそれこそつきたての餅のように柔らかい。そんな軽さで、味はまるで醤油をそのまま飲んだかのような強さである。しょっぱい。

 生でこれなら、火を通したらどうなるのか。早速試そう。

 

 

 

 

 色々試してみて思ったことは、『食材というよりは調味料に近い』だ。加工した雲を焼くと、どろどろと溶け、風味は香ばしくなる。煮たり揚げたりは雲の性質上向いていない。以外にも、蒸すと加工した雲が膨らみ、味も優しく変化した。だが歯ごたえがほぼ無くなっていた。

 中々に面白い食材だった。料理の味付け用に多目に採集しとこ。

 

 さて、雲だけで1日がつぶれそうなので急いで移動を再開する。分厚い雲を突き抜け山を下ると、目に入るのは真っ赤に染まった樹海。アマダレ樹海だ。別名『クリムゾンフォレスト』。なんでも、分厚い雲の下、僅かに漏れ出た太陽光で効率的に光合成をするために赤いだとか、神が降りた日に血の雨が降るから赤いだとか。詳しくはしらーん。

 赤い、木である。紅葉したとかじゃなく、元々赤い木だ。つまり、普通の木とは違う味かもしれないということ!ならやることは一つ!食う!

 

 むしゃり。

 

「ウゲッ、苦!」

 

 真っ赤に染まった葉っぱを齧ってみれば、煎ったコーヒー豆よりも苦い。そして、噛めば噛むほど現れる苦味とエグみとのハイブリッド。つらたん。しかも一口分、葉っぱ一枚でこれだ。

 ならば木の枝ならどうだろうと齧ってみれば、今度は強烈な臭み。そして、苦みとエグみとのハーモニー。まじつらたん。

 では木の幹はどうかと木を切り倒し、木の皮ごと齧ってみれば今度は強烈な酸味。そして、苦味エグミ臭みも揃って奏でるオーケストラ。舌が死ぬ。

 まるで、ゲロを濃縮して爆発させたかのような味覚の殺意に気が遠くなるが、気を確かに持ち直し、熱を通したら木が変わるか試す。

 

 

 ただ一つ判明したことがある。煮ても焼いても食えない事はないが、積極的に食いたいものではない物もあるということが。

 萌え出たばかりの芽も、成長しきっていない若木も、枯れる寸前の老木も、味の濃淡は有れど総じて味覚を殺しにきている。

 なんか悔しいので、バラバラに加工したクリムゾンフォレストを『ポケット』に入れ、サンプルとして若木を生きたまま持っていく事にした。『なんでも美味しく料理する』という看板を下ろす気はまだないぞこのやろー。

 

 日没の時間だが俺の『(ハント)』は終わらない。まあ、日没といってもこの地域に太陽は昇らないし没しもしないんだが。

 星明かりを遮る分厚い雲から雨が滴り落ち、辺りを暗黒と静寂に包む。自分の掌すら見えない黒の世界でも、俺のやることは変わらない。不得意ながら『円』で周囲を探り進む。

 木の次は草、そして虫や動物を発見次第片っ端から狩って食う事を繰り返した。そのどれもが特徴的な味を持っており、美味く料理しがいのあるクセの強さだった。

 

 そうして、夢中になって狩を続けて……気がつけば辺りは明るくなっていた。(とはいえ厚い雲がかかったままではあるが)

 やー、今日も良い仕事をしたなあ!帰って寝るか!

 

 

 

 

 

 

 ハンター試験の最中だった事を思い出したのはそれから12時間後。そして三次試験会場に到着したのは更に12時間後であった。

 おかしいなあ、当初の予定なら余裕を持って現地に到着するはずだったのに……何が悪かったんだ!?

 

*1
そんな事が出来る奴は非常に限られている。




強いて言えば頭が悪かったんだ。


「僕は毎話数千文字は書いているだろう?」

「なら、読者も感想を数千文字書かないと割に合わないじゃないか!」

「いや、そのりくつはおかしい。」

はい。と言うことで感想をくれ。毎話くれ。さもないと原作者リスペクトするぞ。(悪質なクレクレ厨)
うそうさぎ。

「自分は感想書かないのに読者に感想を求めるなんて、浅ましいぞ!」

「やかましい!」

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