「今日から正式にお世話させて頂くことになりました!よろしくお願いしますね?パトリックさん!」
執務室から出ると、満面の笑みで輝くステアが立っていた。
「……ハァ……別にそんな世話される事なんてない。手さえ帰ってくれば自力で生活出来るし」
「でも、まだメンテナンス中なんですよね?少なくとも今は手が必要だと思うんです」
ぐっ、と拳を握って力説する。
顔が可愛いからイマイチ締まらない。
「決まったもんは仕方ないし……その、なんだ……
「………(ぞくっ)」
あっ、まさかコイツ……頼むってワードに反応して恍惚としてないか?
早速先行きが不安になってきた。
「さぁパトリックさん、まずはお風呂に入りましょう」
「まだ昼前だし……義手の調子を見たいから工廠に行かせて欲しいんだけど」
大丈夫かなぁこの子。
心配になってきた。
……廊下の外、何かが飛んでいった。
「……今のは?」
「え……ああ、TAC-50さんの楓月ですね。たまにああやって飛行練習させてるみたいです」
「飛行練習、ね……」
やけに見かける気がするが、気のせいだろうか。
「それじゃあ、工廠に向かいましょう」
――――
「来たな、坊主。腕は終わったぞ」
「ありがたい」
やっぱり腕が無いって不便なんだよなぁ……歩きにくいし。
人形用のメンテナンスベットに寝転ぶ。
両サイドに人が立ち、それぞれが俺の義手を持っている。
「同時に行くぞ」
「優しく頼むわ」
「せー、のっ!」
「……っ!!!っけ、はっ……!!」
神経接続をする度に襲ってくる激痛。
慣れはするが、やっぱり痛いもんは痛い。
「大丈夫ですか!?」
「はっ……は……っ……っく、はぁっ……平気だ、慣れてる」
「動くか?坊主」
「ちょっと待ってくれ……」
両手を持ち上げて、手を開閉させる。
ラグもなくしっかり動く。
「問題なさそうだな」
「助かってる」
「良いってことよ。その義肢のお陰で人形達にもフィードバック出来る技術盗めたしな。次もタダでメンテしてやる」
「そいつは、ありがたい」
立ち上がり、片手で逆立ちする。
「よっ……」
両手を床に着けて、腕の反動で飛び上がり一回転して着地する。
「良いね、動作も軽い」
「しかし……その義肢、
整備士のオッサンに指摘される。
まぁ確かにこの通りである。
この仕様のせいで、ハッキングに精通した人形やハイエンドモデルは俺の天敵になる。
「ある意味首輪みたいなもんかな。俺の上司、ハッキングが得意な奴だったから」
「……なるほど?腕っぷし強い奴への抑止力か……難儀だな」
「慣れたよ」
これで、タンクトップ以外の上着も着れるな。
「それに、オーバーヒートしたら強制パージか……まだまだ発展途上ってとこか」
「熱対策はどうしても難しいんだと。俺としちゃ排熱して顔に蒸気かかるのが嫌なんだが」
あの蒸気クソ熱いんだよなぁ……。
前が見えなくなるし。
「いっそ残りも義肢化した方がマシかもな」
オッサンが笑ってそういう。
……琴線に触れ、激怒しそうになるのを抑える。
「こんなんでも、俺は人間だ……まだ、人間でなくちゃいけないんだ」
「……失言した」
何となく、気不味く別れてしまった。
――――
「こちらが、パトリックさんの部屋になります」
夕方。
俺が寝かされていた部屋に案内される。
「夕食は食堂で食べられますよ。時間は1730からです」
「あいよ」
部屋を見回す。
簡素な机と椅子、ベッド……そして、空の水槽だけがある。
「何故、水槽が?」
「指揮官が観葉目的で各部屋に設置したんです」
「……昔から生き物の世話するの好きだったからな、アイツ」
その生き物の世話に俺も含まれてるんじゃないかってちょっと考えた事もあった。
……向こうは100%善意で接してくれているのにね何を失礼な事を。
「出先で保護したら申請を通せば飼えるそうですよ」
「ふーん……考えとくわ」
「はい。それでは何かあればこれでお呼び下さい」
ステアから携帯端末を渡される。
登録されている連絡先はリリスとステアだけ。
「それでは、明日から一緒に頑張りましょうね!」
「………………あ、ああ……………その、なんだ」
こういう時素直に言葉が出ない。
ステアが何を言うのか待っている。
「よ、よろしく……頼む……」
やっと絞り出した言葉は、なんの変哲も無い一言。
「……!はい!」
それでも、彼女は笑顔で応えるのだった。
プロローグがこれで終わった感じですかね。
何か登場する人形の希望などありましたらお気兼ねなくどうぞ。
感想お待ちしております。