もう後は逃げるしかない。
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!」
走って逃げる。
後ろからダイナゲートが追いかけて来る。
結局、こいつらに捕捉され中隊から追い回されている状況に陥った。
さっきからライフル狙撃も受けている。
となるとイェーガーが居る。
狙撃される地点から位置を割り出せるかと思うが背後からの追跡が激しい。
どうする、どうする……!
主力の為にダイナゲートは削っておきたい。
ライフルがメインのS-13基地の戦力だと少々手こずるからだ。
射線を切る為にビルの中へ転がり込む。
「くっそ、何か、何か手は……」
飛行ドローンのスカウトが飛び回る音がしている。
ここが見つかるのも時間の問題か。
「撤退戦力なんだから多少は削ってる筈だろ……多くね?」
ボヤいても仕方ないと分かっていても愚痴は出る。
このまま通り過ぎてくれないかなーと淡い期待をしながら外を見ると、奴ら、出待ちしている。
「八方塞がり……ここで救援を待つか」
既に充分な時間は稼いだ。
装備さえ来てくれれば正面切って戦えるのだが……。
瞬間、壁が吹っ飛んだ。
瓦礫が飛んでくるので顔を庇う。
「うぇ……」
今のは迫撃砲か?
となるとジャガーまで居るのかよ。
ほんと何でもありだな。
大穴が空いた壁からぞろぞろと鉄血が雪崩込んでくる。
離脱だ、離脱する!
……脇腹に一発貰ってしまった。
「ぐっ……?!」
地面に転がる。
しかも運悪くビルを出た瞬間……つまり、囲まれている。
あ、死んだわ。
無数の銃口が俺を向いている。
時間がゆっくりと流れるように錯覚する。
俺は……目を、閉じ、
「用意、撃て」
そんな声が聞こえたかと思えば、目の前に居た鉄血兵が吹っ飛んだ。
「うおっ……!?榴弾か!?!」
「見つけたにゃ!!動けるかにゃ?」
「えっ」
榴弾による混乱に乗じて、金髪の語尾が変な人形が目の前に滑り込んできた。
何とか立ち上がる。
「うわっ、脇腹から血が」
「大丈夫だ、浅い……」
「こっちにゃ!」
人形が走り出したので着いていく。
そいつは身軽な動きでスイスイと瓦礫の間を縫っていく。
「着いたにゃ」
「っ、くぉ……!」
バランスを崩して転がる。
やはり、脇腹が痛む。
「い、つつ……」
「大丈夫?」
「ああ、何とか……え、アンタさっきの」
「えぇ、さっきぶりね」
ワインレッドの髪の美女が、俺を見下ろしていた。
「WA2000……」
「全く、無茶するわね……」
「動かないで下さいね」
「え、あぁ……」
白い髪に赤いベレー帽の人形が手当してくれていた。
……オイオイオイこいつ下がシースルーで丸見えじゃねーか。
「GrG3、蹴散らせたわね」
「はい、準備出来てます」
「IDW、引き続き時間稼ぎ」
「合点にゃ!!」
「さて」
WA2000がひと呼吸置いて、通信を始めた。
「ジョージ、こっちはOKよ。ええ。
ヘリのローター音。
上空から、何かが来る。
『タイタンフォォォォォォォォル!!!!』
そんな叫びと共に、
「ぬわぁぁぁ!?!!?」
天井を突き破って、何か降ってきた。
それは、人の形をしていた。
『指揮官、救出対象を視認。負傷しています』
「そうか……おい、坊主。立てるか?」
「坊主って……馬鹿にすんなオッサン」
「元気そうだな。あのお嬢さん、心配してたぞ」
「………………」
自覚があるので言葉が出ない。
妙な外骨格を纏った男はつづける。
「ま、人々を想っての行動か……よくやった。後は任せろ」
軽く頭を叩かれて、男は通り過ぎた。
不意に、立ち止まる。
「そうそう」
「……あ?」
「嫁が世話になったな」
「じゃあ、アンタ……」
「ああ、俺は」
ヘルメットのバイザーを上げる。
青色の瞳が俺を貫く。
「S-12地区指揮官、ジョージ・ベルロックだ」
タイタンフォール。
形勢は逆転だ。