ジェリコに珍しく頼み事をする。
「……『ピースキーパー』に関する技術読本の要点を纏めて欲しい、ですか」
謹慎生活に飽き飽きしていた頃。
食堂でたまたまあったジェリコにふと思い付いた要望を投げかけた。
「そうなんだ」
「まず第一に、技術と言うのは要点なんてものはありません」
対面に居たジェリコが手にしていたフォークを置いた。
「資料をまとめて持ってきてくれるだけでもいいんだ」
随伴が居ないと自由に出歩けないので、資料室にも行けない。
と言うか未だに資料室に入れてもらえない……。
「第二に、何故私にそれを頼むのです。それこそIWS2000が貴方の世話をしたがっています。彼女に頼めば良いじゃないですか」
「何故って……だって、ジェリコの教え方は分かりやすいんだ」
「……は?」
ジェリコの教育はどちらかと言うとスパルタ寄りである。
だが、厳しい故に分からないを放置しない。
しっかりと、疑問を一つずつ潰し、親身になって教えてくれる。
……良い教育を受けた覚えが無い身からすると、ジェリコの教育は俺にとってとても貴重だ。
実際、その教育のお陰でブルートの小隊を無手で撃破している。
「頼むなら、俺はジェリコが良い」
「そ、それは……嬉しい、ですけど……」
「……?」
ジェリコが顔を赤らめてゴニョゴニョと呟いている。
……食器のトレーを手に取り勢い良く立ち上がる。
「……良いでしょう。私は厳しいですよ?覚悟の準備をしておいて下さいね」
「???俺はいつも覚悟完了だが」
「それでは!」
そそくさと歩き去って行った。
何となく上機嫌そうなのは目の錯覚だろうか。
「こんにちはリック〜今日もいっぱい食べてるね」
そんなジェリコの去った席に、ドカッ!!と特大サイズのハンバーガーの乗った皿が置かれた。
視線を上げると、特盛の胸部装甲にふわふわと笑う顔が乗っていた。
「SPAS」
「やっぱり男の子はたくさん食べないとね」
SPAS-12。
カテゴリーはショットガンタイプの戦術人形。
部隊の壁となり強敵を食い止める役割をする。
……なぜか俺はグリフィンの戦術に則るとそのショットガン人形のポジションに置かれる。
まぁ確かに主武装がブレードにショットガンならそうなるけど。
そのため、よく最前線で背中を預けるのがこのSPAS-12なのだ。
本人の暴力的なボディラインと裏腹にどことなくマイペースで、食に関しての話でウマが合うので割と気楽に接せる貴重な相手の一人だ。
「お前にゃ負けるよ」
「そう?そのパスタ五人前でしょ?」
フォークで弄んでいたカルボナーラをいい加減口に入れた。
「まぁ、俺も燃費悪いし」
義肢を稼働させるのに生体電流だかなんだかを使うから、激動後は腹が異様に減る。
「わかるよ、その気持ち。私も戦闘するとお腹ペコペコなの〜」
「ふーん……あ、今度さ、前に行ってたファストフード店教えてくれよ」
「え?いいよ〜じゃあ一緒に行こうね」
「OK」
「パトリック·エールシュタイアー!いつまで食べているのですか!いい加減戻りますよ!」
「ゲェーッ!?G36!まだ半分しか食ってない!」
「喋ってないで早く食べなさい、行儀が悪いですよ」
「はいはい……」
「はいは一回!」
G36に急かされて飯を掻き込むのだった。
ちなみにピースキーパーは、ゲーム『タイタンフォール2』の30年後が舞台である『Apex Legends』と言うゲームに登場する架空のショットガンです。
勘違いされがちですがTF2には存在しない武器になります。