水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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待っていたのは、拳と小言と説教と罰と妹。

……妹?


第37話『唐突に増える妹』

S-13へと帰還した俺に待っていたのは、ジェリコの拳とリリスの説教と、減給。

 

これ以上懐事情が寒くなるのは本当に拙い。

帰るに帰れなくなってしまう。

 

そして、何より問題なのが……。

 

「駄目だボウズ。直らん」

「えっ……嘘だろ!?」

 

義手が、直せない。

左の二の腕から先がハンターにより切断されてしまった。

 

この腕をくっつける事が、ここでは出来ない。

 

「いくらその腕の中身を把握した所で再現は難しいって事だ。IOPなら或いは……ってレベルだよ」

「マジかよ班長……あんたでも無理なのか」

「くっつけるだけならな……以前のままのパフォーマンスは正直厳しい」

「そうかぁー……」

 

IOPか……こっからだと長旅になる……と言うかリリスが許してくれるだろうか。

 

「あー……それとさ」

「拾ってきた人形の事だろ?」

「うぐ……」

 

バレてた。

正直腕のことと彼女のことは半々の比率で今日整備班を訪ねたのだが。

 

「今はメンテナンスモードだ。ただ……メンタルが相当弱っててな……再起動しても以前と同じ様に戦えるかどうか」

「そう、か……」

「ボディもチェックしたが、脚がもうあのまま調整した方が良いほどめちゃくちゃにイジられてる。……いっそ記憶を消した方が良いかもしれんな」

 

……一旦初期化し、新たに戦術人形としての人生をやり直す。

それが救いの様な気もする。

自分を苛む状況をすべて忘れられるのだから。

 

だが、彼女はそうしなかった。

彼女は、自分の記憶を残すようにリリス指揮官へ嘆願していた。

 

理由は……忘れたくない、と。

基地で過ごした仲間たちの事を忘れたくない。

そう彼女は語り、笑った。

 

「アイツが選んだ道だ。きっと、銃を取るだろ」

「そう思うか、お前は」

「ああ……」

 

左腕を基部だけ残して外す。

正直動きもしない重りだけぶら下げてても仕方が無い。

 

「一応、指揮官には報告しとく」

「頼む……俺から言っても聞いてくれなさそうだ」

「あの指揮官があそこまで怒るのを、俺ぁ初めて見たよ……」

 

取り乱して泣き喚きながら怒られたよ、ホントに。

 

「そういや今日新しい人形が配属されるな」

「そうなのか?」

「ああ。タイプはショットガン。今頃は指揮官との顔合わせも済んでる頃だろ」

 

ショットガンか。

俺がしばらく使い物にならないから戦力……というより前衛の補充だろうか。

SPASみたいに付き合いやすい奴なら良いんだけど。

 

何だかんだ前衛を並んでやるからには気が合う方が良いに決まってる。

背中を預ける奴だからな。

 

「ボウズが持ち帰ってきたカタナだけどな、アレ……どうにもIOPの試作品らしい」

「何で!?」

 

戦術人形メーカーが何で近接武器なんか作ってんだよ!?

 

「鉄血のハイエンドに接近された場合の最終手段として、の試作品だそうだ」

「アレに近付かれたら普通の人形だと即お陀仏だろ……」

 

アルケミストもエクスキューショナーもハンターも、グリフィン側の戦術人形達と比べるとやはり抜きん出た性能をしていた。

 

「まぁそう思うわな。お蔭でこいつ一振りだけの生産に終わってS-12……借金指揮官のトコへ送る予定だったらしい」

 

S-12……聞き覚えがあんなぁ。

最近知ったけどIOPの試作品を片っ端からデータ取りさせられてるモルモット部隊があそこに居るらしい。

 

「それが、これか……」

 

作業台の上に置かれた一振りのカタナとその鞘。

鞘に銃のようなトリガーとカートリッジが付けられている。

 

……炸薬の衝撃により加速、驚異的な抜刀速度を重視する。

完全に不意打ち用だ。

 

あの時ハンターに腕切られた時も全く反応出来なかった。

 

名前は確か……。

 

「ジェットストリーム」

「試作炸薬加速機構搭載抜刀剣、と名打たれてるがな」

「……あんだって?」

 

わざわざカンジでそこまで書かなくても。

 

「失礼します」

 

そこで、整備工廠に誰か入ってきた。

今はほとんど出払っていて班長と俺しかいない。

 

入ってきたのは……腰まである長い黒髪の女だ。

よく見ると赤と黄色のオッドアイ。

髪も毛先の方は白くなっている。

 

瑞々しい太ももが眩しい。

 

ここまで整った外見をしている……って事は十中八九人形だ。

 

「お前さんが新しい人形か」

「はい!ご挨拶に参りました!」

 

真面目な奴だ。

もしかしたらソリが合わないかもなぁ……。

 

「私はM1014と申します!呼びにくければベネリかライオットとお呼びください!」

 

……ライオット?

俺の視線に気付いたのか、彼女が俺の方を向く。

 

「……貴方は?」

「え?ああ、俺?パトリック·エールシュタイアー。遊撃兵みたいなもんかな」

「ぱと、りっく……」

 

M1014と名乗った人形が、噛み締めるように俺の名前を呟いた。

 

「……兄、さん」

 

………………はい?

 

 

 




そんな訳で、パトリックが預けたライオットガンが人形になって帰ってきました。

これでS-13地区のメンバーは出揃いました。
これ以上は増えません。

果たして、パトリックの腕は直るのだろうか。

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