「りっくん。貴方をIOPへ送ります」
その一言を聞いた瞬間、俺は内心ガッツポーズをした。
「……と、言うと?」
「貴方の義手について……16Labから返答が来ました。1週間もあれば直せる見込みとの事です。なので技術提供も含めて向こうへ行ってもらいます」
「1週間向こうで泊りってことか?」
「……その通り」
めちゃくちゃ不服そうにリリスは頷いた。
「……ま、お荷物は居ない方が良いだろう。そっちもS-14での件もあるだろうし……万全になって戻ってくるわ」
「お荷物だなんて……!!」
リリスが立ち上がって声を荒げる。
……俺は、優しく肩を掴んで座らせた。
「良いんだよ。治ったら、戻ってくるから」
「……終わったら、今度どこか行きましょう」
「良いよ。SPASに良い店聞いておく」
「……別に、ごはんだけじゃないんだけど……」
「そうか?美味いもん食って元気出そうぜ」
「……馬鹿」
「なにおう!?」
さて、これで思惑通りIOPへ行くことが出来る。
義手さえ戻れば元通りの生活に戻れる。
動けるようになれば……あの剣、ジェットストリームを振る事が出来る。
あの剣を使ってみたい、使いこなしてみたいと俺は思っている。
戦いにおいて手数が増えることが歓迎すべきだ。
俺は、強くならなきゃならない。
結局、俺が戦った鉄血のハイエンドモデル達は……俺がトドメを刺していない。
俺が倒していないのだ。
(あいつらに、勝ちたい!)
全て消化不良。
だから、俺は勝ちたい。
「……りっくん?」
「え?……ああ、いや」
「そう……初日は私が同行します。説明もあるからね」
「了解。で、いつ出発するんだ?」
「今」
「……えっ?」
え?
――――――――――――
ヘリに揺られる事8時間。
IOPと呼ばれる戦術人形製造メーカーの工廠に、俺たちは来ていた。
「……長かった」
ため息を吐く。
こんな長い移動は久しぶりだ。
「それでは、パトリック。今回貴方の担当をして下さる方に面会します」
リリスも完全に余所行きモードだ。
後ろにいる護衛はSPASとベネリが来ていた。
俺も含めると前衛3人組である。
……そして、俺は背中にトムボーイとピースキーパー、腰にパニッシャーとジェットストリームを担いでいる。
腕が治り、すぐに振り回せるように。
しばらく歩いて。
……武装を解除させられるかと思ったが、そうでもなく進む。
流石に不用心が過ぎる……かと思ったが、そんな事は無かった。
……明らかに実力のある人形達が警備しているからだ。
こんな所で安全装置を外そうものならあっという間に俺は取り押さえられるだろう。
(おっかな……)
俺も相当強いと自負はしている……が、そう思わずにはいられなかった。
まあ流石にこれから世話になる相手に刃を向けるつもりなんてサラサラないけど。
「パトリック、付きました。この先に……16Labの、ペルシカリアという方が居ます」
「その人が、俺の義手を……」
抱えていた箱……。
俺の切られた左腕の一式。
これをくっつけて貰うのがやはり手っ取り早い。
「失礼します」
リリスはお構いなく部屋に入ってしまった。
俺も後に続き……。
唖然とした。
「ホァ……」
書類が、めちゃくちゃ散らばっていた。
これは、珈琲の匂いだ。
お世辞にも整頓されているとは言えない惨状だった。
「……ん?」
そんな中で、猫の耳の様な物がぴょこんと動いた。
「あー、君ね。私はペルシカリア。初めまして……MIAした正規軍兵士さん」
めっちゃ隈のある女性だ。
いやでも凄い美人だぞ……あれ?
「……MIA!?」
エッ、俺死んだことになってる!?
パトリック、居なかったことになった。
次回、上司再び。