俺がMIAになって、混乱しなかった訳ではない。
でもよくよく考えたら確かにそうだ。
半年近く俺は連絡も何もしていないのだから。
(まぁ、そうだよなぁ)
替えの利く人形部隊の隊員が1体欠けただけ。
普通の人間ならそう判断するだろう。
俺は人間だけど。
でも上は俺も人形と同等に扱う。
だから、もう考えなかった。
俺は、俺を必要としてくれている人……家族の傍で剣を振るだけだ。
「パトリック。着きましたよ」
ジェリコが俺の肩を揺する。
舟を漕いでいた意識が覚醒してくる。
「んあー……着いたか……」
「……お疲れ様です」
「……珍しいな、普通に労ってくれるなんて」
「貴方は、それだけの事をしました。別におかしい事はないでしょう」
「それでも、だ」
結局、ジェットストリームはモノに出来なかった。
あの武器は、俺のスタイルに合わない可能性が出てきた。
片手で力任せに振る、それではだめなのだ。
何が足りないのか。
「はぁ……それで、戻ったらどうするつもりですか?」
「うん?そうだな……こいつの習熟かなぁ」
ジェットストリームをジェリコに見せる。
「日本刀にはあまり明るくはないので……私は指導出来ませんよ」
「そうか……どうしたもんかな」
今時、剣術の指南書なんてものが残っている訳もない。
……ジャパンなんてとっくの昔に滅んでる。
「独学じゃ無理だしな……ん?」
そう言えば、スコーチのおっさんが師事させるって。
「なぁ、ジェリコ。100式って戦術人形は知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。今S-13に駐屯していますよ」
「……え?居るのか?」
「……?はい、そうですね」
何てこった。
じゃああのおっさんは本当にこっちに寄越したのか。
いや、でも本当に剣術を教えてもらえるんじゃないか?
「……良い事を聞いた」
「はぁ……?」
鋼鉄をも切り裂く紅の刃。
これをモノにすれば、俺はきっと奴らに勝てる。
(俺は、強くなりたい)
もう二度と、目の前で誰かを失わい為に。
もう二度と、家族を目の前で死なせない為に。
リリスを、俺が守らないと。
「パトリック?」
「ん?」
「着きますよ」
ヘリは速度を落とし始めていた。
帰ってきたのだ、S-13に。
今日から、また訓練の日々を繰り返し、備えなければならない。
(力が、欲しい)
もっと力を。
純然たる筋力、馬力とかそういう話では無い。
「ジェリコ」
「何でしょうか」
「俺は、強くなれるだろうか」
「……貴方が自分を信じなければ、誰も貴方を信じません。強くなりたいのなら、なれると信じなさい。人間とは、そういう生き物です」
ここに来て根性論。
でも、俺としては理屈よりそっちの方が好ましい。
「そっか。じゃ、頑張るか」
俺は、まだまだ強くなる。