水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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混乱しなかった訳は、無い。


第41話『強くなりたい』

俺がMIAになって、混乱しなかった訳ではない。

 

でもよくよく考えたら確かにそうだ。

半年近く俺は連絡も何もしていないのだから。

 

(まぁ、そうだよなぁ)

 

替えの利く人形部隊の隊員が1体欠けただけ。

普通の人間ならそう判断するだろう。

 

俺は人間だけど。

 

でも上は俺も人形と同等に扱う。

 

だから、もう考えなかった。

 

俺は、俺を必要としてくれている人……家族の傍で剣を振るだけだ。

 

「パトリック。着きましたよ」

 

ジェリコが俺の肩を揺する。

舟を漕いでいた意識が覚醒してくる。

 

「んあー……着いたか……」

「……お疲れ様です」

「……珍しいな、普通に労ってくれるなんて」

「貴方は、それだけの事をしました。別におかしい事はないでしょう」

「それでも、だ」

 

結局、ジェットストリームはモノに出来なかった。

あの武器は、俺のスタイルに合わない可能性が出てきた。

 

片手で力任せに振る、それではだめなのだ。

 

何が足りないのか。

 

「はぁ……それで、戻ったらどうするつもりですか?」

「うん?そうだな……こいつの習熟かなぁ」

 

ジェットストリームをジェリコに見せる。

 

「日本刀にはあまり明るくはないので……私は指導出来ませんよ」

「そうか……どうしたもんかな」

 

今時、剣術の指南書なんてものが残っている訳もない。

……ジャパンなんてとっくの昔に滅んでる。

 

「独学じゃ無理だしな……ん?」

 

そう言えば、スコーチのおっさんが師事させるって。

 

「なぁ、ジェリコ。100式って戦術人形は知ってるか?」

「ええ、知ってますよ。今S-13に駐屯していますよ」

「……え?居るのか?」

「……?はい、そうですね」

 

何てこった。

じゃああのおっさんは本当にこっちに寄越したのか。

 

いや、でも本当に剣術を教えてもらえるんじゃないか?

 

「……良い事を聞いた」

「はぁ……?」

 

鋼鉄をも切り裂く紅の刃。

これをモノにすれば、俺はきっと奴らに勝てる。

 

(俺は、強くなりたい)

 

もう二度と、目の前で誰かを失わい為に。

もう二度と、家族を目の前で死なせない為に。

 

リリスを、俺が守らないと。

 

「パトリック?」

「ん?」

「着きますよ」

 

ヘリは速度を落とし始めていた。

 

帰ってきたのだ、S-13に。

 

今日から、また訓練の日々を繰り返し、備えなければならない。

 

(力が、欲しい)

 

もっと力を。

純然たる筋力、馬力とかそういう話では無い。

 

(パトリック)という存在そのものの強さ。

 

「ジェリコ」

「何でしょうか」

「俺は、強くなれるだろうか」

「……貴方が自分を信じなければ、誰も貴方を信じません。強くなりたいのなら、なれると信じなさい。人間とは、そういう生き物です」

 

ここに来て根性論。

でも、俺としては理屈よりそっちの方が好ましい。

 

「そっか。じゃ、頑張るか」

 

 

 

 




俺は、まだまだ強くなる。

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