「991……992……993……!!」
息を切らせながら、ひたすら上段に構えた剣を振る。
一昨日からずっとこれの繰り返し。
しかし、変わった事が一つ。
両手でカタナを握る。
片手で降っていたのを100式に見せた所、腹に蹴りを頂いた。
『いってぇ!!何しやがる!!』
『パトリックさん!良いですか!?刀は片手で力任せに振るものではありません!まずパトリックさんにはその剣に慣れてもらいます!毎日素振りを日課にしてください!1000回くらい!』
『1000回!?』
たくさん投げればいいボールが投げられる様になる、そんな昔の何の根拠の無い指導法みたいな事をさせられている。
ただ、余計な力が抜けて太刀筋がだんだん真っ直ぐになっている……気がする。
「せ、1000……!」
手から力が抜けてジェットストリームを落とした。
義手じゃなかったらとっくに手はマメだらけだ。
「はー、はー、やべ、しんど……」
「パトリック。お疲れ様」
「さ、さんきゅ……ねげぶ……」
隣でカウントしてたネゲヴから水を受け取る。
つめてー……。
「なんか、いつもより張り切ってるわね」
「そうか?」
「うん、好きな事やってる……そんな感じ」
「好きな事、か……」
確かにそうかもしれない。
「剣を振る事がやっぱり好きなのかな、パトリックは」
「かも……な……」
呼吸を整える。
100式に教えられたのは、力を抜く事と、呼吸方法。
いつもより腹に力を込める。
いつもより意識して吸う。
いつもより意識して吐く。
どうしてだろう。
何となく集中力が増すというか。
「パトリック、なんか変な息の吸い方するね」
「え?」
「シィィ、って言ってる」
「まじで」
「もう一回やってよ」
「やだ」
「あー、恥ずかしがってる」
「恥ずかしがってねぇし!」
「ならやって見せてよ」
「やらねーよ!」
義手を外してちょっと熱を抜く。
やっぱり籠もってしまう。
上着も暑いから脱ぎ捨てた。
「わ、ちょっと急に脱がないでよ!」
「あ?しゃーないだろ、暑いんだから」
「も、もう……」
ネゲヴが視線を逸らす。
チラチラ見てくるけど。
「ふ、ふーん……結構スラッとしてるわね」
「ガン見じゃねーかよ」
「沢山食べてるから正直もっと太ってるかと思ったわ」
「なんだろうな。食っても太らないって言うか」
どんだけ食っても今の体型から変化しない。
それ言ったらアリサに蹴られたっけ。
今でも納得してないけど。
………………アリサ。
「……パトリック?なんか、暗い顔してる」
「え?あ、いや……何でもない」
「そう?なら良いけど」
いかんいかん。
アリサの事考えるとちょっとメンタルが弱くなっちまう。
そう言えば……AN-94は、元気にしてるだろうか。
アイツはすぐ落ち込むからな……ちょっと心配だ。
なんとかアイツにだけでも連絡出来ないかなぁ。
「さて、ちょっと遊ぶか」
かちん、とジェットストリームを鞘に戻す。
100式に無理言って教えてもらった『型』。
「……?」
ネゲヴが首を傾げる。
「シィィィ……………」
息を吐く。
左脚を後方へ下げる。
体勢を低くする。
前傾の構え。
「………………はぁッ!!!」
鞘の撃鉄を引く。
轟音と共に刃が振り抜かれた。
「わぁ……全然見えなかった」
「雷光斬り、だっけな。確か。イアイドーだとか何とか。剣術はさっぱりわかんねぇけどこれだけなら何とか真似出来たんだよ」
なお、この技はスコーチが使ったのを見た100式が興奮しながら俺に伝えたものの為、しっかりと伝わっていない。
「じゃあそれに名前付けちゃえば?」
「名前、名前か……イアイライトニング!」
「えっ」
「雷みたいにドカーンと斬るイアイならこれとかどうだ?」
「え、えー……?」
ネゲヴはポカンとしている。
え?かっこよくない?イアイライトニング。
「……最近飼い始めたザリガニの名前と言い、ちょっとパトリックのセンスは……独特ね」
え?可愛いだろ……ザリジローって。
「えぇ……」
解せぬ。
ライトニングってお前……霹靂一閃じゃねーかよ……。
イイじゃん……善逸…………。