気が付いたら自室のベットで寝かされていた。
ぎちぎちとザリジローがハサミを鳴らす音が聞こえる。
「あー……運ばれたのか」
「……起きましたか?」
ベットの横に、誰か座っていた。
栗色の髪に、特徴的なウサギの耳の様な物が立っていた。
「88式……?」
「お久しぶりです、パトリックさん」
悲しそうな顔……だが、少しだけ嬉しそうだ。
「おう……久しぶり」
「はい……お元気そうで何よりです」
「……俺の事覚えてるって事は……記憶、消してないのか」
88式にとって辛い記憶だったはずなのに。
「……貴方に救われた記憶まで、手放したく無かったんです」
「そんなの、要らないだろ」
「いいえ」
俺がそう言うと、彼女は力強く否定した。
「貴方が差し伸べてくれた手を忘れるなんて、私には出来ません」
「……そんなつもりじゃ、なかったのに」
あの時は、体が、心が動いただけ。
戦いに酔いしれただけ。
確かに助けた。
「それでも、です」
「……お前がそう思うなら、それでいいよ」
根負けした。
昔から女に口で勝てた試しなんて無い。
「はい、そうします。……今度は、私が貴方を守ります」
「別に守ってくれなくても良いよ。俺はお前より強いから」
「でも、貴方は人間じゃないですか」
そう言われた瞬間、頭を殴られた気がした。
初めてだ。
俺の事を真正面から人間だと言ってくれたのは。
「……そっか、俺……まだ人間なんだな」
「……?パトリックさんは人間じゃないんですか?」
「あはは……そうだな」
手足が機械になっても、俺はまだ人間だ。
ベッドから立ち上がる。
「……その足は」
丈の長いズボンでどうなってるかは見えない。
「……私は、足をあのまま使えるように調整されました」
「そっか……」
深くは聞かない。
「これから、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
差し出された手は、柔らかかった。
俺の手は、硬い。
部屋の戸がノックされた。
「開いてるぞ」
「リック、元気?」
ひょこ、と57が顔を出してきた。
「おう……恥ずかしい所見せちゃったな」
「良いわよ別に。なーんだ、リックってば結構初心なのね」
「……やめろよ、ちょっと気にしてんだから」
「そうね、スケベなくせにいざとなったら倒れるなんて。童貞丸出しね」
「ど、どどどどど童貞ちゃうわ!!」
……まぁ、こんな機械の手足してる野郎に抱かれる女なんて居ないわな。
そう、俺はそんな理由の為童貞である。
悲しい。
「うわ……もしかして本当に?」
「………………」
沈黙は肯定である。
「ふーん……」
57が微妙な表情で笑ってる。
やめろぉ……。
「まぁ、その、なんだ……悪かった、服駄目にして」
「別に大丈夫よ。人形の服なんてすぐ元通りよ」
そう言えば戦闘が終わるとボロボロになってるけど、しばらくしたら元に戻ってるなぁ。
「パトリックさん」
「うん?」
「あの……服を駄目にしたって、お二人はそういった関係で?」
「「ぶはっ!?」」
二人して吹き出した。
「こいつと!?無い無い、何言ってんだ」
「何よその言い方。アタシじゃ不満なワケ?」
「顔は良いけど胸も態度もデカいくせに」
「あによ!?それFALの事でしょ!?」
「お前ら両方共そうだろうが!?」
「アレと一緒にしないでくれるかしら!?」
「そっくりだっての!」
「あ、あはは……そっか、そうなんですね……」
88式が、噛み締めるように呟いた。
88式が着任しました。
これから人形達と交流するイベントが続きます。