水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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鼻血吹いて倒れるとか情けないなお前。


第44話『再会』

気が付いたら自室のベットで寝かされていた。

ぎちぎちとザリジローがハサミを鳴らす音が聞こえる。

 

「あー……運ばれたのか」

「……起きましたか?」

 

ベットの横に、誰か座っていた。

栗色の髪に、特徴的なウサギの耳の様な物が立っていた。

 

「88式……?」

「お久しぶりです、パトリックさん」

 

悲しそうな顔……だが、少しだけ嬉しそうだ。

 

「おう……久しぶり」

「はい……お元気そうで何よりです」

「……俺の事覚えてるって事は……記憶、消してないのか」

 

88式にとって辛い記憶だったはずなのに。

 

「……貴方に救われた記憶まで、手放したく無かったんです」

「そんなの、要らないだろ」

「いいえ」

 

俺がそう言うと、彼女は力強く否定した。

 

「貴方が差し伸べてくれた手を忘れるなんて、私には出来ません」

「……そんなつもりじゃ、なかったのに」

 

あの時は、体が、心が動いただけ。

戦いに酔いしれただけ。

 

確かに助けた。

 

「それでも、です」

「……お前がそう思うなら、それでいいよ」

 

根負けした。

昔から女に口で勝てた試しなんて無い。

 

「はい、そうします。……今度は、私が貴方を守ります」

「別に守ってくれなくても良いよ。俺はお前より強いから」

「でも、貴方は人間じゃないですか」

 

そう言われた瞬間、頭を殴られた気がした。

 

初めてだ。

俺の事を真正面から人間だと言ってくれたのは。

 

「……そっか、俺……まだ人間なんだな」

「……?パトリックさんは人間じゃないんですか?」

「あはは……そうだな」

 

手足が機械になっても、俺はまだ人間だ。

ベッドから立ち上がる。

 

「……その足は」

 

丈の長いズボンでどうなってるかは見えない。

 

「……私は、足をあのまま使えるように調整されました」

「そっか……」

 

深くは聞かない。

 

「これから、よろしくお願いします」

「おう、よろしく」

 

差し出された手は、柔らかかった。

俺の手は、硬い。

 

部屋の戸がノックされた。

 

「開いてるぞ」

「リック、元気?」

 

ひょこ、と57が顔を出してきた。

 

「おう……恥ずかしい所見せちゃったな」

「良いわよ別に。なーんだ、リックってば結構初心なのね」

「……やめろよ、ちょっと気にしてんだから」

「そうね、スケベなくせにいざとなったら倒れるなんて。童貞丸出しね」

「ど、どどどどど童貞ちゃうわ!!」

 

……まぁ、こんな機械の手足してる野郎に抱かれる女なんて居ないわな。

そう、俺はそんな理由の為童貞である。

悲しい。

 

「うわ……もしかして本当に?」

「………………」

 

沈黙は肯定である。

 

「ふーん……」

 

57が微妙な表情で笑ってる。

やめろぉ……。

 

「まぁ、その、なんだ……悪かった、服駄目にして」

「別に大丈夫よ。人形の服なんてすぐ元通りよ」

 

そう言えば戦闘が終わるとボロボロになってるけど、しばらくしたら元に戻ってるなぁ。

 

「パトリックさん」

「うん?」

「あの……服を駄目にしたって、お二人はそういった関係で?」

「「ぶはっ!?」」

 

二人して吹き出した。

 

「こいつと!?無い無い、何言ってんだ」

「何よその言い方。アタシじゃ不満なワケ?」

「顔は良いけど胸も態度もデカいくせに」

「あによ!?それFALの事でしょ!?」

「お前ら両方共そうだろうが!?」

「アレと一緒にしないでくれるかしら!?」

「そっくりだっての!」

「あ、あはは……そっか、そうなんですね……」

 

88式が、噛み締めるように呟いた。

 

 




88式が着任しました。
これから人形達と交流するイベントが続きます。

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