水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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E.L.I.Dも泣き出す男。


第3話『これがいつもの風景』

「ずぉりゃっ!!」

 

迫り来るE.L.I.Dを片っ端から斬り伏せる。

地に伏せてまだ動く奴は更に叩きつける。

 

その間に背後からよってくる奴は空いた片手でショットガンを見舞わせてやる。

 

くるっと1回転させ薬莢を排出。

 

足元に這ってる瀕死のE.L.I.Dの頭を蹴飛ばした。

 

「ハァ、ハァ、あ”ぁ”こなくそ!隊長!まだ終わんねぇのか!?」

『少し離れた所に居る個体が最後よ』

「了解!」

 

駆け出す。

走りながら周りを確認する。

 

…確か、この辺りだ。

 

『パトリック!前!』

「あ…オゴォッ!?」

 

腹部に強烈な殴打が入った。

堪らず吹っ飛ぶ。

 

…起き上がろうとし、ふと、日の光が遮られた。

 

「…オイオイ、デカ過ぎじゃねぇの?」

 

見上げると、大木の様な腕の太さをした、俺の五倍くらい大きなE.L.I.Dが立っていた。

 

『V1、援護します。隙を見て殲滅を』

「アイアイサー、っと!!」

 

右腕が乱暴に振られる。

それを懐に潜り込み、左脚にトムボーイを横殴りで叩きつける。

 

「硬っ…!」

 

ハンドルを捻り、推進を得て弾かれた勢いを殺してそのまま前転。

先程まで居た場所に足が振り下ろされる。

 

よく見ると頭が胴体にまで埋まっている…どうやってこちらを認識しているのだろうか。

 

…アサルトライフルの音がする。

味方達が射撃を開始したらしい。

 

確か今回はロケットランチャー持ちが居たはず。

 

腕の一本でもふっ飛ばしてくれれば楽なんだが。

 

「隊長?景気よく腕ふっ飛ばしてくれませんかね?」

『貴方の腕も飛ぶわよ?』

「こわっ…まぁ腕なんて無いけどな俺」

『前の作戦からくすねた分しか無いから、あまり無駄撃ち出来ないのよ』

「マジっすか。えー、これ解体するの骨が折れるな…」

『あら、骨で済むなら安いじゃない』

「ハイハイ、やりますよ…っと」

 

一度大きく距離を離す。

トムボーイを背に起き、姿勢を低くする。

ショットガンを腰にマウントし、両腕でトムボーイを握り直す。

 

ハンドルを捻る。

推進機構『イクシード』は三段階の加速がある。

通常は1段階目、硬いやつには2段階目と使い分けている。

 

そして、3段階目は誰に使うのか。

 

「テメェみたいな、デカくて硬いやつにだッ!!」

 

ギアを解放。

爆音と共に殺人的な加速を得る。

 

相手が動こうとするが、こちらの方が、光速(はや)い!!

 

「チェストォォォォォォ!!」

 

右から左下への袈裟斬り。

俺の背丈の位置にある右足が見事に両断され、巨体は倒れる。

 

「あっ、クソ。足だけかよ」

『早くとどめ刺しなさい』

 

立ち上がろうとした体を蹴り飛ばして背中から倒す。

 

「何処が弱点か知らないけど」

 

両腕でトムボーイを頭の上に掲げる。

 

「斬ってりゃ動かなくなるだろ」

 

イクシードを解放してそのまま叩き付ける。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

繰り返す。

 

繰り返し。

 

「…ふぅ、動かなくなったか」

 

トムボーイを背中にマウントし、動かなくなったE.L.I.Dから降りる。

 

周囲を見渡すと、死体の山だけがそこにある。

 

「疲れた…」

「お疲れ様、V1」

 

いつの間にか自律人形を連れたAK-12とAN-94がこちらに歩いて来ていた。

 

「めっちゃ疲れましたわ。何か食い物持ってません?」

「お前は…いつも無茶ばかりして」

「AN-94、小言は良いから食い物寄越せよ」

「ーーーッ!パトリック!私はだな!」

「あーはいはいはいうるせぇよ。お前人形のくせに心配ばっかしやがって」

 

AK-12がため息を吐き、後ろの人形達が肩をすくめる。

 

俺とAN-94の言い争いは日常茶飯事なものだ。

 

「当たり前でしょ!仲間なんだから!」

「あーもう、だからお前失敗作とか言われんだろうが!」

 

あまりにもうるさいのでつい、キツイ一言を言ってしまった。

…失敗作。

それは彼女が一番気にしていた一言だ。

 

AN-94が黙り、俯く。

慌てて言い訳を重ねてしまう。

 

「あっ、その、わ、悪い…言い過ぎた…」

「…このっ、大馬鹿ッ!!」

「ぐえっ!」

 

激昂したAN-94に殴られた。

流石に頭にきてしまい俺も拳を握る。

 

「やりやがったな!」

 

拳を振り上げようとして…体の動きが止まった。

正確に言うと、手足が動かない。

 

「…あっ」

「な、何よ…」

 

そんな様子にAN-94が訝しむ。

…その後ろで、AK-12が目を見開いてこちらを見ていた。

 

手が俺の意志と関係なく動く。

振り上げようとしていた腕はそのまま前に突き出され、

 

AN-94の胸を、しっかりと鷲掴みした。

 

「…えっ」

「…ハァ」

 

決して大きいとは言えない…が、掌の感触は本物であり、女性を感じさせる…有り体に言うと、柔らかい。

 

…感触はあるのだが俺の意思で動いていない手がむにむにと揉みしだいている。

 

AN-94は事態が飲み込めなくて顔を真っ赤にするだけだ。

 

…5秒後、俺はまた殴られた。

 

「さ、最低ッ!!変態ッ!!」

「うるせぇ!てめえのその貧相なむ、胸ェ!?揉んだって…ありがとうございました!!」

「どっちなのよ!?あと鼻血拭きなさい!」

 

うるせぇよ!おっぱいに貴賤は無いっ!!

 

「あら、AN-94じゃ不満?私の、揉む?」

「AK-12!!」

 

再び瞳を閉じたAK-12が微笑みながらこちらに来る。

…ちなみにAN-94は俺がハッキングされているのを知らない。

 

そう、AK-12には他の機械をハッキングする能力が備わっている。

そして俺の義手にはそれに対して何の対策もされていない…要するに、彼女が俺の首輪なのだ。

 

「ま、まままマジっすか。割とガッツリ揉みますよ」

「ええ、何なら10秒抵抗しないわ」

「う、うぇへへ…」

 

ぶっちゃけAK-12の事は嫌いだ。

…だが、それを差し引いても美人だし、何より胸がデカい(大事)。

いつも高圧的な彼女に一泡吹かせ…。

 

「じゃ、遠慮なく…ッ!?」

「いーち」

 

腕が、動かねぇ…!?

あっ、AK-12が目を開けてやがる…って事は!?

 

「にーぃ、さーんっ、しーぃ」

「おまっ…ハッキングしやがったな…!?」

「ごーぉ、ろーく、しーち」

「あっ、くそ、動け!俺の腕!何故動かない!?」

「はーち、くー、じゅーう。ハイ終わり」

 

そう告げられた瞬間俺は前につんのめってAK-12の方に倒れ…る前に蹴り飛ばされた。

 

「ギャッ!?」

「あーあ、せっかくのチャンスだったのに」

「ひ、卑怯だぞ…!」

「ふふ、私はそんな安い女じゃなくってよ」

「…二人共。やる事、あるんでしょう?」

 

AN-94に言われて、俺は意識を切り替える。

 

「パトリック。私達は手伝わないわ」

「分かってる」

 

自律人形からスコップを受け取り、走り出した。

 

 

 




パトリックのキャラは大体こんな感じかなと。

優しさに対してついキツく当たる悪ガキ。
んでもって女は嫌いと言いつつそういう事には興味津々。

でも悪い奴じゃない。
そんな感じで、これからもパトリックくんをよろしくお願いします。

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