水没から始まる前線生活   作:塊ロック

53 / 102
唐突に現れるハイエンド。
何やら事情がある様だが。


第48話『誘い』

油断なくジェットストリームをいつでも抜ける様に構える。

さっき被弾した肩がじくじくと痛む。

 

「おっと、そう警戒するな。今の私は丸腰だ」

「……信じるとでも?」

「今日はちょっとした話をしに来ただけだ。何なら調べて貰っても構わないぞ」

 

アルケミストが両手を俺に向けて広げる。

なんか、毒気が抜けた。

 

「……話ってなんだよ」

 

呆れぎみにジェットストリームから手を放す。

こいつ、身内がヤられてるってのに落ち着きすぎだろ。

 

……グリフィンみたいに、仲間意識が強くは無いのだろうか。

 

「お前、名前は?」

「……は?」

 

名前?

どうして?

 

「教えろ」

「え、えぇー……パトリックだ。パトリック・エールシュタイアー」

「パトリックか。そうかそうか、パトリック」

「な、なんだよ気持ち悪い……」

 

妙に嬉しそうに連呼される。

何なんだほんとに。

 

「なぁパトリック」

「………………」

「くっくっくっ……拗ねるな拗ねるな。何、久しぶりに心が踊ったんだ。許してくれ」

 

びっくりするくらい綺麗なほほ笑みで、思わず目を逸らす。

落ち着け、こいつは敵だぞ。

 

「私と対等以上にあの距離で渡り合った敵が今まで居なかったのだからな。楽しかった」

「……横槍が入ってなきゃ、俺はお前に殺されてた」

「ほう?存外素直じゃないか。負け惜しみの一つでも言うのかと思っていたが」

「……だったらなんだって言うんだ」

「悪かった悪かった。そう拗ねるな」

「拗ねてなんかいねーっての!!」

 

何だこいつ、ほんとやりにくい。

リリスとは別ベクトルで年上ムーブかましてきやがる。

 

「本題に入ろう。パトリック、共同戦線を張る気は無いか?」

「……あ?」

 

共同戦線?誰が?俺と?鉄血が?

 

「てめっ!ふざけんなよ!?リリスを襲っておいてよくもそんな都合の良いことが言えるな!!」

 

ジェットストリームを握り撃鉄を落とす。

その瞬間に俺は手を抑えられた。

……動かない。

 

「それは百も承知だが、これを聞けばお前も意識を割かざるを得ないだろう」

「なんだと……!」

「私はある同胞を追っている。鉄血(私達)が人を襲うようになる前にネットワークから逃げ出した人形をな」

「あぁ?要するに裏切りモンだろ?そっちで片付けろよ……!」

 

凄まじい力で俺の両腕は抑えつけられている。

ここまで接近された上でこの状態からむりやり引き抜いてもほぼ刃は立たない。

 

「それがそうも行かなくてな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」

 

そいつに作られた?

鉄血人形のハイエンドモデルはほぼ人間が作ったんじゃないのか?

 

腕の力が一瞬抜ける。

お互いバランスを崩してアルケミストに押し倒される格好になった。

 

「うお……!?」

「おっと……まぁ良い。そいつはジャンクからデッドコピーを作り出す能力を持つハイエンドモデルでな。名は……」

 

そこまで言って、アルケミストが暫く口パクをしていた。

 

「……?」

「チッ、奴め中々抜かりない。私達には喋らせない気か……」

「どういう事だよ」

「被創造物の私達では創造者(クソッタレ)の名前を呼ぶ事すら許さないと言う事さ」

「何だそりゃ……まぁ、何だ。事情は大体分かったけどよ……見付けてどうすんだよ」

「壊す」

 

即答だった。

片方だけ視える瞳には、何も映らない。

 

「オリジナルのデッドコピーとして産み落とし私に散々屈辱を味合わせた奴を、この手で破壊する」

「………………」

「それだけだ。……どうした?パトリック」

「い、いや……お前も、そんな顔するんだな」

 

悔しそうな。

心の底から標的をどうにかしたい、そんな顔。

 

「惚れるなよ」

「ねーよ」

「そう言えば報酬の話をしていなかったな」

 

もう協力する前提の話になってる。

 

「生憎と私に渡せる物が無くてな……」

「もう破綻してんじゃねーか」

「ふむ、そうだな……」

 

おもむろにアルケミストが俺の右手を掴んで……そのでっけーおっぱいに押し付けた。

 

「………………はぁ!?」

 

な、なななな!?

や、やわこい!じゃなくて、でっか、違っ、はっ、えっ!?何故!?

 

「ちょっ、ちょっと、なっ、おまっ、なにを!?」

「矢張りか。お前は最初に会ったときも見てたからな」

「や、ちょっと、離せ!」

「良いではないか良いではないか。戦闘用の人形にこんな無益な物をぶら下げさせる魂胆は気に食わなかったが、お前に貪られるのならそれも一興か」

「だ、誰がお前なんか……!!」

「私は構わないぞ。お前を気に入ってるからな」

「だーっ!ちくしょうめ!いい加減退け!!」

「そう騒ぐな。そろそろ時間切れだ」

「あ……?」

 

 

銃声。

アルケミストが後方に飛び退る。

 

「パトリック!また会おう!」

 

そのまま大きく飛び退り……消えた。

 

「何だったんだホントに……」

「大丈夫ですか!?パトリックさん!!」

 

誰かが走ってくる。

ついでに何かが飛ぶ音も聞こえる。

 

「あれ、確か……TAC-50?」

 

なんで彼女がここに……。

楓月が上空を旋回している。

 

……まぁ、何はともあれ無事にやり過ごせたか。

 

 




整備能力を備えるハイエンドモデル。

なんとオリジナル枠です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告