水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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E.L.I.D。
その存在はPMC程度では対処することは難しい。

しかし……好都合な事に、俺は専門職だ。


第53話『討伐、そして再会と……』

トムボーイがE.L.I.Dの脇腹に食い込む。

刃が通らない……ならば。

 

素早くハンドルを捻り推進機関を爆熱させる。

 

「うぉるぁ!!!」

 

E.L.I.Dの巨体が浮く。

相手ごと振り抜いてふっとばした。

 

「何してる!さっさと行け!」

 

背後で銃を構えたDSR達に叫んだ。

 

「置いていける訳無いでしょう!総員構えー!」

「馬鹿野郎!そんな弾丸じゃ表皮も抜けねぇっての!!」

「DSR!引くわよ!」

 

ジェリコがDSRの首根っこを引く。

……あいつの判断なら信用出来る。

 

その間に俺はE.L.I.Dの振る腕を躱しトムボーイでぶっ叩く。

 

「でも……!」

「こっちは怪我人一体よ。庇いながら戦うなんて無理」

「ジェリコの言う通りよ。……納得なんてしてないけど」

「くっ……」

 

少なくとも正規軍の人形連中をノしてきたヤツだ。

本気で相手にしないと俺も危うい。

 

「行け!俺なら大丈夫だ!絶対追い付く!!」

 

だから、叫んだ。

 

「DSR!!」

「…………………帰って来なかったら、許さないわよ!!」

 

DSR達が撤退して行く。

これで良い。

グリフィンの人形の仮想敵に元々E.L.I.Dは含まれていない。

彼女達の火器で太刀打ちなんてどだい不可能だ。

 

「来やがれ!化け物!」

 

こいつの武器は肥大化した両手なのか、その腕を振り回してくる。

腕の攻撃をトムボーイでいなしていく。

 

「馬力は、負けてねーんだよ!」

 

攻撃を躱し、腕に一撃。

 

………………斬れない!

 

「クソッタレ!硬い!」

 

その時、俺とE.L.I.Dがライトに照らされた。

眩しい……暗視装置を脱ぎ捨てた。

 

「パトリック!援護するぞ!」

 

聞き覚えのある声とともに、光弾がE.L.I.Dに降り注ぐ。

これは、正規軍の光学兵器!

 

「お前ら!」

「何処ほっつき歩いてたんだ馬鹿野郎め!」

 

その場から飛び退り、正規軍の人形達のもとへ滑り込んだ。

 

「心配かけやがって!」「無事で良かった!」「信じてたぜ相棒!」

 

口々に再会の言葉を投げつつ俺の背を叩いてくる。

 

「隊長は!何でここに!?」

「別任務だ!俺達ゃ雑用だよ!」

 

E.L.I.Dが手らしき物をこちらに向けてきた。

 

「伏せろ!」

 

その瞬間、弾丸の様な物を飛ばしてきた。

トムボーイを地面に突き刺し、腰のジェットストリームに手を掛ける。

 

「オリャァーッ!!」

 

一閃。

飛んできた弾丸を全て切り捨てた。

 

「すっげぇ!いつの間に!」

「まだ終わってねぇぞ!」

「撃て撃てぇ!居住地近いんだからここで仕留めるぞ!」

 

俺もピースキーパーを撃つ。

さて、コイツどうやって片付けようか……。

 

「パトリック。隙は作るからアイツの腕一本くらい落とせないか?」

 

参謀タイプの人形に言われる。

参謀って言うけどこいつの案は大概力任せのゴリ押しである。

 

「お前、また無理難題を」

「そのサムライソードなら行ける」

「……信じていいんだな」

「ああ、信じろ!」

 

サムズアップを返されたので、そいつの頭ぶっ叩いた。

 

「後で奢れよ!」

「総員!パトリックの援護を!ランチャー用意!」

 

俺が走り出すと同時にロケットランチャーが発射される。

とりあえず目らしき機関に命中。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

走る。

 

走る、走る。

 

ジェットストリームの安全装置はとっくに外れている。

後は、抜くだけ。

 

E.L.I.Dの体勢が崩れ、手を地面に着き―――。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

脚部のバネを最大限使う。

弾丸の様に跳ぶ。

 

撃鉄。

ジェットストリームの炸薬が爆ぜる。

 

刃鳴る。

火花を散らす。

 

赤い刀身が触れ……。

 

 

なんの抵抗も無く、斬り裂いた。

 

 

「ヒューッ!!」

「今だ!撃てェ!!」

 

集中砲火が始まる。

俺も慌てて離脱した。

現状、E.L.I.Dに対しては動かなくなるまで光学兵器を叩き込み焼き尽くすのがセオリーとされている。

 

これで、こいつも終わりだろう。

 

「ふぅ……」

 

ジェットストリームを鞘にしまう。

何とかなった。

 

「パトリック!」

 

振り返る。

……ブロンドの髪の、顔立ちの整った女性……AN-94が、走り寄ってきた。

 

「よぅ、AN-94……ぶへぇあ!?」

 

顔面に思いっきり拳が突き刺さった。

勢いよく吹っ飛ぶ。

 

「な、何しやがる!」

「馬鹿!大馬鹿!スケベ!単細胞!」

「何だとテメェ!」

「生きてたなら連絡くらいしてよ!!」

 

ボロボロとAN-94が泣き始めた。

流石に閉口する。

 

周りの同僚達は苦笑しながら後片付けを始める。

 

「……ごめん」

「う、うわぁぁぁぁ……パトリック……良かった……本当に」

 

抱き着かれて、胸元で泣かれた。

心配掛けちまったなぁ……。

 

「それで、何でこんなトコにE.L.I.Dが?」

 

気まずいので話題を変えようとしてしまった。

 

「グスッ……分からない。通報があったから急行しただけ」

「通報?」

 

E.L.I.Dを見て?誰が?

 

「匿名だったのよ。それで人形の部隊が派遣されたの」

 

まぁ確かに人間を送るわけにも行かないしな。

 

「パトリック。勿論帰ってくるわよね」

 

……言葉が出なかった。

俺には、このまま正規軍に戻る選択肢がある。

 

DSR達を、リリスを置いて。

 

「それ、は……」

「……貴方はMIA扱いだから問題になってないけど、本来ならいちPMCに正規軍が介入するのは褒められた事では無いわ」

「分かってる、そんな事」

 

俺は……。

 

「うわぁ!?こいつまだ生きてる!!」

 

二人して振り返る。

……半分以上身体が無くなっている、死に体の肉塊がこちらに向かって走ってきていた。

 

「パトリッ」

「危ない!!」

 

俺は、AN-94を突き飛ばした。

 

「なん」

「ガッ……!?」

 

肉塊のタックルをモロに喰らう。

 

そして、そのまま背後にあった……谷に、落ちる。

 

「う、そだろ!?」

 

何故こうも都合良く悪い事が連続する!?

 

「パトリックーーーー!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」

 

長い、浮遊感の後……俺は水面に叩き付けられ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




再びの、水没。
今度はどこへ流されるのか。

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