水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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どれだけ辛くても。
どんなに苦しくても。

この命を繋いでくれた人達に恥じない様に。

俺は、人間として生き続けなくちゃいけないんだ。


第54話『立ち止まるな、歩き続けろ』

目が覚める。

一面、真っ白な……壁も、床も、境界線の無いようなあやふやな景色。

 

「何だ、ここ……俺は一体」

 

確か、E.L.I.Dの最後の悪あがきで吹っ飛ばされてそのまま谷に落ちた……。

 

ずきり、と右肩が痛む。

 

「いづっ……久しぶりに、痛むか」

 

鎮痛剤を打とうとして……手元に無い。

おかしい。

一応最低量はいつもストックしていたはずなのに。

 

「引くまで耐えるしかないか……」

 

……あれ、おかしいな。

なんか接合部が痛い。

 

なんかこう、下(・)か(・)ら(・)突(・)き(・)上(・)げ(・)ら(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)。

 

ずるり。

ぼとっ。

 

「………………え」

 

おかしい。

右腕が急に軽くなった。

というより……腕の感覚はあるのに、右の義手が目の前に落ちている。

 

「あ、あれ……なんだこれ」

 

今、右腕にくっついているのは……俺の肌と同じ色をした、人の腕。

 

どうして?

痛みは、止まらない。

ますます酷くなる。

 

とうとう耐えきれずに膝を着いた。

 

「あ、ぎ、ぃ、ぃ、あ」

 

痛い、痛い痛い痛い。

 

何で、どうして。

 

 

 

 

 

ずるり。

 

 

 

 

 

腕が、伸びた。

 

 

 

 

「…………へ」

 

その瞬間、ぼこぼこと腕が泡立ったと思えば一気に肥大化した。

 

「なんだこれ、なんだこれ!?」

 

どんどん腕が醜く変容する。

これじゃ、これじゃあまるで……E.L.I.D……。

 

「う、うわ……嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「……大丈夫?」

「ハッ……ハッ……ハッ……う、腕……腕、は……」

 

 

肩を揺すられ、声を掛けられていたらしい。

琥珀色の瞳が俺を心配そうに見ていた。

 

「腕?……これは、なんて答えるべきかしら」

「……え?」

「義手ですよ。両方共」

「はぁぁぁぁ……………………」

 

深いため息と共に、安堵した。

 

俺の、慣れ親しんだ暖かさの欠片もない無骨な腕。

 

「そこ、安心するとこ?」

「……少なくとも、俺はこの腕の方が慣れ親しんでる」

「人間なのに、大変ね」

「人間だから、大変なんだ」

 

起き上がる。

……上半身は裸だった。

 

俺の上着は近くに貼られたロープに干されていた。

ずぶ濡れの衣服を纏ったままだと、あっという間に体温を奪われお陀仏なので、正しい処置だと思う。

 

「これは、アンタが?」

 

改めて、助けてくれたらしい女性を見る。

……着ている衣服は風化しているのかボロボロだ。

 

褐色の肌にワインレッド髪。

何となく、以前会った人形と似ていた気がした。

 

「……WA2000?」

「全然違うけど……まぁあの子可愛いし好きよ。ワタシはショットガン、イズマッシュ・サイガ12よ。長いからサイガで良いわ」

 

まぁ戦術人形だわな。

 

「俺はパトリック。パトリック・エールシュタイアー。ひとまず助けてくれた礼を言わせてくれ」

「構わないわ……まぁ、ここから出られるとは思わないけど」

「えっ?」

 

どういう事だ?

今更ながら、今居る場所を認識した。

 

光は降り注ぐが、それは谷のてっぺんから日が注いでいるだけ。

断崖絶壁の真下、川の中のたまたま丘になっている場所。

 

出口は、崖の上だけだ。

 

「ワタシのバッテリーはここで尽きる。そして……誰にも知られないまま、朽ちるのよ」

 

もう諦めてしまった様に、呟いた。

 

「……バックアップは?」

「ワタシの居た基地は壊滅したわ……ワタシ、本当に消えてなくなるのよ」

 

……なんてこった。

ん?壊滅した基地?

 

「ワタシはどうにか逃げられたけど、こんな事になっちゃったし……あの子、無事だと良いけど」

「あの子って?」

「……マシンガン、88式よ」

 

……S-14地区の人形の生き残りか。

 

「彼女は、S-13で保護されたぞ」

「えっ…………………そう、そう……良かった……」

 

安心した様に呟いた。

 

「………………」

 

俺は、崖に手を掛ける。

……しっかりと壁を掴める。

思った以上に頑丈だ。

 

足をかける。

俺の体重は相当重いが……崩れなかった。

 

行ける。

 

「この崖、登れそうだ。高さも30m程度……助かるぞ」

「そう。ワタシは……良いわ」

 

サイガが、座ったまま目を閉じた。

 

「どうして!」

「だって、ワタシ……片脚が動かないもの」

「えっ………………」

「だから、」

「だからなんだってんだ!88式を一人にして置いてくつもりか!!」

「……何を言っているの?ワタシ達、人形よ?いくらでも替えが効く」

「バックアップは無いんだろ。俺と話してるお前はここで消えちまう」

「そんな物よ、世の中」

「納得出来るか!」

「なっ……」

 

俺は叫ぶ。

命の恩人を置いて自分だけのうのうと生き延びるなんて。

 

そんな事は絶対に出来ない。

俺の手足はまだ動くし、心は折れていない。

 

なら出来る。

 

俺はまだ立って歩けるんだから。

 

「俺はお前を見捨てない。担いででも連れてってやる!」

「何処によ……馬鹿な人」

「馬鹿で結構!人間(俺達)は利口じゃないんでね!」

「……貴方見てると、亡くなった指揮官を思い出すわ。新人のくせに、情熱だけはいっちょ前で」

 

サイガが、瞳を伏せ……意を決した様に顔を上げる。

 

「……だから、仇くらいとってあげなきゃ」

「よし……行くぞ」

 

立ち止まるな。

俺に意思がある限り、歩き続けろ―――!!

 

 




不屈の意思。
例え手足が仮染めであろうとも。

絶対に負けはしない。
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