どんなに苦しくても。
この命を繋いでくれた人達に恥じない様に。
俺は、人間として生き続けなくちゃいけないんだ。
目が覚める。
一面、真っ白な……壁も、床も、境界線の無いようなあやふやな景色。
「何だ、ここ……俺は一体」
確か、E.L.I.Dの最後の悪あがきで吹っ飛ばされてそのまま谷に落ちた……。
ずきり、と右肩が痛む。
「いづっ……久しぶりに、痛むか」
鎮痛剤を打とうとして……手元に無い。
おかしい。
一応最低量はいつもストックしていたはずなのに。
「引くまで耐えるしかないか……」
……あれ、おかしいな。
なんか接合部が痛い。
なんかこう、
ずるり。
ぼとっ。
「………………え」
おかしい。
右腕が急に軽くなった。
というより……腕の感覚はあるのに、右の義手が目の前に落ちている。
「あ、あれ……なんだこれ」
今、右腕にくっついているのは……俺の肌と同じ色をした、人の腕。
どうして?
痛みは、止まらない。
ますます酷くなる。
とうとう耐えきれずに膝を着いた。
「あ、ぎ、ぃ、ぃ、あ」
痛い、痛い痛い痛い。
何で、どうして。
ずるり。
腕が、伸びた。
「…………へ」
その瞬間、ぼこぼこと腕が泡立ったと思えば一気に肥大化した。
「なんだこれ、なんだこれ!?」
どんどん腕が醜く変容する。
これじゃ、これじゃあまるで……E.L.I.D……。
「う、うわ……嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァァァァ!!!」
―――――――――
「……大丈夫?」
「ハッ……ハッ……ハッ……う、腕……腕、は……」
肩を揺すられ、声を掛けられていたらしい。
琥珀色の瞳が俺を心配そうに見ていた。
「腕?……これは、なんて答えるべきかしら」
「……え?」
「義手ですよ。両方共」
「はぁぁぁぁ……………………」
深いため息と共に、安堵した。
俺の、慣れ親しんだ暖かさの欠片もない無骨な腕。
「そこ、安心するとこ?」
「……少なくとも、俺はこの腕の方が慣れ親しんでる」
「人間なのに、大変ね」
「人間だから、大変なんだ」
起き上がる。
……上半身は裸だった。
俺の上着は近くに貼られたロープに干されていた。
ずぶ濡れの衣服を纏ったままだと、あっという間に体温を奪われお陀仏なので、正しい処置だと思う。
「これは、アンタが?」
改めて、助けてくれたらしい女性を見る。
……着ている衣服は風化しているのかボロボロだ。
褐色の肌にワインレッド髪。
何となく、以前会った人形と似ていた気がした。
「……WA2000?」
「全然違うけど……まぁあの子可愛いし好きよ。ワタシはショットガン、イズマッシュ・サイガ12よ。長いからサイガで良いわ」
まぁ戦術人形だわな。
「俺はパトリック。パトリック・エールシュタイアー。ひとまず助けてくれた礼を言わせてくれ」
「構わないわ……まぁ、ここから出られるとは思わないけど」
「えっ?」
どういう事だ?
今更ながら、今居る場所を認識した。
光は降り注ぐが、それは谷のてっぺんから日が注いでいるだけ。
断崖絶壁の真下、川の中のたまたま丘になっている場所。
出口は、崖の上だけだ。
「ワタシのバッテリーはここで尽きる。そして……誰にも知られないまま、朽ちるのよ」
もう諦めてしまった様に、呟いた。
「……バックアップは?」
「ワタシの居た基地は壊滅したわ……ワタシ、本当に消えてなくなるのよ」
……なんてこった。
ん?壊滅した基地?
「ワタシはどうにか逃げられたけど、こんな事になっちゃったし……あの子、無事だと良いけど」
「あの子って?」
「……マシンガン、88式よ」
……S-14地区の人形の生き残りか。
「彼女は、S-13で保護されたぞ」
「えっ…………………そう、そう……良かった……」
安心した様に呟いた。
「………………」
俺は、崖に手を掛ける。
……しっかりと壁を掴める。
思った以上に頑丈だ。
足をかける。
俺の体重は相当重いが……崩れなかった。
行ける。
「この崖、登れそうだ。高さも30m程度……助かるぞ」
「そう。ワタシは……良いわ」
サイガが、座ったまま目を閉じた。
「どうして!」
「だって、ワタシ……片脚が動かないもの」
「えっ………………」
「だから、」
「だからなんだってんだ!88式を一人にして置いてくつもりか!!」
「……何を言っているの?ワタシ達、人形よ?いくらでも替えが効く」
「バックアップは無いんだろ。俺と話してるお前はここで消えちまう」
「そんな物よ、世の中」
「納得出来るか!」
「なっ……」
俺は叫ぶ。
命の恩人を置いて自分だけのうのうと生き延びるなんて。
そんな事は絶対に出来ない。
俺の手足はまだ動くし、心は折れていない。
なら出来る。
俺はまだ立って歩けるんだから。
「俺はお前を見捨てない。担いででも連れてってやる!」
「何処によ……馬鹿な人」
「馬鹿で結構!
「……貴方見てると、亡くなった指揮官を思い出すわ。新人のくせに、情熱だけはいっちょ前で」
サイガが、瞳を伏せ……意を決した様に顔を上げる。
「……だから、仇くらいとってあげなきゃ」
「よし……行くぞ」
立ち止まるな。
俺に意思がある限り、歩き続けろ―――!!
不屈の意思。
例え手足が仮染めであろうとも。
絶対に負けはしない。