もう既に、世界が終わりに向かっていた頃の話。
唐突だがちょっとした昔話をしよう。
俺とアリサとマイクは同じ孤児院で育った言わば幼馴染だ。
…まぁ、察しの良いヤツはここで何となく理解するかもしれないが。
同じタイミングで孤児院に拾われてるってことは、二人も俺と同じように改造を受けている。
俺と違うのは二人は頭をいじられているってトコな。
頭に補助演算装置を埋められていて、そのせいで昔から頭がキレるコンビだったよ。
で、俺がどう関係してるかって言うと前衛として俺がいて、その制御役として二人が充てられるって話だった。
まぁ、潰れたんだけどなそこ。
で、本題に戻ると二人の脳のチップの反応を俺の義手は探す事ができる。
だからあの時あの場に埋めるって選択肢が取れた。
のだが。
「何で、無いっ!!」
あれから一時間。
掘れども掘れども二人の遺体は出てこない。
反応はこの辺の筈なのに。
「何で、何で何で何で何で!!ここに、埋めた、筈なのに!!」
掘る。
砂を捨てる。
掘り返す。
岩を砕く。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!
「…あ」
視界がブレる。
脱水症状だ…水分を採らずに一心不乱に掘っていたせいで。
だが、倒れる前に誰かに受け止められた。
「…馬鹿」
「AN…94…?」
「これ、経口補水液。休んで」
水筒をわたされてむりやり座らされた。
一息に煽って、少しはっきりした意識でなんとか言葉をひねり出した。
「手伝わないんじゃ、無かったのか」
「それを言ったのはAK-12よ…私は言って無い」
「怒られるぞ」
「なら、一緒に叱られて」
「………………………あ、あり…ありが、とう」
「久しぶりね、貴方にお礼を言われるのも。…たまには、悪くないわ」
「なんだよそれ」
AN-94がスコップを手に取る。
だいぶ落ち着いたので、俺も立ち上がる。
「どの辺りかしら」
「この辺なんだが…え?」
ふと、何かが光を反射しているのが見えた。
そこに駆け寄り…拾い上げ。
「…おい、待てよ…何で、埋まってる筈のチップだけ、おちてるんだよ…」
「…なんですって」
AN-94が慌てて駆け寄ってきて、確認する。
…彼女は、両手で顔を覆った。
「適合しなかったのね」
「AK-12…」
「崩壊液の被爆で適応した者は異形になる…なら、適応しなかった者は?」
いつの間にか来ていたAK-12が続けた。
「…速やかに肉体が崩壊するわ」
そう言って、足元に落ちていたもう一つのチップを拾い上げた。
「あ、あぁ…嘘だろ…アリサ…マイク…」
両膝を着く。
そのまま地に両手を付いてしまう。
俺は、約束を果たせなかった…。
「パトリック。遺品として持って行きなさい…それくらいは、許してあげる」
AK-12が、もう一つのチップを手渡してくれた。
「…ありがーーー」
…また、何か光るものを見つけた。
なんの気なしに拾い上げ…。
それは、指輪だった。
2つの、ペアリング。
マイクが、俺と一緒に買いに行ってアリサに渡したものだ。
「くそう、ちくしょう…ごめん、ごめんな…」
ボロボロと涙が溢れる。
そのまま、耐え切れなくて、声を上げて泣いた。
AN-94とAK-12は、何も言わずに近くに立っていた。
それから五分ほどして。
「…隊長。休みもらえません?一週間くらい」
「良いけど…どうして?」
「静かな場所に、二人を埋めてきたくて」
こんな小さく、冷たくなってしまったけれど。
紛れもなくここに二人はいた。
「軍の共同墓地では駄目なの?」
「あそこは…少し派手過ぎる」
「…許可します」
「すんません」
頭を振って立ち上がる。
「酷い顔よ」
「人間だからな」
人間だから、悲しい。
俺の体は半分機械に置き換えられていようと、まだ心は人間なんだ。
忘れてはいけない。
「それじゃ、帰りましょう」
「了か…」
ずるり、と足が滑る。
「えーーーー」
「パトリック!!」
AN-94が手を伸ばす。
それに俺も手を伸ばし………虚しく、空を切った。
「パトリックーーーーーー!!」
「う、うおあああああ!?」
俺はそのまま斜面を転がり落ち、昨日の大雨によって増水した川に転落してしまった。
…濁流の中で流木に頭を打ったのか…俺の意識は、そこで消えた。
パトリック君、水没オチ。
ここから何処へ流されていくのやら…。