俺の上着を干していたロープを使って、俺の身体とサイガを縛着した。
「大丈夫か?キツくないか」
「大丈夫よ……ただ、何というか」
妙に歯切れ悪そうにサイガが口ごもる。
……サイガを背負って密着してるから、まぁ居心地は悪いだろうな。
なお、一応装備はロストしてないのでトムボーイとピースキーパーはサイガの背中に背負わせている。
サイガの装備は全て駄目になっているので、破棄。
「……男の人とこんな密着するの、初めてで」
「今そういうこと言うなよ……」
正直背中がとても気持ち良い。
意識しちゃいけないけど。
「バッテリーキツかったらスリープに入っててもらっても構わない」
「ごめんなさい。その時はそうするわ」
その時は、か。
こいつもしかして意地でも起きてるつもりか。
「分かった……行くぞ」
崖を、登り始めた。
――――――――――
「……凄いわね、その義手」
半ばほどまで登ったところで、サイガがそう漏らした。
「ああ、本当に、いつも、助けられてる」
言葉が途切れるのは息がそれだけ上がっているから。
やっぱりフル装備戦術人形1人担ぐのはしんどい。
「む、無理に返さないでよ」
「気に、するな、ふんっ……!」
手が震える。
いくら義手と言っても俺と生体接続してるから疲れも感じる。
幸い指先を怪我しないのが利点といえば利点か。
脆い箇所は抜けた。
ぶっちゃけ最初の5mは何度も落ちた。
そのたびに砂利に突っ込んでもう顔面は血だらけ。
口の中だってズタズタだし、もしかしたら肋が折れてるかも。
サイガを下敷きにしてないのは僥倖か。
鎮痛剤をとにかく打ちまくっているから、なんとか耐えられている。
「……ねぇ。どうして……ワタシを助けるの?」
今度は、明確な質問が飛んできた。
気が紛れるから、割と有り難い。
「恩人、だから、だっ、ハッ、ハッ」
まだ、残り半分。
「それだけで?」
「ああ、受けた恩は、返さなきゃいけない、育てて、くれ、た、爺さんと、シスターの教え、だ」
「……孤児、だったの?」
遠慮がちに、サイガが聞いてきた。
別に言いにくい事でもないんだが……律儀なやつ。
「ああ、孤児院育ちの、正規軍所属、だ」
「えっ、正規軍なの?」
「やっぱ、驚く、の、な」
「だって……」
「慣れたよ、その、反応は」
良いぞ、順調に進めてる。
折れるわけには行かない。
だって、託されたんだから。
生きろって言われたんだから。
「パトリック、頑張って……あと少しよ!」
「ああ……!」
行ける。
届く。
「生きるぞ、サイガ……!」
俺の手は、地上に、届いた。
「やった………………!」
サイガが、歓喜の声を上げる。
「う、ぉるぁぁぁぁ、あぁぁぁぁ!!!」
最後の力を振り絞り、俺は、体を引き上げ、地上へ足を付けた。
「は、はは、は……ほんとに登っちゃった……」
「どう、だ……人間、やりゃなんだって出来るんだ」
「凄いわね……本当に……ありがとう、パトリック」
「礼を言、うにゃま、だはえーぞ……とにかく、近くの街へ……」
サイガの脚をなんとかして、一旦休まないと……。
パトリック、サイガ、共に窮地を脱する。
さぁ、帰ろう。