水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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生きろと、託されたんだから。


第55話『託されたんだから』

俺の上着を干していたロープを使って、俺の身体とサイガを縛着した。

 

「大丈夫か?キツくないか」

「大丈夫よ……ただ、何というか」

 

妙に歯切れ悪そうにサイガが口ごもる。

……サイガを背負って密着してるから、まぁ居心地は悪いだろうな。

 

なお、一応装備はロストしてないのでトムボーイとピースキーパーはサイガの背中に背負わせている。

 

サイガの装備は全て駄目になっているので、破棄。

 

「……男の人とこんな密着するの、初めてで」

「今そういうこと言うなよ……」

 

正直背中がとても気持ち良い。

意識しちゃいけないけど。

 

「バッテリーキツかったらスリープに入っててもらっても構わない」

「ごめんなさい。その時はそうするわ」

 

その時は、か。

こいつもしかして意地でも起きてるつもりか。

 

「分かった……行くぞ」

 

崖を、登り始めた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「……凄いわね、その義手」

 

半ばほどまで登ったところで、サイガがそう漏らした。

 

「ああ、本当に、いつも、助けられてる」

 

言葉が途切れるのは息がそれだけ上がっているから。

やっぱりフル装備戦術人形1人担ぐのはしんどい。

 

「む、無理に返さないでよ」

「気に、するな、ふんっ……!」

 

手が震える。

いくら義手と言っても俺と生体接続してるから疲れも感じる。

幸い指先を怪我しないのが利点といえば利点か。

 

脆い箇所は抜けた。

ぶっちゃけ最初の5mは何度も落ちた。

 

そのたびに砂利に突っ込んでもう顔面は血だらけ。

口の中だってズタズタだし、もしかしたら肋が折れてるかも。

 

サイガを下敷きにしてないのは僥倖か。

 

鎮痛剤をとにかく打ちまくっているから、なんとか耐えられている。

 

「……ねぇ。どうして……ワタシを助けるの?」

 

今度は、明確な質問が飛んできた。

気が紛れるから、割と有り難い。

 

「恩人、だから、だっ、ハッ、ハッ」

 

まだ、残り半分。

 

「それだけで?」

「ああ、受けた恩は、返さなきゃいけない、育てて、くれ、た、爺さんと、シスターの教え、だ」

「……孤児、だったの?」

 

遠慮がちに、サイガが聞いてきた。

別に言いにくい事でもないんだが……律儀なやつ。

 

「ああ、孤児院育ちの、正規軍所属、だ」

「えっ、正規軍なの?」

「やっぱ、驚く、の、な」

「だって……」

「慣れたよ、その、反応は」

 

良いぞ、順調に進めてる。

 

折れるわけには行かない。

だって、託されたんだから。

 

生きろって言われたんだから。

 

「パトリック、頑張って……あと少しよ!」

「ああ……!」

 

行ける。

届く。

 

「生きるぞ、サイガ……!」

 

俺の手は、地上に、届いた。

 

「やった………………!」

 

サイガが、歓喜の声を上げる。

 

「う、ぉるぁぁぁぁ、あぁぁぁぁ!!!」

 

最後の力を振り絞り、俺は、体を引き上げ、地上へ足を付けた。

 

「は、はは、は……ほんとに登っちゃった……」

「どう、だ……人間、やりゃなんだって出来るんだ」

「凄いわね……本当に……ありがとう、パトリック」

「礼を言、うにゃま、だはえーぞ……とにかく、近くの街へ……」

 

サイガの脚をなんとかして、一旦休まないと……。

 

 

 




パトリック、サイガ、共に窮地を脱する。
さぁ、帰ろう。

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