ヘリ内部。
人形を前線に送り込むための輸送ヘリなので、それなりの人数が収容できる。
が、椅子に座っているのは俺とサイガ、ジョージ指揮官にWA2000と……。
「………………」
ずっと指揮官の腕にくっついている白くてちっこいのが一名。
この子もよく見たら指輪をしている。
マジ節操なしかよ。
「で、その時ね」
「ハハハ、カラビーナは相変わらずだな」
「ホントよね」
そして、2人はずっと談笑していた。
……WA2000が指揮官の隣に座り身体を寄りかからせながら。
距離近過ぎる。
(……ねぇ、この人ってずっとこうなの?)
(いや、知らねぇし……)
サイガが俺に耳打ちしてきた。
元々女にだらしない男だと思ってたけど。
(……あの子、可愛くない?)
「お前も節操無しじゃねーか!!」
「お?何だSaiga-12。お前もトカレフに惚れ込んだか?」
オッサンが茶々入れしてくる。
「べ、別に?ワタシはただ、可愛い子とお近付きになりたいだけですし?」
「隠す気ゼロね。アンタより節操無しよジョージ」
「手厳しいねぇリサ」
「トカレフもそう思うでしょ?」
「ええ、本当に」
トカレフ、そう呼ばれた少女が改めて俺の方を見た。
「ハンドガン、トカレフと申します」
「え、ああ、俺はパトリックだ」
「ワタシはSaiga-12。よろしくね?」
スッとサイガが近付いて手を伸ばしたが、手の甲をはたかれた。
「イテッ」
「私を好きに出来るのは、指揮官だけですよ?」
「そういう事だ、Saiga-12。欲しければ俺を殺して奪い取るんだな」
「オイオイオッサン……そんな事言うなって。本気にしたらどうすんだよ」
というかこの手の話って人形達にとって割とTABUなんじゃね?
そう思っていると……。
「……?」
なんか、二人共平然としている。
「決まってる。俺は負けないからな」
「お、おう……?」
「俺の女が見てる前で、無様に地べた舐めてるなんて俺のプライドが許さない。だから、負けられないし負けねーのさ」
「……そんなもんか?」
「そうさ。俺はこいつらにとっての理想の男で有り続けなきゃならない。生きてる限りな。いつかは死ぬかもしれん。……だが、それは今じゃない」
例え地べた這いずり回って泥水を啜ってでも生き延びる。
俺はそう言う考えだった。
見栄張って死んだら、それこそ無意味だ。
「無意味なんかじゃない。少なくとも、俺にとってはな」
「そんなもんか?」
「そんなもんさ。お前にも好きな女の1人や2人出来たら解るだろ」
「……好きな女、か」
思わず、脳裏に過るのは……あの時、助けられなかった……相棒と、その恋人。
同じ孤児院で育った幼馴染達。
「……おっと、地雷踏んだか」
「いや、そんなんじゃない。同僚二人を亡くしてな」
「悪い事を聞いた」
「良いんだ。俺は二人から生かされた分、生きなきゃいけない」
「そうか……」
ヘリの揺れが収まる。
そして、奇妙な浮遊感。
「……お、着いたらしいな」
……やっと、戻って来れたらしい。
「……リリスになんて謝ろう」
「悩めよ若人」