水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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ジョージ指揮官がS-13地区へ行く為、その便乗と言う形で俺達も同行させてもらうことになった。


第59話『矜持』

ヘリ内部。

人形を前線に送り込むための輸送ヘリなので、それなりの人数が収容できる。

 

が、椅子に座っているのは俺とサイガ、ジョージ指揮官にWA2000と……。

 

「………………」

 

ずっと指揮官の腕にくっついている白くてちっこいのが一名。

この子もよく見たら指輪をしている。

マジ節操なしかよ。

 

「で、その時ね」

「ハハハ、カラビーナは相変わらずだな」

「ホントよね」

 

そして、2人はずっと談笑していた。

……WA2000が指揮官の隣に座り身体を寄りかからせながら。

 

距離近過ぎる。

 

(……ねぇ、この人ってずっとこうなの?)

(いや、知らねぇし……)

 

サイガが俺に耳打ちしてきた。

元々女にだらしない男だと思ってたけど。

 

(……あの子、可愛くない?)

「お前も節操無しじゃねーか!!」

「お?何だSaiga-12。お前もトカレフに惚れ込んだか?」

 

オッサンが茶々入れしてくる。

 

「べ、別に?ワタシはただ、可愛い子とお近付きになりたいだけですし?」

「隠す気ゼロね。アンタより節操無しよジョージ」

「手厳しいねぇリサ」

「トカレフもそう思うでしょ?」

「ええ、本当に」

 

トカレフ、そう呼ばれた少女が改めて俺の方を見た。

 

「ハンドガン、トカレフと申します」

「え、ああ、俺はパトリックだ」

「ワタシはSaiga-12。よろしくね?」

 

スッとサイガが近付いて手を伸ばしたが、手の甲をはたかれた。

 

「イテッ」

「私を好きに出来るのは、指揮官だけですよ?」

「そういう事だ、Saiga-12。欲しければ俺を殺して奪い取るんだな」

「オイオイオッサン……そんな事言うなって。本気にしたらどうすんだよ」

 

というかこの手の話って人形達にとって割とTABUなんじゃね?

そう思っていると……。

 

「……?」

 

なんか、二人共平然としている。

 

「決まってる。俺は負けないからな」

「お、おう……?」

「俺の女が見てる前で、無様に地べた舐めてるなんて俺のプライドが許さない。だから、負けられないし負けねーのさ」

「……そんなもんか?」

「そうさ。俺はこいつらにとっての理想の男で有り続けなきゃならない。生きてる限りな。いつかは死ぬかもしれん。……だが、それは今じゃない」

 

例え地べた這いずり回って泥水を啜ってでも生き延びる。

俺はそう言う考えだった。

 

見栄張って死んだら、それこそ無意味だ。

 

「無意味なんかじゃない。少なくとも、俺にとってはな」

「そんなもんか?」

「そんなもんさ。お前にも好きな女の1人や2人出来たら解るだろ」

「……好きな女、か」

 

思わず、脳裏に過るのは……あの時、助けられなかった……相棒と、その恋人。

同じ孤児院で育った幼馴染達。

 

「……おっと、地雷踏んだか」

「いや、そんなんじゃない。同僚二人を亡くしてな」

「悪い事を聞いた」

「良いんだ。俺は二人から生かされた分、生きなきゃいけない」

「そうか……」

 

ヘリの揺れが収まる。

そして、奇妙な浮遊感。

 

「……お、着いたらしいな」

 

……やっと、戻って来れたらしい。

 

「……リリスになんて謝ろう」

「悩めよ若人」

 

 


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