「パトリック」
「ん、ああ、モナーク。メンテナンスありがとう。調子は上々だ」
「実は、言ってないことがあってな」
「言ってないこと?」
「最適化中に手足に空きスペースがあるのが発覚した」
「えっ、それ強度的に大丈夫なのかよ」
「その点に関しては問題ないさ。流石正規軍様々と言ったところね」
「お、おう。で、そのスペースに何をしたんだ?」
「ちょっとした仕掛けをね。手足で四箇所、全部違うギミック詰めたから、使った感想聞かせてくれよ?」
「また凝った事を……」
「ちなみにそれぞれ、スラッシュディスク、クラッカー、鉄傘、ワイヤーを仕込んだ」
「傘……待って待って、情報が処理出来ない」
現状を説明しよう。
今俺は手足を取られて転がされています。
……えっ、何で?
いや、ヘリから降りた瞬間DSR渾身のストレートが顔に突き刺さって気を失ったんだ。
そしたら手足抜かれて部屋に打ち込まれたんだよ。
以上、説明終わり。
今、オッサンとリリスの情報交換が行われてる最中だろう。
「……腹減った」
サイガがどうしたとか、あの後無事に逃げられたのかとか、ちょっと気になることは多い。
でもやっぱり空腹が勝る。
「誰か居るのか?」
『……居ますよ』
この声は、ジェリコか。
「ジェリコ、無事だったか」
『ええ、お陰様で。どこかの馬鹿が囮になってくれたお陰で』
「うぐ……まぁ、良かった」
ダン!!とドアを何かが思いっきり打つ音がした。
『何が良かった、ですって?』
ガチャ、とドアが開かれる。
……顔に暗い陰を落とした、ジェリコが、入ってきた。
「お、おう……」
「仲間を見捨てて生き延びて、何が良かったか言ってみなさい」
目の前に屈んだと思えば、俺の襟首を掴まれる。
「ジェリ、ぐぇ」
「パトリック。何で私がここまで怒っているのか、理由は分かってますね?」
「ケホッ、あ、あぁ……」
「貴方は、本当に……!」
「ジェリコ」
今まで聞いたことの無い、ゾッとするくらい感情の篭っていない声。
「……指揮官」
「リリ、ス」
「パトリックと話があります。ジェリコは外に」
「は、い……」
渋々と、ジェリコは部屋の外に出ていった。
……ドアが、閉じる。
「久しぶり、りっくん。二週間ぶりくらいかな」
「お、あぁ……」
リリスは柔和に微笑んでいる。
しかし、瞳に……光は無い。
「怪我は……いっぱいしたみたいだね。Saiga-12って子、よく連れて来てくれたね。あの子のお陰で、S-14区画の事を調べられそうだよ」
「そ、そうか」
「ねぇ、りっくん。私とした約束、覚えてる?」
すっ、と首にリリスの手が添えられる。
「えっと……」
「まさか、忘れた……なんて、言わないよね?」
添えられた手が、ゆっくりと、
「そんな訳な……がひゅ」
首を締める。
「あ、く、」
力が、強い。
そんな細い身体のどこに、ここまでの力があったのか。
「どうしたの?ほら、言ってみてよ?ねぇ?ねぇって、りっくん?」
「ぇほ、げ、げふっ、じゃあ、手を、はな、がぇ」
「あぁ、ごめんね?はい……どうぞ」
まるで笑顔の仮面が貼り付けられた様に、表情は変わらない。
「……『必ず、リリスの元に帰ってくる』」
「正解。良く出来ました」
「ホッ……」
「で、も」
再び、今度は両手が首に添えられた。
「りっくんは、約束を破ったかもしれなかったね」
「り、りす。待って、これは」
「うん、分かってるよ。E.L.I.Dなんて戦術人形じゃ対処出来ないもんね。りっくんは優しいから、殿したんだよね」
「別に、優しくなんか」
「でもね」
がぶり。
「痛っ……!」
リリスの頭が顔の隣を通過する。
首筋を、噛まれた。
恐る恐るリリスを見る。
「あんまり心配させると……何するか、分かんないよ?」
仮面は、貼り付けられたままだった。