「……で、なんだよこれ」
二人から渡された紙袋。
甘い匂いがする。
渡してきた片割れが豊かな胸を揺らして答える。
「今日はバレンタインよ」
「知ってる。嫌って程言われた」
「あら、意外ね」
「リック、味わって食べてね。ここのチョコレートは中々手に入らないのよ」
「代用チョコレートじゃないのか」
「本物よ。喜びなさい?」
FALと、Five-seveNだ。
何かとこの2人はセットで歩いている気がする。
この間の事は、グーパンで済ませてくれたのか普通に話しかけてくれる。
「本物か……いつぶりかな」
「正規軍に居たなら買えたんじゃないの?」
「……配給で配られたやつくらいしか食えなかった」
当時俺の住んでたエリアから売店が離れていて、どんだけ走っても入荷に間に合わなかった。
「いや……でも昔リリスが作ったチョコレートケーキ……美味しかったな」
「へぇ……意外ね。指揮官がそんな事するなんて」
「?そうなのか」
「ええ。言ったでしょ?アタシはあの指揮官が笑ったとこ見たこと無いって」
そう言えばそんな事を言っていた気がする。
「今日誕生日なんでしょ?もしかしたら、準備してるのかもね」
「ウッソ!?リック、今日誕生日だったの!?」
……Five-seveNには情報が行っていなかったらしい。
FALは知っていた辺り中々イイ性格をしている。
「ちょっとリック!なんで言ってくれなかったのよ!」
「聞かれてないから」
「FALもよ!何で黙ってたのよ!」
「情報収集は戦場の基本よ?まだまだリーダーには遠いわね」
「う、ううううううう!覚えてなさい!!」
……走って行ってしまった。
FALが舌を見せてウィンク。
遊んでたなコイツ。
「まぁ、何だ。ありがとう」
――――――――――
「はい〜お誕生日おめでとう、リック」
「え、悪いな……スパス」
「私からもどうぞ!メープルシロップです!」
「ブレないなお前!?」
「エッ、リック誕生日なの!?」
「おうネゲヴ。そういう事らしい」
「……ジェリコ!ちょっと来て!」
「ネゲヴ……?ちょっ、引っ張らないで!」
「……?」
「パトリックさん!」
「シュタイアー、どうし……聞くだけ野暮か」
「はい、誕生日おめでとうございます。一人で、部屋で、夜に、寝る前に食べてくださいね!」
「お、おう……」
「あらあら、大盛況ね」
「はぁいパトリック。愛しのサイガちゃんよ」
「キャラ変わり過ぎだろ」
「はいパトリック。私からよ」
「さんきゅ」
「……貴方から素直にお礼を言われるのは、悪くないわね」
「……あっ」
「ふふ、パトリック……お返し、期待してるわよ」
(……拙い。なんも考えてなかった)
「はい、パトリック。……ワタシもリックって呼ぼうかしら」
「お好きにどうぞ……」
「はぁ、はぁあ、間に合った、ぱと、り、っく、さん!!」
「うおぉ88式!?」
「どうぞ!」
「あ、ありがとう……」
「パトリック!!」
「ネゲヴ?どこ行ってたんだ?」
「ハッピーバースデー!!」
「オゴォ!?」
「ね、ネゲヴ!顔にめり込んでいます!」
「じゃ、じゃあ!渡したからね!」
「いてて……買いに行ってたのか」
「……手作りです」
「馬鹿な……この短時間でこれほどの物を……」
「それで……その、パトリック」
「うん?」
「………………どうぞ」
「え……ありがとう……これ、日記帳か」
「ええ。……甘い物じゃなくてごめんなさいね」
「いや……嬉しいよ」
―――――――――――――
「今日はここまで」
「ありがとう、ございました……!」
本日の立ち合いが終わった。
疲れて立てない……。
スコーチが木刀を片付ける。
一〇〇式が受け取って先に戻る。
「さて、なかなか形になってきたではないか。いくつかの技と奥義が一つ。1週間で会得とは恐れ入った」
「ぜぇ、ぜぇ……そんなもんか?」
「お前には人斬りの才能があるかもしれんな」
「嬉しくないな、そんな事言われても」
「ほれ、食え」
「これは……?」
スコーチから何やら甘い匂いのする包みを貰った。
中身は……何だこの黒いの。
豆?
「おはぎだ。うまいぞ」
「へぇ……いただきます」
ほんのりと温かい。
一口含んだ。
「……甘い」
チョコレートの様な強い甘さではなく、優しい風味。
「私からのちょっとしたご褒美だ」
「ご馳走様……」
「ははは、もう食ったか。せっかちな奴め」
「スコーチ、その……世話になった」
「何、貴様が生きていればまた会うだろうて」
――――――――――――
シャワーを浴びて、少しリリスの様子を見に執務室へやってきた。
「リリス」
「あ、りっくん!お疲れ様、どうだった?」
いつもと変わらない笑顔。
しかし、少し疲れが見て取れる。
「疲れてないか?」
「ううん、大丈夫だよ。書類仕事しかできないもの、これは私の戦いだから」
「……無理、するなよ」
「大丈夫大丈夫。もし何かあっても、りっくんが助けてくれるでしょ?」
「……ああ」
杞憂だったかな。
副官として傍らに立っていたG36cが俺に気付いた。
「あ、パトリックさん。誕生日、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。なんか祝われっぱなしだ」
「ふふ、人間にとってそういう日なのでしょう?」
それも、そうか。
ここの所まともに人間やってなかったからちょっと久しぶり。
……がたっ、と。
リリスが勢いよく立ち上がった。
「リリス?」
「今日、誕生日だったの……?」
「え?」
小声で、俯いて何か呟いていた。
どうしたのだろうか。
「ううん、何でもないよ?ごめんねりっくん。お仕事忙しくて何も用意できなかったの」
「ああ……そんな事か。大丈夫大丈夫。リリスには良くしてもらってるし気にしないよ」
「本当?良かった……また今度、皆でお祝いしよ?またケーキ焼いてあげるね」
「マジか。リリスのケーキ、美味しいから好きだ」
「うふふ、本当に食べるのが好きだね。楽しみにしててね」
「ああ」
……何でだろう。
忘れていたと言うより……
取り敢えず部屋に帰ろう。
今日はもう、クタクタだ。
「G36c、ごめんね、ちょっと取ってきてほしい資料があるんだけど」
「わかりました。行ってきますね」
………………。
「あの女から、まだ聞き出してない事……多そうね」
………………。