水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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まだまだ続く2月14日。


第65話『パトリックの長い一日』

「……で、なんだよこれ」

 

二人から渡された紙袋。

甘い匂いがする。

 

渡してきた片割れが豊かな胸を揺らして答える。

 

「今日はバレンタインよ」

「知ってる。嫌って程言われた」

「あら、意外ね」

「リック、味わって食べてね。ここのチョコレートは中々手に入らないのよ」

「代用チョコレートじゃないのか」

「本物よ。喜びなさい?」

 

FALと、Five-seveNだ。

何かとこの2人はセットで歩いている気がする。

この間の事は、グーパンで済ませてくれたのか普通に話しかけてくれる。

 

「本物か……いつぶりかな」

「正規軍に居たなら買えたんじゃないの?」

「……配給で配られたやつくらいしか食えなかった」

 

当時俺の住んでたエリアから売店が離れていて、どんだけ走っても入荷に間に合わなかった。

 

「いや……でも昔リリスが作ったチョコレートケーキ……美味しかったな」

「へぇ……意外ね。指揮官がそんな事するなんて」

「?そうなのか」

「ええ。言ったでしょ?アタシはあの指揮官が笑ったとこ見たこと無いって」

 

そう言えばそんな事を言っていた気がする。

 

「今日誕生日なんでしょ?もしかしたら、準備してるのかもね」

「ウッソ!?リック、今日誕生日だったの!?」

 

……Five-seveNには情報が行っていなかったらしい。

FALは知っていた辺り中々イイ性格をしている。

 

「ちょっとリック!なんで言ってくれなかったのよ!」

「聞かれてないから」

「FALもよ!何で黙ってたのよ!」

「情報収集は戦場の基本よ?まだまだリーダーには遠いわね」

「う、ううううううう!覚えてなさい!!」

 

……走って行ってしまった。

FALが舌を見せてウィンク。

遊んでたなコイツ。

 

「まぁ、何だ。ありがとう」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はい〜お誕生日おめでとう、リック」

「え、悪いな……スパス」

「私からもどうぞ!メープルシロップです!」

「ブレないなお前!?」

「エッ、リック誕生日なの!?」

「おうネゲヴ。そういう事らしい」

「……ジェリコ!ちょっと来て!」

「ネゲヴ……?ちょっ、引っ張らないで!」

「……?」

「パトリックさん!」

「シュタイアー、どうし……聞くだけ野暮か」

「はい、誕生日おめでとうございます。一人で、部屋で、夜に、寝る前に食べてくださいね!」

「お、おう……」

「あらあら、大盛況ね」

「はぁいパトリック。愛しのサイガちゃんよ」

「キャラ変わり過ぎだろ」

「はいパトリック。私からよ」

「さんきゅ」

「……貴方から素直にお礼を言われるのは、悪くないわね」

「……あっ」

「ふふ、パトリック……お返し、期待してるわよ」

(……拙い。なんも考えてなかった)

「はい、パトリック。……ワタシもリックって呼ぼうかしら」

「お好きにどうぞ……」

「はぁ、はぁあ、間に合った、ぱと、り、っく、さん!!」

「うおぉ88式!?」

「どうぞ!」

「あ、ありがとう……」

 

「パトリック!!」

「ネゲヴ?どこ行ってたんだ?」

「ハッピーバースデー!!」

「オゴォ!?」

「ね、ネゲヴ!顔にめり込んでいます!」

「じゃ、じゃあ!渡したからね!」

「いてて……買いに行ってたのか」

「……手作りです」

「馬鹿な……この短時間でこれほどの物を……」

「それで……その、パトリック」

「うん?」

「………………どうぞ」

「え……ありがとう……これ、日記帳か」

「ええ。……甘い物じゃなくてごめんなさいね」

「いや……嬉しいよ」

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

「今日はここまで」

「ありがとう、ございました……!」

 

本日の立ち合いが終わった。

疲れて立てない……。

 

スコーチが木刀を片付ける。

一〇〇式が受け取って先に戻る。

 

「さて、なかなか形になってきたではないか。いくつかの技と奥義が一つ。1週間で会得とは恐れ入った」

「ぜぇ、ぜぇ……そんなもんか?」

「お前には人斬りの才能があるかもしれんな」

「嬉しくないな、そんな事言われても」

「ほれ、食え」

「これは……?」

 

スコーチから何やら甘い匂いのする包みを貰った。

中身は……何だこの黒いの。

豆?

 

「おはぎだ。うまいぞ」

「へぇ……いただきます」

 

ほんのりと温かい。

一口含んだ。

 

「……甘い」

 

チョコレートの様な強い甘さではなく、優しい風味。

 

「私からのちょっとしたご褒美だ」

「ご馳走様……」

「ははは、もう食ったか。せっかちな奴め」

「スコーチ、その……世話になった」

「何、貴様が生きていればまた会うだろうて」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

シャワーを浴びて、少しリリスの様子を見に執務室へやってきた。

 

「リリス」

「あ、りっくん!お疲れ様、どうだった?」

 

いつもと変わらない笑顔。

しかし、少し疲れが見て取れる。

 

「疲れてないか?」

「ううん、大丈夫だよ。書類仕事しかできないもの、これは私の戦いだから」

「……無理、するなよ」

「大丈夫大丈夫。もし何かあっても、りっくんが助けてくれるでしょ?」

「……ああ」

 

杞憂だったかな。

副官として傍らに立っていたG36cが俺に気付いた。

 

「あ、パトリックさん。誕生日、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。なんか祝われっぱなしだ」

「ふふ、人間にとってそういう日なのでしょう?」

 

それも、そうか。

ここの所まともに人間やってなかったからちょっと久しぶり。

 

……がたっ、と。

リリスが勢いよく立ち上がった。

 

「リリス?」

「今日、誕生日だったの……?」

「え?」

 

小声で、俯いて何か呟いていた。

どうしたのだろうか。

 

「ううん、何でもないよ?ごめんねりっくん。お仕事忙しくて何も用意できなかったの」

「ああ……そんな事か。大丈夫大丈夫。リリスには良くしてもらってるし気にしないよ」

「本当?良かった……また今度、皆でお祝いしよ?またケーキ焼いてあげるね」

「マジか。リリスのケーキ、美味しいから好きだ」

「うふふ、本当に食べるのが好きだね。楽しみにしててね」

「ああ」

 

……何でだろう。

忘れていたと言うより……()()()()()()、そう感じる慌て方だった気がする。

 

取り敢えず部屋に帰ろう。

今日はもう、クタクタだ。

 

 




「G36c、ごめんね、ちょっと取ってきてほしい資料があるんだけど」
「わかりました。行ってきますね」

………………。

「あの女から、まだ聞き出してない事……多そうね」

………………。
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