水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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同じファミリーネームを持つ。
それはつまり、同じ孤児院で育った『家族』だったという事。


第6話『エールシュタイアー』

「初めまして。貴方が剣の持ち主ね。部隊長のFALよ」

 

服を適度に着崩し、尊大な態度が似合いそうだと第一印象で感じた。

何故か肩にフェレットが乗っている。

 

「あー、うん、ハジメマシテ」

「今どき実体剣を使ってるなんていいセンスしてるわね」

「そりゃどーも」

 

FALからトムボーイを受け取る。

地面に刺して軽くハンドルを捻る。

 

……いつもの様に軽快な音を立てた。

無事みたいだが、腰を落ち着けたらこいつも一度点検しないといけないな。

 

「何この剣。肩すっぽ抜けるんじゃないの?」

「さぁな。生憎と抜けたことは無いから」

「腕は取れてたけどね」

 

Five-seveNを睨む。

そっぽを向いて口笛を吹き始めた。

 

「それで……その、エールシュタイアーさんは」

「……言いにくいならパトリックで良い」

 

自分の名前だし言いにくいのだろう。

ならいっそファーストネームで良い。

 

「では……パトリックさん。これからどうなさるんですか?」

「部隊に戻る」

 

とりあえずそれに尽きる。

 

「部隊…どこかのPMC所属なの?」

「PMCと一緒にすんな。正規軍だよ」

「「えぇーっ!?」」

 

IWSとFive-seveNが揃って声をあげた。

それはそれでちょっと傷付く。

 

「全然そんな風には見えなかった……」

「失礼な……」

「怪我とかしてるかもしれませんので、一度基地まで来てもらえませんか…?」

「断る。アンタらの世話にはならん」

 

背を向けて歩き出そうとする。

……腹のむしが空気を読まずに鳴った。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

誰も、喋らない。

 

「……ご飯、ありますよ?」

「う、うごごご……行きます」

 

絞り出せたのは、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー1時間後。

 

俺はPMC……グリフィン&クルーガーの基地の前に立っていた。

 

ここの指揮官…エールシュタイアー氏は若い女性ながら卓越した手腕で暴走した鉄血の人形達を蹴散らしているらしい。

また、人形達からも同性と言うことで接し方に好評を得ているとか。

ただ…ちっとも笑わない、かなり真面目な堅物だとか。

クールビューティー、と言ったところらしい。

 

「ようこそ、パトリック。歓迎するわ」

「か、勘違いするなよ……飯、飯ご馳走になるってだけだからな」

「はいはい、分かってる分かってる」

「Five-seveN押すな!触んな!やめろ!!」

「あはは……」

 

結局、IWSが何かと食い下がってきてそのまま連れて来られてしまった。

まぁ、グリフィンならIOPとコネクションがあるし義手の調子をみてもらえないかなと打算がないわけでも無かった。

 

ついでに様々な情報を仕入れるにも悪くなかったのかもしれない。

 

「指揮官、入るわよ」

 

FALが扉をノックする。

あれよあれよとその指揮官に会うことになってしまっていた。

 

(まぁ、分かってるやつに聞くのがイチバン早い。それに、同じ孤児院出身だし何か融通利かしてもらえるかも知れない)

「入って」

「失礼するわ。件の男を連れてきたわ」

「ありがとう。下がってもらって構わないかしら」

「ハイハイ。あんまりオイタしないようにね」

「誰がするか」

 

FALが出ていく。

……俺と指揮官、二人だけになる。

今更だけどどこの馬の骨ともわからん男と二人きりにするのはどうかと思うが、それだけこの指揮官がデキる、と言うことなのだろうか。

 

「名前、聞いても?」

「え、ああ……パトリック、エールシュタイアー」

「……パトリック?」

 

背を向けていたシルエットが振り返る。

すらっと背の高い、長い黒髪を無造作にゴムで括っている、化粧っ気の無い女性だ。

顔立ちもかなり整っている。

赤い瞳が印象的だった。

 

仏頂面が見えて、噂通りだなと思い……。

 

彼女の表情が、花が咲くような満面の笑みになった。

 

「はっ……!?」

()()()()!?本当に、りっくんなの!?」

「えっ、りっくん?!」

 

先程までの冷たい感じの声ではない。

嬉しさを微塵も隠さない、年相応の女性の声。

 

「私、私よ?リリス、リリス・エールシュタイアー!!」

「えっ……リリス!?」

 

名前を聞いてようやく思い出した。

いつも俺の事を気遣ってしきりに世話を焼きたがっていた奴が、一人いた。

 

そいつは前髪を伸ばして、いつも俯いていたからよくイジメられていた。

それにムカついてそいつら全員ボコボコにしたことがあったんだが……それ以来、付きまとわれていた。

 

俺より歳が2〜3上だったらしく、俺達が孤児院を出る二年前に出て行った。

 

「あぁ、良かった。心配してたのよ?」

「……要らねーよそんなん」

「ふふ、ぶっきらぼうなのは変わってないのね」

 

まさかこんな美人になっていたとは驚きだ。

すぐ近くに寄ってきて手を取られる。

 

「ボロボロね……すぐに修理させるわ。安心して?部屋も用意するし、修理中もお世話してあげる」

「必要ねーよそこまで。右腕さえ観てくれれば…」

「駄目よ!ただでさえ大変なんだから。大丈夫、私に任せて?」

 

世話すると言い出したときもこんな感じだった気がする。

俺もズルズルとなぁなぁで同意しちまうんだよなコレ……。

 

「憐れみも同情もしないわ……大丈夫よ、りっくん……」

「はぁ〜……分かったよ。ただ、軍と連絡取らせてくれ。隊長に報告しねぇと」

「え……正規軍?」

「ああ、俺は正規軍の兵士だよ」

「そう、だったんだ……ごめんね、グリフィンから向こうに連絡するのは禁じられているの」

「んなぁっ!?マジかよ……せめて、どっかの駐屯地まで……」

「それもちょっと無理かな……ここから歩いたら2日かかるわ」

「なんてこった……」

 

俺は相当辺鄙なトコに流されちまったらしい。

何処かで傭兵業でもしてろ銀を稼ぐしかないか…。

 

「だ、か、ら、りっくんのお世話は、してあげるよ」

「いや、そこまでしてもらう訳には……」

「じゃあ、私に何かあったら助けてよ……『家族』でしょう?」

 

家族、家族か……。

それを言われると、弱い。

 

「……分かったよ。少し、世話になる」

「良かった。そんなボロボロのりっくん追い出したなんて言われたら私の評価もガタ落ちしちゃうからね」

「それもそうか……アンタも大変な地位にいるんだな」

「そんなこと無いよ……でも、また会えて……嬉しい」

 

うっとりとした表情で俺の義手を撫でている。

……こういう所が、ちょっと苦手なんだよな。

 

押しが強いというか何というか。

 

「それじゃあ、案内するね」

「指揮か……!!?!!」

 

ノックもせずにいきなりFive-seveNが入ってくる。

……リリス指揮官を見た瞬間、固まる。

 

「Five-seveN?」

「し、ししし、指揮官が、笑ってる……!?」

「驚くのか……」

 

この後仕事をサボっていたと勘違いされてしっかり怒られていた。

 

 

 

しかし、グリフィンの世話になるのか……。

 

俺、無事に帰れるんかね……。

 

 

 




はい、という訳で某お空のナ○メアさんみたいは指揮官でした。
このタイミングでヤンデレタグを追加。

軍の二人には悪いですが、暫くそちらとは合流出来ません。

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