水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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第85話 『会って欲しい人』

 

「よう、起きたか」

 

ひとしきりイオンに手足を舐め回すように見られ手品の様に四肢をもがれた俺を見て、オッサン……ジョージ指揮官は苦笑いしていた。

 

「オッサン、なんだこの女!?」

「なんだ、紹介してもらってなかったのか?彼女はイオン。主に肉体と機械の融合……まぁ要するに義肢のスペシャリストだ」

「人形には必要ねーんじゃ?」

「ペルシカさんから聞いたのか、お前に会いたがっててな」

「……マジかよ」

 

視線をやれば、俺の手足をうひょーって喜びながら解体し始めた。

 

「待て待て待て!!それ替えが無いんだから壊すなよ!?」

「大丈夫大丈夫!データ取ったら元に戻すから!何ならもっと良くして返す!!あ、これそれまでの代わりね!それじゃ!!」

 

クソ重いはずの俺の手足を担いで走って行ってしまった。

 

「何なんだあれ……」

「好きって気持ちは時に限界を凌駕するのさ」

「はぁ……?」

「それで?とりあえずこれ付ければいいのね」

「ああ、グリズリー頼んだぞ」

「いい加減お義母さんって呼んでくれないのかしら」

「……お前は確かに親父の誓約相手だがここじゃ俺の部下だ」

「うぅ……ジョン……ジョージが虐めるわ……」

「さっさと付けてやれよ。ダルマじゃ可哀相だろうが」

 

嘘泣きをやめて変人に置いて行かれたブツを俺の元へ運んできた。

 

「これは……」

 

義肢……のようだが、俺の知るそれとは違う。

人の手足をそのまま切り取った様な、機械っぽさが接合部だけで皆無なのだ。

 

「人工皮膚を使った欠損部位を補うための義肢。まぁ本来の用途の代物だ。アレが直るまでの……当面の代わりだな」

 

がっちりとはめられる。

神経が繋がる感覚がない。

 

「流石に擬似神経までは入れてないけどな。動かしてみろ」

 

とりあえず手を動かし、手の指を一本ずつ折る。

 

「流石に可動テストはお手の物か。初めて使うとは思えん動きだ」

「……感覚がないっての、こんな違和感があるんだな」

「それだけアレが優秀だって事だ。しかし……」

 

オッサンが俺の肩……義手ではなく、接合部を見る。

 

「接続部分が思いっきり機械だから継ぎ接ぎ感が凄いな……」

「こればかりはな……」

 

足も接続してもらい、とりあえず立ち上がる。

やっぱり足の感覚もない。

けど動いている。気持ち悪い。

 

「……今更だけど俺パンイチかよ」

「私は別に気にしてないわよ」

「俺が気にするんだよ」

「ふふっ、若いわね」

「なぁ、オッサン何こいつ」

「俺にも判らん……」

 

さて、とオッサンが話を切り替える。

 

「とりあえず服来たら俺の執務室に来い。お前の置かれている状況を説明する」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

……ドアをノックせずに開けた。

 

途端、ドア横に控えていた誰かに取り押さえられた。

手足のパワーが落ちているため、普通に組伏せられた。

 

「え、あれっ……パトリックじゃない」

 

聞き覚えのある声。

視線を上げればいつぞやのワインレッドの髪。

 

「WA2000……か……?」

「ええ、そうよ。もう、ノックくらいしなさいよ」

「リサ、その辺にしといてやれ。パトリック、取り敢えずそこ座ってくれ」

 

WA2000に差し出された手をやんわり拒んで自力で立ち上がり、オッサンの向かいの席に座った。

 

「さて、まずはお前がここに運ばれてから……一週間経った」

「そんなに……?」

「まぁ発見したとき外傷も多かったからな……拷問でもされたのかよ」

「………………」

 

期間は分からないが、リリスにされたことを思い出してつい黙ってしまった。

 

「あー、悪い。んで、もう一つ……お前、グリフィンに指名手配されてる」

「は?」

「ほい礼状。いやー、あのお嬢ちゃん本当に行動早いな……」

「マジか……」

「まぁ流石にイチ地区指揮官が言い出したことだからすぐに撤回されるけどな。こんなん構ってられん」

「そうなのか……」

「で、暫くほとぼりが冷めるまでちょっと隠れてもらうんだが」

「何故」

「戦えないやつ置いとくほどうちも懐は暖かくないんだ。手足と武器が治るまで……ちょっと会って欲しい人がいる」

 

ぴくり、と壁際で話を聞いていたWA2000の肩が揺れる。

 

「会って欲しい人?」

「ああ。グリズリーと一緒にちょっと後方まで行ってくれ。目算だとひと月だ」

「あ、ああ……なんか、頼ってばっかだな……」

「どうした、いやに殊勝だな。頭でも打ったか?」

「ばっ!ちげーよ!!」

「ま、気にするな。お前は……」

 

そこまで言って、歯切れ悪そうに一言。

 

「弟みたいなもんだしな」

「はぁ……?俺はお前が兄貴とかちょっと」

「なんだよそれ。まあいい、グリズリーを呼ぼう」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……クソッ」

 

パトリックが退室した後、俺は力なく項垂れた。

結局言えなかった。

 

「……リサ」

「何かしら」

「俺は、情け無いやつだな」

「ええ、そうね。知ってるわ」

「あいつに、言えなかった」

「………………」

「幻滅したか?」

相棒(バディ)、アンタの失態私が何度見たと思ってるの?」

 

また懐かしい呼び方だ。

 

「それもそうか……」

「私はアンタのそういうとこ引っくるめて愛してるのよ。今更変わることは無いわ……ただまぁ」

 

リサが笑いながら俺の額に指を弾いた。

 

「イテッ」

「罰としてしばらくお預けね」

「……わかってるさ。この件、片付く前にお前達を抱くつもりは無い。お前たちに逃げる訳にはいかない」

「そう」

 

さて……出発前に要点だけ伝えないといけないのか……ちょっと気が重いな。

 

 

 

 

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