「着いたわ」
舟をこいでいた意識が戻ってくる。
グリズリーが車を止めたので、俺も伸びをして降りる。
「ったく、良い身分ね……人に運転させて寝てるなんて」
「あー……すまない。その手の運転は壊滅的だったんだ」
昔、隊長に二度と運転するなと厳命された覚えがある。
「ま、良いけどね……こっちよ」
グリズリーが歩き出すので、俺も着いていく。
「……何か、長閑な街だな」
到着したのは、グリフィン管轄地区の中でも中心近く。
でも、妙に人が少ないし……老人ばかりだ。
「ここ、内地なんだけど見ての通り人が都市部に流れてるのよね」
「へぇ……ん?あの樹は?」
町の中心地に聳え立つ大樹。
ピンク色の花をふんだんに咲かせている。
「あれはサクラよ。本来は東の方にしか咲かないのだけど、何故かこの街……年中咲きっぱなしなのよね」
「そう言うのってずっと咲くもんなのか?」
「さぁ……」
……そして、1件の喫茶店の前までやってきた。
「ここよ」
「……ここは?」
「旦那の店」
「あんたの旦那かよ!」
「正確に言うと旦那の奥さんの店だけどね」
ただいまー、とグリズリーがドアを開いて中に入っていく。
ドアに付けられた古風な鈴がカラカラと鳴る。
「……何やってるの。早く入りなさいよ」
「お、おう……」
「何?今更ビビってる?」
「ち、違うわ!」
意を決してドアノブに手を掛けて、中に入る。
「ようリズィ。今日は急だな」
「久しぶり、ジョン。今日はあの子に頼まれちゃってね」
グリズリーがたまたま近くに立っていた白髪の男性に抱き着き、そのまま熱烈な接吻をかました。
彼が旦那なのだろう。
「……こいつか」
「ええ」
男性が俺を見る。
長くした白髪を後ろでざっぱに縛っている。
無精ひげも目立つが不思議と彼には似合っている気もする。
そして何より……。
「あんたが……その、ベルロック指揮官の父親?」
顔があのオッサンにそっくりだ。
年齢+20くらいしたらこうなりそう。
「おう。俺がジョン・ベルロックだ……んで、ハルカさん!」
男性、ジョンが奥に向かって声を張る。
「は~い」
カウンター裏から女性がやってきた。
「え、AK-12……!?」
「?」
女性の顔を見た瞬間、思わず声が出てしまった。
だって顔そっくりなんだもん。
……ただ、髪は黒いし瞳はエメラルドグリーン。
ぶっちゃけ雰囲気も全然似ていない。
似ていないが……何か、別の物が俺の中を駆け巡った。
「あ……」
何だ、この気持ちは。
苦しい。
「いらっしゃい。いえ……」
女性は、一度目を伏せてから……俺の傍まで来て、俺を正面から抱きしめた。
「おかえりなさい」
「あ、ああ……」
嗚咽。
不意に頬を温かい物が滑る。
……涙?
違う、俺はこの人を知らない。
でも、
覚えてないけど、覚えている。
この人じゃない。
でも確かにこの人だ。
「辛かったでしょう?ここにいる間は……ゆっくりしましょう?」
「うっ……」
何かが決壊した気がした。
涙が止まらない。
「かあ、さん……」
絞り出す様に声が出る。
女性……ハルカ・ベルロックはずっと微笑んでいた。