TS 異世界最強主人公アンチ   作:バリ茶

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温泉回 一歩違えば 大参事

 ユノアの呪いを解呪してから、はや二週間。絶好調になった勇者パーティは旅を再開した。

 

 俺はといえば、ゴーストとして彼らについて行きながら、ワープの魔石でときたまトリデウスの所にも顔を出していた。

 

 とある山奥に小さな家を建てた彼は、俺に告げた通り細々と平和に生活しているようだ。

 

 研究の成果を見に行ったり、俺が旅で手に入れたアイテムを差し入れたりと、トリデウスとはご近所さん程度の仲にはなっている。

 

 打算的に彼との交流を始めたわけではないのだが、結果的に幽霊のエキスパートである呪術師に知り合いが出来たのは僥倖だ。

 

 今の俺の状態を分析して貰えるし、どの程度の無茶が許容範囲で、どんな行動を控えた方がいいのか……等々、いろいろとアドバイスを貰っている。

 

 

 一日に三度以上、別々の人物に憑依するのはダメ。

 

 彼に念を押されたのは、その部分だった。

 それを守れば、当分の間は普通に幽体として活動できるだろう……と。

 

 

 ということで、基本的に憑依は一日一回と決めた。

 本当に緊急的に憑依が必要な場合のみ、二回目を行う。

 三度目は何があっても駄目だ。もしそれを実行する時があるとすれば、それはきっと霊としての命を擲つ覚悟が必要な場面だろう。

 

 なので、一日一回の憑依は気軽にできない。

 

 パーティの一員として活動する時も、そのほとんどは荷物の透過や上空からの索敵だ。

 そこ! 荷物持ちとか言うな! 気にしてるんだからな……。

 

 

 

 てなわけで、戦闘に関しては出番がない。

 今も目の前で巨大な魔物のタコと戦っている四人を眺めているだけだ。

 

 勇者が主な攻撃係、ファミィちゃんが援護で、ユノアが攻撃を受け流したりするタンク、最後にエリンちゃんが全体の回復やバフ。

 実にバランスのとれたチームだ。

 

 

 ちなみに俺は倒れる寸前のモンスターに小石を投げたりしてる。

 戦力外すぎて泣けてくるぜ。

 

 ──タコが怯んだ。もうすぐ決着がつくのかもしれない。

 俺はいつも通りそこら辺から小石を拾い、デカいタコの額辺りに狙いを定めた。

 

「動くなよ〜……それっ」

 

 イタズラ気分で投げたそれは見事にタコの額にポコっと命中。

 

 ぶつけられたタコは涙目だ。ふふふ、投擲技術の上達を実感するなぁ。

 

 

 

「……ゆっ、勇者さま! 魔物の様子が変です!」

 

「ん?」

 

 エリンちゃんが叫び、俺は再びタコの方へ首を動かす。

 

 

 ───そこには痛そうに額を触手で押さえながら、体が風船のように膨張し始めている巨大タコの姿が。

 あれ、なんかヤバイ?

 

「何が起きてるのよ……!」

 

 ファミィちゃんが杖でタコを照らした。あれはステータス分析の魔法だ。

 

 そしてタコの状態を理解した瞬間、魔法使い少女は一瞬で青ざめた。

 

 

「……額の弱点を突かれたから……爆発する……?」

 

 

 ゆっくりと、そう呟いた。

 

 彼女の言葉を聞いた俺はファミィちゃん以上に青ざめ、あわあわとその場に立ち竦んでしまう。

 

 同様に、その場にいた全員が固まった。

 自分たちは額を攻撃していないのに何故か膨張を始めたタコへの疑問と、爆発という規格外な現象への動揺の影響で。

 

 おそるおそる彼らの方を見れば、1人だけユノアが苦笑いしてこっちを見ていた。

 

 

 ───俺、また何かやっちゃいました?

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 やっちゃってました(事後報告) 反省しますごめんなさい……!

 

 結果だけみれば、水を体内に溜めてるフグみたいになったタコの爆発は、怪我を負うようなダメージのあるものではなかった。

 

 しかし勇者パーティに別の意味で大ダメージを残してみせたあのタコは、間違いなくツワモノだったと言える。

 

 ……まぁ、ぶっちゃけ石を投げた俺が悪いんだけどね。

 ひっ! ごめんなさい! 石投げないで!

 

 

 彼らを襲ったのは熱風でも爆風でもなく、タコ墨だ。

 派手に弾け飛んだソレは、爆発の勢いで一気に拡散。

 勇者パーティは真っ黒なタコ墨の雨に襲われることとなったのだった。

 

 身体中タコ墨まみれになった勇者パーティは大ピンチ。

 川の水じゃ墨が全然落ちないし、こんな姿のまま次の街に入るなんて無理。特にシスターと魔法使いの女の子が。

 

 

 というわけで何かないかと周囲を索敵した俺が見つけたのは、街道沿いにポツンと佇む一軒の温泉宿だった。

 

 

 

 

 温泉を見つけてから少しして。

 

 俺は客室でふわふわ漂っていた。幽霊だからお風呂入れないし。

 

 ちなみにこの温泉宿は老夫婦が経営している、いわゆる老舗の部類だそうで。

 名のある貴族もお忍びで訪れる程度には、隠れた名所らしい。

 

 

 ……しかし困ったことに、肝心の温泉が『混浴』なのだ。

 全員タコ墨状態のパーティの事を考えれば、たしかに全員さっさと入ってしまった方がいいのだが、そうは問屋が卸さない。

 

 

 えっ、駄目でしょ。

 親子恋人従弟だとかならまだ分かるけど、あの四人を一緒に入れるのはダメ。

 

 

『そういう関係じゃないでしょ! いいからお前は後で一人で入れ!』

 

 

 と、ついアルトを引き止めてしまった。

 全身にタコ墨を浴びてるわけだし、風呂に行くことを引き止めたのは、正直申し訳ないとは思ってる。ごめんな……。

 

 ちなみにアルトは別の客間だ。

 あいつも少しは心細いかもしれないし、皆がいるこっちの部屋に後で連れてこようかな。

 

 

 そんな事を考えていると、不意に客間の戸が開いた。

 そこへ視線を移せば、湯上りでホカホカになってるファミィちゃんとユノアが見える。

 

 なるべく早く上がるように言っておいたので、安心した。これでアルトも風呂に───あれ?

 

 

 二人の近くを見渡しても、少し待っても、エリンちゃんの姿が見えない。

 少し心配になり、風呂上りのコーヒー牛乳を飲んでいる二人のもとへ近づいた。

 

「ユノア。エリンちゃんは?」

 

「ん? ……あぁ、エリンか。ほんの少しだけ湯船に浸かってから出ますー、とか言ってたな」

 

 その会話のあと、ファミィちゃんが怪訝な顔をした。確かに俺の声は彼女には聞こえていないから、ユノアがひとりで喋っているようにも見えるだろう。

 

 しかしそんな光景は既に何度も見ている事から、ファミィちゃんが不思議に感じたことはこのことではないのだと気づいた。

 すると予想通り、ファミィちゃんはコーヒー牛乳の瓶から口を離して、別のことを口にした。

 

「確かに遅いわね。あの子普段もそこまで長風呂はしないから……もしかたら、のぼせてるかも」

 

「ありえるな。ゴースト、すまないがエリンの様子を見てきて貰えないだろうか」

 

「ぅ、うん。わかった」

 

 ユノアの言葉に従い、俺は客室を出て風呂場へ向かって浮遊を始めた。

 

 

 

 いっ、いや、覗きとかじゃないし。

 ていうか今は女の子なんだから、仮にエリンちゃんの肢体を見てしまったとしても、何もおかしくはないはず。

 

 病院でユノアが脱ぎ始めた時は動揺してしまったが、そもそも女性の身体なんて自分ので見慣れている。

 エリンちゃんは俺より少し背が高い程度で、完全に成熟してるわけじゃないし、発展途上の身体は見慣れてるから、大丈夫だ。

 俺は発展する前に死んだけど(幽霊ジョーク) むしろ男の裸体の方が見慣れてないくらいだ。

 

 

 少しすれば、もう脱衣所が見えてきた。混浴ではあるが、脱衣所自体は別々だ。当然だけども。

 どうやら今日は俺たち以外に客はいないらしく、脱衣所の中も無人だった。

 

 幽霊らしくスーッとそこを透過して、温泉の要である風呂場へと入っていった。

 中は湯気が漂っていて、大きな湯船には浸かったら気持ちよさそうなお湯が張られている。

 

 

「おぉー、俺も入りたいなぁ………って!」

 

 ぼそっと呟いている間に、湯船ではなく床に寝転がっているエリンちゃんを発見した。

 急いでエリンちゃんのもとへ駆けつけ、彼女の足元を見ると、そこには白い石鹸が置かれていた。

 

「きゅぅ……」

 

「あちゃー、転んだのか」

 

 エリンちゃんは目をぐるぐるさせて気絶している。誰かが床に置きっぱなしにした石鹸を踏んでしまい、転んだ拍子に頭をぶつけて気を失ってしまったのだろう。

 

 かろうじてバスタオルを体に巻いているので、全裸で寝そべっている姿を晒すことはなかったようで、安心。

 

 

「ん、今日はここかな」

 

 そう呟き、すぅっとエリンちゃんの体の中へと入っていった。

 俺は今日一度も憑依を使用していないし、使うとすれば間違いなくこの場面だろう。

 

 

 数秒経過し、俺の視界は鮮明になっていった。温泉の天井が見えるし、気がつけば後頭部がジンジンと少し痛む。

 まぁ、立てないほどじゃない。俺はゆっくりと立ち上がり、外れそうになっていたバスタオルを巻きなおした。

 

「せっかく憑依したなら温泉入りたいけど……そんな時間ないな」

 

 はぁ、と少し落胆し、その場を歩き出した。

 こればっかりは死んだ俺の責任だし、贅沢言っちゃだめだ。

 

 

 そんな少し落ち込んだ気分でいると、透過してきたドアとは別の方から、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

 聞き覚えのある声……あぁ、この温泉宿のおじいさんだ。

 

 

「そんなタコ墨まみれで出歩かれると、床が汚れるんじゃ。ほれっ、さっさと入った入った!」

 

「ちょ、ちょっとま──うわぁっ!」

 

 そしてそのドアは開かれ、おじいさんに脱衣所から締め出されるようにして、口論していた人物は風呂場に入ってきた。

 転びそうになるがなんとか堪え、バランスを取ることに成功してホッとしている。

 

 

 

 

 

 ───えっと、その、あの。

 

 

 

「いてて。………あれっ、エリン?」

 

 

 いや、だから、おじいさんにむりやり入れられたから、時間がなかったのは分かるんだけど。

 

 

「こっ、こし、あのっ、腰にタオル……っ」

 

 彼に聞こえないようなか細い声で呟きながらも、俺の視線は彼の顔からどんどん下へ下へと、無意識に下がっていく。

 

 そして彼は腰にタオルを巻いていない。

 無意識に目を見開く俺。

 

 

 

 

 

 つまり俺の目には、通常時にもかかわらず───その、雄々しいサイズの『   』が見えているわけで。

 

 

 

 

「………ひっ、ひぃ……」

 

 思わずその場にへたり込んでしまった。

 

「どっ、どうしたのエリン! 大丈夫かい!?」

 

 そして此方へ寄ってこようとするアルト。

 

 

 (エリン)の頬が林檎よりも真っ赤に染まり、顔中に熱が発生し始める。

 

 

「くっ、くるなぁ……」

 

 

 最高潮に赤面しながら涙目でぷるぷると両手を前に振るおれ。 

 

 

「顔が赤い……もしかしてのぼせたんじゃ」

 

 彼の足が止まらない。

 

 

 

「やぁっ……こ、こないで……」

 

 

「エリン、僕の手に──」

 

 

 

 

「まえっ、まえぇ………かっ、かか、かくして……!」

 

 

「え? ────あ゛っ」

 

 

 

 

 

 その隙に、赤ん坊のようにヨロヨロと、四つんばいで脱衣所へと近づいていく俺。

 そしてドアに近づいた瞬間、勢いよく目の前の戸は開かれた。

 

 

 そこには少し心配げな魔法使いのお姉さんの姿が。

 

「エリンー? 長風呂みたいだけどだいじょう───」

 

 

 

 彼女の視点から見て、その目に飛び込んできたのは──急いでタオルで前を隠そうとしている男の子と、生まれたての小鹿のようにプルプルと震えながら四つんばいで逃げようとしている少女。

 

 

 

 ファミィを見た瞬間、俺は彼女に手を伸ばした。

 

 

「たっ、たすけて……!」

 

「………」

 

 

 

 

「あっ、ふぁ、ファミィ? これは誤解で───あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛ッ!!!!」

 

 

 

 


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