TS 異世界最強主人公アンチ   作:バリ茶

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新章開始ですわよ


バケモノ姉妹編
魔物助けをしましょうか


 

 

 

 

 なんやかんやあって魔王を倒して俺も生き返ったあの日から、はや二週間が経過した。

 

 相も変わらず世界中の人間はアルトを目の仇にしていて一向に治る気配がなく、また『魔王の妹』という人物の手掛かりも一切見つからないため早くも手詰まりになってきた感じがする。

 

 勇者が姿を現さなければ人々は普段通りの生活をする……というのは不幸中の幸いと言うべきか。

 それでもやっぱりこのままじゃ駄目だ。世界中の人、というよりユノアたち勇者パーティが今も敵だという事実がやるせないし、早急に解決を図りたいところ。

 

 

 今現在はトリデウスの隠れ家を拠点にしつつ魔王妹の情報を探っている。一刻も早く世界を元通りにするため日夜奔走してる──のだけど。

 

「ふぅ……すぅ……」

 

「……っ!? ッ!?」

 

 何故か朝起きたら同じベッドでアルトが寝てた。隣で寝息を立てながらぐっすり眠っている。逆に俺は身に覚えのない事態に狼狽するばかりだ。

 

 ……おかしい、おかしいぞ。普段俺とアルトは別々のベッドで寝てるはず。間違っても一緒に寝るなんて……た、たまにしかしない。

 本当にたまーにね。毎日一緒に寝られるほど俺の心臓強くないから。寧ろ一緒に寝る日は緊張して逆に眠れないくらいです。

 

「ひぇぇ……」

 

 ビビりながらそーっと、ゆーっくりベッドから抜け出る。このままじゃ二度寝も儘ならないぜ。

 物音を立てないよう静かに出ないと──ミスってベッドから転げ落ちた。

 

「いでっ!」

 

 つい声を挙げてしまった。あと床に打ったお尻が痛い。

 

「んん……?」

 

 あ、起こしちゃった。

 

「ふわぁぁ…………んっ、ラル?」

 

「おはようアルト。まずは俺のベッドにいる理由を教えてもらおうか」

 

「……えっ。ここ僕の部屋だけど」

 

「はい?」

 

 アルトに言われて焦って周囲を見渡してみると、壁に立てかけられてる聖剣を見つけた。あんなものが俺の部屋にある訳がない。

 

 え、ちょっと待って。

 もしかして……俺の方からアルトのベッドに潜り込んだのか? そんな訳なくない? 

 

「なんで!」

 

「えぇ……? 解らないよ、昨日は先に寝たし」

 

 どういうことなんだ。昨日は確か水上都市ゼムスの様子を見に行って、夕方には帰ってきてそれから──

 ……どうしたんだっけ。夜の記憶が全然残ってない。

 

 ──ハッ! まさか!

 

「おいアルト! 夜中俺に変な事した!?」

 

「えぇっ!? してないしてない!」

 

「お前まさか酒を飲ませて酔わせた隙に……! そ、そういうことはっ、もう少し……そのっ、だ、段階というものを踏んでからだな……

 

「いや本当に何もしてないって! まず自分の体を確認してくれ!」

 

 アルトに言われて自分の体を見回してみると、意外にも変な痕跡はなく服も乱れてはいなかった。アルトが俺を酔わせたんじゃないとすると……いよいよ解らなくなってきたぞ。

 

 とても混乱して頭を抱えていると、ふと部屋のドアが開いた。入ってきたのはショタじじいことトリデウスだ。

 

「お前ら朝からうるさい……って、何してるのだ」

 

「いや、俺昨日の事覚えてなくて……なんか知ってる?」

 

 ようやく立ち上がってからトリデウスにそう問いかけると、彼は呆れたような溜め息を吐いた。

 

 

「何を言ってるのだ? 昨日はゼムスの惨状を見て少し落ち込んだ勇者が先に寝て、その後お前が吾輩の酒を勝手に飲んで酔った挙句『慰めてやるぞ~アルト~』とか言いながら部屋で寝てる勇者を抱き枕にしてそのまま眠ったのではないか。吾輩には『邪魔すんなよ!』とか言って睨みを利かせて──」

 

 

「わぁー! わぁぁ!! あそうだ薬草! 薬草が足りないんだったよな!? ほらアルト薬草採取行こう薬草採取ッ!」

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 隠れ家の近くにある山では傷薬の元となる薬草やポーションアイテムに必要な素材なんかがよく採れるため、結構な高頻度でここには訪れる。

 

 勿論薬草が足りないという話も事実だったからここに来ることに問題はない……が、ショタじじいの暴露のせいで内心問題だらけである。

 

 一人で来ればよかったのに何故かアルトも連れてきちゃったし散々だ。今日はダメな日だな俺。

 

「あの……ラル? 今朝の事は全然気にしてないから大丈夫だよ?」

 

「うっさい」

 

 俺が恥ずかしいんだよ! 何かとんでもない勘違いしちゃってたし、事の発端が全部俺とか恥ずかしすぎて死ぬわ!

 

「あ、そこ薬草あるよ」

 

「うえっ」

 

 あぶねっ、薬草踏み潰すところだった。

 

「…………ハァ、ねぇアルト、ここら辺の薬草を回収したらもう帰らない?」

 

「いいけど……どうかした?」

 

「今日はやる気出ない。たまには休も」

 

「わかった」

 

 生き返った次の日からは「皆を早く戻さなきゃ」という気持ちに急かされて、ずっと毎日休みなく活動をしていた。今日妙にやる気が出ないのと昨晩の暴走もきっと疲れのせいだ。適度な休憩が明らかに足りていない。

 

「見てラル、このキノコ変な形してるよ」

 

「それ猛毒キノコだぞ。匂い嗅ぐだけで意識吹っ飛ぶ」

 

「うわぁっ!?」

 

 確かにアルトと一緒に居られることは嬉しい。とても嬉しい……のだが、それはそれとしてパーティの皆を忘れられる訳ではない。このまま二人きりでもいいかな、なんて考えられるほど俺は楽観的な性格ではなかったらしい。 

 

 エリン達に全ての事情を話して納得してもらったうえでアルトと一緒にいたい、というのが本音だ。勿論そんな簡単にいくとは思えないがそうなって欲しいと思っている。

 

 その為にはまずエリンとファミィに謝れる状況を作らなければ話ならないのだが、そうなるとどうしても魔王の呪いが邪魔くさい。

 

「困ったな……」

 

 薬草を背中の籠に放り込みながら溜息を吐いた。

 

 そもそも魔王の妹なんて本当にいるのか? 元四天王のトリデウスですら何も知らなかったし、二週間調べても情報が全く出てこないような人物を見つけ出して協力させるなんて、まるで雲を掴むような話だ。

 

 唯一の手がかりは情報源でもある魔王の発言だけ。

 誰にでも優しくて虫も殺せないような子、なんて言っていたけどそれ本当にあの悪魔の妹なのか。これがあいつの与太話だったらいよいよアルトが詰んでしまう。

 

 どうしたもんかね。少なくとも妹は俺とは正反対な性格っぽいから、直ぐに打ち解けるのは難しそうだけども。

 

 

「おーいラル! こっちに来てくれ!」

 

「どうしたー?」

 

 突然アルトに呼びかけられて振り返ると彼が手を振っている。

 不思議に思ってアルトの方へ近づくと、彼の足元には猪っぽい魔物の頭部が転がっていた。

 

「戦闘したのか?」

 

「いや、最初からここに転がってたんだ」

 

「魔物の生首なんて珍しいものじゃないだろ」

 

「……ここを見てくれ」

 

 アルトが指差したのは魔物の頭部の付け根部分だ。体がある頃は首という名称がつくその部分を凝視してみて、ようやく違和感に気がついた。

 

「……食い千切られた痕がない?」

 

 魔物の頭部にはまるで刀で切断されたかの様に綺麗な切断面があった。当然、魔物には不可能芸当だ。これが出来るとすれば相当な剣の達人くらいのもの。ワザマエ。

 

 しかし、この山周辺には人間は一人も暮らしていない。そもそもこの辺りにはトリデウスが設置した「人間に反応するバリア」が張られていて、人間が来た場合は警報が鳴る仕組みになっている。

 

 しかしこの二週間で警報は一度も鳴っていない。となると、剣を使う魔物の仕業ということになるけど……。

 

「強力な魔物が来た場合でも警報って鳴るはずだよな。でもここら辺にそんな強い魔物なんて──」

 

「ラルっ、誰かいる!」

 

 顔を上げた瞬間アルトが気配を察知し、聖剣を鞘から抜いて構えた。

 彼に庇われるようにしてアルトの背中に隠れると、目の前にある奥の茂みがガサガサと音を立てた。

 

 もしかするとこの魔物を斬った何者かかもしれない。アルトも滅多な事では負けないが念のため煙幕玉で逃走の準備をしておこう。

 

「アルト……」

 

「大丈夫、魔王ほど圧は強くない」

 

 そう言って微笑むアルト。既にラスボスを倒したあとの勇者は頼りになるな〜、なんて考えている内に茂みの中から何者が姿を現した。

 

 

「…………女の子?」

 

 

 アルトが呆けた声を出した。

 改めて俺もしっかり前方を確認してみたが、そこにいたのは彼の言った通り幼い少女の姿をした人物だった。

 

「うっ、ぅ……」

 

 少女は非常に窶れた表情で歩いていて今にも倒れそうな雰囲気だ。

 しかし、彼女を見て俺が抱いた感想は別のものだった。

 

 

 肩辺りで切り揃えられた、透き通るように真っ白な髪。

 

 ルビーを思わせるほど綺麗な深紅の瞳。

 

 一瞬────魔王の姿が頭に浮かんだ。

 

 

「うぁっ……」

 

「っ! アルト!」

 

 少女が倒れそうになった瞬間俺が叫ぶとアルトが瞬時に移動して彼女を支えた。

 焦って俺も駆けつけて少女の様子を確認してみたが、どうやらかなり衰弱しているみたいだった。

 

「この子相当消耗してるよ、魔力が殆ど感じられない」

 

「……警報が鳴らなかったって事は、その子はそこまで強くない魔物だよな?」

 

「多分そうだけど……どうしようか?」

 

 アルトに意見を求められて、少し固まってしまった。

 

「えぇっと……」

 

 最初はあの極悪非道の性悪女に見えてしまったが、よく見れば似てはいるものの別人だ。魔王は俺たちが倒したんだからそもそもいる訳ない。

 

 それに白髪赤目ってのも人型の魔物ならそこそこいるし、この子も悪魔系統の魔物に違いない。

 

 まぁ、でももしかしたら…………期待するだけ無駄かもしれないが他に手掛かりもないし、そもそもこのまま見捨てるのは論外だ。

 

「隠れ家に連れていこう。低級魔物の治療くらいはトリデウスも許してくれるだろ」

 

「うん、わかった」

 

 というか正直に言うと他にやる事無いだけなんだよな。人助けならぬ魔物助けだけど、何にせよ正しい事なら時間の無駄にはならないと思う。

 

「……どさくさに紛れて変なとこ触んなよ?」

 

「背負うだけだって!」

 

 とりあえずはこの魔物の治療だな。帰るぞー!

 


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