犬猿の仲、不倶戴天の敵、水と油。
この世にはどうにも相性が悪くて、相容れない人間というものが存在する。
「ぐぎぎぎ……!」
「ぐぎぎぎ……!」
「だーかーらー!上条の見舞いにCD持ってくのはやめろって言ってんだよ!望んでないんだよそう言うの!」
「そんな事言ったらアンタの見舞い品のほうがよっぽど望んでないわよ恭介は!この馬鹿!スケベ!」
腕を怪我して絶賛入院中のクラスメイト、上条恭介。
バイオリンのこと以外にいまいち関心が薄いきらいはあるが、温厚で気のいい友人だ。
少しでも元気づけてやれればとちょくちょく見舞いに言っているのだが、その度にこいつに出会う。
それはいい。だが、こいつが見舞い品がよくない!来る度に毎回、クラシックの音楽CDを携えてやって来やがるのだ。ただでさえ怪我でバイオリン弾けなくて悶々としてるのに、そんなもの聞かせてたら欲求不満で破裂してしまうじゃないか!
「ケ、ケンカはだめだよさやかちゃん!伊吹くんも!」
「どっちも離れろって、先生来ちゃうぞ!」
クラスメイトの鹿目さんと中沢がそれぞれ止めに入る。
それと同時に授業開始のチャイムが鳴り、口論は水入りとなった。
各々の座席に戻る前に、中沢が話しかけてくる。
「伊吹、お前と美樹さんってホント仲悪いよな……もうちょっとなんとかなんないの?」
「仕方ないだろ、あっちが無神経なんだから……あれ貰う上条の身にもなってみろよ」
「そうは言うけど、お前は何持ってったんだよ?美樹さん怒ってたけど」
「え?エロ本。あいつの家厳しくて読んだことないみたいだから、持ってったら喜ぶと思って」
俺の答えを聞いた中沢はため息を吐き、一言。
「……そりゃ美樹さんも怒るよ」
「なんで!?」
「だって病院で貰ったってどうにもできないだろ、欲求不満になるだけだって……」
「……あっ」
「でも美樹さんが怒った理由はそこじゃないか……まあ、どっちでもいいけど」
どうやら無神経なのは俺の方だったようだ。上条が欲求不満で破裂してしまう。今日謝るついでに回収しにいくか……。
自分の思考が大体ブーメランとなって帰ってきたのを理解した直後で、先生が教室に入ってきて授業が始まる。
上条に悪いことしちゃったなあ、次は無難に食べ物でも持って行くかな、でもあいつ食細いしなぁ……。
そんなことを考えながら、目の前の授業に向かい合うのだった。