あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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さやか視点からです


10話

まどかが大声を上げちゃったせいで店中の注目が集まってしまい、気まずくなったあたしたちはこそこそと店を後にした。

そして今は、公園のベンチで落ち着いている。

 

「いやー、それにしてもまどかのあんな声初めて聞いたわー」

 

「ご、ごめん……びっくりしちゃって」

 

「そ、そんなに驚くことかな?」

 

「すっごく驚いたよ。さやかちゃんと伊吹くんってケンカしてるところしか見たことないもん。それにさやかちゃん、ずっと上条くんのこと好きだと思ってたから……」

 

「……うん。恭介のことはずっと好きだったよ。それは事実。そうじゃなきゃアイツのために一世一代の願いを使ったりしないって」

 

それを聞くと、まどかは押し黙ってしまう。

悪いことを聞いちゃったかな、とでも思ってそうな表情をしていた。

 

「言っとくけど、恭介のために魔法少女になったことは後悔してないよ」

 

「……ほんとに?」

 

「うん。恋とか抜きにしても、恭介がまたバイオリンを引けるようになったのを見て心の底からよかったって思った。願いを使ってよかったって思った。その時の気持ちを大切にしたいから。魂の在処が石っころになっちゃったこととかも……少なくとも、前よりは落ち着いて考えられるようになったし」

 

「それじゃあ、なんで上条くんじゃなくて伊吹くんに……?」

 

「……気づかされたんだ。恭介とあたしは、隣同士じゃなかった」

 

「隣?」

 

「うん、気持ちの話だけどね。あたしはいつも恭介の背中を追いかけてた。恭介が入院して、お見舞いに行ってた時は少しだけ隣に寄り添った気分になったの。でも、そうじゃなかった。あの時のあたしは恭介の気持ち、なんにもわかってなかった。憧れるばっかりで恭介のことをちゃんと見れてなかったんだ。それで恭介のこと傷つけちゃったりもした」

 

まどかは俯き気味に、でもしっかりこちらを見てじっと話を聞いていてくれる。

それがなんだかおかしくなっちゃって、まどかの両頬を掌で包んでむにむにと弄ぶ。

 

「ふひゃっ!?何するのさやかちゃん!」

 

「そんなに神妙な顔しちゃって〜!別にさやかちゃんは暗い話してるわけじゃないっての!だからもうちょっと表情筋和らげなよ〜」

 

「わかった、わかったからあ!」

 

手を離してやると、まどかはほっとしたようにため息をつく。

 

「もー、せっかく真剣に聞いてたのに」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

むくれ気味のまどかに対して謝ると、今度は涙声で

「……でもさやかちゃん、本当に元気になったみたいでよかった……」

なんて言ってくれるもんだから、こちらまでちょっともらい泣きしそうになってしまった。

気を取り直して、再び話を続ける。

 

「……でも、伊吹はあたしと違った。あいつは恭介の隣に立って心の支えになってた。恭介、見舞いに来てもしょっちゅう伊吹の話してたよ。どういう話をしてくれただとか、こんな変なものお見舞いに持ってきてくれただとか、すごく楽しそうに。だから多分、あたし……あいつに妬いちゃってたのかもしれない。あたしがやりたくても出来ないことを、なんであいつは平然とやってのけるんだー!ってね」

 

「そんな事あったんだ……」

 

「あいつさ、馬鹿で無神経なやつだと思ってたけど……それ以上に、優しいんだよ。馬鹿なのは気安さの裏返しだし、無神経だから遠慮無く人の心に飛び込もうとしてくるの。それを嫌がる人もいるだろうけど……少なくともあたしは救われた。あいつの隣に……ずっと、いたいって……思っちゃった」

 

言っていて頬が熱くなっていくのを感じる。ああもう、これだ。昨日まではなんともなかったのに。恭介のことが好きだって、思ってたはずなのに!気づいたらアイツのことが頭から離れない!

 

「やっぱりあたしのこと軽蔑するかな、まどか。軽い女だって、ちょろい女だって……」

 

「そんなことないよ!!だってさやかちゃん、伊吹くんのことすごくよく見てるもん、それは伊吹くんにすごく真剣な証拠かなって。気持ちが変わったのもさやかちゃんが上条くんへの本当の気持ちと真剣に向き合って、ちゃんとわかったからなんだと思う」

 

「まどか……」

 

「さやかちゃんはぜんぜん軽くなんかないよ!すっごく健気だし一回決めたら曲げない頑固なところあるし、どっちかっていうとすごく重いかなーって――」

 

「おうおう言うねぇまどかぁ」

 

まどかのほっぺたをつねってむにーっと伸ばす。

フォローしようとしてうっかり変なコトを言っただけで悪気はないのだろう。まどか、ちょっと熱が入ると必死になりすぎるところあるし。

 

いふぁいよふぁやふぁひゃん(いたいよさやかちゃん)ふぉめんなふぁい〜(ごめんなさい)

 

「わかればよろしい」

 

手をぱっと離すと、まどかは手でほっぺたをさすさすしている。小動物みたいでかわいい。

 

「いたたた……でも、さやかちゃんは軽い女なんかじゃないって思ってるのはほんとだよ、伊吹くんにも上条くんにもすごく真剣な気持ちだったのが伝わってくるし。それに『恋に時間は関係ねえ、愛の深さと押しの強さが勝負を決めるのさ!』って、お母さんが前に言ってた」

 

「あはは、まどかのお母さんが言ってたなら心強いや」

 

「わたしはお母さんと違って、大したこと言えないけど……がんばって、さやかちゃん!どんなことがあってもわたしは味方だから!」

 

「まどか……ありがと」

 

「その……わたしなんかが味方でも、頼りないかもしれないけど……」

 

「ううん、アンタがそう言ってくれるだけで勇気百倍だよ。あたしは、あたしは……あたしは!伊吹のことが!好きだぁーっ!!」

 

「わぁぁ!?ここ公園だよさやかちゃん!?」

 

「やばっ!?口に出ちゃってた!」

 

あたしたちは足早に公園を後にした。

さっきのまどかのこと笑えないわ、これ。

 

・・・・・・

――上条恭介

 

「そういうことだったのか……」

 

公園の端、さやかたちから少し外れた茂みの影。

そこで僕と志筑さんはこっそりと様子を伺っていた。

 

「出歯亀なんて趣味が悪くありませんこと?上条くん」

 

「僕もそう思う、でも……志筑さんも気になってたでしょ?あの後、さやかがなんであんなにスッキリした顔してたのか」

 

「それは、そうですけれども。そう、あの時……」

 

時は、少し前まで遡る。

 

・・・・・・

――美樹さやか

 

 

「見つけたよ、恭介。それに仁美も」

 

「さやか!今日は学校休んだはずじゃ……もしかして、ズル休みだったのかい?」

 

「さやか、さん……」

 

恭介はびっくりしながらちょっとズレたことを言い、

仁美は気まずそうに視線を逸らしている。そりゃまあ、そうだね。あたしが来たことで期せずして抜け駆けしたみたいな状況になっちゃってるんだから。

 

「仁美、そんな顔しないでよ。でも、少しだけ……少しだけ仁美より先に、恭介に言っときたいことがあるんだ。いいかな」

 

「……はい……元々、そういう話でしたから」

 

「僕に話?」

 

「うん、まあ……ね。すぐ済む話だから、そのまま聞いてて」

 

自らの頬をぱちん!と叩き、気合を入れる、それからぐっと前を見て、できるだけ堂々と、はっきりと伝える。

 

「あたし……美樹さやかは、上条恭介のことがずっと好きでした。子供の頃からずっと、恭介の背中を見つめてた」

 

「え……」

 

鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔をする恭介。沈痛な面持ちで佇む仁美。

そんな顔しないでよ、仁美が怖がってるようなことは起こらないからさ。

 

「まさか、さやかが……そんなこと突然言われても、僕は……」

 

困惑する恭介を手で制し、話を続ける。

ここで言い切らなければ最後まで走れない気がしていた。

 

「あー……でも、返事はいらないんだ。でも、どうしても言っておきたかった。伝えておきたかった。あたしは、恭介が好きだった。その事実だけはハッキリ知ってほしかった」

 

「だった、ってことは……今は違う、ってこと?」

 

「察しがいいね恭介。そう、なんだよね。だからこれは自分にとってのケジメ」

 

「ケジメ……?」

 

「変なことに付きあわせちゃったね。ごめんね恭介、一方的に勝手なこと言って。あと、仁美!まだ、アンタの気持ちはまだ言ってないの?」

 

「は、はい!?まだ、ですの……」

 

「そっか。それじゃあ……頑張れ!あんたにだったら安心して任せられるから!」

 

そう言ってあたしは踵を返し、恭介たちの元を走り去った。

人気がないところまで走り抜けると、開放感と達成感を噛みしめる。

 

「あ〜、言った!言っちゃった!スッキリした〜……スッキリ、し、た……あれ?おかしいな……」

 

ケジメをつけて、スッキリしたはずなのに。涙が、止まらない。

 

「あ……れ……なんで、だろ。なんで」

 

こぼれ落ちてくる涙とともに、少しずつ実感が湧いてくる。

ああ『終わった』んだって。自分で望んで決着を付けたこととはいえ、あたしの初恋はたった今『終わった』んだって。

 

「う……ぅ……っ……ひぐっ……ぅぇ……!」

 

そう自覚したら、すんなり受け止めることが出来た。悲しいわけではないのに、悲くないのに。自分でもわかんないけど、涙が止まらない。

……涙が収まったら、まどかに連絡しよう。今の気持ち全部、聞いてもらいたいから。

 

・・・・・・

そして、時は再び現在に戻る。

 

――志筑仁美

 

「それにしても……よかった」

 

「よかった、とは?」

 

「今のさやかが好きな相手がちひろだってことさ。びっくりしたけど納得した」

 

「納得、ですの?お二人はいつもケンカしていらっしゃるのに?」

 

「根本的には似たもの同士だと思ってたんだよね、二人とも。だからキッカケさえあれば絶対に仲良くなれるのに、ってずっと思ってた」

 

「……上条くんは美樹さんのこと、どう思ってますの?」

 

地味に、気になっていることではありました。さやかさんが上条くんのことをお慕いしているのはわかっていましたが、上条くんの気持ちは、果たしてどこへ向いていたのか……。

 

「大切な幼馴染、かな。今まで異性として意識したことはなかった。そもそも恋愛とかよくわからないし。告白された時はびっくりしたけど、その直後に今は違うって言われた時はもっとびっくりしたなあ……でも、ちょっと寂しい気持ちもあるかな。なんかさやかがいつの間にか遠くに行っちゃった感じがして」

 

「同感ですわ、あんなの反則です!」

 

今までどこにも気持ちが向いていなかったのを確認して、とりあえずホッとしました。

でも、もし今のさやかさんがあのまま上条くんに告白していたら絶対に敵わなかった……そんな気がしてしまいますわ。

 

「なにか言った?反則です!までは聞き取れたんだけど」

 

「い、いえ!?なんでも!独り言ですわ、独り言!」

 

知らず知らずのうちに考えが漏れ出てしまっていました。でも、美樹さんはわたくしに「まかせる」と言ってくださいました。勇気を示してくださいました。だから、わたくしも勇気を持って一歩踏み出さなければいけません!

 

「か、上条くん!わたくし実は、ずっとあなたに伝えたいことが――!」

 

さやかさん。わたくし、がんばりますわ。

ですから、あなたにもどうか幸運がありますように――

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