あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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11話

次の日も、一日ぽけーっとしていた。美樹は学校に来ている。だが、今日は喋っていない。上条の件がどうなったか聞きたくて仕方なかったが、聞くタイミングがないのだ。あと、そもそも俺達は仲が悪いというのが周囲の認識なので、大々的に教室内で仲良くするのは色々めんどくさいことになりそうなのでなんだか気が引けた。あっちのほうもこちらをチラチラ見ながら結局話しかけてこなかったので、おそらく考えていることは同じだろう。

つつがなく放課後を迎えて帰ろうとすると、校門を出たところで後ろから声をかけられる。

 

「よ、伊吹!」

 

「うわっ!?ってなんだ、美樹か。例の件、どうなった?」

 

「もちろん話すよ。その前に、ちょっと歩こう?ここじゃなんだからさ」

 

「それもそうだな……」

 

美樹にの言うとおり、しばらく一緒に歩く。

人通りのあまり多くない、特に見滝原の生徒の見えない場所まで来た頃、美樹が口を開いた。

 

「アンタのおかげで、うまくいったよ。気持ち、ちゃんと伝えられた」

 

「そう、か。よかったな。無事、上条と付き合うことになったわけだ」

 

美樹が晴れやかな顔で言う。何故かちくり、と胸が傷んだ。

それを表に出さないように、なんとか笑顔を作る。そもそも、この結果を望んで、少しでも手助けをしたいと思ったのは俺自身じゃないか。めでたいことの筈なんだから、祝福しなければならない。

 

「違うよ?」

 

「え?何言ってんだ。上手く言ったってことは上条と両想いになったってことじゃないのかよ」

 

「違うの。あたしは恭介への気持ちをただ言葉にして、ケジメをつけただけ。確かに好きだったけど、付き合いたいなんて言わなかった」

 

「じゃ、じゃあお前なんて言ったんだよ。何しに行ったんだよ!」

 

「あたしは!」

 

俺の言葉を遮るように美樹が叫ぶ。

その力強さに、思わず俺の動きが止まる。

 

「自分の気持ちについてずっとずっと考えてた。それで、わかったんだ。あたしの恭介に対する気持ちは憧れだったって。隣に立ちたいわけじゃないんだって」

 

美樹がこちらの目をしっかりと見据える。目が離せない。心臓がドキドキする。

沈黙。心臓が痛い。ドクドクとうるさい。沈黙。なんでかわからないけど、緊張で口の中が乾く。

美樹がすぅ……と息を吸う。そして長い沈黙を破って、ついに口を開く。

 

「あたしが本当に隣に立ちたいのは――」

 

「想像していたよりずいぶん余裕そうね、美樹さやか」

 

突然涼やかな声が割って入る。

あまり聞いたことのない、でも確かに聞き覚えのある声。

二人同時にばっと声のする方を向く。

 

「転校生……!!」

 

美樹がぎりっと歯を食いしばり、鋭い視線を投げつける。

視線の先にいるのは――クラスメイトの暁美さんだった。

 

「暁美さんが、なんでここに?」

 

「それはこちらが聞きたいわね。なぜあなたが美樹さやかと一緒にいるのかしら、伊吹ちひろ」

 

「なんでって言われても……」

 

「あたしと伊吹が喋ってたら悪いってのかよ、転校生」

 

困惑気味の俺とは対照的に、やたら暁美さんに対する当たりがキツい美樹。

教室内で二人が喋っているところを見たことが無いため、普段俺以外には人当たりのよかった美樹がここまで敵意を飛ばしているのは意外だった。

 

「なあ美樹、お前暁美さんとなんかあったの?」

 

「なんかも何も、アイツは魔法少女なんだよ」

 

「暁美さんが!?世間は狭いっつーか、人は見かけによらないっつーか……そもそもなんで魔法少女同士が仲悪いんだよ」

 

「信用出来ないのよ、コイツは。何考えてるか分からないし、自分の都合でしか動いてないから」

 

「はぁ……まったく、ずいぶん嫌われたものね」

 

暁美さんはそう言うと、何か小さなものをヒュッと美樹に投げつける。

美樹はそれを受け取ると、目を見開く。

 

「これって、グリーフシード……」

 

「あなたのソウルジェムは相当な穢れを溜め込んでいるはずよ。使いなさい」

 

二人のリアクションを聞くと、魔法少女関係の何かだろう。

ソウルジェムは聞いたことあるけど、グリーフシードは初めて聞く単語だ。

 

「美樹、グリーフシードって?」

 

「ああ、そういやそれはまだ話してなかった……っていうか、転校生。伊吹はあたしが前もって話してたからよかったけど、一般人の目の前で魔法少女関係の話始めるかふつー!?あたしまで電波ちゃんだって思われる所だったじゃん!」

 

「……あなた、どこまで話したの?」

 

「魔法少女についてあたしの身に起こったこと全部よ。悪い?」

 

今まで無表情だった暁美さんの顔が、ほんの少し崩れる。

表情筋が動いたのはわずかだが、驚いている、ということは伝わってきた。

 

「今までにないケースだわ。一体どうして……あなた、上条くんが好きだったのではないの?伊吹くんとどういう関係なの?」

 

「なんでアンタにそんなこと聞かれなきゃいけないのさ!それに恭介のことは昨日振り切った!アンタにはそれ以外言いたくない」

 

「それは、驚きね……一体、あなたに何が」

 

「それ以外言いたくないって言ってんでしょ!だいたい何さ、あんた訳知り顔であたしの何知ってるってのよ!」

 

「答える必要はないわ。それより早くグリーフシードを使いなさい。穢れを溜め込みすぎたソウルジェムは早く浄化しないと取り返しの付かないことになる」

 

「……アンタに言われるのは癪だけど」

 

そう言って指輪を宝石に換える美樹。以前見た時と同じ、どこか淀んだ青色。

やりとりを見ていて思ったけど……この二人も大概、相性良くないな。

暁美さん、自分だけ納得してぜんぜん説明とかしてくれないし。おかげで若干会話についていけてない。

 

「……思ったよりも穢れが溜まっていないのね。あれだけ精神的に参っていたら、もう少し穢れていると思ったのだけれど」

 

「立ち直ったのよ、あんたが知らないとこでね。だからよけーなお世話」

 

グリーフシードとかいう黒いのを宝石にくっつけると淀みがみるみると吸収されていき、宝石が綺麗になっていく。

すると、美樹の宝石は先ほどとは見違えるほどに煌々と輝いていた。本来はこんな色をしていたんだ……と、思わず見惚れてしまう。

 

「あ、あんま見つめないでよ、なんかわかんないけど恥ずかしいから」

 

美樹は頬を赤くすると、さっと手で隠してしまう。

もう少し見ていたかったけど、仕方ない。

 

「浄化は済んだようね。それでいいのよ」

 

「……一応、礼は言っとく。でもこれで恩を売ったつもりにならないでよね、転校生。やっぱりアタシにはあんたが何考えてるのか理解できない。仮にあたしを助けてもアンタには大して得がないもん。一体何のつもり?」

 

「答える必要はないわ」

 

「それで納得すると思う?」

 

「あなたに納得してもらう必要もないわ。それじゃ、さよなら」

 

「あ、ちょっと待て!話はまだ済んでな――」

 

さやかが何かを言おうとした瞬間、暁美さんは目の前から消えた。

比喩とかではない。言葉通りに『消えた』のだ。

 

「いなくなった!?」

 

「転校生のやつ、また妙な魔法を使いよって……もー、ほんっと、空気読めないやつ。よりによって最悪のタイミングで来るんだもんなー……せっかく言おうと思ったって時に」

 

「そうだ、そういや何か言いかけてたよな……」

 

「あ……やっぱ、聞く?ちょっと待って、もっかい、心の準備する」

 

美樹が胸に手を当て、すぅ、はぁ……と深呼吸をする。もう周囲に人の影はない。誰にも邪魔されない。やがて美樹はこちらに向き直ると、よく通る声でハッキリと告げた。

 

「伊吹――あたしは、あんたが好き。だから……ずっと、あんたの隣にいたい」

 

一瞬、聞こえた言葉が信じられなかった。でも、美樹の瞳は真剣そのものだ。聞き間違いなんかでは絶対にあり得ない。

それと同時に、こないだからずきずきと感じていた胸の痛みの正体がわかった。ああ、俺――美樹のことが好きだったんだ。でも自分に対してその好意がこちらに向くこは絶対にないと思っていたから、自分で自分のこと分からないフリしてたんだ。俺は純粋にこいつのことを応援したいだなんて、他意はないだなんて。

 

「嘘じゃ、ないんだよな」

 

「あたしがしょうもない嘘つくタイプじゃないって言ってくれたのはアンタだよ、伊吹」

 

そう言って美樹はにかっと笑う。どきん、と心臓が跳ねる。俺は恐る恐る美樹の肩に手を伸ばし……そして、ぐっと抱き寄せる。

美樹は最初びっくりしたように身をすくめていたが、少しすると受け入れてくれたのか俺の手に背中を回して抱きしめ返してくれた。

 

「正直に言うよ……美樹。ホントに恥ずかしい話だけど、今お前に言ってもらって自覚した。俺……お前のことが好きだ。いつの間にかお前の一生懸命な姿に惹かれてた。頑張ってるお前を隣で支えてやりたいって思った。だから、その……ずっと俺の隣にいてくれ、美樹」

 

「……うん……うん!」

 

 

そうして……ふたりの心は、ひとつに結ばれた。

落ちかけている夕日だけが、静かにそれを見守っていた。

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