あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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13話

「ワルプルギスの夜ってなに?そんなに大騒ぎするようなものなの?」

 

「知らなかったか、てっきりマミから聞いてんのかと思ったけど……一言で言うと、超弩級の大物魔女さ。あたしも直接見たことはねーんだけど、そいつが通ったあとは街だろうがなんだろうがまるごと瓦礫に変わっちまってるって話だ」

 

「何よそれ、魔女ってそんなヤバいのまでいるの!?」

 

美樹が驚愕する。街一つまるごと瓦礫に変えるほどの規模の化け物。それがよりによってこの見滝原に来るっていうんだから、とてもスケールが大きく理不尽な話だ。

美樹も同じように思ったのか、拳をぎゅっと握りしめるのが見えた。

 

「先に言っとくけど、ヒヨッコのさやかが敵う相手じゃねえ。ワルプルギスが来た時はおとなしく逃げな」

 

「そういうアンタは……どうするつもりなの?」

 

「あたしはワルプルギスの夜をブっ倒すつもりだ。あたしの縄張りが壊されんのをむざむざ見過ごすわけにはいかないからね。それに巨大な魔女なら、倒したぶんの見返りもデカそうだ」

 

「それ、勝てるの?」

 

「ま、正直に話すと一人じゃたぶん勝てない。だから今は暁美ほむらのヤツと組んでるのさ。アンタが立ち直ったって情報もほむらから聞いた」

 

「転校生と!?杏子、あんな何考えてるかわからないヤツのこと信用してるの!?」

 

「別に心から信じてるわけじゃねえよ、だけどアイツは腕が立つ。あたしと組めばたいていのヤツにはまず負けないだろうさ。それにほむらも一人じゃワルプルギスに勝てないからあたしに協力を申し出たんだろうしな。要するに利害の一致ってやつさ」

 

「あいつでも一人じゃ勝てない相手……」

 

強張っていたさやかの表情が一層深刻になる。佐倉も軽い口調で話してはいるが、目は笑っていない。ほぼ部外者である俺も、二人の様子から事態の重さを肌で感じることが出来た。

 

「そういう事だから、あたしは今度こそ行くよ。ワルプルギスが来たら変な気起こさずに逃げろよ。わかったな!」

 

そう言って、今度こそ佐倉は走り去っていった。美樹は固まったまま、呆けたように動かない。

 

「大丈夫か、美樹?」

 

「……伊吹〜」

 

美樹が弱々しい声でうめき、俺に抱きついてくる。

さっきは心の準備をしていたため、邪な気持ちを抱かずにすんだ。だが、こう突然来られると……。

 

「お、おい美樹、離れろって……」

 

「やだ!」

 

美樹はまるで駄々っ子のように拒否し、ぎゅうっと俺の背中に手を回して離さない。

 

「どうしちゃったんだよ突然……」

 

「だってさ……あたしたち、今日付き合いだしたんだよ?だから さっきまですっごく幸せな気持ちだったのに、いきなりこんな重い話聞かされてさ……だからもうちょっとだけ、あと少しだけでいいから」

 

そう言われると、俺はとても振り払いづらくなってしまう。そりゃ本音を言えば、俺だってもっと美樹と一緒にいたい。でも――

 

「み、美樹……そうやって密着されると、色々、やばい……」

 

さっきからめっちゃいい匂いが漂ってくるし、どことは言わないがふにふにとやわらかい感触が押し付けられている。非常によろしくない。やばい。やばい。やばい。語彙が消し飛ぶ。とにかくやばい。でも、美樹にみっともないところは見せたくない。我慢しなきゃ。我慢しろ……!

 

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけだから……」

 

天国と地獄が同時に押し寄せてくる感覚。永遠にも思える時間が過ぎ、ようやく美樹が俺を開放する。

 

「……うん、ようやく落ち着いた。ありがと伊吹、わがまま聞いてくれて……伊吹?」

 

「お、おう……力になれたなら、何よりだ……」

 

なんとか理性を保ったまま持ちこたえた。抱きつかれている間の思考がほとんど消し飛んでいた俺だが、一つだけ考えていたことがあった。

 

「なあ美樹、明日学校休みだろ。だから明日……デート、してみないか?」

 

「デート?」

 

「ああ。早速初デート記念日作っちゃおうぜ。それで楽しく過ごせれば今日の分はチャラにできると思うんだ」

 

「初デートか……いいね、それ。ところでどこ行くとかって決めてあるの?」

 

「いや、さっき考えたばっかりだからまだ決めてない。でもそうだな……恋人っぽいことっての、とりあえず片っ端から試してみるってのはどうだ?」

 

「あははっ、いいねそれ!あたし実は憧れてたことがあってねー……」

 

それからの帰り道は明日のデートでやりたいことをお互いに言い合い、盛り上がりながら歩いた。帰路で別れるまでずっとそのテンションは冷めないままだった。ワルプルギスの話を聞いた直後は今日が微妙なテンションのまま終わってしまうかと思ったが、なんだかんだで楽しく一日を終わることが出来た。終わりよければすべてよしってやつかな。それにしても勢いでデートの約束を取り付けてしまったけど。明日、どうすっかな……。

俺の胸は不安のドキドキと期待のワクワクでいっぱいになっていた。すべては、明日のために。

 

 

・・・・・・

――美樹さやか

 

「……寝れない……。」

 

伊吹と思い思いのデートプランを喋りながら帰って、明日に備えてごはんとお風呂を済ませたらすぐベッドに潜り込んだはいいものの。目が冴えちゃって眠れない。明日が楽しみすぎるよー……。

……それにしても、ワルプルギスの夜、か。街を壊す魔女なんて、仮に敵わない相手でも絶対に放っておける相手じゃない。だって……まどかが、仁美が、恭介が、何より伊吹が危ない目に遭うことがあったら、あたしは……!

ああもう、やめようこんなこと考えるの。これじゃ余計に寝つけなくなっちゃう。それに、あたしより強い杏子と転校生が二人がかりで戦うんだから元々あたしの出る幕なんて無い。無い……よね?

思考を切り替え、明日のデートの事を考える。明日はあれやって、これやって……あそこも行きたいなあ、伊吹も一緒に楽しんでくれるかなあ。

――あ〜、余計に寝れない〜!

そのまま無事寝落ちするまで、あたしはベッドの上でゴロゴロとのたうち回っていた。

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