あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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16話

それから、俺達は互いに二人で逢うことをしばらく自制することにした。

それは、美樹がこんなことを言ったためだ。

 

『あたし、もっと強くなる。杏子や転校生に負けないくらいに……だから、しばらく、待っていてくれないかな』

 

美樹が自分で戦う決意を固めたならば、俺から言えることは何もない。止めることは出来ない。ただ無事を祈ることしか出来なかった。こういう時、何も助けになってやれないのがたまらなく歯痒かった。

美樹にそう言われた二日後、佐倉が訪ねてくる。佐倉は開口一番、こう言った。

 

「今さやかはさ、あたしが面倒見てる」

 

「佐倉が?」

 

「ああ。アイツに突然呼び出されたと思ったら、いきなり言うんだよ。『あたしに戦い方を教えて』ってな……ったく、こっちは親切心で逃げろっつったのにさ。ま、あたしたち魔法少女はどの道戦いから逃げたら生き残れない。強くなろうってのは間違っちゃいないけどさ」

 

杏子は苦笑しながらそんなことを言う。俺は何も言うことが出来なかった。複雑な心境だった。こうして離れて、こういう話を聞いていると……ある実感が否応なく湧いてくる。

 

「やっぱ……美樹は本当に魔法少女なんだな。戦わなきゃ、生き残れないんだよな」

 

「なんだよ今更。まさか信じてなかったってのかい?」

 

「そうじゃない。ただ……出来るなら代わってやりたいなって思うんだ。でもこういうの美樹に言ったら『余計なお世話だっての』とか言われるんだろーな」

 

そんな美樹の様子が思い浮かんで、俺も思わず苦笑する。

 

「はん、甘っちょろい考えだね。実際見たこともないくせにさ。ったく……笑っちゃうよ。その甘っちょろいヤツのせいでヒヨッコが一人前になろうとしてんだからさ……聞いてくれよ?あいつ、何かにつけてお前の話ばっかするんだぞ?自分で逢うの我慢するの決めたくせに逢えなくて寂しいーってな。一応学校で会ってるだろって言ったら、そうじゃなくて二人で……だってよ。ったく、惚気けるのもいい加減にしろっての」

 

「そんなこと言ってたのか……」

 

恥ずかしいとともに、なんだか嬉しくなってしまう。美樹に想われているっていうのを改めて聞いただけで、心の中がじんわりと暖かくなっていくのを感じる。

 

「教えてくれてありがとな、佐倉。お前も身体に気をつけて。それと……美樹のこと、よろしく頼むな」

 

「そいつは任しとけ、言われなくたってちゃんとアイツの事はいっぱしの魔法少女にしてやるさ。お前こそさやかのこと泣かすようなことすんじゃねーぞ。それじゃ、お互い無事だったらまた会おーぜ」

 

・・・・・・

 

そんな一幕があってから、さらに数日後。意外な人物に声をかけられる。

 

「ちょっと話がしたいの。ついてきてもらっていいかしら」

 

それは昼休み、何の前触れもなく。それだけ言うと暁美さんはさっさと歩いて行ってしまう。俺は慌ててついていく。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり何の用だよ暁美さん?」

 

質問しても、答えは帰ってこない。それどころか暁美さんはすたすたと先に行ってしまう。ようやく足を止めた頃には屋上にたどり着いていた。

 

「まったく、一人で勝手に言っちゃうんだから……それで、話ってなんだよ。やっぱり魔法少女関係か?」

 

「ええ。とりあえず最初に美樹さやかの件、礼を言っておくわ。貴方のおかげで美樹さやかは破滅せずに済んだ……まさか貴方と付き合うことになるだなんて全く予想外だったけど」

 

「はは、俺も予想外……でもなんで暁美さんがお礼言うんだよ。美樹と仲悪くなかったか?」

 

「美樹さやかが苦しめばまどかが悲しむ。それだけよ」

 

「あ、ああそう……」

 

暁美さんは表情ひとつ変えずばっさりと言い捨てる。学校でぜんぜん絡んでるの見ないんだけど、暁美さんと鹿目さんって一体どういう関係なんだ……。

 

「本題に入るわ、貴方に一つ頼みがあるの。もしまどかが魔法少女になる素振りを見せたなら、その時は貴方が止めて欲しい。ワルプルギスが来た時には台風の緊急避難警報が鳴るわ。緊急避難所という共通の空間に入ることになるから、まどかの監視は容易なはず。貴方が逃げ遅れたりしない限りはね」

 

「そこで、俺が鹿目さんを見てればいいのか?」

 

「ええ。私はまどかが魔法少女になるのを何としてでも止めたい。でもあの子は優しい子だから、私達が苦しみ、負けそうになってしまったら間違いなく契約してしまう。魔法少女になって、私達を助けようとしてしまう……!」

 

鹿目さんの話をしている時だけ、暁美さんの鉄面皮が少し歪む。事情は分からないが暁美さんが鹿目さんのことを大事に思っているということだけは読み取ることができた。それに俺も大切な人が魔法少女であることの不安や心配といった類の感情は……分かるつもりだ。

 

「わかった、注意しとく。だから暁美さんは安心して戦ってくれ」

 

「頼むわ。魔法少女ではなく、かつ事情を知っている人間は貴方以外にいないのだから」

 

「その代わり、一つ約束してくれ……絶対に勝って、みんな無事に帰ってくるって」

 

「保証は……出来ないわ。でも少なくともそのつもりよ。どんなことがあっても私は必ずまどかを護ってみせる」

 

・・・・・・

 

日々を過ごす中で刻一刻と、決戦の日は近づいていく。

そして、決戦予定日の前日、日曜日。昼飯を食べ終え、家で洗い物をやっている最中にスマホが鳴る。美樹からの着信だった。

 

『どうしたんだ、美樹?』

 

『あー、伊吹……今、家にいる?』

 

『ああ、そうだけど』

 

『……今ね、あんたの家の前にいるんだ。どうしても我慢できなくなっちゃって……伊吹に、逢いたくて』

 

それを聞いた俺は、急いで玄関のドアを開ける。目の前にはスマホ片手に美樹が立っていた。対面した美樹は泣き笑いのような表情を浮かべると、勢い良く抱きついてくる。

 

「み、美樹!?」

 

「伊吹……伊吹がいるよぉ……!」

 

美樹は涙を流して俺の胸に顔を埋めてくる。俺は美樹の頭を撫でながら、出来る限り優しく語りかける。

 

「美樹。どうしたんだ?」

 

「あのねっ、伊吹の顔見たら、安心しちゃって。色々言おうとしてたのに全部飛んで、涙が勝手に出てきて……」

 

「そっか……大丈夫、ゆっくり思い出せばいい」

 

美樹が再び何か言えるようになるまで、俺はずっと頭を撫で続けていた。涙で濡れたシャツに重みを感じ始めた頃、ようやく美樹がぽつりぽつりと話しだす。

 

「あたしね、伊吹に会えない間ずっと頑張ってたの。毎日魔女と戦って、強くなっていく実感もあって。杏子にも、ちっとはマシになったなって言われて。それなのに……ううん、魔女と戦って強くなればなるほど不安になっていくの」

 

「そりゃまた、一体どうして……」

 

「一緒に何度も戦ってて実感したんだけどさ、杏子ってものすごく強いのよ。その杏子が一人じゃ敵わないって言う相手っていうのは一体どんなに恐ろしい魔女なのかって思っちゃって」

 

美樹の身体は、震えていた。その姿に、俺はあの夜を連想させられる。ひどく打ちのめされていた美樹と出会った、あの日の夜。

 

「……ここじゃ落ち着かないだろ。とりあえず家に入ろう。俺もちょっと着替えたい」

 

・・・・・・

 

べちゃべちゃになったシャツから着替えて、とりあえず仕切りなおす。今はお互い俺の部屋にいる。硬い椅子しかないリビングより柔らかいクッションやソファのある自室のほうがいいかと思ったからだ。

 

「ごめん伊吹、シャツ汚しちゃって」

 

「気にすんな、俺も対して気にしてないから。それより今大事なのは美樹の話だ。何か言いたいことあったんだろ?」

 

「……ううん、話ってほどの話は無いんだ。ただ、どうしようもなく不安で、伊吹に会いたかった……それだけ。やっぱり迷惑かな、こういうの」

 

「いや、頼ってもらえて嬉しいよ。最近俺って美樹に対してしてやれることすごい少ねえな……って思ってたところだから」

 

俺が自嘲気味に言うと、美樹は俺の手を両手でぎゅっと握りながらはっきりとした口調で断言する。

 

「ううん、それは絶対に違うって言い切れる。あたし、伊吹がいるから頑張れるんだよ。伊吹がいるから、怖くても逃げないで戦おうって思えるんだよ」

 

「美樹……」

 

「伊吹。あんたこの間お互いの存在を肌で感じてないと不安になるのは相手を信じてない証拠、みたいなこと言ってたじゃん?あたしはさ、ちょっと違うと思うんだ」

 

「違うって?」

 

「信じてるから、近くにいたい。近くにいれるんだよ。信じてる人が側にいるって思えるから不安じゃなくなるの。だってあたし、信じてない人とこんなにくっつきたくないもーん」

 

そう言って美樹はソファに座っている俺の隣に座り、俺の肩にすりすりと頭を擦り付けてくる。

 

「犬かお前は……」

 

「えへへ」

 

ぼやくものの、俺も悪い気分ではない。美樹の肩を掴んで抱き寄せてやると、美樹は動きを止めてこちらに体重を預けてくる。

 

「……ありがとね、甘えさせてくれて」

 

「気にすんな。俺も頼られるのは嬉しいから」

 

「……やっぱ、あんたの隣にいると落ち着くわ。明日が大勝負なんて忘れっちゃう……くら、い……」

 

その言葉を最後に、美樹は何も言わなくなる。

 

「美樹……美樹?」

 

返事の代わりに帰ってくるのは、すぅすぅと可愛らしい寝息。美樹は完全に俺の肩に寄りかかり、夢の世界へ旅立っていた。

 

「疲れてたのかな……そうだよな、ここんところずっと頑張ってたんだもんな……」

 

そういえば俺もここのところ、ぐっすり眠れてなかったな。こうしてると俺もどんどん、眠く……。

 

・・・・・・

 

――その後は結局、二人仲良くソファで昼寝してしまった。その後も美樹と他愛ない話をしたり、戯れたりしていた。だけど……穏やかな時間はあっという間に過ぎる。やがて夜になり、帰宅する美樹を家に送り届け、家でひとり避難用の身支度を済ませて眠りについた。

そして翌朝……避難警報の音で目が覚める。強風でがたがたと家の窓が揺れている。ああ来たんだ、と思った。

 

「美樹、佐倉、暁美さん。絶対に無事で帰ってきてくれよ……!」

 

あと俺ができる事といえば、暁美さんとの約束を守ることしかない。俺は心の中で三人にエールを送り、避難所へ急いだ。

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