あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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さやか視点からです


17話

大気が渦巻く。すごくよくないものが近づいてくる感覚がある。杏子と組んでから短期間でけっこうな数の魔女と戦ったけど、身が押しつぶされそうなほどのプレッシャーを持ってるヤツは初めてだった。

 

・・・・・⑤・・・・・

 

「いよいよ、ね……」

 

薄暗い空を見上げながら転校生が呟く。余裕たっぷりなのかそれとも緊張しているのか、コイツの無表情はいつもと変わらない。

 

「まだ姿が見えねえってのに、なんて魔力の存在感だよ……さやか、逃げるんなら今のうちだぜ」

 

真剣な表情で杏子が言う。でも、あたしの答えはとっくに決まっている。

 

「冗談、ここで逃げたら今まで何のためにアンタについてきたかわかんなくなっちゃうじゃん、とっくに戦うって決めてるの」

 

「そっか……そうだよな。悪い、つまんねーこと聞いちまった」

 

・・・・④・・・・

 

そのやりとりを一歩引いた所で見ていた転校生がふぅ、と溜め息をつく。

 

「本当に変わったわね、美樹さやか。私が知っているあなたはもっと精神的に弱かったというのに。本来ならばこうして一緒にワルプルギスの前に立つこともなかった」

 

「ま、精神面じゃもう負ける気しないね。やる気も目一杯充電してきたから」

 

そう言って伊吹の顔を思い浮かべる。アイツの事を想うだけで心の底から勇気が湧いてくる。例えどんなに強い魔女だろうと立ち向かおうという気分になれる。

 

・・②・・

 

「そう……まあ、精々足手まといにはならないことね」

 

「あんだとー!?それはこっちのセリフだよ!」

 

イヤミったらしく髪をファサッとかき上げながら生意気なことを言う転校生。ふん、新生さやかちゃんを見て腰抜かすなよ!

 

「おいオメーら、無駄話はここまでだ……来るぞッ!」

 

――①――

 

『キャハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

耳障りな笑い声とともに、巨大な魔女が姿を現す。あれがワルプルギスの夜。無数で色彩豊かな使い魔を率いたその様子は、さながら巨大テントとサーカス劇団のようだった。なるほど、普通の魔女とはまるで規模が違う。

 

「でも……絶対に負けない!」

 

戦いの幕が、切って落とされた。

 

・・・・・・

――伊吹ちひろ

 

来た頃にはまばらだった避難所の人も、時間を追うにつれてどんどん多くなっていく。その中には鹿目さんとその家族の姿もあった。

 

「よう、鹿目さん」

 

「あ、伊吹くんもここに来てたんだ……」

 

俺が声を掛けると、鹿目さんはおどおどと返事をする。かなり不安気な様子だった。すごい台風ってだけじゃ、こうはならない。実際避難所にいる他の人で深刻なムードになっている人は一人もいない。凄いって言ってもまあそのうち去るだろう、大丈夫だろう、っていう感じの空気がこの場全体に流れている。

やはり、今美樹たちが戦っていることを知っていると見てよさそうだった。

 

「まどか、知り合いかい?」

 

「うん、クラスメイトの子。さやかちゃんの彼氏」

 

「えぇっ!?さやかちゃんって上条くんのことが好きじゃなかったのかい!?」

 

「えーと、それは……色々あったんですよ、色々」

 

鹿目さんのお父さんがびっくりしている。そういえば美樹と鹿目さんって幼馴染だから、お母さんもその辺の事情知ってるのか。

それにしても鹿目さん、その紹介の仕方はどうなんだ……。

 

「その色々っての、気になるねえ。それで、その彼氏くんはどうしたんだい?さやかちゃんの側にいなくてもいいのか?」

 

鹿目さんのお母さんがまじまじと顔を見てくる。すごくやりづらい。そりゃまあ俺、ポッと出の男だもんなあ……気になるよなあ……。

 

「あー、美樹はまだ着いてないみたいです。」

 

「それって……」

 

ずずぅん!

鹿目さんの声を遮り、重い轟音とともに避難所が揺れる。

 

「何だ、風の勢いでどっかの建物でも倒れたのか?やっぱとんでもない台風だ、さやかちゃんが心配だねえ」

 

違う、多分……美樹たちが戦っている音だ。確証はないけど、深刻そうな鹿目さんの表情を見るにおそらくそうだ。優勢なのか、それとも劣勢なのか……台風の勢いがやまないところを見るに、まだ戦いは続いているのだろう。

 

「……わたし、ちょっとトイレっ」

 

鹿目さんが突然駆け出して行ってしまう。まずい!心の中で警鐘が鳴る。今鹿目さんを一人にしちゃいけない気がする!

 

「あ、おいまどか!そっちはトイレじゃ……どこ行こうってんだ、オイ!」

 

ドゴォン!

再び、轟音。

 

「あぅ……うぇぇぇぇぇん!!」

 

「あ、たっくん……ちょっと!」

 

鹿目さんの弟さんが泣き出し、お母さんの足元に抱きつく、引き剥がすわけにもいかないだろうし、これじゃ彼女は身動きが取れない。

 

「俺、見てきます!!」

 

急いで鹿目さんの後を追う。彼女が行った方向は出口のある場所だったため外に飛び出してしまう可能性を危惧したが……予想に反して、鹿目さんは中途半端な場所で立ち止まっていた。よく聞くと、誰かと喋っている。独り言?

 

「ほむらちゃんたちに勝ち目が無いっていうのは……ホント?」

 

「なんで、なんで死んじゃうかもしれないのに、みんな戦うの……?」

 

「私が、魔法少女になれば……」

 

いや……聞き捨てならない単語が聞こえてきた。多分コレが魔法少女になる素振りってやつなんだろう。

 

「魔法少女になるんじゃない!」

 

大きな声で呼びかけると、鹿目さんがビクっとしながら振り返る。

 

「伊吹くん……今、魔法少女って」

 

「事情はだいたい知ってる、そんでもって暁美さんから頼まれてるんだ。鹿目さんが魔法少女になろうとしたら止めてくれってな」

 

「でも、このままじゃみんなが……勝ち目が無いって、キュゥべえが」

 

「キュゥべえ……って、なんだ?」

 

ここに来て初めて聞く単語だった。

 

「キュゥべえのことは聞いてないんだ……魔法少女を生み出してる生き物だよ。普通の人には見えないけど今もここにいるの」

 

「それじゃあ、さっきのは独り言じゃなくてそいつと喋ってたのか……鹿目さんは、なんで魔法少女になろうとしてるんだ?」

 

「だってこのままじゃ、皆が死んじゃう!でも私が魔法少女になれば、みんな死ななくて済むかもしれない……!」

 

鹿目さんの不安も最もだった。俺も同じ立場だったら同じ考えを持っていたかもしれない。自分が動けばなんとかなるような力があったとしたら。でもそういう力がない、見ていることしかできない人間だからこそ気づけるものもある。

 

「なあ、鹿目さんは美樹も暁美さんのことも信頼できないのか?そのキュゥべえってヤツはその二人より信用できる相手なのか?」

 

「そんなわけない!」

 

「だよな。美樹は覚悟を決めてこの日のためにずっと頑張ってきた。アイツは絶対に帰ってくる」

 

願望込みだろうと言われたら否定はできない。でも、美樹は俺に『隣にいたい』と言ってくれた。だから絶対、俺の隣にまた帰ってきてくれる。そう信じている。

それに鹿目さんは面識ないだろうから言わなかったが、佐倉のやつもついている。美樹の師匠ともいえる存在だ、とても心強い。

 

「暁美さんは『必ずまどかのことを護ってみせる』って言っていた。ここで鹿目さんが出て行くのは、暁美さんの事を信用してない証拠ってことになる。そうなったら暁美さんは悲しむだろ?」

 

「私、そんなつもりじゃ……」

 

暁美さんが言いたかったのは、多分そういうことだろう。暁美さんが『まどかは必ず魔法少女になって私達を助けようとしてしまう』というのも一種の信頼だし、事実その通りになっている。このことから暁美さんは鹿目さんのことをよく理解し、信頼していることが分かる。

二人がどんな関係かは知らないけど……この想いが一方通行だったら、暁美さんが信頼されていないとしたらそれは悲しいことだと思った。俺が勝手に共感して暁美さんに肩入れしている

 

「信じてみようぜ、暁美さんのこと。本人が『やる』って言ったんだからさ」

 

「……伊吹くんは、不安じゃないの?さやかちゃんが死んじゃうかもしれないのに、なんでそんな平気そうにしてるの?」

 

「平気そう……か」

 

実際は気が気じゃない。帰ってこないんじゃないかという不安も確かにある。でも、鹿目さんの手前そんな態度は取れない。不安は伝播する。それに、何よりも……戦ってもいない俺が弱気になってどうする。こうしている今も、美樹は勇気を振り絞って戦っているというのに。何も出来なくても、せめて心だけは一緒に戦っていたい。

……頑張れ、美樹!俺がついてる!!本当なら目の前に言って叫んでやりたい。だが、それは出来ない。だからせめて気持ちだけでも伝わって欲しい。そう祈った。

 

・・・・・・

――美樹さやか

 

「うあぁっ!」

 

「杏子っ!大丈夫!?」

 

「心配ねえ、カスリ傷だ。それにしても使い魔が多すぎる。キリがねえぞ!」

 

戦い始めてからというもの、あたし達はワルプルギスに決定的なダメージを与えられずにいた。あたしと杏子は使い魔の処理に追われ、まともに接近できずにいる。

唯一転校生だけは使い魔を蹴散らしてワルプルギスに攻撃を加える事が出来ているが、まるで応えている様子がない。

 

「爆弾だのミサイルだのいっぱい当たってるってのに、なんてタフネスなのよ!」

 

「普通の武器は効き目が薄い、とかだったら笑えねーな。魔法少女としての武器を使おうにもあたしもさやかも接近戦向きときた」

 

「だからと言って、攻撃をやめるわけにも行かないわ……もう一発!」

 

どんな手品を使っているのか分からないが、瞬きする程度の時間で大量の重火器を用意して攻撃を続ける転校生。ワルプルギスに対するダメージはともかく、圧倒的な手数は使い魔の接近を許さない。しかしそれが原因なのか使い魔の攻撃が転校生に集中していく。はじめは転校生もワープしたりして凌いでたけど、不意にワルプルギス本体が飛ばしてきたビルの瓦礫に吹き飛ばされてしまう。

 

「あぁぁっっ!!」

 

「ほむら!?やばいぞッ!」

 

転校生が攻撃に参加できなくなったことで使い魔の攻撃があたし達二人に殺到する。ただでさえギリギリだっただけに、致命的な展開だった。

 

「くそっ、捌ききれな……きゃあッ!」

 

二刀で少しでも手数を増やしてなんとか頑張ったけど多勢に無勢、どんどん攻撃を受けてしまう。挙句の果てにワルプルギスが飛ばしてきた火球が直撃し、おもいっきり吹き飛ばされる。

 

「さやか!クソッ、できれば使いたくなかったけど……マミ、力を貸してくれ!喰らえ必殺!!『浄罪の大炎』ッッッ!!!」

 

杏子が十字を切り、祈りを捧げるようなポーズを取ると地面から巨大な槍が現れ、そこから放たれるレーザーで敵をなぎ払う。その威力は凄まじく、あたし達の周囲に殺到していた使い魔達をまとめて焼き払ってしまう。

 

「ちくしょ、やっぱ……こうなるか……」

 

それと同時に、杏子はその場に倒れこんでしまう。まずい!ダメージの回復したあたしは急いで杏子のところに向かい、グリーフシードを杏子のソウルジェムに押し当てる。以前、杏子に聞いた事がある。一つだけ切り札といえる技を持っていることを。その時の会話を思い起こす。

 

『昔マミと行動してたってことは話したよな?アイツのティロ・フィナーレみてえな大技が欲しくってさ、作ってみたことがあるんだ。実際、威力だけはティロ・フィナーレより上だったんだけど使うと魔力の使いすぎでぶっ倒れちまう欠陥品になっちまったんだ。だから今は使ってねえ』

 

『今はってことは、昔は使ってたの?』

 

『……少しだけ、な。あの時はあたしがぶっ倒れても、マミがフォローしてくれたからな。その代わり、それを使うときは必ず必殺技名を叫びなさい!それを合図にしましょう!って言われた。今思うとこっ恥ずかしい話なんだけど、あん時のあたしはまだ無邪気だったから律儀に言う事聞いてたんだよな。技名も自分で考えたし』

 

『技名!?え!なんて名前にしたの?杏子のセンスすっごい気になるんだけど。誰にも言わないからさやかちゃんにだけ教えたまえよ〜』

 

『言うかバカ!』

 

今のが、その技。さっきの一瞬だけ、マミさんの影がダブって見えた。

……マミさんも、あたし達と一緒に戦ってくれている。なんて、心強い!!

 

「ほら杏子、いつまでも寝てる場合じゃないよ!転校生も!」

 

杏子の穢れがとれたのを確認し、転校生のもとに向かって魔法で傷を癒してやる。無事に二人共立ち上がり、なんとか態勢を立て直す。

 

「ふぅ……なんとかなったみてーだな」

 

「……礼を言うわ、美樹さやか」

 

「礼なら杏子に言ってよ、あいつのお陰で時間が稼げたんだ。使い魔も大体やっつけたし、これでワルプルギスに攻撃が……」

 

『……キャハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

優勢になったと思ったのもつかの間、ワルプルギスの攻撃が急に激しくなる。今までは気まぐれ程度に瓦礫や火球を飛ばしてきただけだったのに!文字通り嵐のような攻撃にたまらず三人まとめて吹き飛ばされる。

 

「ぐ、これじゃ、ロクに近づくこともできない……!」

 

それに、アイツは転校生の攻撃をいくら受けてもまるで応えていなかった。仮に近づいたとして、どうする?あたしが剣で斬りつけたくらいで倒せるか?杏子の大技も空中じゃ使えない。どうしたらいい?どうしたら、勝てる?

 

「畜生、まるで勝ち目が見えねえよ……」

 

「……ダメなの?何回やっても、アイツに勝てないの……!?」

 

二人も弱気になっている。あたしより強いはずの、二人が。それじゃ、勝てるわけないじゃない。あたしたちはここで負けて、死――

 

――頑張れ、美樹!俺がついてる!!

 

「……え?」

 

伊吹の声が、聞こえた気がした。

……そうだ、なんであたしがここで諦めるんだ!伊吹が信じてくれてるのに!

 

「弱気になっちゃダメだよ二人共!あたしたちは、まだ負けてない!!」

 

傷は全て癒えている。それがあたしの魔法だ。いくら傷ついても、気持ちが折れない限りいくらでも治して戦える!

 

「伊吹がついてる。まどかがついてる!マミさんだって、絶対に見守ってくれてる!そう考えたら諦めて寝てる暇なんてないんだよ!!」

 

「まどか……そうよ、私はまどかを護るために今まで戦ってきた……一度の弱気で諦めるほど、私のまどかに対する想いは弱くない!」

 

「マミ……そうだよ、アイツがいたこの街を荒らされんのは気に食わねえんだよ!それが魔女なら尚更だ!」

 

二人共立ち直ってくれた。でも依然状況は不利。でも、気合のノリが違う!だから弱気になった時は実行できなかった考えも、今ならできる!

 

「ねえ、聞いてくれるかな?あいつをぶっ倒せそうな作戦、一つだけあるんだ」

 

あたしは作戦内容を二人に話す。あたしの頭ではこれしか考えつかなかった。シンプル極まりない、たったひとつの答え。

 

「あたしがアイツに突っ込んで、ぶった斬る!だから……そのための道を作って!」

 

「作戦なのか?それ」

 

「それで……倒せるの?」

 

「さっきまでなら無理だって言ってたかもね。でも、今は違う。この中で一番打たれ強いあたしなら、気合入れればダメージに耐えて近づける。そんでもって、今は気合十分!」

 

「一応理屈はあるのな……でも、確かに直接攻撃しかもう残ってねえよな」

 

「どの道、他に手はない……ならば、あなたに賭けるわ。行ってきなさい、美樹さやか!」

 

「おう!」

 

これが失敗したら、今度こそ手詰まり。

だからこそ……絶対にこれで決める!!

 




さやかちゃんが魔女化してないのでまどかは魔法少女が魔女化する件知りません
だから願いが明確化してません
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