あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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さやか視点です


18話

「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

ワルプルギスめがけて最高速で飛び出す。ものすごい勢いで瓦礫が殺到してくる。スピードが乗ったこの状態で直撃を喰らえばひとたまりもないだろう。

だが、そうはならなかった。杏子の編み込み結界があたしの身体を包むように展開し、瓦礫から身を守る。

 

「気ぃ抜くんじゃねーぞさやか!結界も長くは保たねえんだからな!」

 

「さんきゅ、杏子!」

 

心強い。結界のバリアのおかげでちょっとやそっとの瓦礫は無視して突き進める。大きな瓦礫は流石に避けなきゃいけないけど、そうじゃない時は可能な限りの一直線、全速力で突き抜ける。速度が落ちたら展開した魔法陣を足場代わりにして再び加速。なんとかワルプルギスがはっきり視認できる距離まで接近する。

しかし、そこで再び道を阻まれる。再び現れ始めた使い魔が身を盾にしてこちらの進路を塞いでくる!

 

「く……あと少しなのに!」

 

このままじゃ、ワルプルギスに辿りつけない。それどころか、使い魔に気を取られているうちにワルプルギスの攻撃で弾き落とされる危険まである……ここまできて、それだけはゴメンだ。邪魔をするな!そう叫ぼうとした時――目の前の使い魔はまとめて爆散していた。それも、瞬きひとつ程度の時間で。間違いない、転校生の……ほむらの魔法だ!

 

「進路は確保したわ!行きなさい!私の方は武器も打ち止め、これ以上の援護はもう出来ない!これが最後のチャンスよ!」

 

「ありがと、助かった!」

 

ワルプルギスまで、あと少し!しかし接近するということは、ワルプルギスの攻撃をもっとも危険な距離で受けるハメになるということ。

実際のところ、奴の飛ばしてくる火球の威力は地上で食らったものの比ではなかった、杏子の張ってくれた結界はまるで紙くずのように吹き飛ばされ、身体がまるごと火に包まれる。

 

「ぐ、ッ……まだまだぁ!!」

 

こんな攻撃の一つや二つでへこたれていられない。痛みは魔法で遮断できる。傷は魔法で癒やす。まだ、まだ頑張れる!!魔法陣を蹴る、蹴る、蹴る。その度にスピードを上げていく。もっと、もっと速く……もっと速く!!

しかし炎の規模が予想以上に大きく、なかなか抜け出すことが出来ない。回復魔法の使いすぎでソウルジェムがどんどん濁っていく。回復のスピードが遅くなる。痛覚のコントロールが上手く行かなくなっていく。

 

「がぁぁっ!う……くっ!!」

 

懐からグリーフシードを取り出し、ソウルジェムに押し当てる。今ので最後だ。コレ以上は保たない!そう思ったあたしは、敢えて回復魔法と痛覚遮断が不完全な状態を維持し、それに割いていた魔力をすべて身体強化に注ぎ込む。

 

「ぐううぅぅっ……!」

 

とんでもなく熱い。自分の身体が焼ける匂いがする。全身が痛い!でも、だから何だ。痛いからなんだ!怖いのは痛みじゃない!このまま負けて、大事な人がいなくなっちゃう事のほうがもっと怖い!それに比べたら……魔法に頼らなくたって、痛みなんて簡単に消せるんだ!

 

「うォォォォォォッッッ!!」

 

炎を断ち割り、そのまま突き抜ける。狙うはもっとも脆そうな……ワルプルギスの胴体!歯車の支柱。地上から止まらず加速し続けたスピードとあたしの全身全霊を乗せて……支柱のど真ん中に思い切り剣を突き立てた。

 

『キャハッ、キャハハハハハハハハハハハハ!』

 

ワルプルギスは耳障りな笑い声とともに身を激しく動かす。これは、効いてるのか!?

 

『効いてるわ、美樹さやか!この反応……ワルプルギスは間違いなくダメージを受けている!』

 

ほむらからの念話が聞こえる。あたしの、あたしたちの一撃は間違いなく届いたんだ。ならば、あともうひと踏ん張り!

あたしは支柱に取り付くとテコの原理を利用して、剣を思い切り上に押し込む。剣が折れないように、めいっぱいの魔力を注ぎ込んで。

びき、びきびきっ……とワルプルギスの身体に亀裂が生まれる。ワルプルギスはこちらを振り落とそうとしてるみたいに激しく身を動かす。でもそれくらい、今までの攻撃に比べたらなんてこと無い。こいつの弱点は完全に懐に入ってしまえば火球も瓦礫も飛ばせないことだ。つまり、あたしを止める術はない!その間に、全ての魔力を出し切る勢いで力を込める。亀裂が少しずつ広がっていく。もう少し、もう少しなんだ!

 

「ぐぐぐぐぐ……折れろぉーーっ!!」

 

ぱきぃぃぃぃん!

 

「あ……」

 

限界を迎えて折れたのは、あたしの剣のほうだった。高い音を立てて、そりゃもうまっぷたつに。剣の強化が保たなかった。あたしもいい加減ガス欠寸前だ。でも、もう十分すぎるくらいに亀裂はできている!

 

「はぁ、はぁ……今なら素手でいける!でりゃあああっ!」

 

狙うのは亀裂の入った部分の少し上。一度離れ、展開した魔法陣を蹴って三角跳び。その勢いに乗って思い切り飛び蹴りをぶちかます。これが、最後の攻撃。これで仕留められなかったら、もうお手上げだ。どうだ、いったか!?頼む、これで倒れて!

訪れるのは、一瞬の静寂。そして……。

 

ばき、ばきっ……ばきばきばきばきばき!!

 

『キャハハ、キャハッ……ギャアアアアアアアッッ!!』

 

亀裂がどんどん広がっていき、ついにワルプルギスの夜は両断される。あいつはけたたましい悲鳴を上げながら……やがて霞のように消えていった。

倒した?逃げた?それは分からない。ただ一つだけ分かることは……雲の切れ間から見える太陽の光があたしたちの勝利を物語っているということ。

やっつけたんだ、ワルプルギスの夜を。護ったんだ、この街を。

 

「やっ、た……」

 

でも、もう力がぜんぜん残ってない。あたしは自由落下に身を任せることしか出来ない。このままだと、地面に叩きつけられて死んじゃう。せっかく、頑張ったのになあ。勝ったのになあ。

走馬灯のようなものが頭に浮かぶ。不思議と、思い浮かぶのは伊吹の顔ばっかりだった。目頭が熱くなってくる。涙が溢れる。

……伊吹。また、逢いたいなあ。このまま死にたくないなあ……!

 

どさっ。

 

何かに背中がぶつかる感触。でも、痛くない。朦朧とした意識で状況を理解しようとする。

 

「いぶ、き……?」

 

「悪いな、アイツじゃなくってよ。ったく、ソウルジェムが真っ黒じゃねえか。最後まで世話焼けるぜ」

 

どうやら、杏子があたしを抱きとめてくれたみたいだった。そのままグリーフシードを押し当て、ソウルジェムの浄化をしてくれる。

 

「あたし、生き、てる……?」

 

「おう、さやかがワルプルギスにトドメを刺してくれたお陰でな。あたしたち三人共無事だ。避難所の方もキズひとつついてねえぞ」

 

「よかっ、た……」

 

安心したら疲れがどっと襲い掛かってくる。緊張、切れちゃったからかな。

ああ、なんだか、とっても、眠いや……。

 

「……さやか?おい、どうしたんだよ」

 

だめだ、まぶたがどんどん重くなっていく。睡魔に耐えられない。せっかく勝ったんだから、はやく伊吹の顔見たいのに。

 

「さやか……おい、さやか!」

 

杏子の声がだんだん遠くなってくる。ごめん、あたし、もう限界だわ。眠気がもう限界きてる。

意識が途切れる前、最後に見えたのは透き通った青空。あたし達が街を護った証。それがなんだかいつもよりやけに眩しく、とても綺麗だった。

――それじゃ、おやすみなさい。




最初これ最終話って書いてたけど先の見積もりしたら全然そんなことにならねえなって思ったので撤回します
見通し甘くてごめんね
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