あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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最終話

突然、風が凪いだ。雨はやみ、どんよりと暗かった空には晴れ間がのぞいている。

それを見て戦いの終わりを確信した俺達は急いで走り出す。

 

「鹿目さん、行こう!」

 

「う、うん!」

 

建物を出ると、大量の瓦礫と水溜りに出迎えられる。倒壊したビル群が戦いの規模の大きさを物語っていた。

探している3人は、そう遠くないところにいた。佐倉と暁美さんは無事みたいだ。美樹は……なぜか佐倉に抱えられている。

 

「二人共、無事だったか!美樹は、美樹は大丈夫なのか!?」

 

「伊吹……さやかは、さっきの戦いで力を使い切っちまったみたいで……」

 

佐倉が俯きがちに答える。美樹は佐倉の腕の中でだらりと脱力したまま、死んだように動かない。その姿を見て、最悪の想像が頭をよぎる。

 

「う、嘘だろ……美樹」

 

美樹が……死んだ?声が震える。視界が霞む。いやだ。信じたくない。そんなこと、そんなこと……!

 

「なあ、おい、目を開けてくれよ。美樹……美樹……!」

 

「……すぴぃ」

 

「え」

 

美樹の口から、いつか聞いた間抜けな音が出てくる。これは……寝息だ。

 

「あー、疲れきって寝てるって言おうとしたんだけど……」

 

「はは、ははは……」

 

俺はどうやら早合点していたみたいだ。情けない、鹿目さんには美樹のこと信じてるなんて言っておいて、真っ先に取り乱すなんて……。

安心したせいで、へなへなとその場に座り込んでしまう。ああ、でも……。

 

「良かった……良かったぁ……!」

 

ぽろぽろと流れてきそうな涙を必死で拭う。泣いちゃダメだ、全員無事で帰ってきたんだから笑って出迎えないと。

 

「ほれ、さやかは任せた。こいつが目ぇ覚ました時にアンタが目の前にいたほうが喜ぶだろ」

 

「おわっ!?」

 

佐倉は座り込んだ俺の脚の上に美樹を寝かす。いわゆる膝枕の態勢だ。佐倉はうんうんと頷くとこちらに背中を向け、そのまま離れていく。

 

「そんじゃーな。あたしはまどかに挨拶でもしてくるわ」

 

そう言って佐倉はクッと親指で鹿目さんのいる方を指す。あっちはあっちで暁美さんと話してるみたいだ。

 

「え、鹿目さんと知り合いだったの!?」

 

「ああ、さやか繋がりでな。そんじゃ、あとは二人でごゆっくり」

 

佐倉はこちらを振り返りもせず行ってしまう。あとに残されたのは座り込んだ俺と、寝息を立てる美樹の二人だけ。

 

「ごゆっくりったって……」

 

俺は幸せそうな寝顔を浮かべる美樹のことを見やる。まったく、人の気も知らないで。そういえばコイツが今来ているコスプレ衣装めいた服、初めて見る。これが魔法少女の格好ってやつなのかな。

 

「……んぁ」

 

ようやく美樹が目を開ける。寝顔を覗きこんでいた俺と目が合う。美樹は暫くきょとんとしていたが、おもむろに俺の頬に手を伸ばす。返事代わりに俺も美樹の頬にそっと触れる。まるでお互いの存在を確かめ合うかのように。

 

「ねえ、伊吹」

 

「ん?」

 

「ただいま」

 

「……ああ。おかえり、美樹」

 

互いに笑顔で言葉を交わす。その瞬間、やっと実感を持つことが出来た。

ああ――美樹が帰ってきてくれたんだな、って。

 

・・・・・・

――暁美ほむら

 

「ほむらちゃん、無事だったんだね!」

 

まどかが私のところに駆けつけてくれる。私も安心して駆け寄ろうとしたが、まだ安心できない。まどかの横には、インキュベーターがいる!

 

「ええ無事よ、この通り。まどかの方も、まさか魔法少女になったりしてないわよね……?」

 

「うん、最初はなろうと思ったんだけど伊吹くんに『暁美さんのこと、信じてみようぜ。本人がやるって言ったんだから』って言われて……信じて、よかった」

 

まどかの瞳にはじんわりと涙が浮かんでいる。伊吹くん……約束を守ってくれたのね。私にとって、彼は異質な存在だった。何度もループを繰り返してきたけど、彼という人間を認識するのは初めてだった。もしかしたら今までもクラスにいたのかもしれないけど、覚えていない。

なにせ私がクラスでまともにコミュニケーションを取ったことのある人物はまどかと美樹さやかくらいのものだから。彼は魔法少女とは縁もゆかりも無い普通の人、というイメージしかなかった。

でも、彼は運命を変えた。もっともそれを認識しているのは私だけで、彼自身も知らないことだけど。

 

「うん、私も……よかった。まどか……あなたが無事でいてくれて。人間でいてくれて……!」

 

ばぎゃあ!!

 

「きゅぷっ!?」

 

私はまどかと並走してきたインキュベーターの顔面を蹴り飛ばし、まどかのことを思い切り抱きしめる。この手の中に、まどかがいる幸せ。最高の友達がいる幸せ。

 

「く、苦しいよほむらちゃん……」

 

この手を離したくない。このまま、まどかとずっと一緒に――

 

「おーいまどか……って、お邪魔だったか?」

 

「あ、杏子ちゃん!杏子ちゃんも一緒に戦ってくれてたんだね!」

 

「あ」

 

まどかはするりと私の手から抜け出し、杏子の元に駆け寄る。むぅ……。

 

「ま、あたしにも譲れない理由があったんでな……あとほむら、そんな恨みがましそうな目でこっち見んなよ」

 

「……見てないわ」

 

「何ムスッとしてんだよ、心配しなくてもまどかのこと取ったりしねーって。ったく、全部表情に出てんぞ」

 

「え!?」

 

思わずぺたぺたと自分の頬を触る。そ、そんな馬鹿な……。

どうやら、私も相当舞い上がっているらしい。表情筋なんてとっくの昔に死んだと思っていたのだけれど。

 

「……ふふっ」

 

思わず笑みが漏れてしまう。これも久しぶりの事だった。

 

「あ……わたし、ほむらちゃんの笑った顔初めて見たかも」

 

「あたしも初めて見るな……こりゃ、明日は槍でも降るのかね」

 

「……わ、私が笑うの、そんなに変かしら……?」

 

「ううん、変じゃないよ。そっちのほうが絶対にいいよ、ほむらちゃん」

 

まどかがそう言いながら、私の眉間を指でぐりぐりする。な、なんで!?突然の出来事にすっかり気が動転してしまう。なにせ、今回のループではまどかから私に対して自発的にアクションを起こすことなんて殆どなかったからだ。

 

「ま、まどか!?」

 

「ほむらちゃん、いっつもこの辺にシワが寄ってたよね。それって……私のため、だったんだよね。ほむらちゃんの事情がちゃんと分かったわけじゃないけど、それだけはわかるの……ごめんね、ほむらちゃん」

 

「そんな……あなたが、謝る必要なんて、ないっ……!」

 

瞳が熱い。視界が滲む。涙なんて、とっくに枯れたと思っていたのに。まるでダムが決壊したみたいにぼろぼろと涙が流れてくる。止められない。

 

「ありがとう、ほむらちゃん。すっごく頑張ったね……」

 

「あ……あぁあっ……!」

 

それは私がずっと求めてやまず、でも永遠に聞けないと思っていた言葉。まどかに理解してもらえなくても、戦い抜く決意はしていた……でも、まどかは受け入れてくれた。受け入れてもらえた。

 

「今度さ、一緒にお出かけしよ?私、もっと知りたいんだ。ほむらちゃんのこと」

 

「うん……うんっ……!」

 

ずっと止まっていた私の時間が、再び動き出したような気がした。

 

・・・・・・

――佐倉杏子

 

「ふー……」

 

ほむらが涙を流し始めたあたりで、あたしは二人の側を離れて適当なところに腰掛けた。お邪魔虫にはなりたくない。

美樹と伊吹も今は話しかけられる雰囲気じゃねーしな……それに、考えたいこともある。物思いに耽りながらぼうっと景色を眺めていると目の前を一匹のナマモノが通り掛かる。

 

「前が見えないよ」

 

キュゥべえだ。さっきほむらに蹴られたからか、頭が陥没したままヨタヨタしている。

っていうか、こんな状態になっても生きてんのかコイツ……。

 

「仕方ねえな……おらっ」

 

「ぎゅぷっ」

 

両頬を横からぐっと圧迫すると、その勢いでぽん、と陥没した部分が飛び出てくる。頭蓋骨とかないのかこいつ……。

 

「いやあ、助かったよ杏子」

 

「アンタに感謝されても嬉しくないよ。目の前でヨタヨタ鬱陶しいから治しただけだっての」

 

「それで……一人でなにを黄昏れているんだい?考え事なんてキミらしくもない」

 

「……なあ、キュゥべえ。もしマミがこの場にいたら、同じ景色を見てたら……なんて言うと思う?」

 

「死んでいるんだからわかりっこないよ。少し考えれば分かることだろう、杏子?なぜそんな無意味な質問をするんだい?」

 

ぴきっと自分の額に青筋が立つのを感じる。こいつ、相変わらず人の神経逆撫でするようなこと言いやがるな……。

 

「チッ、あんたに聞いたあたしが馬鹿だった」

 

久しぶりにあの頃の技を使ったせいで、ちょっとセンチメンタルになってるのかもしれない。

それに、他の連中の笑い合っている姿を見てると……昔目指した姿を。あの頃の自分を思い出しちまう。

 

「皆の幸せを守る魔法少女、だったかな……」

 

全く、今のあたしにゃガラじゃない。でも、さ……マミ、見てたかよ。あたしさ、やってみせたよ。みんなの笑顔を、平和を守る魔法少女ってやつをさ。全く割に合わねー戦いだったけど……案外、悪くないもんだね。

 

「今度は独り言かい、杏子?さっきの質問の意図が気になるんだけど、是非教えてくれないかな」

 

「うるせー、お前は黙ってこれでも喰っとけ」

 

使用済みのグリーフシードを指で弾き、キュゥべえめがけて飛ばす。あたしも立ち上がり、大きく息を吸い込む。もう、頃合いだろう。

 

「……おら、路上でいつまでやってんだオメーら!その辺にしとけー!」

 

大声で叫ぶと、四人ともハッとなってこちらを向く。

 

「ふへぇっ!?そういや、ここ外だった……」

 

「美樹、お前また寝そうになってただろ……」

 

「ありがと、まどかぁ……」

 

「ううん、これからもよろしくね」

 

全く、どいつもこいつも締まらねえ面しやがって。でも……それが「平和」ってことなんだろうな。

 

・・・・・・

――美樹さやか

 

「いやー、随分ドタバタしたねえ」

 

「ほんとだよぉ……お母さんに怒られた……」

 

あれからすぐにまどかのお母さんがやって来て、あたしもお父さんお母さんに色々聞かれるのを誤魔化さなきゃいけなくって。てんやわんやになった後、ようやく再合流。全く、この時ばかりは両親に言い訳する必要のない三人が羨ましく感じた。

 

「ま、心配してくれる親御さんがいるってのはいいことじゃねーか」

 

「杏子が言うと重いよ……」

 

「そんじゃ、あたしはそろそろ帰るからよ。また今度な」

 

「うん、またね」

 

杏子は手を振りながら去っていく。ワルプルギスを倒したからといって、魔法少女としての戦いが終わるわけではない。これからも杏子と一緒に戦っていくつもりだ。最初は絶対反りが合わないと思ってたけど……伊吹の時と同じで、杏子のことをちゃんと理解してからはそんなこと思わなくなった。相互理解って大事だよね。

 

「それじゃ、わたしたちも行くね」

 

「ありゃ、あんたたち二人で帰るの?」

 

「うん。私達も二人でお話したいことが沢山あるから。明日、またね」

 

「おう、また明日なー」

 

そう言って見送ろうとした時、今までもじもじしていたほむらが意を決したように顔を上げた。

 

「……伊吹くん!美樹さやか!ありがとうっ……!」

 

「お、おい。美樹はともかく俺はそんなに感謝されるようなことしてないだろ」

 

「いいえ、貴方に心当たりはなくても、私は間違いなく貴方に救われた。だから、ありがとう」

 

「お、おう……?」

 

伊吹は釈然としない顔をしている。でも、こいつの事だから多分どっかで手助けしたんだろうな。そのこと忘れるのもあり得そうだし……と、あたしは勝手に納得した。それと、あたしからも気になることが一つ。

 

「その美樹さやかっての、いくらなんでもよそよそしすぎない?そりゃ今まで仲悪かったかもしれないけど、今じゃ一緒に戦った仲間なんだからさ」

 

「仲間……ふふっ、そうね。それじゃ……美樹さん。また明日、学校で」

 

ほむらはそう言って微笑むと、今度こそまどかと一緒に行ってしまう。それでもって、伊吹はというと。

 

「暁美さんって、あんな可愛い顔で笑うんだ……」

 

ぼそっとそんな事を言うもんだから、ムッとなってつい頬をつねってしまう。

 

「おうおうおう、彼女と二人っきりだってのに他の女に可愛いだなんていい度胸じゃないの」

 

「いてててっ、他意はねえって!俺がお前以外の女に目移りするわけねーだろ!」

 

あんまりにもハッキリ言うもんだからちょっとドキッとして、つい手をぱっと離してしまう。

 

「……ほんとーに?」

 

「嘘ついてどうすんだよ、俺はお前以外見えない。お前が一番好きだ」

 

伊吹があたしの肩を掴んで、これまたハッキリと断言する。伊吹にそう言われると心があったかくなって、ドキドキして。少しだけワガママを言いたくなってしまう。

 

「……だめ、気持ちがこもってない」

 

「めいっぱい込めたつもりなんだけど……それじゃ、どうすりゃいいんだよ」

 

「ずーっと一緒にいて。今まで逢えなかった分、ずーっと」

 

「……奇遇だな。俺も丁度、そうしたくてたまらなかった。ずっと一緒にいる。約束だ」

 

お互いの唇を重ねる。その後も伊吹は約束通り一日中ずーっと一緒にいてくれた。伊吹の家にお泊りして、いっぱいお話をして、いっぱいイチャイチャして……夜は一緒に手を繋いで寝た。

この幸せな時間が今日だけじゃなくて……明日も明後日も。そのまた次の日も続きますように。

ずっとずーっと、二人で一緒にいれますように。

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