あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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2話

放課後。帰りのHRが終わるや否や、ダッシュで下校する。

行き先は勿論、上条のいる病室だ。

 

・・・・・・

 

「よ、見舞いに来たぞ」

 

「あ……ちひろ!珍しいね、君が二日連続で来るなんて」

 

「……いや〜、昨日悪いことしちまったなって。エロ本置いてったの、迷惑だったろ?」

 

「そうだよ、いきなりこれ押し付けて出てっちゃって……ちひろと入れ違いでさやかが入って来たから、誤解を解くのに大変だったんだよ。結局中身も見てないし」

 

中身を見ていないと聞いて、少しほっとする。美樹に見られた以外は大した実害がなくてよかった。

 

「そっか、よかった……」

 

「いや、何もよくないからね!?せめてちひろがいてくれたら誤解されることもなかったと思うんだけど……」

 

「あー、悪い……ほら、あいつと俺が仲悪いの知ってるだろ?なるべく鉢合わせたくなくってさ」

 

病院までダッシュで来たのもそのためだ。移動時間の分、見舞いの時間が稼げる。

美樹のあとに見舞いに行くことも考えたが、あいつがどのくらい居座るのか分からないし、外から見たらいるかどうか分からないのも最悪だ。

あいつが確実にいないと断言できる時間に来ることが、もっとも鉢合わせのリスクを減らすことのできるのだ。

 

「うーん、僕はさやかとちひろにも仲良くしてほしいんだけどなあ」

 

「悪いけどそりゃ無理だ、あの女と俺は絶望的に相性が悪いんだよ。何をやってもすぐケンカになる。なんなら何もしてなくても、同じ空間にいるだけでケンカに発展するんだぞ?」

 

美樹と仲が悪いのは上条の入院がキッカケというわけでもない。

本当に、本当にずっと。中学で知り合ってから、ずっとそうなのだ。

ただ単に仲が悪いだけならお互い触れなければいいのだけだが、なぜか毎回衝突を起こすのだ。俺がアイツの適当な発言に我慢できなくなって喧嘩を売ることもあれば、俺が言ったしょうもないことが原因で奴からつっかかられる事もある。見舞い品の件はその延長線上にすぎなかった。

それこそ、きのことたけのこどちらが美味しいかとか、特価と激安はどっちが安そうに聞こえるかなど、喧嘩のテーマは多岐に渡る。中沢は「全部どっちでもいいじゃんしょうもない……」と言い、心底呆れていた。上条が仲裁に入れば大人しくなるのだが、肝心の上条はこうやって入院しているため最近はヒートアップしがちになってきてしまっている。正直、代理の仲裁役になってしまっている鹿目さんと中沢にはちょっと悪いと思っている。しかし、この怒りというのは制御できるものではないのだ。

 

「うーん、結構似たもの同士だと思うんだけどなあ……」

 

「似たもの?あの女と俺が?冗談じゃない!あんなおバカで無神経で能天気な臆病ヘタレ女と一緒にするなよ!」

 

「いやまあ、確かにちょっと無神経なところはあるけどさやかは明るくて優しい子だと思うよ。律儀にお見舞いにも来てくれるし……でも臆病でヘタレっていうのは違うんじゃないか?」

 

「いーやヘタレ女だよアイツは!なにせ――」

 

「なにせ?」

 

お前に惚れてんのは誰が見ても丸わかりのくせにアプローチの一つもかけられないんだからな!と口を滑らせそうになって……ギリギリのところで踏みとどまった。

いくら嫌いな人間とはいえ、流石に言っていいことと悪いことがある。

美樹と上条がどうなろうが知ったことではないが、人の想いを本人のいないところで勝手に、それも軽口交じりで暴露するなど人としてやっていいことではない。

人の恋路の邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ちるべきだ。

 

「……いや、よく考えたら何もなかったわ。臆病でヘタレだけ取り消す。臆病でヘタレなところだけな!」

 

「そ、そう?ならいいんだけど……」

 

コン、コン。

 

病室のドアをノックする音が聞こえたので、急いで帰り支度を始める。

 

「やべっ、多分美樹だ……じゃあな上条、また来るわ!」

 

「あっ、ちひろ!全く、慌ただしいなあ……」

 

病室のドアが開く。案の定、やってきたのは美樹だ。

横をすれ違い、病院をあとにする。会話はない。携えたビニール袋の中にある音楽CDが見えて渋い顔になるが、ぐっと堪える。

なにか言ったら、間違いなく喧嘩になる。できるだけ、入院中の上条の前で口論はしたくない。

相手もそれは同じなのか、すこし視線をこちらに向けただけで何も言わなかった。

 

『さやかは明るくて優しい子だよ』

 

上条は確かにそう言った。でも、それを口にすると同時に近くに積まれた――おそらく美樹が今まで持ってきたであろうCDに淋しげな視線をやっていた。

視線の意味は、わからない。でも何故だかその光景が、妙に印象に残っていた。

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